2021年春のブログです
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梨木香歩さんのエッセイ『ぐるりのこと』(2010・新潮文庫)を久しぶりに読みました。
10年ぶりくらいでしょうか。
小さな本ですが、なかみは重いです。
あちこちを旅しながら、梨木さんにはめずらしく、たまに政治にも言及します。
ひどい政治や社会を糾弾しますが、その時に自分の中にある同様のひどさをも必ず探る姿がとても印象的です。
人は誰でも完全な存在ではないので、自分の内にもあるひどさや悪を見つめなければ、他人の行動をあれこれ非難しても片手落ちです。
その往復作業はとても苦しいのですが、とても意味がありそうです。
何か、たとえが適切かどうかはわかりませんが、精神分析の作業を思い起こします。
精神分析は、患者さんの内なる攻撃性や破壊性を二人で探る作業だと思うからです。
内なる攻撃性や破壊性に気づかないと、人はそれを外界に投影して、敵から攻撃をされるのではと不安になります。
ですから、まずは内なる攻撃性や破壊性を意識化することが大切になります。
それに似た作業をはからずも梨木さんが一人でされているような印象を受けました。
いい文章や深い文章を書くことは、自己分析や自己洞察につながるゆえんでしょう。
素敵なエッセイに再会できて幸せです。 (2021.3 記)