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「カートゥーン・ゴー・トゥー・ウォー」戦争と漫画〜兵士と水兵の記念博物館@ピッツバーグ

2020-12-13 | アメリカ

ピッツバーグにある「兵士と水兵のための記念博物館」ですが、
ここでヴェテランの寄贈品とか、戦跡からの収集品とは趣の違う、
いわゆる「企画展」のようなコーナーが現れました。

Cartoons Go To War

「漫画、戦争に行く」みたいな感じでしょうか。
「スミス都へいくMr. Smith Goes to Washington」と同じノリのタイトルです。

このブログでも何度も触れているように、アメリカが戦争に突入した時、
民間の企業も戦争協力を惜しみませんでした。

今でいう「ヘイト」を堂々とキャラクターに行わせていたディズニーを筆頭に、
それは現在見るとしばしば「ドン引き」させられるほど徹底したものです。

が、あくまでもそれは現在の価値観で判断するからそう見えるだけで、
当時はそれが正しいとされていた時代だったからにすぎません。

スヌーピーというキャラクターが日本で流行し出したとき、
よもやまさかこの犬が犬小屋の上で寝っ転がりながら
(三角屋根の上でどうやって寝ているのかわたしなど子供心に謎でしたが)
つねに脳内バーチャルウォーの世界を彷徨っている危ないやつだとは
ほとんど誰もが知らなかったのではないでしょうか。

キャラの使用許可を取った日本の代理店もこの件はひた隠しにしたかったに違いありません。

この「ピーナッツ」の一コマ漫画でも、ノルマンディ上陸作戦に参加しているつもりの
この犬の脳内風景が左側に描かれております。

「今日はDデイだ!
世界でも最も有名なG.I.がオマハビーチをサーフィンして猛攻する!」

Chargingを「猛攻」と訳してみました。
チャージというのは、

”a mass attack of troops without concern for casualties”
(犠牲を顧みず行われる軍隊の集団襲撃)

のことであり、しばしばアメリカでは「バンザイアタック」のことを
代わりに「バンザイ・チャージ」と言ったりします。

G.I.は一般にアメリカ兵を指す俗称で、第二次世界大戦中に生まれた言葉です。
「Garrison Issue」つまり自衛隊でいうところの「官品」のような意味合い、
あるいは「General Issue」(一般支給品)Goverment Issue(官品そのもの)
と、語源とされる言葉は様々ですが、そのことから兵たちは自らを
G.I.と半ば自重的に称するようになったということです。

右コマは、この犬を見たマーシーが、飼い主のチャーリー・ブラウンに、

「ちょっとチャールズ、あんたんとこの犬がうちの庭のぬかるみに
突っ込んで行っては戻ってるんだけど・・」

「チャーリー」を「チャールズ」と本名で呼ぶあたり、マーシーは
チャーリーブラウンとそんなに親しくないのかなと思ったりしましたが、
問題はそこじゃないか。

ところで、そのスヌーピーの生みの親、シュルツの本名は

Charles Monroe Schulz 1922−2000

だったりするわけです。
チャーリーブラウンは彼の分身だったのか・・。
現地の説明です。

第二次世界大戦のヴェテランであるシュルツは、過去から兵士の物語を探求する
愛らしいキャラクター、スヌーピーを生みました。

「レッドバロン」と空中で「ドッグファイト」を繰り広げたり、
彼の兄弟である「スパイク」(シュルツの飼っていた犬の名前)を塹壕に訪問したり、
この漫画のようにオマハビーチを猛攻するスヌーピーの姿は、
わたしたちを全てのアメリカ兵の体験を想起させる旅に連れて行ってくれます。

