前回に引き続き、エリー湖のほとりにある海軍軍事博物館の
艦船展示を外からの写真で紹介していくことにします。
今日ご紹介するのは潜水艦「クローカー」の外側に係留展示されている
軽巡洋艦「リトル・ロック」です。
それではまず、バッファロー・エリー郡海軍&軍事公園のHPより、
「リトルロック」の紹介を書き出してみます。
USS「リトルロック」CL-92(CLG-4)は、第二次世界大戦時の
「クリーブランド」級軽巡洋艦から生き残った唯一のミサイル巡洋艦です。
CLG-4は、ここバッファロー海軍公園にある私たちの船の中で最大のものです。
1945年「クリーブランド」級巡洋艦として建造された彼女は、
第二次世界大戦中への投入には間に合いませんでした。
生後の冷戦期、「リトルロック」は第2艦隊と第6艦隊の旗艦を務めました。
その哨戒範囲は北極圏から南アメリカまでの大西洋、そして地中海に至ります。
彼女は激動の1960年代と1970年代の間に活躍しました。
「リトルロック」のハイライトの1つは、「アドミラルズクォーターズ」、
これは海軍大将がこの旗艦に座乗していたときの特別の構成でした。
そして海軍でも非常に珍しいブリッジを二つ備えた巡洋艦です!
彼女は現存する最後の「クリーブランド」級巡洋艦であり、また、
展示されている誘導ミサイル巡洋艦としては世界でただ一つの存在です。
そのため、他の「姉妹」艦(本当の姉妹艦でなくとも)勤務だったベテランたちが
かつての自分の乗っていた艦そっくりの彼女の艦上で、同期会や戦友会を行なったり、
記念碑などの建立行事などを行うという使われ方をしているのです。
CL-91、CLG-4、CG-4
長さ: 610フィート(188m)
ビーム: 66フィート(20m)
ドラフト: 25フィート(7.6m)
排気量: 10,670トン
兵装: MkIIタロスミサイルランチャー 2基
6インチ砲; 3基
5インチ/ 38口径砲 2基
乗員: 1,100名 士官150人 海兵隊員150人
真正面から見ると艦首部分にまるで「絆創膏」を貼っているような・・。
「リトル・ロック」第二次世界大戦が終わりかけの頃就役しました。
正確には、
1943年3月2日 起工 於ウィリアム・クランプ&サンズ造船会社(フィラデルフィア)
1944年8月27日 進水 サム・ワッセル夫人がシャンパンカット
1945年6月17日 就役 艦長 ウィリアムE.ミラー大尉
6月17日就役というのは、慣熟航行中に戦争が終わってしまって
結局実戦デビューはしないままになってしまった、というパターンです。
戦争継続中に投入するつもりで建造していたのが、結局間に合わなかった、
という軍艦は全部で27隻あったそうですが、彼女はその1隻でした。
しかし、聯合艦隊はその1年前にはほぼ壊滅状態だったことを思うと、
つくづく日本はとんでもない国を相手にしたものだと思いませんか><
そして戦後そのうち6隻がミサイル搭載艦に改造されるのですが、
「リトル・ロック」はそのうちの1隻となりました。
HP説明の「アドミラルズ・クォーター」(Admiral's Quater)というのは
たとえば士官寝室のことを”Officer's Quater”ということを考えると、
提督の寝室があった、つまり「旗艦になった」と同義ではないかと思われます。
「リトル・ロック」が「提督の寝室」になったのは1950年代後半、改造されてからのことです。
誘導ミサイル巡洋艦に改造するためには、後部上部構造を再構築する必要がありました。
「クリーブランド」級のうち
「ガルベストン」「リトル・ロック」「オクラホマ・シティ」
の三姉妹が改造されて「ガルベストン」級ミサイル巡洋艦になったわけですが、
いずれも前方の武器を取り除いて、その結果上部構造物が大幅に拡大されたので、
提督の寝床を備える旗艦として機能するようになった、ということになります。
前方の武器が取り外されたということですが、艦橋前の主砲はもちろんあります。
Mk 12 5 "/ 38口径砲
は、デュアルつまり砲身二本の装備となっていて、これが艦には
6基装備されています。
遠くからで拡大してもよくわからないのですが、見学者のために
解説のための写真を貼っているのか、他のものが窓に映り込んでいるのか。
・・・・うーん。どちらだと思います?
