《前回までのあらすじ》
第12使徒レリエルのいざなう異次元空間「ディラックの海」にすっとばされ、外部からの電力供給が絶たれたエヴァンゲリオン初号機。なすすべもなく時はすぎ、あとわずかでエントリープラグの生命維持モードも機能を停止してしまう。危うし初号機専用パイロット!
そんな中、混乱と憔悴の果てに朦朧とする初号機専用パイロットの眼前に突如として広がった風景は……
なんと、どことも知れぬ夕暮れの古びた電車の座席に腰かけた制服姿の自分と、向かいのロングシートにちょこんと腰かける、半ズボンにTシャツの「少年時代の初号機専用パイロット自身」!? こはいかに、もののけのたぐいのしわざにやあらん?
2人の乗る電車は線路を走行しているらしく、通過したらしい踏み切りの警報音が、2人以外にはまったく乗客のいない車両内にどことなくうつろにひびきわたる。ドップラー効果で不気味にゆがむサイレンの残響。
初 「誰……誰?」
少 「碇シンジ。」
初 「それは僕だ。」
少 「僕は君だよ。人は自分の中にもうひとりの自分を持っている。自分というのは常に二人でできているものさ。」
初 「二人?」
少 「実際に見られる自分と、それを見つめている自分だよ。碇シンジという人物だって何人もいるんだ。君の心の中にいるもう一人の碇シンジ。葛城ミサト(作戦指揮官)の心の中にいる碇シンジ。惣流アスカ(2号機専用パイロット)の中のシンジ。綾波レイ(0号機専用パイロット)の中のシンジ。碇ゲンドウ(怪しいネルフ総司令)の中のシンジ。みんなそれぞれ違う碇シンジだけど、どれも本物の碇シンジさ。君はその他人の中のシンジが怖いんだ。」
初 「他人に嫌われるのが怖いんだよ。」
少 「自分が傷つくのが怖いんだよ。」
初 「悪いのは誰だ?」
少 「悪いのは父さん(怪しい総司令)だ。僕を捨てた父さんだ。」
初 「悪いのは自分だ。」
(2号機専用パイロットの言葉が挿入)「そうやってすぐに自分が悪いと思いこむ。それが内罰的だっていうのよ!」
初 「何もできない自分なんだ。」
(作戦指揮官の言葉が挿入)「何もできないと思い込んでいる自分でしょ?」
(0号機専用パイロットが初号機専用パイロットをビンタする場面と、0号機専用パイロットの言葉が挿入)「お父さんのこと、信じられないの?」
初 「嫌いだと思う。でも……今はわからない。」
(怪しい総司令の言葉が挿入)「よくやったな、シンジ。」
初 「父さんが僕の名前を呼んだんだ。あの父さんにほめられたんだよ!」
少 「その喜びを反芻して、これから生きていくんだ?」
初 「この言葉を信じたら、これからも生きていけるさ。」
少 「自分をだまし続けて?」
初 「みんなそうだよ! 誰だってそうやって生きているんだ。」
少 「自分はこれでいいんだと思い続けて。でなければ生きていけないよ。」
初 「僕が生きていくには、この世界にはつらいことが多すぎるんだ。」
少 「例えば泳げないこと?」
初 「人は浮くようにはできてないんだよ!」
少 「自己欺瞞だね。」
初 「呼び方なんか関係ないさ!」
少 「嫌なことには目をつぶり、耳をふさいできたんじゃないか。」
(過去に親友に殴られたときの初号機専用パイロットの姿が挿入)
(作戦指揮官の言葉)「人のことなんて関係ないでしょ!」
(怪しい総司令の言葉)「帰れ!」
(重傷に苦悶する0号機専用パイロットの表情や、過去に戦った第3使徒サキエルの姿などがめまぐるしく挿入)
初 「イヤだ、聞きたくない!」
少 「ほら、また逃げてる。楽しいことだけを数珠のようにつむいで生きていられるわけがないんだよ。特に僕はね。」
初 「楽しいこと見つけたんだ……楽しいこと見つけて、そればっかりやってて何が悪いんだよォ!!」
(駅のホームで泣いている少年時代の初号機専用パイロットと、彼を取り残して去ってゆく父こと怪しい総司令のイメージが挿入)
初 「父さん、僕はいらない子どもなの?……父さん!」
少 「自分から逃げだしたくせに。」
(セカンドインパクトやネルフに関する新聞記事の画像などが挿入され、不特定の中年男性の声が複数挿入)「そうだ。この男は自分の妻を殺した疑いがある。」
「自分の妻を殺したんだ!」
初 「違う! 母さんは、笑ってた……」
(作戦指揮官の言葉)「あなたは人に褒められる立派なことをしたのよ。」「がんばってね。」
(怪しい総司令の言葉)「シンジ、逃げてはいかん。」
(作戦指揮官の言葉)「がんばってね。」
初 「ここはイヤだ。ひとりはもう……いやだ。」
なんじゃぁ、こりゃぁあ!!
いや~、1996年の1月17日午後6時にこの回が初オンエアされたときには、テレビの前の少年少女はぶっとんだんでしょうねぇ。まさに「事件の目撃者」ですよね。うらやましいなぁ~、いろんな前情報を知っちゃった上での再放送で出会うことしかできなかったわたくしとしましては。確か私が観たのは、地元の山形で受験勉強をちょろまかして深夜に観てたから、1997年の暮れから98年の初めくらいに再放送されたやつだったかなぁ。おっそいねぇ~、しかし!!
周知の通り、この第12使徒レリエルの登場するエピソードは、非常に遺憾ながらのちの貞本義行によるマンガ版『新世紀エヴァンゲリオン』や、21世紀に開始された『ヱヴァンゲリヲン新劇場版』シリーズでは完全に「なかったこと」にされており、なんとな~くエヴァンゲリオンの世界の全体像からすれば、影の薄い部類に入っているかもしれません。
でも!! でもよ!? 上のような異常なシーンが巨大ロボットアニメ(まぁ正確にはロボットじゃないけど)のバトルも佳境かと思われたところに突然さしこまれてみてくださいよ! これに度肝を抜かれないわけにはいかないでしょう。
もしかしたら一般的には、アニメ『新世紀エヴァンゲリオン』という作品が古今未曾有に「とんでもないもの」であるということが決定的になったエピソードは、こののちの第13使徒が登場したエピソードだとされているのかも知れないし、実際にマンガ版や『新劇場版・破』でもそっちのほうがかなり力を入れて語られているのですが、第13使徒がその栄誉に輝くのは絶対に不当です。
TVシリーズをちゃんと観たら、『新世紀エヴァンゲリオン』の世界が、もう後戻りができないくらいに「やっちゃった」な感じになるのは、明らかに第12使徒レリエルのせい!! レリエル万歳!
