「私の話はすぐ終わります」彼はきっぱりとした口調で言った。「ド・シャルース伯爵には貴女様以外の相続人はいらっしゃいませんので、私は貴女様にご自分の権利を行使なさるようお勧めに参ったのです」
「それで?」
「お兄様の財産の相続人となるためには、貴女様はただご自身の存在を示し、ご自分の出自をお明かしになるだけでいいのです」
マダム・ダルジュレは皮肉と猜疑心がこもごも交じり合った目でフォルチュナ氏をじっと眺め、しばし熟考した後に言った。
「わざわざ来て頂いたことは非常に感謝しております。ただ、私にその権利があるにしても、それを行使することは私の意に沿いません」
フォルチュナ氏は、危うく後ろ向きにひっくり返りそうになった。
「まさか本気で仰っておられるのではないでしょうね」彼は叫んだ。「あるいは、ド・シャルース伯爵が遺された額がおそらく二千万フランぐらいであろうということをご存じないか……」
「私の決心は変わりません……二度と」
「結構でしょう……しかし、今のところ知られている相続人がいないため裁判所がこの巨大な富の相続人を捜索する可能性があります……結局のところ貴女様に行き着くことが考えられます」
「それなら、私はド・シャルースの一族ではないと答えます。それでおしまいとなるでしょう。兄の死という知らせに動転して、私は自分の秘密を漏らしてしまいましたが……。もうこれからは用心いたしますわ」
フォルチュナ氏は茫然としていたが、やがて怒りが取って代わった。
「マダム、よろしいですか」彼は言い張った。「よくお考えになってください! 天の名に懸けてこの財産をお受け取りなさい。もし貴女自身のためでなければ、この……」
頭が混乱したあまり彼はすんでのところで大間違いを犯すところだった。が、はっと気が付き、口をつぐんだ。
「誰のためと仰るんですか?」とマダム・ダルジュレは先ほどとは違う声で尋ねた。
「マルグリット嬢です。貴女様の姪御様に当たられる方です。伯爵が彼女を認知しなかったため、彼女は無一文になられるのです。するとこの大金は国庫に入ってしまいます」
「もうたくさんですわ。わたくし、よく考えます……今日のところはこれで」
威厳たっぷりに立ち去る許可が与えられたので、フォルチュナ氏はすぐに挨拶をし、この結末を訝しく思いながら退出した。10.23