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ボストンで出会った「サムライ」

2013-07-17 | 日本のこと


昔ボストンに住んでいた頃、ここ、ボストン美術館の会員資格を持っていました。
下は75ドルから上は天井知らず?のメンバーシップを得ると、
会員証とともに車のウィンドウに貼るシールが送られて来て、
それを内側に貼っておくと駐車場のフィーが無料になり、なんといっても
一年以内であればたとえ毎日来ても無料というシステムでした。

結局思ったほど頻繁には来られなかったので、お得だったかどうかは微妙でしたが。


日本では必ずしもそうではありませんが、一般に美術館というのはどこでも、
広くて明るい空間の広がりが精神をのびやかにさせてくれる効果があります。
このボストン美術館もまさにそのとおりの癒しの空間で、日本に帰ってからも
ボストン滞在の折には必ず一度は訪れて、おなじみの作品を観ることにしています。

世界有数の規模とコレクションを誇るこの美術館は、一日だけではとても回りきれず、
毎年のように来ても「今回も全部観られなかった」と残念な思いが残るのですが。


さて、今年の楽しみは、新しくオープンしたSAMURAI! というコーナーでした。
この、タイトルにわざわざエクスクラメーションが付けられているのは、ほかでもない、
アメリカ人に有名な坂井三郎原作の同タイトル小説「SAMURAI!」からの引用でしょう。


フェノロサとビゲローという日本美術の偉大なコレクターによる収集品が
ここでは「ボストン美術館所蔵」として展示されており、なかでも浮世絵の圧倒的なコレクションが有名です。
今回は侍の鎧、甲冑のコレクションを一挙に公開するとのことでしたが、どうやらコレクションではなく
日本から借りてきたものであるということ。

果たしてアメリカの美術館が「サムライ」をどう展示するのか。

非常に興味深くこの予告を見ていたので着いてすぐに行ってきました。



ナビゲーションが裏道を示したので裏玄関に到着。
勿論ここからでも徒歩で入館することはできます。



メンバーになれば入館料はいらないですよ、と告知するお知らせの横に、
企画展である「SAMURAI!」の幟が。

パーキングは満車だったので迷わず正面玄関のヴァレーサービスを頼みました。
このあたりは都心なので駐車場代が非常に高く、美術館併設の安いパーキングが
もし空いていなかった場合、一律25ドルの民間駐車場しかありません。

それなら最初から同じ料金のヴァレーを利用するのがお得。
このヴァレーサービス、アメリカでは病院、ホテル、レストラン、どこにでもあって、
大抵、独自の業者がやっています。
美術館の真ん前に車を停めるだけで、持って行ってくれ、帰りは同じところまで持ってきてくれます。

駐車場の無い日本の施設でもこれをやればきっと流行るだろうなと思うのですが、
日本は駐車場を確保するのが大変なのか、いまだに見たことがありません。



正面玄関にはもっと大々的に広告。



美術館併設のカフェ。
ここにも「サムライ!」がありますが、ここが特別展の入り口です。



エレベーターは地下に降りる専用。
ここにも「サムライ!」。



 

なんだか不思議なノリのキャラクターが・・・・・・。
アメリカには「萌え」が浸透していないので、どうしてもこういう
かわいくないウサギになってしまうわけですが、
これ、よく見てください。

USAGIMFA

これは「ボストン美術館のウサギ」(Museum of Fine Artsが正式名、略称MFA)
と書いてありますね。
上は

「封印が解かれた侍の秘密」

とでも訳しておきましょうか。
下に何が書いてあるかというと。

伝説のサムライウサギがビデオゲームになって帰ってきた。

「ウサギ・ヨウジンボウ ロウニンの道」

現役合格を目指す学生にはお勧めしたくない縁起の悪い題名ですが、
なにしろこのフリーゲームが右下からダウンロードできるようです。
ボストン美術館にはゲームプログラマーもいるんですね。



階段を下りていくと、スクリーンにはかっこいいビジュアルアートで
サムライのイメージ映像が流されていました。
下のロゴの前ではしゃぎつつ写真を撮っているのは、どうも
台湾からの学生ではないかという気がしました。