私が思うに、これほどまでに衝撃的な第12使徒レリエルのエピソードがのちのリメイクヴァージョンでことごとく避けられているのは、「物語を短くしたい」とか「エピソードがつまらない」とかいう軽い理由では決してなく、「ここに触れたら TVシリーズ版と同じ轍を踏んでしまう」という、最終的には未完といっていい形で終わってしまった最大の原因のようなものがそこにあったからだったのではないのでしょうか。そして、その核心は間違いなく、今回のこの記事の冒頭にかかげた「主人公と主人公の問答シーン」にあったと思うのです。まさにこの場面こそが、のちにいっさい語られることなくなった「無限の闇」へと『新世紀エヴァンゲリオン』という作品を向かわせてしまった分岐点だったとふんでいるんだなぁ、あたしゃ。だから、ここで舞台が唐突に走行中の電車になったのは、原作者なりのわかりやすい決意表明を込めた隠喩だったんじゃなかろうかと。2人の乗っていたあの電車は、場面が転換した時にはすでに、物語の結末にかかわる重大なポイント(分岐器)を通過していたあとだったのです……
さて、構成の都合から、この記事では上の問答シーンをひとつながりにまとめましたが、実際のアニメ本編では、この流れには途中にネルフ本部での、今回の「 N2爆雷992個まるごとドン作戦」の指揮をとる開発主任とオペレーターのやりとりが短く挿入されています。正確には、初号機専用パイロットの「楽しいこと見つけて、そればっかりやってて何が悪いんだよォ!!」という名絶叫と父親に取り残された少年時代の彼のイメージとの間ですね。
この問答シーンは、もはや初号機専用パイロットが「いま何時?」とかいうことを気にしている場合ではないテンパリ具合に陥っていたために具体的にネルフの作戦決行のどのくらい直前のことだったのかははっきりしないのですが、途中に差し込まれたネルフ側のシーンでオペレーターが「エントリープラグ内の予備電源、理論値ではそろそろ限界です。」「プラグスーツの生命維持システムも、危険域に入ります。」と発言しており、それを受けた開発主任が「12分、予定を早めましょう。シンジ君が生きてる可能性がまだあるうちに。」と指示を出しています。こちらのネルフ本部でのやりとりが、もろもろの準備が完了した上での作戦決行予定時刻のギリギリ直前、午前5時くらいのものであることは間違いないでしょう。もちろんこれは開発主任の発言にもあるように、初号機エントリープラグの生命維持モードのタイムリミットをかんがみた時刻推定です。
つまり、このことからも初号機エントリープラグ内、というか初号機専用パイロットの脳内で展開されたとおぼしき上のあれこれが、いよいよ生命維持モードが危なくなってきて意識が混濁してきた彼が思い描いた、走馬灯のような幻覚であるとも解釈できるわけなのですが、ここで彼に執拗に問いかけを繰り返してくる「少年時代の彼」の姿をした何者かの正体がなんなのか。本編ではまったくその後語られることがなかったグレーゾーンの問題なのですが、私はここで、「こいつぁ明らかに第12使徒レリエルの変装だ!」と高らかに断言させていただきたいと思います。あ、みなさんそう思われてましたか。
つまり、ここでの主人公の問答を、純粋に彼だけの中で繰り広げられた「自我」と「超自我」とのやりとりとも解釈できそうなのですが(フロイトせんせ~!!)、それではそのあいだ、第12使徒レリエルはただただ初号機専用パイロットの衰弱死を待ちながら『週刊大衆』とか『まんがタイムきらら』あたりをボケラッチョと読んでいただけだった、ということになるのですが……
そんなわけは、ないんです。それだったら、そのあとのレリエルが、サードインパクトを目指してどんな次の手を打つつもりだったのかがまったくフォローされていない。
おそらく、このシーンでレリエルは、少年時代の初号機専用パイロットの姿を借りながら、そこを橋頭堡として彼に精神的な問いかけを繰り返し、そこから入手できる情報を元に、「初号機専用パイロットのコピー&肉体の乗っ取り」をはかっていたのではないのでしょうか。
話はドカンと脱線しますが、私の愛してやまない水木しげるサマの不朽の名作『週刊少年マガジン版 ゲゲゲの鬼太郎』の通算第104~106話に『陰摩羅鬼(おんもらき)』(1968年11月掲載)というエピソードがありまして、この中で「自称・情熱の天才画家」に変装した鬼太郎は、敵の妖怪・陰摩羅鬼の魂が乗り移った女性に、「あなた、なに色が好きですか?」「食べ物はなにがすきですか?」「朝は何時ごろおきますか?」などという、一見どうでもいいような106の質問を繰り出し、その答えによってみちびきだした「106の座標」をキャンバスにうち、それをつなげて陰摩羅鬼の正体が描き出された瞬間に、女性の肉体からキャンバスの絵に陰摩羅鬼の魂を強制的に転送、封印してしまうという脅威の呪法「魂かなしばりの術」を披露します。確かにすごそうな秘術ですけど、なんの疑問もいだかずにバカ正直に106の質問にいちいち答えてくれた陰摩羅鬼もけっこういいやつですね。『ガキの使い』の企画じゃないんだから! 余談ですが、この『陰摩羅鬼』エピソードは、水木しげる自身が1964年に発表した『貸本版 墓場鬼太郎』の第13話『おかしな奴』の大筋をリライトした内容となっています。
要するに、この「問答シーン」もまた、まさに鬼太郎のごとく、レリエルが初号機専用パイロットの「魂」を抜き出し、それにかわる彼そっくりの「魂」を模造したレリエルが彼の肉体に憑依することを目的とした「質問ぜめからのSF ボディスナッチャー作戦」だったのではなかろうかと! なんという心理作戦!!
勝手にこのあとの展開を類推させていただければ、おそらくレリエルは、最初に初号機を拉致した時点で、ネルフが必死になんらかの大作戦を講じて初号機の取り返しに乗り出してくることは予想済みでした。それを大前提とした上で、それまでに衰弱した初号機専用パイロットの魂を完璧にコピーしてから彼の肉体を奪い取り、ネルフがなにかしらの作戦を決起したときにテキトーに「ディラックの海ふろしき」と「巨大な白黒球体バルーン」を殲滅されたように見せかけて捨て去り、
「あぁ~、助かった! みんなありがとう、ボク、碇シンジ☆」
などといった三文芝居をうちながら、初号機ごと救出されたていをとってネルフ本部に潜入し、そこから折を見てサードインパクトに決行に乗り出す、というものだったのではないのでしょうか。
これはなんつうか、『ゲゲゲの鬼太郎』っていうよりは、むしろ『ルパン三世』に近い作戦なんじゃないっすかね……
でも、「影を使って敵を異空間にほうり込む」という攻撃法しか見せなかった第12使徒レリエルが、この状況を有効活用して「すべての使徒の目指す最終目的」たるサードインパクトの誘発を狙うのならば、この手段が最短なんじゃなかろうかと思うのですが、いかがでしょうかね~!?
以上のような精神干渉中、レリエルは額に汗しながら、初号機専用パイロットの思考パターンや記憶を懸命にコピーしていたのです。
「なるほど、『他人に嫌われるのが怖い』……『悪いのは父さんだ』、と……あ、ちょっと待って、まだ書いてる途中だから!