シュルツの一連のコミックストリップが引き起こすのはユーモアですが、
折々に彼はその漫画を通じて戦争の犠牲に想いを馳せさせるという手法を取りました。

三角屋根に座ってレッドバロンとドッグファイトを繰り広げるのは
もはやこの犬の日常でもあります。

「Curse you」は直訳すると「呪ってやる」ですが、
そんなおどろおどろしい意味はなく、単に

「くたばりやがれ!」「くそくらえ!」

というような意味です。
シュルツが「ピーナッツ」を児童のための絵本として描いていないことは
この言葉の選択にも現れていますね。

かれがこうやって大戦ネタを作品に入れてくるのは、彼がヴェテランで
しかも第二次世界大戦でヨーロッパに派兵されていたからであるのは明確ですが、
本人は幸い実戦を経験することはありませんでした。

彼が実際にDデイを経験していたり、人を撃つなどの経験をしていたら
果たしてその作品にこのような表現はあったでしょうか。

 Dr.Seuss 1904-1991

ドクター・スースの名前で日本でも多くの本が翻訳されています。
英語圏で幼稚園に子供を行かせたことのある親であれば
この人の作品を知らずにいることはまず考えられません。

肩書きにも「児童文学作家」というタイトルが見えており、
もともとは子供たちが面白く英語を学べるような絵付きの本を出版し、
それが大成功したことで有名になり、児童文学賞、そして
ピューリッツァー賞まで取ってしまったわけですが、実はこのおっさん、
第二次世界大戦中にはニューヨークの最もリベラルな新聞、
PM紙の挿絵漫画家であったため、なかなか香ばしい作品を残しています。

「ロシア科学の謎」

と題されたこの絵は、熊を改造したグロテスクな乗り物に乗って
ドイツに侵攻する・・・これはスターリンなんでしょうなあ。

第二次世界大戦中のアメリカの漫画にしばしば出てくる
「出っ歯でメガネの日本人」はいったい誰なのか、ということを
わたしはたびたびこの場で怒りまじりに告発しているわけですが、
その出元はもしかしたらドクター・スースだったかもしれません。

ドクター・スースのキャラクターが、

「紳士のための戦闘行為のルール」

という本を手にしていますが、物陰からヒトラーとその出っ歯の日本人が
「パールハーバー」「マニラ」と札のついたレンガを投げてきて
どうもそれで怪我をしてしまったらしく。
(そういえばこの鳥はアンクル・サムの帽子をかぶっている)

「この古い本を金属メリケン(ナックル)に取り換える時がきたな」

と呟いているというものです。
それではアメリカはそもそもネイティブ・アメリカンの件に始まり
常に紳士的だったのか、と言いたくなりますが、まあそれはいいでしょう。

ここに登場する出っ歯メガネの日本人はその後の「日本人像」の典型となりました。
彼は日系アメリカ人に対しても

「第五列(スパイ)としてTNT爆弾を隠し持ち、西海岸で
日本からの指令を街テロを実行する連中」

として執拗に印象操作を行い、日系人弾圧の音頭を取りました。
彼が描いているつもりとおぼしきその東條英機は、日系アメリカ人に対し

「諸君は日本の武士の如くアメリカという国に忠誠を尽くすべきである」

という声明を出したことなど知るつもりもなかったでしょう。

「ジャップがアメリカ軍の船を沈める」

というニュースを新聞で読んでいるアメリカン波平に、壁のトナカイがいきなり、

「ボス、わたしなんかを壁に掛けるより、
もっとアメリカ防衛国債とスタンプを買った方がいいですぜ」

意味はわかりますが、何が面白いのか全くわかりません。
「壁のトナカイ」と「 hook」という言葉に何か意味があるのかもしれませんが。

「どうしてもというならどうぞご乗車ください!
しかし、もしあなたが軍を助けたければ家にいてください!」

なんとクリスマスのステイホーム依頼です。
これもよくわかりませんが、クリスマス休暇で帰ってくる兵士たちに
交通手段を譲ってあげてください、ってことかしら。

にしては皆プレゼントを持ってトラック25とやらに飛び込んでいるしなあ・・・。

左下はご存知ドクター・スースの「帽子をかぶった猫」。

日本で自分の作品を出版し、売り出すことになった時、
この急進的人種差別主義者はどの面下げてこれを許可したんでしょうか。

右のお髭のおじさんは、

トーマス・ナスト Thomas Nast 1840−1902

シュルツもドクタースースもそうですが、この人もドイツ系アメリカ人です。
ナストは南北戦争時代の政治漫画家でした。
この人をして「アメリカ漫画の父」と呼ぶ向きもあるようです。

