「ほらね! ……言ったとおりでしょ!」彼は叫んでいた。「いつもこうしたもんなんですよ! 私の引き出しの中にこれとよく似た手紙を十通は持っていますよ。これよりもっと感動的なやつを……。食事が終わったら、わたしんちに来て下さい。お見せします。大いに笑えますよ!」
「その手紙をおしまいまで読んで貰えませんか」
「いいですとも」 彼は先を続けた。
「『私一人でしたら躊躇したりなどしないでしょう……私の状態はとても悲惨なものなので死は避難場所に思えるほどです。でもそうなれば、私の子供はどうなるでしょう?
……この子を殺してそれから私も後追いするべきでしょうか? そのようにも考えましたが、勇気が出ませんでした。私は貴方のお慈悲に訴えかけていますけれど、貴方には義務があるのです。私は貴方の邸に行き、ただこう言えばよかったのです。『私は要求します!』と。ああ、でも当時の私はそのことを知りませんでした。自分は誓いに縛られていると思っていましたし、貴方はとても抵抗できないような恐怖で私を押しつぶしていました……。しかし、それでも私の子供は生きていかねばなりません……。私にはどうすることも出来ません……私は酷く卑しいところまで身を落としてしまったので、自分の息子からも距離を置かなければならなくなりました……息子は自分の出自を恥ずかしく思うことがあってはなりません……それで息子は私の存在さえ知らないのです……』」
フォルチュナ氏は凍り付いたように動かなかった。伯爵の過去を知り、あの家具付き安宿のお喋りなおかみさんのヴァントラッソン夫人の打ち明け話を聞いた後では、もう疑いの余地はなかった。
「その手紙というのはエルミーネ・ド・シャルース嬢からのものに違いない」と彼は思っていた。
カジミール氏は先を読み進めていた。
「『私の陥ったこの煉獄の中から今再び貴方に向かって言うことはただ一つ、助けてください、ということです。私は精も根も尽き果てました。私にあるのは、死ぬ前に息子の将来を安泰なものにしなくてはならないという思いです。ただ単に富を手にするということではなく、生きていくための術を身に着けるということです。それを貴方におすがりしたいのです……』」
ここでまたカジミール氏は読みやめた。
「ここですよ!」と彼は言った。「生きていくための術……貴方におすがりしたい……素晴らしいじゃありませんか! 女てぇもんは全くもって素晴らしい……貴方におすがりしたい、とは!結びの部分を聞いてください」
そして彼は続けた。9.30