……ふむふむ、ちっぽけな蟻んこくらいにしか見えないんですけれども、人類というものも、よくよく見ればいろいろとご苦労なさってるんですねぇ。実に勉強になります。
あっ、ちょっとここで、親父の音声を聞かせてみましょうか。『よくやったな、シンジ。』っと……あぁ、喜んでますねぇ~。うれしかった出来事を思い出すと、この子は気分がよくなるんですねぇ~。いい子ですねェ~! おぉ~、よしよし。」
あぁ~、いけない! 衰弱したところを狙ったレリエルの狡猾きわまりない心理作戦によって、初号機専用パイロットの魂のコピーは確実に遂行されていくのでした。これはヤバい! 超ヤバい。
この問答シーンでの、主人公たる初号機専用パイロットの担当声優・緒形恵美さんの演じきった「1人2役」の名演は、まさしくその後の『新世紀エヴァンゲリオン』の流れを、尋常でない引力で主人公の内面世界にぐぐぐいっとひきこんでしまう原動力たる入魂の仕事となっているわけなのですが、注目すべきなのは、問答を重ねていくうちに、じょじょにパイロットとレリエルとの境界があいまいになっていくこと。もっと詳しく言うのならば、序盤ではいかにも機械的な質問の仕方しかできなかった「にせもの」のほうが、次第に感情を持った言い回しを「習得」していくさまが的確に描写されているということです。いってみればたかだか3分ほど、せいぜい上の文量くらいしかない時間の中でよくぞここまで濃密な演技をみせてくれた! としか言いようがありません。まさしくこのシーンによって、初号機専用パイロットは完全に「ロボットバトルアニメの主人公」という範疇を軽々と超越する人格の厚みを手に入れたのです。まぎれもない、少年と使徒とが展開する生きるための熾烈な闘い。
それともうひとつ。このやりとりの中では、初号機専用パイロットの記憶の中での存在として、ネルフ関係者を中心とした多くの登場人物の言動がめまぐるしく挿入されていきますが、その中で唯一人、まるでレリエルの質問を代弁するかのようにパイロットに問いかけるセリフを発する人物がいたことには、いやがおうでも注目しないわけにはいきませんね。
「お父さんのこと、信じられないの?」
他でもない、0号機専用パイロットである、あの日々の「わたしケガしてます」アピールに余念のない色白・青髪・赤い瞳のやにっこい少女です。
なぜ彼女だけが使徒側に……これがいったい、果たしてどんな意味を持っているのか……とかって謎が謎を呼ぶ展開を今後も引っぱっていこうかと考えてはいるのですが、もうこんな「レリエル特集記事」まで読まれるようなあなたさまならば、もうそのあたりの真相はとっくにご存知ですよね~!?
でも、こういうちょっとした一瞬の部分でも重大なヒントをしっかり差し込んでくる制作スタッフって、やっぱりプロなのよね~。まさにミステリー小説の文法ですよ。
余談ですが、私そうだいはこの『新世紀エヴァンゲリオン』の世界を豊潤にいろどっている作曲家・鷺巣詩郎さんによる数多くの名曲の中でも、いくたの耳に残る定番ナンバーを押しのけて、この「問答シーン」の後半に流れていた『 SEPARATION ANXIETY(分離不安)』という BGMがいちばん大好きです。
この、パーカッションと和音が引き起こすなんともいえない非日常空間のかほり……たまんないですねぇ! これはもう、「未来に残したい いつ聞いても不安になる音楽100選」にぜひとも採用していただきたいものですねぇ。え、そんな100選、ない!?
ともあれ、レリエルによる精神干渉は順調に進んでいき、上のようなかく乱の末に、やっとのことでエントリープラグ内でつかのまの意識を取り戻す初号機専用パイロット。プラグスーツの手の甲部分で力なく点滅する「バッテリー切れ」のランプ。
「保温も酸素の循環も切れてる。寒い……だめだ、スーツも限界だ……ここまでか。もう疲れた……なにもかも。」
ここで大事なのは、この初号機専用パイロットの言い回しが、演じる緒方さんの非常に繊細な演技によって、明らかに「過酷な生をあきらめることによる開放の喜び」を含んだものになっていることです。特に「もう疲れた……」のあたりで、少し微笑むようなニュアンスを入れているのが決定的ですね。
つまり、ここで今回のエピソードの題名となった『死に至る病』というキーワードが効いてくるわけなのですが、無数の先行する(自称)解読本を引き合いに出すまでもなく、この「死に至る病」という言葉は、デンマークの若き哲学者・セーレン=キェルケゴールの著作『死に至る病』(1849年)から引用されたとおぼしきものであり、その意味とはズバリ、「絶望」!
冒頭にあげたような執拗な問答の結果、レリエルは初号機専用パイロットから「これ以上生き続けていくこと」の希望をもぎとり、絶望という病を植えつけることによって確実に彼を死に至らしめる、言い方をかえるのならば、「スムースに部屋の受け渡しを進める準備」までをも周到に完了させていたのでした! ただし、彼の生きる希望はあくまでも「もぎとられた」ものなのであり、決して彼自身が真の絶望に接して「自分から手ばなした」ものなのではない、ということだけは確認しておきましょう。結局は力ずくの急場しのぎではあったわけなのです。
ともあれレリエル、主人公をほふる大金星は目前だゼ!!
もはや完全に濁りきって視界もおぼつかなくなってきた L.C.L.溶液の中で、目をつむり、じょじょに表情を弛緩させていく初号機専用パイロット……
ここで、動きを止めた彼の顔だけをとらえた画面が延々30秒ちかく続くわけなのですが、もはやこの男子中学生14歳もおしまいなのか……思わず息を呑んでしまう緊張の時間が流れます。
喜々として瀕死の彼を見送ろうとするレリエル!