美術館というのはいつ来ても他の観光地よりも中国韓国人は少ないものですが、
もし彼らが来ていたとしてもこの企画展には足を運ばないのではないか、と
何となく思ったからです。

我々日本人は、自国の文化がどのように異国で受け入れられているか、
という興味からこういうものを積極的に見る傾向がありますが、中国人は

「よく知っているし、日本の文化は中国が伝えたものだから」(本当にこう言うらしい)

韓国人は

「サムライの起源は韓国だから」(それを主張するために『サウラビ』という映画も作られたことがある)

という具合なので、どちらもこのような企画で日本文化が扱われていること自体、
「面白くない」という感情を無条件に持つのではないかと思われます。

日本憎けりゃ文化も憎い、サムライをアメリカ人が称えるのは面白くない、
そういった低レベルの僻み根性を、全員とは言いませんが多くが持っているということですね。


余談ですが、話のついでに。
中国人観光客は最近世界中で評判が悪いのですが、なかでも美術館での態度が悪く、

「フラッシュ禁止なのに無視してフラッシュをたく」
「展示物の前で写真を撮りあって、いっこうにどかない」
「美術品を触る」
「人を押しのける」
「ガイドの説明を聞かず『中国文明の方がすごい』と大きな声で言ったりする」
「美術品の鑑賞の意味が分からず、難でも金に換算していくらくらいだときいたりする」

という、あいかわらず世界の田舎者ぶりを発揮しているといいます。

とにかくこの日、展示室ではこの台湾の学生以外は東洋系がおらず、
不愉快なものを見ずに済みました。


 

写真にとると大したことはありませんが、実際にはもっと鮮やかで綺麗でした。
「サムライ=ライジングサン」のイメージはここでも健在です。



すべてがガラスケースに納められています。
鎧を全方向から、しかも至近から矯めつ眇めつ見ることが可能。





陣羽織、刀かけ、乗馬用鐙、鉄の笠など。



言わずと知れた宇治川の源平合戦

川に馬で我先にと歩み入っているのが、佐々木高綱と梶原景季の二人。
二人の乗るのは頼朝から与えられていたいずれも名馬です。
この二人が「宇治川の先陣争い」と言われる競争によって突破口を開き
その働きによって義経軍は勝利をおさめたわけですね。

この時に義経軍が戦っていたのが、木曽義仲です。

(と、ここの説明にそう書いてありました)




各種サムライ・ヘルメット。

どうということのない展示ですが、ライトの当て方が素晴らしく、
展示台の下にできる影がまるでアートのようです。

左から二番目はいわゆる義経型の兜ですね。

 

ちゃんと顎紐まで保存されている、状態のいい兜。

この顎紐を「兜の緒」、または忍緒」(しのびのお)と言います。
勝って兜の緒を締める、とは顎紐のことです。



この展示の圧巻は、実物大の馬で駈ける三人の侍。
蹄の音も聞こえてきそうなこの迫力の展示に、アメリカ人たちは皆真剣に見入っていました。

この女の子は、終始弟と一緒に「Cool! Cool!」を連発していました。




馬にもちゃんと鎧を付けてやっています。
因みに、義経の時代、馬にどういう名前を付けていたかですが、
宇治川の先陣争いをした二人の武士の馬は「スルスミ」「イケヅキ」といったそうです。

「アオ」とか言う名前を付けるのは農民だけだったようですね。



向こうにある兜が中世ヨーロッパのもののようで面白いですね。
大将ではなく、一般兵の兜かもしれませんが、
取りあえず武器が無ければ頭突きをすればダメージを与えることが出来そう。

この鎧のタイプは「最上胴」といい、鉄板を矧(は)ぎ合わせた四枚の板を
蝶番(ちようつがい)でつないだ胴を持つ鎧のことです。
金銅(かなどう)とも言います。



面白いので、英語で紹介しましょう。
左から

STANDARD (騎兵連隊旗)=幟(のぼり)

