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映画「機動部隊」~空母「ラングレー」から「サラトガ」へ

2015-05-05 | 映画

先日ホーネット博物館の展示から空母「フランクリン」について調べたとき、
日本機の爆撃によって火災大炎上したこの空母をモデルにした映画があると知り、
早速観てみました。

機動部隊  "TASK FORCE"

というシンプルなタイトルで、ゲイリー・クーパー主演、1949年作品です。
一口で映画の内容を言うと、「アメリカ海軍空母発展史」。

このためにわざわざわたしは日本公開当時のパンフレットを購入したのですが、
その解説のしょっぱなで

「この映画はアメリカの海軍空母発達史においてその最大の恩人とまでいわれる
ジョナサン・スコットの伝記で、彼の苦悩の半生を淡々と描いている」

などともっともらしいことが書かれているので、そうなのかー、と思い、
まずそのスコットとやらの軍歴を当たってみようと調べたところ、
おいおい、どこにもそんな人物が実在していたなんて話はないじゃないの。

今はインターネット検索で、多少でも有名な人なら即座にバイオグラフィがでてきます。

たとえば本当にジョナサン・スコットがいたのか、みたいなことひとつ取っても、
映画公開当時は、調べるのに大変な時間と手間がかかったということなんでしょうが、
問題はたかが映画の解説とはいえ、刊行物で堂々としょっぱなに筆者の思い込みが
さも本当のことのように書かれてしまっていることなんですねー。


読んだ方も、映画のパンフレットの内容を検証しようなどとは決して思いませんから、
はあそうなのか、と一瞬思ってそれでおしまい、といういい加減さ。
もちろん読んだ人はそんな知識片っ端から忘れてしまうものだとはいえ、
こういう小さな「ごまかし」「創作」がいつの間にか既成事実として喧伝されていった例って、
実は世の中に無数にあるんだろうな、といきなりしみじみ()してしまいました。

だいたいWikiにしても、特に人文系はある意図を持って恣意的に編集されていることも多いわけでね。


ちなみにこの映画が日本公開されたのは、アメリカ公開のなんと4年後である1953年。

さすがに劇中全編にわたって全ての登場人物が「ジャップが」「ジャップが」と
叫びまくりのこの映画を、終戦4年後に日本人に見せるのは憚られた・・・・・というより、
この当時は現地公開と日本上映までの間に何年かタイムラグがあるのが普通だったようです。

日本ではあまり話題にならなかったようで、wikiもないくらいですが、
アメリカでは「ハワイ・マレー沖作戦」と同じような位置付けで評価されている模様。

というのは、この映画は米海軍の全面協力を得て制作され、公式アーカイブから
ミッドウェイ海戦、攻撃されたヨークタウン甲板、そして同じくフランクリンの甲板、
なんと我が二式大艇「エミリー」が攻撃される瞬間のシーンなど、
実際の映像がふんだんに流用されているという貴重な記録映画でもあるからです。

ゲイリー・クーパーの出演(日本だと三船敏郎みたいな感じですかね)もあって、
アメリカ国民は熱狂し映画は大ヒットとなったようですが、ラジオ・モスクワなどは

「プロパガンダメッセージを興行作品に乗せるとは、まさに戦争賛美であり、
全体主義的な軍国主義を推進するものである」

と、ちょうど冷戦が本格的になった当時のソ連らしくこのように批難しました。


さて、それではいつものように画像を追いながらお話ししていくことにしましょう。




本編は白黒ですが、後半にミッドウェー作戦のシーケンスにテクニカラーが挿入されます。



どこの解説でも触れられていなかった部分に注目。
軍事指導に、S.G.Mitcell大尉、James Dyer大尉とありますが、
お二方ともウィキペディアに名前の乗るような軍人さんではありませんでした。
ミッチェル大尉の方は1953年、つまりこの映画に協力したずっと後に
空母「アンティータム」の艤装艦長並びに初代司令となったらしいという記事が検索できました。



さて、映画は戦後、主人公のジョナサン・スコット(ゲイリー・クーパー)
トランクに自分の軍帽を仕舞う手元のアップから始まります。
その袖には2インチと0.5インチの金線が一本ずつ。
つまりスコットは少将で退役したという設定です。

元帥でも大将でも中将でもなく少将が最終位であったというあたりで、
この主人公が ”アメリカ海軍の一軍人” であると言いたいようです。



あれ、次のシーンで軍帽かぶってるし(´・ω・`)
トランクに入れていた軍帽はなんだったのか。


ゲイリー・クーパーこのとき48歳。
実年齢は退役にはちと早いかなというところですが、メイクと演技のせいで全く違和感がありません。
違和感といえば、冒頭に絵でつい描いてしまったように、48歳のクーパーが
独身の海軍中尉から退役する少将までを全部一人で演じてしまうので、
このころはともかく、最初の頃は、いくらなんでもこんな老けた中尉はいるまい、
というような違和感バリバリありまくりの絵面になってしまっています。