「いぃィイ~ッヒッヒッヒ! さぁ、心おきなく天界に召されるがよい、男子中学生! この世に残していくネルフのみなさまのことはまかせなさい、全員なるべく早めにそちらに急行させるようにいたしますからねェ。みなさん、地上に未練のない世界では仲良くやっていけることでしょうよ!! ほらほら、引っ越~せ、引っ越~せ、さっさと引っ越~せ、パンパン~っと♪」
と、そのとき。
後ろからレリエルの肩を「むんず。」とつかむ、光り輝く正体不明の腕が。
レ 「え……うわっ、まぶし!! だ、誰ですか、あなたは?」
光 「……さっきから黙ってずっと後ろから見させてもらってたけど、おたくさんこそ、誰? 14歳の子ども相手になにやってんの。」
レ 「え? いや、あの、あなた、なんでまた、この『ディラックの海』に……いらっしゃ……」
光 「だ!! れ!?」
レ 「ハイ、すみません! あの……この子の友だちです。知り合いです。」
光 「知り合いだったらなんで見てるだけなのよ。死にかけてんじゃないの。助けてあげなさいよ。」
レ 「いや、そうですね、そうなんですけど……え、あなたもしかして、エヴァンゲリオン初号機の『中のお方』で……?」
光 「だったらなんなのよ。なんかおかしいの? 私がここにいたら。」
レ 「あ、あの、別にいいんですけど、あの~、な~んでまた、内部電源が切れてるのにそうやってピンピンしていらっしゃるのかなぁ~って……」
光 「詳しいじゃないの。じゃあ、アレも知ってるでしょ。半年くらい前に第3新東京市に初めて来て、わたしにボッコボコにされたあんたの先輩。」
レ 「え? あの、サキエル兄さんのことですか? えぇ、ハイ一応……確か、あなたサマが、ねぇ……」
光 「そうそう。そのとき、わたし電源切れてたのよ。それでも超余裕。」
レ 「えぇ!? あ、あぁ、そうだったんすかぁ~……ハハ、ハハハ……」
光 「さて、と。じゃあそろそろお祈りも終わった? もうこの世に未練はないわよね(ボキッ、ボキキッ)」
レ 「え!? イヤイヤイヤ、暴力はいけませんよ!! そんなあなた、あからさまに拳を鳴らしちゃったりなんかしちゃったりして、もう……
あのね! それなら言わせてもらいますけどね!? このガキンチョは自分で『もう疲れた、死んでもいいや。』って言ってるんですよ!! それだったらもう、本人の望むようにスッキリ逝かせてやったほうがいいじゃないですか! そんな、いくらあんたでも、こいつの自由をもぎとる権利はないでしょう!?」
光 「それだったら、その子の発言はわたしが撤回するわ。もう一回ちゃんと責任をもって教育しなおします。」
レ 「え、教育!? あんた一体、何サマなんだ? 単なる乗りもんだろ!? ただのエヴァンゲリオン初号機だろうが!?」
光 「そう、エヴァンゲリオン初号機でもあるし……その子の『保護者』でもあるわ。」
レ 「な……!! そうか、そうだったのか……でも、そんな……ムチャクチャな!!」
光 「(ビシッとレリエルを指差して)ムチャクチャなのは、2秒後のあんたの全身だぜ。」
ド ン
レ 「は、はわわ~、なぜここで荒木比呂彦せんせ~チック!?」
光 「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラァアアアア!!!!!!」
ビシッ!! ビキビキビキビキ、バシィイイイイッッ!!
それと時を同じくして、人類のいる地球世界、第3新東京市のレリエル侵蝕地帯では、なんと「 N2爆雷992個総投下」決行の実に60秒前というタイミングになって、大きな異変が!!
だいたい、『新世紀エヴァンゲリオン』の世界で地軸の狂いのために、日本の気候が一年中そうなっているという夏の夜明けの時間は、夏至の1週間前の6月中旬ごろの「午前4時24分ごろ」が早いピークだそうなのですが、それ以降はだいたい「午前5時ごろ」が夏の大半のようでしたので、この『長岡京エイリアン』でも、対レリエル N2爆雷投下作戦」の決行時刻は5時ごろに推定させていただきます。
突然発生した、市街地をとどろかせる地響きとともに、開発主任の説明ではレリエル本体であるといわれていた地上の直径680メートルの暗黒部分がいっきに硬化し、まるで内側から飛び出ようとする「何か」の圧力に耐えられなくなったかのように、いちめんに亀裂を走らせてひび割れた黒い破片を舞い散らせているのです。その切れ目から見えるのは、まるで人間の血液のように赤いレリエルの内部……
まだ何もやってないのに……驚愕するネルフ陣営!
作戦指揮官 「まさか、シンジ君が!?
開発主任 「ありえないわ! 初号機のエネルギーはゼロなのよ!?」
! あの開発主任が一気に動揺している!? これは、この感じはまさか、半年前にも発生してしまった、あの事態なのでは……
レリエルの地上部分はなをもひび割れを続けますが、それが転移したのか、今度は上空の巨大な白黒物体のほうが不気味な身震いを始めました。これは明らかに、中から何者かが出てこようとしている!! 通常の状態でいることができなくなったかのように、レリエルの球体の表面は、白黒の模様から黒いちめんの状態に変化しますが、それが確認できたかというのもつかのま、
ブツッ!! ブッシャァァアアアア~!
球体が、あたかもスイカか肉の塊ででもあるかのように爆ぜ、中からはおびびただしい人間の血液そっくりの体液が噴出、そしてその中からは、らんらんとその眼を光らせた、全身血まみれのエヴァンゲリオン初号機が!!
いとも簡単に内側からレリエルの球体を真っ二つに裂き割り、初号機は自力で中から生還してきた……払暁の天空をにらみながら、「ウオオオォォ~ン!!」と、野獣のような咆哮を繰り返す初号機。それを地上の暗黒部分の淵から眺めながら、身動きひとつできないエヴァンゲリオン2号機と0号機。
2号機専用パイロット 「あたし……こんなのに乗ってるの?」
間違いない、これは……「暴走」! 半年前の第3使徒サキエルとの決戦いらいながらく絶えていたエヴァンゲリオン初号機の制御不能状態「暴走」が、ここにきて再発してしまったのです。
開発主任 「なんてものを……なんてものをコピーしたの、私たちは。」
思わずもらした開発主任の言葉を耳にして、隣にいた作戦指揮官は心中でこうつぶやきます。
作戦指揮官 「エヴァーがただの第1使徒のコピーなんかじゃないのはわかる。でも、でもネルフは、使徒をすべて倒したあと、エヴァーをどうするつもりなの?」
作戦指揮官、もう使徒をぜんぶ倒したときのことを考えちゃってるよ! まだぜんぜん話が早すぎるっつうの!! 使徒ナメんなよ!?
レリエル 「お~、いてぇ……血が出ちゃったよ、もう……まさか、初号機がこんなにルール無用な主人公野郎だとは思いもよりませんでしたよ。野郎じゃないみたいだけど……けっこういいところまでいったんですがねぇ。でもこれで、『新世紀エヴァンゲリオン』は後戻りのできない危険ゾーンに迷い込んでしまいましたよ。初号機と同じく、もはやただの主人公ではいられなくなった男子中学生の行く末もあわせて、草葉の陰から高見の見物としゃれこませていただきますわ! 白黒つけるもなにもありません、わたくし第12使徒レリエルは、『新世紀エヴァンゲリオン』にはぜぇえ~たいに!! 必要不可欠な存在なのだぁ~☆ あ~、痛かった……」
夜の天使こと、第12使徒レリエル、夜明けとともに死す……ぐっちゃぐちゃにされて。
私はその奇抜なデザインと攻撃法から、この第12使徒レリエルが数ある使徒のみなさんの中でもいちばん好きなのですが、使徒もエピソード自体もきわめて秀逸なこの対レリエル戦が、のちのリメイク作品でまったく触れられていないのは非常に残念でなりません。でもこれは、よく考えられた上でのカットであるはずなのです。TVシリーズと同じ轍を踏まないための。
現に、もはやリメイクといえるのかどうかもわからなくなってきた『ヱヴァンゲリヲン新劇場版』シリーズでも、『破』の「第8の使徒」( TVシリーズ版の第10使徒サハクィエルにあたる)の地上に接近してきた1形態にレリエルに似たデザインがちょっとだけ引用されますし、あまり詳しいことは言いませんが、『Q』に登場した「最後の使徒」も、シチュエーションこそまったく違うものの、エヴァンゲリオンとの戦い方がレリエルにかなり似通っている、と言えなくもないのです。
蛇足ですが、殲滅される直前になって初号機が出てくるのは、本来開発主任が「影にすぎない」と言っていた上空の球体のほうだったのですが、これはおそらく、レリエルが「本体」を球体と地上の暗黒部分のどちらにも自由に移動させることができる性質を持っていたからなのではないのでしょうか。「本体」を自由自在に移動させられる。この描写から、私はレリエルの初号機専用パイロットの肉体乗っ取り説を考えました。
さぁ、今回もずいぶんと記事が長くなってしまいましたが、この第12使徒レリエルが開いてしまった「初号機専用パイロットの深すぎる内的世界」というパンドラの箱をかかえて、『新世紀エヴァンゲリオン』はいったいどうなっていくのでしょ~か!?