その前方に配置されているのは、どうやらトリプル砲ですね。
Mk.16 6 "/ 47口径銃
は、「ブルックリン」級、「ファーゴ」級、そして「クリーブランド」級など、
第二次世界大戦中の軽巡洋艦に装備されていました。
ということは、改装された後も当時の武器がそのままであったということ?
前方の武器を取り去った、という記述はどういうことなんでしょうか。
現役時の「リトル・ロック」前甲板。
通信機器を写したこの写真ですが、これをみていただくと、
「海軍でも珍しいデュアルブリッジ」
がお分かりいただけると思います。
最近の軍艦だと、ロイヤルネイビーの空母「クィーン・エリザベス」が
操舵艦橋と航空管制艦橋を分けた結果艦橋を二つ持っていますが、
「クリーブランド」級の場合、ヒントは「ミサイル」にあると思われます
レーダーは、
前檣にあるのが対空捜索レーダー
中檣に三次元レーダー
後檣に高角測定レーダー
である、と書かれていますが、当方正直レーダーには全く無知なので、
もしかしたら三次元レーダーと高角測定レーダーは逆かもしれません。
わかる方がおられたらぜひご指導をお願いしたく存じます。
軍艦のブリッジにはその艦が就役中授与された勲章がペイントされますが、
「その年に与えられた賞」なので、有効期間は1年のみとなり、
翌年にステイタスが変われば描き変えられることになります。
ですから、引退し博物艦になっている軍艦のそれは、引退時のものか、
あるいは全盛期のものであることが予想されます。
(規定があるのかどうかは不明)
この「リトル・ロック」でいうと、まず真ん中の大きな白文字E
これは「バトルE」と称する軍艦にとっての最も大事な?賞で、
「武器・戦術・作戦遂行等最優秀賞」
の印となります。
さらに、緑文字のE、これは水上艦にとっての
「戦闘情報センター優秀賞」
です。
まあ、旗艦にもなったフネが賞なしってのは考えられませんが、
優秀だから旗艦になるのか、旗艦になったら賞をもらえるものなのか、
その辺は当事者でもないのでわかりません。
さらに赤文字のD/Eですが、これは
「ダメージコントロール優秀賞」
ということで、「リトル・ロック」、基本的に大事な点を押さえていた
なかなかの優秀艦だったということになります。
公開されていないのでこれ以上近づくことができないのですが、
岸壁を艦尾に向かって歩いてきました。
それにしても艦番号「4」(一桁)というのは何かとすごい数字だなと思ったり。
「二つ目の艦橋」がよくわかる角度です。
ここに、「ガルベストン」級ミサイル巡洋艦を特徴付けるところの
RIM-8 タロス( Talos) 長距離艦対空ミサイル
をばっちり見ることができます。
「タロス」というのはギリシア神話の「青銅の自動人形」という怪物の名前です。
米海軍は他にも「ターター」(タルタロス)「タイフォン」(テューポーン)
というギリシア神話系のなまえを長距離対空ミサイルにつけています。
クレータ島を毎日三回走り回って守り、島に近づく船に石を投げつけて破壊し、
近づく者があれば身体から高熱を発し、全身を赤く熱してから抱き付いて焼いたという。
胴体にある1本の血管に神の血(イーコール)が流れており、
それを止めている踵に刺さった釘ないし皮膚膜を外されると失血死してしまう(Wiki)
という有能な働き者(でも意志を持たない)で、ミサイルにはぴったりの名前かもしれません。
しかしこういうキャラよく探し出してくるよなあ。
「リトル・ロック」タロスミサイル発射中。
そこで皆さん、次の写真をご覧ください。
ミサイル発射中の写真を見ていただければ、これが発射方向に向きを変えているのが
よくおわかりいただけると思います。
発射管制システムのレーダー部分ではないかと思いますが、間違ってたらすみません。