WAR DRUM =陣太鼓

BATTLE STANDARD=戦陣幟

FOLDING WAR FAN=扇子

SURCOAT(中世騎士が鎖帷子のうえに着た羽織)=陣羽織



ここで圧巻その2。
鎧兜で練り歩くサムライ達。



日本でもしこのような展示があったとしても、決してこのような演出はしない気がします。
顔の全く見えないこの侍の一群が、実に生き生きと、
かつての姿を彷彿とさせるかのように再現されているのには、日本人として心底から感動しました。



彼らが歩みを進めるときに立てる、鎧の触れ合う音さえ聴こえてきそうです。



そして、変わり兜の数々。



日根野兜といわれるもの。

後ろの羽は、鷹の羽を模しているそうです。
車状のモチーフは、解説によると「仏教に関するもの」ということですが、
説明がいまひとつ良くわかりませんでした。ORZ



右はどう見てもホタテガイですね。
左は正面にイチョウ(長寿の象徴)をあしらった、
「三日月タイプ」の兜。



左の兜はどう見てもシカですが、ちゃんと「耳」があるのがかわいい。

しかし、このようなものをずっと被っているのはさぞ首が疲れたでしょうね。



おまけにこんなマスクまで被って・・・・。
兜の内側には布が貼って痛くないようになっていたそうですが、
このマスクは本当に戦闘中しか着用できなかったのではないかしら。



兜には鳥獣のモチーフをあしらったものが多かったのですが、この羽はなんと
「天狗」。
天狗の羽を使用している、とどうも言い張っていた(笑)ようです。

まあ、お殿様の趣味ってやつだったんでしょうね。



そして、これ。
ひときわ小さい鎧兜は「子供用」。
ここの説明が面白かったので、文章を写真に撮ってきました。



12歳近くに男子は元服すること、そして成長を祝う「端午の節句」は、
今日でも日本で受け継がれており、その期間、男子のいる家庭は

フルアーマーを付け、スウォードやスピアーなどのウェポンを携えたたサムライ・ドール

を飾るということが書かれています。

というあたりで展示を皆観終わり、出たところにはミュージアムショップがありました。
ここではサムライグッズとでも言うのか、プラスチックの刀とか、なぜか
「ゼン」という名の、小さな箱庭で、備え付けの小さな熊手で白砂に模様を付けて楽しむ
「ヒーリンググッズ」、クロサワの「羅生門」「三匹の侍」「隠し砦の三悪人」などのDVD,
侍やニンジャについて書かれた本、あるいはソーセキ・ナツメの「I'm A Cat」、
和風のアクセサリーやなどなど、
サムライの、というより日本文化についての商品が売られていたのですが。
わたしはうちの「本来ならば元服の済んだばかりの息子」のために、
少しばかり本を買い求めることにしました。

かれは誰に似たのか、(ってわたしですが)本を読むのが非常に早く、
三センチくらいの厚みの本でも一日で読んでしまいます。

キンドルも持っているのですが「印刷の匂いがしないからあんまり」と
生意気なことを言って、本をしょっちゅう買わせます。
今回もボストンに来て10冊ほど買ってやったのですがもうほとんど読んでしまいそうな勢い。

そんな彼の何かの役に立つかとここではこんな本を買ってみました。



さっそく扉絵の日本人らしい少女の格好が中国風ですが(笑)



日本人がイラスト、監修を手掛けているので、あまり間違ったことも書いていないだろうと。
題名だけ見て、中をぱらぱら見ていたら、



宮本武蔵のページ。

「武蔵はニンジャじゃないんだけどな」とわたしがいうと息子、
「よく見て。表紙に、ちゃんとアサシン、サムライ、アウトローって書いてあるでしょ」

そういえばそうですね。(-_-)



というわけで、ボストンでであった「サムライ文化」。
「アメリカ人目線」で見る侍の姿は、ここにいた女の子のセリフではありませんが実に「クール」でした。

誇らしいというのは少し大げさですが、
あらためてこんなクールな文化を持つ国、日本に生まれて良かったと思ったものです。
そして、わたしの横で目を輝かせて鎧兜を見ている女の子に、もし

「わたしのアンセスターはサムライなのよ」

と言ったら、彼女はどんな顔をするだろうか、などと少し夢想してしまいました。