以下、次回!! ぴえ~。
第12使徒レリエルのいざなう異次元空間「ディラックの海」にすっとばされ、外部からの電力供給が絶たれたエヴァンゲリオン初号機。なすすべもなく時はすぎ、あとわずかでエントリープラグの生命維持モードも機能を停止してしまう。危うし初号機専用パイロット!
そんな中、混乱と憔悴の果てに朦朧とする初号機専用パイロットの眼前に突如として広がった風景は……
なんと、どことも知れぬ夕暮れの古びた電車の座席に腰かけた制服姿の自分と、向かいのロングシートにちょこんと腰かける、半ズボンにTシャツの「少年時代の初号機専用パイロット自身」!? こはいかに、もののけのたぐいのしわざにやあらん?
2人の乗る電車は線路を走行しているらしく、通過したらしい踏み切りの警報音が、2人以外にはまったく乗客のいない車両内にどことなくうつろにひびきわたる。ドップラー効果で不気味にゆがむサイレンの残響。
初 「誰……誰?」
少 「碇シンジ。」
初 「それは僕だ。」
少 「僕は君だよ。人は自分の中にもうひとりの自分を持っている。自分というのは常に二人でできているものさ。」
初 「二人?」
少 「実際に見られる自分と、それを見つめている自分だよ。碇シンジという人物だって何人もいるんだ。君の心の中にいるもう一人の碇シンジ。葛城ミサト(作戦指揮官)の心の中にいる碇シンジ。惣流アスカ(2号機専用パイロット)の中のシンジ。綾波レイ(0号機専用パイロット)の中のシンジ。碇ゲンドウ(怪しいネルフ総司令)の中のシンジ。みんなそれぞれ違う碇シンジだけど、どれも本物の碇シンジさ。君はその他人の中のシンジが怖いんだ。」
初 「他人に嫌われるのが怖いんだよ。」
少 「自分が傷つくのが怖いんだよ。」
初 「悪いのは誰だ?」
少 「悪いのは父さん(怪しい総司令)だ。僕を捨てた父さんだ。」
初 「悪いのは自分だ。」
(2号機専用パイロットの言葉が挿入)「そうやってすぐに自分が悪いと思いこむ。それが内罰的だっていうのよ!」
初 「何もできない自分なんだ。」
(作戦指揮官の言葉が挿入)「何もできないと思い込んでいる自分でしょ?」
(0号機専用パイロットが初号機専用パイロットをビンタする場面と、0号機専用パイロットの言葉が挿入)「お父さんのこと、信じられないの?」
初 「嫌いだと思う。でも……今はわからない。」
(怪しい総司令の言葉が挿入)「よくやったな、シンジ。」
初 「父さんが僕の名前を呼んだんだ。あの父さんにほめられたんだよ!」
少 「その喜びを反芻して、これから生きていくんだ?」
初 「この言葉を信じたら、これからも生きていけるさ。」
少 「自分をだまし続けて?」
初 「みんなそうだよ! 誰だってそうやって生きているんだ。」
少 「自分はこれでいいんだと思い続けて。でなければ生きていけないよ。」
初 「僕が生きていくには、この世界にはつらいことが多すぎるんだ。」
少 「例えば泳げないこと?」
初 「人は浮くようにはできてないんだよ!」
少 「自己欺瞞だね。」
初 「呼び方なんか関係ないさ!」
少 「嫌なことには目をつぶり、耳をふさいできたんじゃないか。」
(過去に親友に殴られたときの初号機専用パイロットの姿が挿入)
(作戦指揮官の言葉)「人のことなんて関係ないでしょ!」
(怪しい総司令の言葉)「帰れ!」
(重傷に苦悶する0号機専用パイロットの表情や、過去に戦った第3使徒サキエルの姿などがめまぐるしく挿入)
初 「イヤだ、聞きたくない!」
少 「ほら、また逃げてる。楽しいことだけを数珠のようにつむいで生きていられるわけがないんだよ。特に僕はね。」
初 「楽しいこと見つけたんだ……楽しいこと見つけて、そればっかりやってて何が悪いんだよォ!!」
(駅のホームで泣いている少年時代の初号機専用パイロットと、彼を取り残して去ってゆく父こと怪しい総司令のイメージが挿入)
初 「父さん、僕はいらない子どもなの?……父さん!」
少 「自分から逃げだしたくせに。」
(セカンドインパクトやネルフに関する新聞記事の画像などが挿入され、不特定の中年男性の声が複数挿入)「そうだ。この男は自分の妻を殺した疑いがある。」
「自分の妻を殺したんだ!」
初 「違う! 母さんは、笑ってた……」
(作戦指揮官の言葉)「あなたは人に褒められる立派なことをしたのよ。」「がんばってね。」
(怪しい総司令の言葉)「シンジ、逃げてはいかん。」
(作戦指揮官の言葉)「がんばってね。」
初 「ここはイヤだ。ひとりはもう……いやだ。」
なんじゃぁ、こりゃぁあ!!
いや~、1996年の1月17日午後6時にこの回が初オンエアされたときには、テレビの前の少年少女はぶっとんだんでしょうねぇ。まさに「事件の目撃者」ですよね。うらやましいなぁ~、いろんな前情報を知っちゃった上での再放送で出会うことしかできなかったわたくしとしましては。確か私が観たのは、地元の山形で受験勉強をちょろまかして深夜に観てたから、1997年の暮れから98年の初めくらいに再放送されたやつだったかなぁ。おっそいねぇ~、しかし!!
周知の通り、この第12使徒レリエルの登場するエピソードは、非常に遺憾ながらのちの貞本義行によるマンガ版『新世紀エヴァンゲリオン』や、21世紀に開始された『ヱヴァンゲリヲン新劇場版』シリーズでは完全に「なかったこと」にされており、なんとな~くエヴァンゲリオンの世界の全体像からすれば、影の薄い部類に入っているかもしれません。
でも!! でもよ!? 上のような異常なシーンが巨大ロボットアニメ(まぁ正確にはロボットじゃないけど)のバトルも佳境かと思われたところに突然さしこまれてみてくださいよ! これに度肝を抜かれないわけにはいかないでしょう。
もしかしたら一般的には、アニメ『新世紀エヴァンゲリオン』という作品が古今未曾有に「とんでもないもの」であるということが決定的になったエピソードは、こののちの第13使徒が登場したエピソードだとされているのかも知れないし、実際にマンガ版や『新劇場版・破』でもそっちのほうがかなり力を入れて語られているのですが、第13使徒がその栄誉に輝くのは絶対に不当です。
TVシリーズをちゃんと観たら、『新世紀エヴァンゲリオン』の世界が、もう後戻りができないくらいに「やっちゃった」な感じになるのは、明らかに第12使徒レリエルのせい!! レリエル万歳!