横からの写真をアップにしてみました。
ミサイルに跨ったドワーフのマークが見えます。
しかし、全体写真を見ても、軽巡洋艦にこれだけ盛りだくさんに積んで
はたしてバランスは大丈夫だったのか、と心配になるくらいなのですが、
案の定「ガルベストン」級は改装後のトップヘビーの問題を抱えていたそうです。
というわけで「リトル・ロック」にはバランスを取るための固定バラストが
1200トン分搭載されたうえ、方位盤を撤去する他、各種減量策が行われました。
しかしそれでも「リトル・ロック」の「ホギング現象」は抑えられませんでした。
ホギングとは、
浮力のアンバランスで中央部が上向きに曲がる状態です。
その逆がサギングとなります。
この問題を受けて姉妹艦の「ガルベストン」は早期に予備役に編入されましたが、
「リトル・ロック」は提督の寝床である旗艦設備が充実していたため、
「ガルベストン」よりやや長く現役にとどまって第6艦隊旗艦を務めていました。
艦尾のシェイプは今までに見たことがないタイプです。
言い忘れましたが、「リトル・ロック」はアーカンソーにある都市名です。
アーカンソーの「小岩」か・・・なんか違和感ない感じ(笑)
海面に降りるためのラッタル・・・もう使われていない(と信じたい)。
次回は、「リトル・ロック」と「クローカー」の向こうに見えている
駆逐艦をご紹介します。
続く。
このクラスは3隻がテリア、3隻がタロスミサイル装備に改造されていました。
152㎜3連装砲4基のうち1番砲1基だけを残し艦隊旗艦用に艦橋構造物を拡大した艦と1,2番砲残置したままの艦に分かれていました。
「リトル・ロック」は1番砲のみ残置の艦で2番砲の位置に127㎜連装砲を移動し、艦橋構造物を拡大しています。
艦橋は2段となっており、本艦用と艦隊司令部用が別々となっていました。
マストのうち前のレーダーが対空見張り用SPS-29、後マスト上のアンテナが見えていませんが3次元レーダーSPS-39Bではないでしょうか?
タロスミサイル発射機が連装のMK-7で太鼓状の2基がミサイル誘導レーダーSPG-49と思いますが専門家でもありませんので間違って居るかもしれません。
>見学者のために解説のための写真を貼っているのか、他のものが窓に映り込んでいるのか
127㎜連装砲の内部が見えるようにアクリル透明板となっているのではいでしょうか?
艦尾から動力、照明用の電纜を導設していますがこれは展示のため用と思われます。
参照海人社「世界の艦船」No464、578、718
ブリッジ(艦橋)を二つ備えたというのは、前後の上部構造物ではなくて、この上下二層の艦橋のことだと思います。個艦は人数が少ないし、操艦には高い方が見通しが効くので、上層が個艦艦橋(リトルロック艦長以下乗組員が詰める)で、大きい下層が司令部艦橋(司令官以下幕僚が詰める)だろうと思います。
5インチ連装砲基部の透明部分は、うしろにヒンジがあるので点検用のハッチで、砲塔と同じ材質の外扉は外され、見学者が見やすいようにアクリル板に換装されていると思います。
>前檣にあるのが対空捜索レーダー
>中檣に三次元レーダー
>後檣に高角測定レーダー
その通りで、三次元レーダー(自衛隊だと「はたかぜ」型のマストにある黒い板状のソーラーシステムみたいな形状のアンテナ)のアンテナは撤去されています。
この後のミサイル艦には高角測定レーダーはないので、この頃の三次元レーダーはタロスミサイルを撃つには精度不足だった(高角測定レーダーで再度、測高しないと撃てない)と思われます。
>優秀だから旗艦になるのか、旗艦になったら賞をもらえるものなのか、その辺は当事者でもないのでわかりません。