まあ、ゲイリー・クーパーで客を呼んでるような映画ですし、クーパーの
20代を演じられる男優は、さすがにアメリカにもいなかったのかもしれません。

「Navy will miss you, Sir,」(海軍は寂しくなります)

という言葉に送られて艦橋に立ち別れの挨拶をするスコット少将。

「空母のない時代から共に暮らした者もいる。
諸君の成長をわたしは一歩先に陸から(on the beach)見守ろう」




退役と同時に下される少将旗を持って私服で退艦する少将。
最後に吹鳴されるサイドパイプに見送られる時、その脳裏には
走馬灯のように空母に捧げた海軍人生が甦るのでした。



スコット少将が退艦したこの空母がなにかはわかりませんでした。
このときにはすでに「フランクリン」も「エンタープライズ」も退役しています。

このときバージ(はしけ)に乗り移ったスコット少将が最後に
二度と乗ることのない艦を振り返ってみるのですが、
艦上の誰一人として帽触れはしてくれておりません(T_T)
帽触れはもしかしたら日本海軍だけの慣習だったのでしょうか。

さて、少将、いや元少将が回想するのは27年前。
サンディエゴの航空基地で行われた母艦着陸訓練の日のことです。



石炭船を改造して造った空母「ラングレー」は、軍縮会議での廃棄を免れました。
そこで航空隊は、この空母で離発艦の訓練を実地することになったのです。



「動く船に着艦しろと言うんですか?」

今なら当たり前のことを、まさかと言う感じで確認する航空士官たち。
以前当ブログでもお話しした、ユージーン・バートン・イーリーが
「ペンシルバニア」に航空機を着艦させたのは1911年のことですから、
それからすでに10年は経っているはずなのですが、やはり
まだまだ必要性もないため、実用化の点でかなり遅れていたのでしょう。



地上訓練の様子は先が長いせいか全く描かず、次の瞬間いきなりスコットらは
「ラングレー」に乗艦しております。

 

細い金線二本の中尉たち。(そして全く似合っていないゲイリー・クーパー)
士官室で映画鑑賞です。
何を観ているかというと、着艦の失敗例特集。
「翼が傾いた」くらいでは皆ヘラヘラ笑っていますが、「海に落ちて死んだ」例では
皆思わず乗り出して息を飲んでおります。



そこに現れて皆を激励する艦長。

「飛行機は増やすつもりだ。これからは空母の時代になる」



着艦の手順を説明されている中でなぜか長アップになる士官。
映画的には、こういう人が真っ先に犠牲になってしまうはずです。



「着艦延期」「続行」「高杉」「低すぎ」「遅すぎ」「速すぎ」
などの手旗を一挙に説明しております。
こんなもん一回で覚えられないっつの。

  

そしていきなり実地訓練。
飛行甲板脇にずらりと並んで低みの見物をする同僚と、
引きつった笑いを浮かべて発進するスコット中尉。
なんとこのころの飛行機はプロペラを手回しして始動する複葉機です。

 

「甲板の幅など無きに等しく、空から見た甲板は墓標の形をしていた」
(スコット中尉独白)



なんどもアプローチを繰り返し、危うく海に落ちそうになりながらも
(この飛行機のシーンは訓練の実写)なんとか着艦。
皆が駆け寄ります。

このころの海軍で着艦方法を知っていたのはわずか34名ですから無理もありません。
そして次に訓練を行ったジェリー・モーガン中尉は発艦をミスし、殉職してしまいました。



同僚の殉職を、なぜか一中尉であるスコットが妻に伝えに行きます。
呆然とするモーガンの若妻、メアリー。
ジェーン・ワイアット演じる本編の女主人公です。

洗濯中に知らせを受けたせいか、

「彼のシャツを洗うのが好きだったのに・・・」

と意味不明の発言。



月日は流れて2年後の1923年。

給料2ヶ月分を叩いて購入した礼装に身を包み、上官のリチャード大佐から

「将官の奥方や上院議員と親しくなって母艦の飛行機調達に結びつける」


との使命を帯び、要路の集まるパーティに繰り出すスコット大尉。
(冒頭絵では中尉と書いてしまいましたがさすがにそれは無理ぽ)
お前は男前だからこういう役目を果たすためにワシントン勤務になったんだと言われ、
憮然としますが、他ならぬ航空機のためなので我慢です。

というかアメリカで、しかも男の軍人であっても「容色」は武器になるというか、
本当にこういうことがあったかどうかはともかく、
偉い人の奥さんにイケメンが取り入るという図式はありなんですね。



ところが肝心の提督、大鑑巨砲主義なので(笑)、飛行機など全く無駄で、
出世したければ戦艦に乗るべきなどと言い放ちます。

"Time you can down the sea level." (地に足をつけたまえ)

と誰がうまいこと言えと状態で一人で大ウケ。
スコット大尉がむっつりしていると、リチャード大佐に提督が笑えば笑え、と叱られます。



さらに偉い人のところを引き回されていると、殉職した同僚の未亡人に遭遇します。
彼女、メアリーは肩胸を露わにしたドレスもやる気満々で、海軍士官といい感じの真っ最中。