私が思うに、これほどまでに衝撃的な第12使徒レリエルのエピソードがのちのリメイクヴァージョンでことごとく避けられているのは、「物語を短くしたい」とか「エピソードがつまらない」とかいう軽い理由では決してなく、「ここに触れたら TVシリーズ版と同じ轍を踏んでしまう」という、最終的には未完といっていい形で終わってしまった最大の原因のようなものがそこにあったからだったのではないのでしょうか。そして、その核心は間違いなく、今回のこの記事の冒頭にかかげた「主人公と主人公の問答シーン」にあったと思うのです。まさにこの場面こそが、のちにいっさい語られることなくなった「無限の闇」へと『新世紀エヴァンゲリオン』という作品を向かわせてしまった分岐点だったとふんでいるんだなぁ、あたしゃ。だから、ここで舞台が唐突に走行中の電車になったのは、原作者なりのわかりやすい決意表明を込めた隠喩だったんじゃなかろうかと。2人の乗っていたあの電車は、場面が転換した時にはすでに、物語の結末にかかわる重大なポイント(分岐器)を通過していたあとだったのです……
さて、構成の都合から、この記事では上の問答シーンをひとつながりにまとめましたが、実際のアニメ本編では、この流れには途中にネルフ本部での、今回の「 N2爆雷992個まるごとドン作戦」の指揮をとる開発主任とオペレーターのやりとりが短く挿入されています。正確には、初号機専用パイロットの「楽しいこと見つけて、そればっかりやってて何が悪いんだよォ!!」という名絶叫と父親に取り残された少年時代の彼のイメージとの間ですね。
この問答シーンは、もはや初号機専用パイロットが「いま何時?」とかいうことを気にしている場合ではないテンパリ具合に陥っていたために具体的にネルフの作戦決行のどのくらい直前のことだったのかははっきりしないのですが、途中に差し込まれたネルフ側のシーンでオペレーターが「エントリープラグ内の予備電源、理論値ではそろそろ限界です。」「プラグスーツの生命維持システムも、危険域に入ります。」と発言しており、それを受けた開発主任が「12分、予定を早めましょう。シンジ君が生きてる可能性がまだあるうちに。」と指示を出しています。こちらのネルフ本部でのやりとりが、もろもろの準備が完了した上での作戦決行予定時刻のギリギリ直前、午前5時くらいのものであることは間違いないでしょう。もちろんこれは開発主任の発言にもあるように、初号機エントリープラグの生命維持モードのタイムリミットをかんがみた時刻推定です。
つまり、このことからも初号機エントリープラグ内、というか初号機専用パイロットの脳内で展開されたとおぼしき上のあれこれが、いよいよ生命維持モードが危なくなってきて意識が混濁してきた彼が思い描いた、走馬灯のような幻覚であるとも解釈できるわけなのですが、ここで彼に執拗に問いかけを繰り返してくる「少年時代の彼」の姿をした何者かの正体がなんなのか。本編ではまったくその後語られることがなかったグレーゾーンの問題なのですが、私はここで、「こいつぁ明らかに第12使徒レリエルの変装だ!」と高らかに断言させていただきたいと思います。あ、みなさんそう思われてましたか。
つまり、ここでの主人公の問答を、純粋に彼だけの中で繰り広げられた「自我」と「超自我」とのやりとりとも解釈できそうなのですが(フロイトせんせ~!!)、それではそのあいだ、第12使徒レリエルはただただ初号機専用パイロットの衰弱死を待ちながら『週刊大衆』とか『まんがタイムきらら』あたりをボケラッチョと読んでいただけだった、ということになるのですが……
そんなわけは、ないんです。それだったら、そのあとのレリエルが、サードインパクトを目指してどんな次の手を打つつもりだったのかがまったくフォローされていない。
おそらく、このシーンでレリエルは、少年時代の初号機専用パイロットの姿を借りながら、そこを橋頭堡として彼に精神的な問いかけを繰り返し、そこから入手できる情報を元に、「初号機専用パイロットのコピー&肉体の乗っ取り」をはかっていたのではないのでしょうか。
話はドカンと脱線しますが、私の愛してやまない水木しげるサマの不朽の名作『週刊少年マガジン版 ゲゲゲの鬼太郎』の通算第104~106話に『陰摩羅鬼(おんもらき)』(1968年11月掲載)というエピソードがありまして、この中で「自称・情熱の天才画家」に変装した鬼太郎は、敵の妖怪・陰摩羅鬼の魂が乗り移った女性に、「あなた、なに色が好きですか?」「食べ物はなにがすきですか?」「朝は何時ごろおきますか?」などという、一見どうでもいいような106の質問を繰り出し、その答えによってみちびきだした「106の座標」をキャンバスにうち、それをつなげて陰摩羅鬼の正体が描き出された瞬間に、女性の肉体からキャンバスの絵に陰摩羅鬼の魂を強制的に転送、封印してしまうという脅威の呪法「魂かなしばりの術」を披露します。確かにすごそうな秘術ですけど、なんの疑問もいだかずにバカ正直に106の質問にいちいち答えてくれた陰摩羅鬼もけっこういいやつですね。『ガキの使い』の企画じゃないんだから! 余談ですが、この『陰摩羅鬼』エピソードは、水木しげる自身が1964年に発表した『貸本版 墓場鬼太郎』の第13話『おかしな奴』の大筋をリライトした内容となっています。
要するに、この「問答シーン」もまた、まさに鬼太郎のごとく、レリエルが初号機専用パイロットの「魂」を抜き出し、それにかわる彼そっくりの「魂」を模造したレリエルが彼の肉体に憑依することを目的とした「質問ぜめからのSF ボディスナッチャー作戦」だったのではなかろうかと! なんという心理作戦!!
勝手にこのあとの展開を類推させていただければ、おそらくレリエルは、最初に初号機を拉致した時点で、ネルフが必死になんらかの大作戦を講じて初号機の取り返しに乗り出してくることは予想済みでした。それを大前提とした上で、それまでに衰弱した初号機専用パイロットの魂を完璧にコピーしてから彼の肉体を奪い取り、ネルフがなにかしらの作戦を決起したときにテキトーに「ディラックの海ふろしき」と「巨大な白黒球体バルーン」を殲滅されたように見せかけて捨て去り、
「あぁ~、助かった! みんなありがとう、ボク、碇シンジ☆」
などといった三文芝居をうちながら、初号機ごと救出されたていをとってネルフ本部に潜入し、そこから折を見てサードインパクトに決行に乗り出す、というものだったのではないのでしょうか。
これはなんつうか、『ゲゲゲの鬼太郎』っていうよりは、むしろ『ルパン三世』に近い作戦なんじゃないっすかね……
でも、「影を使って敵を異空間にほうり込む」という攻撃法しか見せなかった第12使徒レリエルが、この状況を有効活用して「すべての使徒の目指す最終目的」たるサードインパクトの誘発を狙うのならば、この手段が最短なんじゃなかろうかと思うのですが、いかがでしょうかね~!?
