長年自分の表情を制御する訓練を積んでいる彼は無表情を通していた。微笑みさえ浮かべていた。が、それも表面だけのことで、よくよく観察すれば目の中に苦悶が表れているのが見て取れたであろう。顔色も蒼白になっていた。
ついに我慢しきれなくなった彼は財布の中から百フラン札を一枚取り出すと、それを両手で丸め、シュパンに投げつけながらこう言った。
「君の話はなかなか面白いね。だがもうたくさんだ。その金を持って出て行ってくれないか……」
運の悪いことに、その丸められた札はシュパンの顔に命中した。彼は荒々しい叫び声を上げ、酒瓶を一本掴むとそれを振り上げた。ド・コラルト氏は脳天をぶち割られる、と誰もが思った。
だがしかし、そうはならなかった。超人的な努力で、シュパンは狂気の行動に訴えることを自ら思い留まった。彼は酒瓶を置くと、切り裂くような悲鳴を上げ始めた二人の女に言った。
「静かにしてくれませんか。冗談だってことが分かりませんか?」
しかし他の客たちやウィルキー氏でさえ、その冗談がちょっと度を過ぎ、危険だと思った。彼らは断固たる態度で立ち上がったので、本気でシュパンを外に放り出すつもりであることが明らかだった。が、シュパンは身振りで彼らを制した。
「お手を煩わせるには及びません。出て行きます」と彼は言った。「ですが、こちらの紳士がたった今私に投げつけた札を探させて貰います……」
「ごもっとも」とウィルキーが言った。「お探しなさい……」
彼は苦労して身を屈め、殆どピアノの下敷きになっていた札を見つけた。
「さて今度は」と彼は続けた。「葉巻を一本頂きたいもので」
葉巻が二十本ほど並べられている皿が差し出された。彼は鹿爪らしく一本を選ぶと、鋏で端を切り、口に咥えた。他の者たちは度肝を抜かれた態で彼の動作を見ていた。あんなに荒々しい態度を見せた後、こんなに皮肉な平静さがやって来たことが理解できなかった。
さてヴィクトール・シュパンというのは、金持ちになるということ以外に目的は持っていないように見える男であり、何よりも金が好きで、その他のものに向ける情熱はすべて抑えつけてきた男、そして五フラン稼ぐのに二時間働き、馬車を呼びに行く際の手数料として五スーを請求して憚らぬ男であった。そのシュパンが、紙幣をくるくると捩ってガス灯で燃え上がらせ、まるで反古紙のこよりを使うように自分の咥えていた葉巻に火を点けたのであった。3.31