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自衛艦旗掲揚〜護衛艦「いせ」転籍壮行会

2017-04-29 | 自衛隊

佐世保に転籍する「いせ」を見送るために、「いせ」後援会の皆さんに
混ぜていただいて、現在なぜか一緒に「いせ」にいるわたしです。

ラッタルを上がったところにある「いせ」の艦名板だけは急いでいても撮る。

これは伊勢神宮大宮司、鷹司尚武氏の揮毫によるもので、
木材は宇治橋に使用されていた欅なのだそうです。
宇治橋も式年遷宮の時に掛け直したってことなんでしょうか。

「いせ」乗員は、名前を受け継いだ旧軍艦「伊勢」の慰霊と、
伊勢神宮への参拝は欠かさず行っているそうです。

 

さて前回の最後、0800の自衛艦旗掲揚まであと数分しかないのに、
後援会+野次馬(←わたし)の団体が、甲板までたどり着くことが可能なのか?
とあえて不安を煽ってみましたが・・・・・・・、

「それではみなさん、一度に上がっていただきますのでここに立ってください」

なーんだ、艦載エレベーターに乗せてもらえるのか。
それなら多少足腰の不安な年配の方でも瞬時にして甲板まで行けるわね。


「いせ」「ひゅうが」に乗ったことがある、あるいはご存知の方、あなたは
そんな時はエレベータに決まっとるじゃないか、と最初から思っておられましたか?

しかし誰とは言いませんが、どちらにも乗ったことがあり、観艦式では
「ひゅうが」のエレベーターで何度も上下したくせに直前までそのことに思い至らず、
甲板階までラッタルを駆け上る悲壮な覚悟を固めていた人もいます。

というわけで、後援会の皆さんがエレベーター上に参集。
会員の皆さんは横断幕と幟まで持って来ておられました。
これで艦内のラッタルを登るのはそもそも物理的に無理でしたね。

艦載機用エレベーターに乗るのは観艦式以来です。
あの時には持っていなかった広角レンズのおかげで今やこんな写真も撮れます。

エレベータの台を引っ張りあげるのは四隅のワイヤですが、
よく見ると1本は細いワイヤ4本でできています。

周りの黄色い安全柵が上がると同時にエレベーターは動き出しました。

「動き出したら揺れますのでご注意ください」

と注意がありましたが、実際は思ったほどでもありません。
こういう時には脳内に BGMの「サンダーバードのテーマ」が流れます。

甲板が見えて来るとそこはちょうど自衛艦旗掲揚が行われる艦尾の真っ正面。
後ろに腕を組んだ旗掲揚係の自衛官がすでに待機していました。

いきなり海軍伝統の厳粛な世界にわたしたちだけが放り込まれた感じ。
まるで艦載機エレベーターの周りに見えない壁がめぐらされていて、
わたしたちだけ別の世界からこの瞬間を垣間見ているような気分です。

 

甲板レベルにエレベーターがせり上がり、停止した時、
なんと時間は3分、いや2分前だったかもしれません。
つまり、我々はここから掲揚を見て速やかにそのまま退場するのです。

このおそるべき海自流時間管理の技に、心から戦慄したわたしでした(嘘)

どれくらいギリギリだったかというと、わたしがカメラのレンズを
それまでの広角から望遠に付け替える暇もなかったくらいで、
結果としてやたら遠くで行われている掲揚シーンとなってしまいました。

自衛艦旗の掲揚は、自衛官でない者にとってもピリリと身が引き締まるというか、
思わず背筋を伸ばしてしまうような緊張があって、何度立ち会っても感動です。

掲揚が終わり、エレベーターが下がる前にやっとレンズを付け替えることができました。

ところで、喇叭譜の吹鳴は0800にサウンド発動なのですが、
いくつもの艦が繋留している岸壁では各艦で演奏のタイミングが微妙にズレます。
自分が吹いていると隣のラッパの音しか耳に入ってきませんから、
他の艦とは最後まで同期することなくそのまま行ってしまうんですね。


わたしは最初これが気になって仕方がありませんでしたが、
最近ではこれもまた軍港ならではの風情、と思うようになってきました。

 

その時後ろにこんなにたくさんの自衛官がいたことに初めて気がつき軽く驚きました。
これから出航作業ですが、帽ふれなどの儀礼もあるので全員が第1種制服です。

エレベーターの真ん中で立っていたら、昨夜お会いした何人かの幹部が
わざわざ柵の中まで(笑)ご挨拶にきてくださいました。
中には昨日お渡しできなかったので、と言いながら名刺をくれた方も。

あとで住所を見ると、全員すでに佐世保地方総監の住所になっていました。
新しい名刺が間に合わなかったということかもしれません。

「いせ」甲板からみる呉軍港の朝。
今気がついたんですが、ノーマルモードなので甲板に柵がありません。

前回慰霊式で乗った時には確か柵が立っていたと記憶します。

いつもわたしたちは一般人を乗せるモードでしか見ることがないので
こういう「素」の姿を見ると、逆に、そういう時には彼らがどれだけ事前に
準備をして一般人の安全に配慮しているのかを改めて思い知るのです。