以上のような精神干渉中、レリエルは額に汗しながら、初号機専用パイロットの思考パターンや記憶を懸命にコピーしていたのです。
「なるほど、『他人に嫌われるのが怖い』……『悪いのは父さんだ』、と……あ、ちょっと待って、まだ書いてる途中だから!
……ふむふむ、ちっぽけな蟻んこくらいにしか見えないんですけれども、人類というものも、よくよく見ればいろいろとご苦労なさってるんですねぇ。実に勉強になります。
あっ、ちょっとここで、親父の音声を聞かせてみましょうか。『よくやったな、シンジ。』っと……あぁ、喜んでますねぇ~。うれしかった出来事を思い出すと、この子は気分がよくなるんですねぇ~。いい子ですねェ~! おぉ~、よしよし。」
あぁ~、いけない! 衰弱したところを狙ったレリエルの狡猾きわまりない心理作戦によって、初号機専用パイロットの魂のコピーは確実に遂行されていくのでした。これはヤバい! 超ヤバい。
この問答シーンでの、主人公たる初号機専用パイロットの担当声優・緒形恵美さんの演じきった「1人2役」の名演は、まさしくその後の『新世紀エヴァンゲリオン』の流れを、尋常でない引力で主人公の内面世界にぐぐぐいっとひきこんでしまう原動力たる入魂の仕事となっているわけなのですが、注目すべきなのは、問答を重ねていくうちに、じょじょにパイロットとレリエルとの境界があいまいになっていくこと。もっと詳しく言うのならば、序盤ではいかにも機械的な質問の仕方しかできなかった「にせもの」のほうが、次第に感情を持った言い回しを「習得」していくさまが的確に描写されているということです。いってみればたかだか3分ほど、せいぜい上の文量くらいしかない時間の中でよくぞここまで濃密な演技をみせてくれた! としか言いようがありません。まさしくこのシーンによって、初号機専用パイロットは完全に「ロボットバトルアニメの主人公」という範疇を軽々と超越する人格の厚みを手に入れたのです。まぎれもない、少年と使徒とが展開する生きるための熾烈な闘い。
それともうひとつ。このやりとりの中では、初号機専用パイロットの記憶の中での存在として、ネルフ関係者を中心とした多くの登場人物の言動がめまぐるしく挿入されていきますが、その中で唯一人、まるでレリエルの質問を代弁するかのようにパイロットに問いかけるセリフを発する人物がいたことには、いやがおうでも注目しないわけにはいきませんね。
「お父さんのこと、信じられないの?」
他でもない、0号機専用パイロットである、あの日々の「わたしケガしてます」アピールに余念のない色白・青髪・赤い瞳のやにっこい少女です。
なぜ彼女だけが使徒側に……これがいったい、果たしてどんな意味を持っているのか……とかって謎が謎を呼ぶ展開を今後も引っぱっていこうかと考えてはいるのですが、もうこんな「レリエル特集記事」まで読まれるようなあなたさまならば、もうそのあたりの真相はとっくにご存知ですよね~!?
でも、こういうちょっとした一瞬の部分でも重大なヒントをしっかり差し込んでくる制作スタッフって、やっぱりプロなのよね~。まさにミステリー小説の文法ですよ。
余談ですが、私そうだいはこの『新世紀エヴァンゲリオン』の世界を豊潤にいろどっている作曲家・鷺巣詩郎さんによる数多くの名曲の中でも、いくたの耳に残る定番ナンバーを押しのけて、この「問答シーン」の後半に流れていた『 SEPARATION ANXIETY(分離不安)』という BGMがいちばん大好きです。
この、パーカッションと和音が引き起こすなんともいえない非日常空間のかほり……たまんないですねぇ! これはもう、「未来に残したい いつ聞いても不安になる音楽100選」にぜひとも採用していただきたいものですねぇ。え、そんな100選、ない!?
ともあれ、レリエルによる精神干渉は順調に進んでいき、上のようなかく乱の末に、やっとのことでエントリープラグ内でつかのまの意識を取り戻す初号機専用パイロット。プラグスーツの手の甲部分で力なく点滅する「バッテリー切れ」のランプ。
「保温も酸素の循環も切れてる。寒い……だめだ、スーツも限界だ……ここまでか。もう疲れた……なにもかも。」
ここで大事なのは、この初号機専用パイロットの言い回しが、演じる緒方さんの非常に繊細な演技によって、明らかに「過酷な生をあきらめることによる開放の喜び」を含んだものになっていることです。特に「もう疲れた……」のあたりで、少し微笑むようなニュアンスを入れているのが決定的ですね。
つまり、ここで今回のエピソードの題名となった『死に至る病』というキーワードが効いてくるわけなのですが、無数の先行する(自称)解読本を引き合いに出すまでもなく、この「死に至る病」という言葉は、デンマークの若き哲学者・セーレン=キェルケゴールの著作『死に至る病』(1849年)から引用されたとおぼしきものであり、その意味とはズバリ、「絶望」!
冒頭にあげたような執拗な問答の結果、レリエルは初号機専用パイロットから「これ以上生き続けていくこと」の希望をもぎとり、絶望という病を植えつけることによって確実に彼を死に至らしめる、言い方をかえるのならば、「スムースに部屋の受け渡しを進める準備」までをも周到に完了させていたのでした! ただし、彼の生きる希望はあくまでも「もぎとられた」ものなのであり、決して彼自身が真の絶望に接して「自分から手ばなした」ものなのではない、ということだけは確認しておきましょう。結局は力ずくの急場しのぎではあったわけなのです。
ともあれレリエル、主人公をほふる大金星は目前だゼ!!
もはや完全に濁りきって視界もおぼつかなくなってきた L.C.L.溶液の中で、目をつむり、じょじょに表情を弛緩させていく初号機専用パイロット……
ここで、動きを止めた彼の顔だけをとらえた画面が延々30秒ちかく続くわけなのですが、もはやこの男子中学生14歳もおしまいなのか……思わず息を呑んでしまう緊張の時間が流れます。
喜々として瀕死の彼を見送ろうとするレリエル!