スコットは思わず道義的な怒りを感じて二人に割って入りますが、この未亡人、
全く悪びれる様子もありません。

海軍士官だった旦那を亡くしたので、代わりを探しに来たって風でもあります。



(夫の話なんか)「もうやめましょう」というメアリ(おいおい)に誘われ
庭の温室植物園に入ってみると、

「アメリカには軍隊など必要ありませんよ!どこと戦争するっていうんですか」

などとまるで日本共産党や憲法9条信者のようなことを大声で喋っているおじさんが。
その新聞社社長、ベントリー氏に向かって、スコットはつい論戦を挑みます。

「海軍の発展に空母は欠かせません。もし戦争が起こったら・・」

「戦争だと?相手は誰かね」

「日本の不穏な動きがあるとお聞きになったことはありませんか」


おいおいおいおいおい(笑)1923年にかい。

第一次世界大戦が終わって、まだナチス党も政権を取っていない時代、
軍備を増強するのが「不穏」というなら世界中が不穏な国ばかりなんだが。
どうもいかんね後出しの結果をこんな風に言わせるとは。



そのときなぜか温室を散歩していた日本大使と海軍次官。
この設定もすごくて、左が野村大使で右の軍人、これ誰だと思います?

山 本 五 十 六  (海軍次官時代)

なんですってよ。こりゃびっくりだ。
で、このスコット大尉の言葉を耳にして、二人とも温室を立ち去るわけですが、
いかにも「こいつ、見抜いているのか」みたいな怪しげな態度なわけ。

野村大使も五十六もギリギリまで戦争を避けるという動きをしていたわけだし、
ましてや海軍次官時代からアメリカと戦争することを企んでいたなど、
とんでもない創作なんですが、要するにスコットが慧眼であったと言いたいわけだ。

まあ、「戦争が起こった際に備えて配備が必要」って考えはごもっともなんですが。



しかしスコット大尉、余計なことを言ったために提督に呼び出され、

「日本の大使館員に恥をかかせたばかりか我が国で最も影響力のある
人物まで敵にまわしおって・・・・(怒)」

ということで、その場でパナマ運河の事務職に左遷決定。話が早すぎ。



こちらも話が早すぎ。なんでそうなる。



というわけで、2年間ハンコを押す毎日。



ところが人生糾える縄のごとし。
人生楽ありゃ苦もあるさってことで、或る日突然スコット大尉は
新しく海軍が建造した空母「サラトガ」からお呼びがかかりました。



パーティの日スコットを連れ回していたリチャード大佐が
どうも口利きをして「サラトガ」航空隊に引っ張ってくれたようです。
あんなに怒っていたのにいいやつだ。



誰も知っている人がいないので心細く思っていたところ、
ようやく「ラングレー」時代の同僚、ディクシー大尉を発見。



隊長なのに後発参加のスコットは皆に追いつくために早速訓練に入ります。
空母の昇降機など、古い飛行機乗りである彼には見るのも初めてです。

 

字幕は出ていませんでしたが、このシーケンスでは「ヘルダイバー」と言っていました。
カーチスのSBCのことであろうかと思われます。

 

これがいわゆる「エナーシャ回せ!」ってヤツですか。

 

ブランクもなんのその、軽々と発艦成功したスコット大尉。
飛行機の機能はラングレー時代からは大違い、空母「サラトガ」も巨大で
おもちゃのような「ラングレー」 とはえらい違いです。

 

こういった映像は海軍が貸し出してくれた本物を使用していることもありますが、
現存していた飛行機はスタントが操縦して撮ったそうです。
そのスタントの名前が、ポール・マンツ

・・・聞いたことありません?(このブログで)



ここでスコットの乗機に問題発生。
進化していたはずの「ヘルダイバー」、なぜか上空で操縦不能になり、海に墜落。
「ラングレー」の頃なら、飛行機はそのまま海底に沈みスコットの命もなかったはずですが、
飛行機の性能に加えて救出体制も格段に違っていたという設定で、怪我だけで済みました。



なぜかローラースケート靴と「戦争と平和」の本を持ってお見舞いに来る悪友たち。
そして、案の定同僚の未亡人メアリが怪我を聞きつけて突撃してきます。

 

突如BGMにロマンチックなエレベーターミュージックが流れ、
二人は俄然怪しい雰囲気に。
そして唐突に結婚を申し込むスコット大尉。

それにしても、この人たちはお互いの何を知っていると言うのだろうか。
しかも2年前のパーティーの夜以来、初めて会うというのに。
もう少しお付き合いしてから結婚を決めたほうがいいのでは・・・。

 

とまあそれは映画だから仕方がないとして、負傷したスコットは結婚と同時に
「サラトガ」から転勤を命じられます。
何かと転勤が多いというのは、日本国自衛隊だけではなかったんですね。

さて、海軍軍人ジョナサン・スコットの次の職場はどこでしょうか。


続く。