甲板にいた時間はトータルで10分くらいでしょうか。
もう本当に自衛艦旗掲揚のためだけのエレベーター稼働です。

柵の外に出ることもなく、そのまま舞台のセリに降りるように退場するわたしたち。

ところで、前夜の懇親会には飛行長兼任の副長と航空管制長も来られていました。
どちらもヘリコプター搭載型護衛艦において大変な重責を担う幹部です。

副長は当然ですがSH−60のパイロットであった方で、お話中

「(JとK)どちらも操縦します」

とおっしゃるので、ふと気になって

「JとKって操縦違うんですね・・・どちらが難しいですか」

と聞いてみたところ、Kだそうです。
やっぱり新型になって操作する部分が増えたってことなんですかね。

わたしが

「掃海隊の訓練で掃海母艦に降りるヘリを見たんですが、
あれだけ波の高い日向灘で着艦するのは怖いだろうなと思いました」

というと、

うらがやぶんごなら波が高くても目をつぶっていても降りられます」

としれっとおっしゃいます。

「降りるのが難しい艦はやっぱりありますよ。ゆき型とか。(だったかな)
でも、それより怖いのは夜間着艦することですね。
女性にこんなことを言ってなんですがあれが『縮みあがり』ます」

経験はありませんが、それはよっぽど怖いってことなんですねわかります。

「それと荒天で風が強かったりすると、ヘリが飛び立った瞬間、
こりゃやばい!果たして無事に着艦できるのかとその時から思います」

「そんな日には索敵訓練中も着艦のことばかり考えてしまう・・・?」

「そうです。
このテーブル(指差して)のスペースに、夜間でほとんど見えなくても
誤差センチ単位で降りないといけませんから。
しかし機長が少しでも不安そうな様子を部下に見せるわけにいきませんから、
内心どんなにビビっていても、平気な顔をしていなければならない」

「でも、海自でヘリの着艦事故って起こったことありませんね」

「ありませんね。山中に機体が墜落とかはありますが」

「やっぱり極限の緊張をしている時は却って事故は起こりにくいんでしょうか」

「そうでしょうね」

また、印象的だったのはこんな話でした。

「着艦は海自のパイロットにしかできませんね。
空自や陸自のヘリでは絶対に無理です」

「陸自のフライングエッグとかOH-1なら」

「ダメですね。コブラとかでもダメです」(きっぱり)


まあ、餅は餅屋ってことですかね。
SH-60だってグレネードランチャー撃てとか宙返りしろって言われたら困るだろうし。

 

甲板上にもハンガーデッキにも航空機は積まずにお引越しするようです。
ところで艦載機のいない時には例えば航空管制官は何をしてるんでしょうか。
航空管制長にもこの点を伺ってみると、

「仕事がない時もありますから、広報を兼任してます」

自衛艦に限らず軍艦というのは、全員がいろんな仕事をこなすのが当たり前。
一つのことだけしていればよくて仕事のない時には遊んでいられる、
というような楽なポジションは決してないということです。

ハンガーデッキからラッタルのあるところに繋がるドアの上には、
「いせ」本来のマークが描かれていました。

北斎風の波が甲板に降りかかる中、自衛艦旗を立てて、
雄々しく進む護衛艦「いせ」の姿。
向こうに見えている山は何でしょうか。

これはこれで普通に悪くありませんし、いただいた名刺には
これともまた違うサーベルがクロスしたモチーフのものもありました。

例の「悪い猫バージョン」は決して「変えさせた」というものではなく、
場面と乗組員個人の好みで使い分けるための選択肢が一つ増えただけ、
と考えるのが良さそうです。

外に出る前に、幹部の写真を忘れずに撮っておきました。
ちなみに昨夜の懇親会にはこの中から6名が来られていました。
熱くヘリ着艦について聞かせていただいた副長のお顔だけがベルトで見えません。

ちなみにこの写真の形式は決まっておらず、艦ごとに適当に撮るのだそうです。
自衛艦旗の旭日をバックに、なかなかいい構図ですね。

しかし、なぜか艦長だけが妙にスナップショット風。
これもご本人の希望によるものでしょうか。

ちなみに艦長をご存知の方の言によると、

「歌も上手いしいい男だしスポーツ万能なのでモテるはず」

とのことです。
(本当は『モテる』じゃなかったのですが忖度しました)

他はともかく、「歌が上手い」というのは実はわたし知ってるんだな(笑)
そのことはまた後日。

というわけでわたしたちは退艦。
今最後の方(『いせ後援会』の会長さん)がラッタルを降りようとしております。


この後岸壁では「いせ」お別れに向けて、壮行行事が行われることになっています。

 

続く。