サンタクロース、アンクルサム、コロンビアなどもその原型は
この人が創造したものという噂も・・。

しかし政治風刺が彼の本領でした。

「アイルランド人の日常」

というこの絵では、酔っぱらったアイルランド人が
火薬の樽に跨って自分で樽に火をつけています。

「ビートル・ベイリー」(Beetle Bailey)

はおそらく最もよく知られたアメリカ陸軍の兵士です。

漫画は学生の彼が徴兵される前から始まっています。

「あーあ、友達はみんな徴兵されてしまったよ」

「徴兵委員会は僕を何か大きなもののために取っておくのに違いない」

「・・・でなきゃ僕を欲しくないってことだな」

アンクルサムの「アメリカは君を必要としている!」の看板の前で
なぜか首を振りながら歩くビートル。

どうもビートル・ベイリー、徴兵されることを歓迎していなかった模様。
1950年から描かれたといいますから、彼の徴兵された友人は
朝鮮戦争に行っているということになります。

上のはどういう状況か、崖から落ちて木につかまっている上官に、
ビートルが、

「もしもう二度と殴ったりしないと約束するならロープを投げます」

「それから私にKP?を入れないこと」

「怒鳴らないこと、それからトイレ掃除させないこと、それから」

上官(飛び降りた方が助かる可能性あるかしら・・)

この調子で落ちるまで待ってるんじゃないかとも思えますね。

ビートルが兵士として優秀ではないどころか、かなり問題児であることがわかります。

 

Recruta zero 03.png


「ビートル・ベイリー」の作者はモート・ウォーカー(Mort Walker)

ウォーカーは敵を皮肉ったり憎しみを煽ったりというのではなく、
ひたすらちょっと情けない志願兵のビートルを通じて
軍隊の中を彼のタッチで描き続けました。

ウォーカー自身は徴兵される前に学生の身分から志願して入隊し、
上等兵としてキャンプ・スワンピーで任務をしています。

軍隊用のガーメントケースにドナルド。
個人で描いたのかと思ったら部隊全部がこの仕様だったそうです。

 

飛行機のノーズアートに漫画のキャラクターは使われました。
ミッキーマウスが「ローン」とかいた三つのなにかを前に、

「枢軸は僕たちが差し押さえるまでの仮の時間に生きているのさ、ハハッ」

とかわけのわからんことを言っているノーズペイントです。
それはいいんですけど、Borrowedのスペルが間違ってるよ?

これもノーズペイント。
いつもトウィーティーという黄色いカナリヤを食べようとして馬鹿にされ
酷い目に遭う猫のシルベスタですが、ここではミサイルに跨っています。

「オープン・フォー・ビジネス」とありますから、おそらくこれは
爆撃機のボムベイの上に描かれたものではないでしょうか。

こちらはジョージ・ベイカー作、「サッド・サック」(悲しい袋)

サッドサック(Sad sackとは第二次世界大戦中の軍隊スラングで、
「社交性のない兵士」のことなんだそうな。
いまでいうと「隠キャ兵士」ってところでしょうかね。

SadSackCBcover.jpg

ちょっと見てみましたが、この隠キャ、だいたい戦地で酷い目にあっています。

作者は真珠湾攻撃の少し前に徴兵入隊していますが、
自分で売り込んで信号隊の訓練映画のアニメ制作班に回されました。

その後レクリエーションのために制作した漫画コンテストで優勝し、
陸軍ウィークリーからも仕事がもらえたそうで、よかったですね。

「サッドサックス」は、基本陸軍新兵の不幸をテーマにしており、
セリフが一切ありません。

こんな漫画ですが、あのマーシャル将軍は兵士の士気を高めるとして称賛したそうです。
本当に読んだのかおっさん。

でたあああああ!

