キ・ソンヨンなど、韓国で相次ぐいじめの告発、背景に何があるのか?
2011年のサッカー日韓戦。ゴール・セレモニーとして「猿真似」を行った韓国選手がいた。差別行為として指摘されると、「観客席の旭日旗を見て涙が出ました。私も選手である前に大韓民国の国民です…」と言い、「反日無罪」をアピールしていた。元韓国代表キ・ソンヨン(奇誠庸、32)選手の話だ。
調査の結果、観客席に旭日旗はなかったが、日本サッカー協会は「大人の対応」をした。数年後、彼はその話を韓国のテレビ番組で「武勇伝」のように話した。後ほど、その番組で出会った女優と結婚した。日本でも有名な韓国ドラマ「朱蒙(チュモン)」にも出演した女優だ。何故か2人は新婚旅行を日本で楽しんでいた。
以降10年の間、旭日旗を「戦犯旗」と呼び、「ハーケンクロイツと同じ(ドイツのナチ党を象徴する鉤十字)」と主張する韓国人が増えた。慰安婦問題、徴用・募集工問題と共に、日韓関係は凍り付くばかりだ。
イギリスのプレミアリーグで快進撃を見せていた彼は韓国サッカー「Kリーグ」に戻って来て、妻と娘と一緒に幸せな生活をしていた。
しかし突然、2人の男性から「21年前、キ・ソンヨンからいじめられ、性的暴行をされた」との話が出てきた。男性らは小学校時代のサッカーチームの1年後輩。6年生だったキ選手が合宿所で5年生だった男性2人に数か月間にわたり口腔性交を強要していたとの内容。
キ選手の弁護士と男性2人の弁護士は連日、暴露戦を続けていた。「事実無根、証拠は何処に?」、「認めた通話録音がある」、「脅迫に強く対処する」、「被害者中心主義で、被害者2人の一貫した証言が証拠だ」、「謝罪を要求する」などの攻防戦が繰り広げられた。
最近、キ選手の代理人弁護士が突然の辞任をし、相手の弁護士に謝罪した理由に対しても、色々論争が続いている。
そのほかにも女子クレー射撃キム・ミンジ(金敏智)選手など韓国では現在、スポーツ選手や芸能人から過去にいじめや暴力を受けたという告発が相次いでいる。
事の発端は今年2月、東京五輪の韓国バレーボール女子代表だった双子姉妹のイ・ジェヨン選手とイ・ダヨン選手からいじめを受けたと、中学校時代のチームメートがネット上で訴えたこと。
その告発内容は、暴言や暴力のほか、ナイフで脅されたこともあったという衝撃的なものだった。その後、複数の中学校時代のチームメートからも被害の訴えが上がった。姉妹は東京五輪出場が不可能になった。
姉妹のいじめ騒動後、他のスポーツ選手や芸能人に対しても、過去に暴力やいじめを受けたとの告発が相次いだ。
人気俳優のジス(本名キム・ジス)さんは今年3月、中学時代の同級生から「暴力や脅迫、侮辱、悪口などあらゆる校内暴力を受けた」などとオンラインコミュニティで告発され、その後、事実を認めて直筆の謝罪文を出した。
ドラマを中心に活躍していたこともあり、この騒動で、自身が主演していたドラマ「月が浮かぶ川」は撮り直された。制作会社が俳優の所属事務所を相手取り、損賠賠償を求める訴えを起こすまでに発展した。
いじめや暴力は決して許されるものではなく、被害者は例え何十年も前のことであっても、簡単に傷が癒えるものではない。
しかし、一連の騒動が「#Me Too(ミートゥー)運動」として、かなり過去の出来事を中心に、あちこちから被害の告発が相次ぐ背景は、韓国社会のひずみを反映しているとも言える。
韓国は若者の失業率が高く、大学を卒業しても就職が難しくなっている。儒教伝統による全てが序列化され、熾烈な競争社会で強いストレスも受けていて、それだけに不満やうっぷんがたまっている若者も少なくない。
苦労している自分とは対照的に、スポーツや芸能などの分野で華やかに活躍する人物がいて、それがかつて自分をいじめた加害者だったとしたら…。妬む感情が生まれ、それはやがて、かつての出来事の告発へと駆り立てる。
告発は同じような境遇の人たちの同調を買いやすい。ネット上では告発された加害者を非難する書き込みであふれ、いつの間にか、かつてのいじめの加害者がバッシングの被害者になる事態になっている。
しかし、世論に動かされる形で、協会などが重い処分を連発しているとしたら、根本的な解決にはならない。騒動が起きた社会的背景にも目を向ける必要があるのではないか。
(ワウコリア)