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江田島・幹部学校候補生卒業式〜「あゝ海軍」の鏡

2017-03-21 | 自衛隊

江田島の第一術科学校に到着し、リボンをつけてもらって
一応控え室も用意されていたのですが、時間までの間、
せっかくこの地に来て、一般の見学では見ることのできない
赤煉瓦とその周りを見ておこうと外に出ました。

アテンドの大尉殿を付き合わせて一周して来たら、皆がそろそろ
大講堂に向かっている模様です。
わたしたちも控え室に戻らず、会場入りすることにしました。

ここも控え室になっていた模様。
大講堂に一番近い角部屋です。

前回アップし忘れた写真もついでに載せておきます。
学校職員の部屋(つまり職員室)の前に佇む陸戦服人形。
海上自衛隊でも陸戦訓練があり、そのための陸戦服があるようです。

先日ここでもご紹介した兵学校と幹部学校の写真集「伝統の継承」でも
陸戦訓練では候補生たちがこれを着て頭に偽装の草をつけ、
匍匐先進している写真などが掲載されていますし、
海軍兵学校でも陸戦練習が行われていて、その写真が残されています。

現在の自衛隊には海軍のように「海軍陸戦隊」があるわけではないのですが、
実際に海軍迷彩服にヘルメットで(胸には旭日旗)銃を担いで
陸自の駐屯地祭などで行進している写真なども探せばあります。
各地方隊の警備犬部隊などは行進の際迷彩服で行っているようですね。 

これは海軍迷彩でもないし、幹部候補生の訓練用みたいです。

 

また、赤煉瓦の校舎の各教室の外には、海軍時代と全く同じ仕様の
木製のコート&帽子掛があり、前のが経年劣化してもこのデザインを変えず、
昔のまま使い続けているのですが、ここにある帽子掛はかなり年代物のようです。

見つけて思わず声が出てしまった姿見。

海軍兵学校の時代から、常に海軍士官の威容を保つため、
鏡で自分たちの姿を点検することが行われてきた江田島には
赤煉瓦の生徒館の中にもいたるところに大鏡が設えられています。

海自の隊員の身仕舞が清潔できちんとしているのも、
訓練時代から海軍の良き伝統であるこの点検を叩き込まれるからでしょう。

んで、この鏡、

 

大映映画「あゝ海軍」撮影記念に寄付されたものであることが判明。
「あゝ海軍」といえば、ここでもご紹介しましたよ。

「あゝ海軍 江田島健児の歌」

「あゝ海軍 同期の桜」

 いつも通りデレデレと何回にも渡って書いたのですが、そのうちこの二つの項は
江田島でロケした兵学校におけるシーンを取り上げています。
おヒマと興味がおありでしたら是非読んできただきたいのですが、
この頃の第一術科学校はまだ改装前だったため、校長室や教室など、
昔のままだった頃の赤煉瓦生徒館を画面で見ることができます。

ちなみに、映画公開は1969年、昭和44年でした。

この映画を観た頃には、赤煉瓦の校舎に入ることなど夢のまた夢でしたが、
今回改めて写真を見て、実際との違いや同じところを確認することができました。

 

この映画は、戦争の悲惨さに焦点を当てるだけの戦争映画ではなく、
一人の海軍軍人の成長と葛藤、その生き様と死に向かう姿を描いており、
色々とツッコミどころはあるものの、良作だとわたしは思っております。

映画の撮影記念に大きな姿見を二枚も贈呈したという当時の大映が、
この地とひいては撮影に協力した海上自衛隊に敬意を払ったことは間違いなく、
その証拠を見てわたしは一層、この映画に対する評価が増しました。

どこをどう切り取ってもチリ一つない清浄な空間。
自分自身で毎朝掃除を行うのも海軍以来の伝統です。

こういう訓練生活をしてきた自衛官たちと、子供の頃から
学校の掃除は掃除夫が行うことが当たり前だったアメリカ軍人では
軍艦の使い方一つとってもまるで違ってきて当然だと改めて思います。 

昔のままにその姿を残す赤煉瓦校舎ですが、改装できる部分は改装し、
ついでに耐震化も行ったということで、一安心とはいえ、
経年劣化は常に進んでおります。

「頭上注意」の注意書きがあったので上を見たら・・・・・。

さて、というところで大講堂にやってきました。
前回のように二階席から見るのかと思ったのですが、なんと一階の、
卒業生たちの真横に来賓席があってびっくりしました。

真ん中に卒業生、その周りを取り囲むように来賓、その外に家族、
といった感じです。
席の取り合いなどで混乱をきたさないようにという配慮で、
パイプ椅子にはちゃんと座る人の名前を書いた紙が貼られています。

たくさんある椅子の中から個人名を探すのは大変で、
大尉殿は(アテンドしてくれた自衛官の今回の仮名です)あちこち見て回り、
会場の自衛官に聞くなどして席を見つけてくれました。

席に落ち着く前にまず一枚。

卒業生たちはまだ客入れでざわざわしている会場なので、
リラックスした様子で席についています。

前回は二階席からだったので、証書授与や壇上の様子がはっきり見えましたが、
ここは・・・・死角が多そう(笑)

まあ、本日はこういう視点からの報告ということで。

「あゝ海軍」の卒業式シーンを当ブログの画像でチェックすると、
その時には赤絨毯は敷かれていなかったのがわかります。 

この頃の幹部候補生は段の奥で賞状を受けたのでしょうか。

それからこの画面で映画の重大なミスを今発見。
これ、国旗も海軍旗もありませんよね? 

