ホセ・クーラは、レオンカヴァッロの道化師を長年、各地で演じていますが、ベルリンドイツ・オペラ(Deutsche Oper Berlin)でも、2005年に劇場デビューで道化師のカニオに出演して以来、同じプロダクションで、2007年、2016年3月と、3シーズン合計10ステージに登場しています。
もちろん、他の、オテロ、トゥーランドット、サムソンとデリラ、カルメンなどの役柄でも、ベルリンでこの間、多く出演してきました。
今回は、2005年の劇場デビューと、昨年2016年のベルリンの道化師の舞台について、動画や写真、インタビューなどで紹介したいと思います。
トップの写真も、左が05年、クーラ42歳、右が2016年、53歳。
11年を経ているので、当然、年を重ね、経験を積み、外見的にも、心理的にも、よりいっそう、道化師カニオのキャラクターに近づいてきたのではないでしょうか。
このベルリンのカニオは、まるでマフィアのボスかと思うような、黒服にサングラス姿、そして煙草。2005年のクーラの写真を見ると、とてもスタイリッシュな印象です。
2016年は、貫禄がつき、さらに凄みと迫力を増したようです。そして妻を奪われる中年の道化師カニオとしてのリアリティも・・(笑)
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≪2016年≫
2016年の時は、故ヨハン・ボータのキャンセルによって急きょ、3月19日と27日のザルツブルク復活祭音楽祭に出演することになり、ザルツブルクとベルリンとを何度も行き来するという、たいへんハードな状況でしたが、無事に、舞台を成功させることができました。
レビューも非常に好評で、「ビッグシーン“衣装を着けろ”はこの夜の文句なしのハイライトになった」などと評価されていました。
2016年3月23、26日の公演から、YouTubeにアップされている2つの動画を。
一座が到着して村人に参加をよびかけるシーン。旅芸人というより・・。
José Cura - Pagliacci - Un tal gioco, credetemi
「もう道化師じゃない」からラストまで。迫力あるカニオに、このネッダは、負けずに応酬、そして最後は・・(通常とは違う終り方のようです)。
José Cura - Pagliacci - No, Pagliaccio non son
≪2005年≫
2005年の時の動画は、残念ながらネット上にもアップされていないようです。
いくつか舞台写真と、当時のインタビューから発言を紹介したいと思います。
――2005年インタビューより
●人生と芸術、その境界線について
Q、道化師では、すべてが、人生と芸術をめぐって、そして、どのように芸術が人生に侵入してくるのかを中心に展開する。
あなたはそのようなことを知っている?
A、当然。
私がここでやっていることは、私の仕事。私が非常に愛する仕事だ。
しかし、そこで大事なことは、境界線を確立する方法を知り、線を引くこと。一度ステージから離れれば、あなたは何者でもないからだ。
Q、舞台裏ではディーヴォから離れるために、あなたはどうしている?
A、私は20年間結婚し(2005年当時)、3人の子どもがいる。
彼らは、私が地に足をつけて、私が現実との接触を失わないように、しっかりと見ている。
そして、私がそうなるなら、彼らは私のズボンを蹴って、言うだろう・・「やめなさい」と。
Q、道化師は、通常、年老いて、嫉妬深いピエロとして描かれるが?
A、我々は、彼を、残酷で暴力的なボスと見ている。彼の力を乱用するタイプの人間として。
そして彼は言う―― "私と一緒に寝るなら、スターにしてあげる"――と。
そんなことがどこでも起こる。
Q、あなたもそのようなオファーを受けた?
一束ほど。私はそれらを非常に丁寧に断った ―― 私は幸せな結婚をしている男であり父親であると言って。
●外見の美しさとキャリア
Q、あなたの美貌は、キャリアの目標を追求するのに役立った?
A、むしろ反対だ。初めの頃、私はいつも、“エロティックなテナー”、“サニー・ボーイ”、“ラテンの恋人”だった。
それは良いかもしれないが、しかしまた無価値なものだった。
私は30年にわたって舞台に立ってきて、常に真剣なミュージシャンだった。しかし、もし外見が良いと、愚かに違いないと思われる。
Q、あなたは良い年のワインのように、年を重ねることによって、より良くなる?
A、私の妻に聞いてほしい(笑)。
Q、あなたはどんなワイン?
A、私がワインだったら、スペインのリオハ。またはイタリアのバローロ。
●年を重ねること、キャリアについて
Q、年をとるのは難しい?
A、今までは、まだ。私の髪はゆっくりと灰色に変わり、薄くなる。そして腹回りはより大きく。
しかし、私の妻は、私の外見はもっと興味深くなると思っている。さらに、それからメガネを追加する。すると今、人々は突然、「ああ、彼はかなり良いミュージシャンだ」と言う。
Q、あなたは指揮、作曲、ピアノ、声を勉強した。どのようにキャリアとして歌を選んだ?
A、それが私の家族を養う一番早い方法だった。私は22歳で結婚し、25歳で父親になった。私が学生の時にパートタイムの仕事をしたフィットネススタジオに、赤ちゃんを連れて行って働いた。テノールだと、より多くの収入を得ることができる。そのためだった。
しかし、私が天職だと考えているのは指揮。そして、私はゆっくりとそれに戻りたいと思っている。
Q、あなたはベルリンで初めて歌おうとしている。ここのオペラハウスは破産している。少ない報酬で歌う?
A、世界中のオペラハウスがダウンしている。私はドイツオペラの経営陣と妥協について交渉した。私は少し少ない額でデビューを歌う。その代わりに、繰り返し戻ってくる。
『Berliner Zeitung』 (2005年4月)
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同じ役柄を、繰り返し、何年にもわたって演じていくなかで、ドラマとキャラクターの解釈を深めているクーラ。このインタビューでも触れていますが、クーラは、道化師について、これまでも繰り返して、「ジョービジネスの縮図」であり、「仮面の下の顔こそ、その人間の真の姿」であると語っています。自ら演出もしている、こうしたクーラの解釈などについては、他の投稿で詳しく紹介してますので、お読みいただけるとうれしいです。
→ 「カヴァレリア・ルスティカーナと道化師の演出」
→ 「道化師の解釈 "私は仮面の背後にいる"」
インタビューで、良いワインのように成熟するというたとえがありましたが、近年のクーラは、まさに成熟と実りの時を迎えています。
2017年前半は、2月19日から初挑戦のワーグナーのタンホイザーでロールデビュー、5月にはこれも初挑戦のブリテンの英語オペラ、ピーター・グライムズの演出と主演、そして6月はリエージュで円熟のオテロの新プロダクションを迎えます。しかもその間には、プラハ響で、クーラ作曲作品「あの人を見よ」の世界初演もあります。
少しずつ、本来の志望である、指揮者、作曲家に軸足を移しつつありますが、まだまだ歌手としても、演出家としても、つぎつぎに新しいチャレンジを続けています。まずは、間もなく初日を迎える、初めてのワーグナーが、無事成功することを心から願っています。