戦争プロバガンダアニメといえば、これはもうディズニーですね!
実際、ディズニーほど大戦中軍プロパガンダに協力的だったアーティストはいませんでした。

映画の作成はもちろん、積極的に部隊章にキャラクターを使用させ、
信じられないくらい寛容に、ノーズアートのためにデザインしていました。

ディズニーという会社がアメリカ政府といかにべったりかは、俗に

ミッキーマウス保護法

と呼ばれる法律が存在するくらい現在もアメリカにとって特別であり続けている
ということからもお分かりいただけると思いますが、それもこれも
このころディズニーが徹底して戦時体制下、プロバガンダの指揮をとったという
この歴史的な経緯から生まれ育まれてきたということだったんですね。

えらい若い頃のウォルト・ディズニー。
人種差別主義者だったことで有名なウォルトですが、
自分の死後、ディズニーランドがよりによって大っ嫌いだった日本にできるとは
夢にも思っていなかったでしょう。ざまあみろです。

おっと、ドナルドは徴兵されたようですよ。
ウィングマークをつけていますがアヒルって飛べたのか(棒)

1948年生まれのギャリー・トルドー(Garretson Beekman Trudeau)
は代表作のドゥーンズベリー(Doonsebury)でイラク派兵を扱いました。

The Doonesbury Trump retrospective proves that Garry Trudeau had Drumpf's  number all along | Boing Boing

こちら今非常にセンシティブな状態ですが、トランプ(の髪の毛)ネタ。

 

繰り返しますが、戦争に漫画をからめ、その愛すべきキャラクターを
戦争に参加させるという行為の是非については、決して平時の感覚で
判断できるとは考えない方がいいでしょう。

これについては「ピーナッツ」のチャールズ・シュルツがこう述べています。

 

彼らは我々の人生の一部分なのだ。
我々は彼らにテレビや新聞の娯楽欄を通じて各自の家庭に浸透させる。

しばしば彼らの周りに存在する現実社会は彼らをして戦争へと向かわせる。
そして我々の漫画のキャラクターたちは戦闘に参加するのである。

漫画を戦争へと駆り出す理由はいくつかある。
その動機はおそらく政治的な表明であり、追悼としてのアクトであり、
教育を目的としており、国難に見舞われていることそのものを
笑い飛ばしてしまおうとする意思であったりする。

人々はしばしば恐れを感じるものに対してそれを笑うことができる。

漫画は彼らが戦っている敵を笑ったり、あるいは不確かな未来を
笑うことを手助けするものでもある。

仮に彼らが映画のスクリーンの上や漫画本を眺めるたった10分間であっても
戦争を忘れることができないとすれば、せめて現実より少しましに思えればよいのだ。

つまり、そうやってドナルド・ダックやバックス・バニーに
ヒトラーやヒロヒトを画面上で打ち負かしてもらうのだ。

 

バックスバニーがヒトラーを倒す

ディズニーのプロパガンダ映画、「43年の精神」

 

しかしなあ、ディズニー、あの「ムーラン」がどうして人道上の理由から
一部の人々にボイコットされたのか、ちょっと考えてみた方がいいと思うぞ?

カートゥーンが大統領や政府を批判するのはいい。
子供に他民族への憎しみを植え付けるのもそれがカートゥーンの使命というならそれでもいい。

しかし、意思を持って自国を乗っ取りにきている相手に札束で引っ叩かれて
阿り、自国の良心を売るのは本来あなた方の理想とするところなの?

 

続く。