明治年間にここに大講堂ができてから、幾多の軍人たち、戦後は自衛官たちが
この同じ床の上を歩いてきたのだと思うと、ついしみじみと見入ります。

花崗岩に黒のアクセントになっているのはスレート(粘板岩)でしょうか。

わたしの座っているところから上を見上げると、昔は皇族の方々専用だった
貴賓席であるバルコニーがあります。

実はこの日、三笠宮家の女王殿下が卒業式にご来臨賜る、という話を
前もってわたしは聞いていたのですが、殿下はこの時
貴賓席にまさしくお座りになっておられたことになります。
(ここからは何もわかりませんでしたが) 

三笠宮家と海上自衛隊のつながりについては何度かここでも書きました。

平成24年に薨去されたお髭の殿下、三笠宮寬仁親王殿下は、

「彼らのうちの一人は間違いなく将来の幕僚長になるわけですし、
国賓や公賓と席をともにすることもあるでしょう。
いずれにしても全員がこれからの日本を背負って立つわけで、
外国でみっともない態度をしてもらっては困ります。
そこで、服装や立居振舞い、食事の作法、会話、
レディーに対する接し方まで徹底的に教え込みます」

(『今ベールを脱ぐジェントルマンの極意』寛仁親王著)

と幹部候補生にありがたくも英国仕込みのマナーをご教授くださっていました。

平成になってからは崇仁殿下の孫にあたる遥子女王殿下、彬子女王殿下が
後を引き継がれ、それだけでなく両女王殿下には基地での行事へのご来臨、
ならびに講演を賜ることもあったという関係から、呉地方総監が
殿下を本日の卒業式にお招きをされたということのようでした。 

そのため、総監は一日女王殿下のお側にピタリと立ち、
式の間中エスコートを務めておられました。

女王殿下と畏れ多くも比べるつもりはありませんが、
この日はわたしにもエスコートがついたんですよね(自慢自重)

貴賓席のちょうど下に報道陣が固められています。
これはここにカメラを集めることで、女王殿下のお姿が
下賎なカメラマンの餌食にならないように(って言い過ぎか?)
自衛隊が配慮したという面もあるのではと思いました。

わたしの近くにあった大講堂の柱はもちろん昔のまま。
六弁の花の模様があしらわれています。

前回は二階から見た舵輪を模った照明具を今日は下から。

ほぼ全員が席についた頃、会場を歩いていた自衛官がかがんで、
小さなゴミ(多分埃程度のもの)を指で拾い上げています。 

 

この幹部自衛官が指示をしたのか、海曹が壇上の掃除を始めました。
朝からちゃんと自分たちの手で床を磨き上げ、掃除を済ませたはずなのに、
こうやって最後の最後まで完璧を目指す、これも海上自衛隊の本領です。 

すでに卒業生たちは先ほどまでのリラックスモードから次第に本番モードに
切り替えて背筋を伸ばし気味に座っていましたが、学生隊幹事付という指導係の
自衛官が一声「気をつけ!」と低く声をかけると、全員が座ったまま
びし!っと背中を伸ばし、姿勢を正しました。

幹事付は候補生たちより4期先輩が務めるそうで、「アルファ」「ブラボー」と
呼ばれたりしています。
声をかけていた自衛官の階級は二尉。
下を指導し、学生の規則集なども全部頭に入れているような人たちです。

わたしの知っているかつての赤鬼青鬼はその何十年もあとになりますが、
海幕長と海将になりましたから、その学年のツートップが務めると決まっているのでしょう。

「制服の埃!」「靴の光り方!」「白手袋!」

セルフチェックのポイントを言いながら学生の間を歩いていく幹事付。
皆座ったままで目に見える範囲の点検を急いで行っています。

それが済んだ頃、

「手の位置揃えろ」

と声がかけられました。
なんと!両膝に乗せた手の白手袋が、遠目に見たときに
まっすぐ一直線になるように横を見て合わせろ、と言っているのです。

日本の教育機関で、式典の時にここまで神経を使って姿形を
整えるようなところが他にあるでしょうか。

この写真は互いに脇を見て手の位置を合わせているところ。 

はい、手の位置オッケー。

今回彼らの近くに座れたおかげで、こんなシーンを目撃しました。
学内にある鏡でしょっちゅう行われる身だしなみチェック、
そしてどこまでも清潔さを追求するその姿勢。

話には聞いていましたが、幹部候補生がどのように海軍のスマートさを
身につけるのかという教育の一端を垣間見ることができたような気がします。 

そしてそれがひとしきり終わると、幹事付アルファ(もしくはブラボー)は、
幹部候補生としての彼らが幹事付から受ける、真に最後の命令をこう発しました。

「皆、かっこよくいけよ!」 

「はい!」

 

そして一瞬の静寂が訪れました。
この後、壇上の来賓が入場してきて、いよいよ式典の開始です。

 

 

続く。