旗艦は「親亀こけたら子亀もこけた」とならないように、優秀な人を集めます。そのため、獲得する賞が多いのだと思います。
司令部要員と司令官や幕僚は一体となって初めて力を発揮するので、普段から一緒に起居して、お互いに阿吽の呼吸となるように意識のすり合わせをします。なので、太平洋戦争のレイテ海戦で、それまで栗田中将が旗艦にしていた愛宕が攻撃され、洋上で突然、大和に移乗したような場合、すり合わせが全く出来ていない訳で、司令部としてはすぐに力を発揮することは出来ません。
いつぞや「電報回覧」で書きました通り、大和の電信員が司令部に受信した電報を回覧しようとしても、今日突然乗って来た司令官ご一行の顔なんかわかりません。電報がきちんきちんと回って来ないのだから、適切な判断も出来ず、栗田司令部が混乱したのは当たり前といえば当たり前です。
タロスミサイルは、今の対空ミサイルとは違ってラムジェット推進と言って、ちょうど初期のジェット戦闘機のように、先端に空気取入口があります。
空気取入口がない今のミサイルは、燃料の中に酸化剤があり、その中の酸素を燃焼させてロケット推進を行っているのですが、ラムジェットの場合、大気中の酸素を取り込んで燃焼させるので、酸化剤が不要で、その分、より多量の燃料を搭載出来、射程が伸ばせます。ただ、マッハ3くらいまで加速しないとラムジェットは作動しないので、そこまで加速するためのロケットが別に必要になり(これがなかなか大変)タロス以来、ラムジェット推進の対空ミサイルはありません。
今のミサイルだと艦内に格納された状態では、羽根(フィン)は折り畳まれていて、飛び出すとバネの力で羽根を開くのですが、このタロスや同時期のテリアは発射前に乗員が手作業で一枚一枚、羽根を取り付けていました。発射の指示があると、かなり早いスピードで弾は上がって行くので、安全に取り付けるにはかなりの訓練が必要でした。ぼーっとしていると腕を持って行かれます。
長射程なので、発射海面を確保するのも大変(途中に船がいたら、安全管理上、発射は中止になる)で滅多に撃てなかったでしょうから、発射の写真を見ると、前甲板は見学者が鈴なりになっています。
「ミサイル管制システムのレーダー」もその通りです。このレーダー一基で一目標に対処するので、この船は同時に二目標に対処出来ます。イージス以降、ミサイルを発射してから、目標に命中するまでの間、ずっとレーダーで照射を続ける必要がなくなったので、自衛隊のイージス艦だと、誘導レーダーは三基ありますが、同時に対処出来る目標数は格段に増えています。
銃砲や弾薬が下部にあったのを撤去し、ミサイル発射機やミサイル本体では軽すぎて到底見合っていません。その上高所に大きなレーダーや管制装置も設置していますのでトップヘビーになったので船底にバラスト1,200t搭載で重心を下げ復原性能を維持したのでしょう。
ホグ状態になったのはちょっと解せないのです。
前後の弾薬庫等にバラストを過度に搭載したのかな?ただミサイル本体は軽いのですが嵩張りますので弾薬庫の容積確保は必要でバラストは機械室、缶室の下等に搭載されると思われますので疑問です。
「リトル・ロック」は主砲が前部1基、後部2基撤去していますが「ガルヴェストン」と「トーピカ」は前部2基残置、後部2基及び127㎜連装砲等撤去となっており、艦首が吃水が深くなる前トリム状態となったのでは思われますが。
「ガルヴェストン」の改造後の写真がありますが舷側補強がやってあるように見えません。
重巡「オレゴン・シティ」をミサイル巡洋艦とした「オルバニー」級は前後にタロス、管制レーダー上からの視界確保で背の高い艦橋、マックとびっくりするようなトップヘビーに見えます。なかなかこのような艦容は採用出来ませんが米海軍は大丈夫なのでしょう。