「いぃィイ~ッヒッヒッヒ! さぁ、心おきなく天界に召されるがよい、男子中学生! この世に残していくネルフのみなさまのことはまかせなさい、全員なるべく早めにそちらに急行させるようにいたしますからねェ。みなさん、地上に未練のない世界では仲良くやっていけることでしょうよ!! ほらほら、引っ越~せ、引っ越~せ、さっさと引っ越~せ、パンパン~っと♪」
と、そのとき。
後ろからレリエルの肩を「むんず。」とつかむ、光り輝く正体不明の腕が。
レ 「え……うわっ、まぶし!! だ、誰ですか、あなたは?」
光 「……さっきから黙ってずっと後ろから見させてもらってたけど、おたくさんこそ、誰? 14歳の子ども相手になにやってんの。」
レ 「え? いや、あの、あなた、なんでまた、この『ディラックの海』に……いらっしゃ……」
光 「だ!! れ!?」
レ 「ハイ、すみません! あの……この子の友だちです。知り合いです。」
光 「知り合いだったらなんで見てるだけなのよ。死にかけてんじゃないの。助けてあげなさいよ。」
レ 「いや、そうですね、そうなんですけど……え、あなたもしかして、エヴァンゲリオン初号機の『中のお方』で……?」
光 「だったらなんなのよ。なんかおかしいの? 私がここにいたら。」
レ 「あ、あの、別にいいんですけど、あの~、な~んでまた、内部電源が切れてるのにそうやってピンピンしていらっしゃるのかなぁ~って……」
光 「詳しいじゃないの。じゃあ、アレも知ってるでしょ。半年くらい前に第3新東京市に初めて来て、わたしにボッコボコにされたあんたの先輩。」
レ 「え? あの、サキエル兄さんのことですか? えぇ、ハイ一応……確か、あなたサマが、ねぇ……」
光 「そうそう。そのとき、わたし電源切れてたのよ。それでも超余裕。」
レ 「えぇ!? あ、あぁ、そうだったんすかぁ~……ハハ、ハハハ……」
光 「さて、と。じゃあそろそろお祈りも終わった? もうこの世に未練はないわよね(ボキッ、ボキキッ)」
レ 「え!? イヤイヤイヤ、暴力はいけませんよ!! そんなあなた、あからさまに拳を鳴らしちゃったりなんかしちゃったりして、もう……
あのね! それなら言わせてもらいますけどね!? このガキンチョは自分で『もう疲れた、死んでもいいや。』って言ってるんですよ!! それだったらもう、本人の望むようにスッキリ逝かせてやったほうがいいじゃないですか! そんな、いくらあんたでも、こいつの自由をもぎとる権利はないでしょう!?」
光 「それだったら、その子の発言はわたしが撤回するわ。もう一回ちゃんと責任をもって教育しなおします。」
レ 「え、教育!? あんた一体、何サマなんだ? 単なる乗りもんだろ!? ただのエヴァンゲリオン初号機だろうが!?」
光 「そう、エヴァンゲリオン初号機でもあるし……その子の『保護者』でもあるわ。」
レ 「な……!! そうか、そうだったのか……でも、そんな……ムチャクチャな!!」
光 「(ビシッとレリエルを指差して)ムチャクチャなのは、2秒後のあんたの全身だぜ。」
ド ン
レ 「は、はわわ~、なぜここで荒木比呂彦せんせ~チック!?」
光 「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラァアアアア!!!!!!」
ビシッ!! ビキビキビキビキ、バシィイイイイッッ!!
それと時を同じくして、人類のいる地球世界、第3新東京市のレリエル侵蝕地帯では、なんと「 N2爆雷992個総投下」決行の実に60秒前というタイミングになって、大きな異変が!!
だいたい、『新世紀エヴァンゲリオン』の世界で地軸の狂いのために、日本の気候が一年中そうなっているという夏の夜明けの時間は、夏至の1週間前の6月中旬ごろの「午前4時24分ごろ」が早いピークだそうなのですが、それ以降はだいたい「午前5時ごろ」が夏の大半のようでしたので、この『長岡京エイリアン』でも、対レリエル N2爆雷投下作戦」の決行時刻は5時ごろに推定させていただきます。
突然発生した、市街地をとどろかせる地響きとともに、開発主任の説明ではレリエル本体であるといわれていた地上の直径680メートルの暗黒部分がいっきに硬化し、まるで内側から飛び出ようとする「何か」の圧力に耐えられなくなったかのように、いちめんに亀裂を走らせてひび割れた黒い破片を舞い散らせているのです。その切れ目から見えるのは、まるで人間の血液のように赤いレリエルの内部……
まだ何もやってないのに……驚愕するネルフ陣営!
作戦指揮官 「まさか、シンジ君が!?
開発主任 「ありえないわ! 初号機のエネルギーはゼロなのよ!?」
! あの開発主任が一気に動揺している!? これは、この感じはまさか、半年前にも発生してしまった、あの事態なのでは……
レリエルの地上部分はなをもひび割れを続けますが、それが転移したのか、今度は上空の巨大な白黒物体のほうが不気味な身震いを始めました。これは明らかに、中から何者かが出てこようとしている!! 通常の状態でいることができなくなったかのように、レリエルの球体の表面は、白黒の模様から黒いちめんの状態に変化しますが、それが確認できたかというのもつかのま、
ブツッ!! ブッシャァァアアアア~!
球体が、あたかもスイカか肉の塊ででもあるかのように爆ぜ、中からはおびびただしい人間の血液そっくりの体液が噴出、そしてその中からは、らんらんとその眼を光らせた、全身血まみれのエヴァンゲリオン初号機が!!
いとも簡単に内側からレリエルの球体を真っ二つに裂き割り、初号機は自力で中から生還してきた……払暁の天空をにらみながら、「ウオオオォォ~ン!!」と、野獣のような咆哮を繰り返す初号機。それを地上の暗黒部分の淵から眺めながら、身動きひとつできないエヴァンゲリオン2号機と0号機。
2号機専用パイロット 「あたし……こんなのに乗ってるの?」
間違いない、これは……「暴走」! 半年前の第3使徒サキエルとの決戦いらいながらく絶えていたエヴァンゲリオン初号機の制御不能状態「暴走」が、ここにきて再発してしまったのです。
開発主任 「なんてものを……なんてものをコピーしたの、私たちは。」
思わずもらした開発主任の言葉を耳にして、隣にいた作戦指揮官は心中でこうつぶやきます。
作戦指揮官 「エヴァーがただの第1使徒のコピーなんかじゃないのはわかる。でも、でもネルフは、使徒をすべて倒したあと、エヴァーをどうするつもりなの?」
作戦指揮官、もう使徒をぜんぶ倒したときのことを考えちゃってるよ! まだぜんぜん話が早すぎるっつうの!! 使徒ナメんなよ!?
レリエル 「お~、いてぇ……血が出ちゃったよ、もう……まさか、初号機がこんなにルール無用な主人公野郎だとは思いもよりませんでしたよ。野郎じゃないみたいだけど……けっこういいところまでいったんですがねぇ。でもこれで、『新世紀エヴァンゲリオン』は後戻りのできない危険ゾーンに迷い込んでしまいましたよ。初号機と同じく、もはやただの主人公ではいられなくなった男子中学生の行く末もあわせて、草葉の陰から高見の見物としゃれこませていただきますわ! 白黒つけるもなにもありません、わたくし第12使徒レリエルは、『新世紀エヴァンゲリオン』にはぜぇえ~たいに!! 必要不可欠な存在なのだぁ~☆ あ~、痛かった……」
夜の天使こと、第12使徒レリエル、夜明けとともに死す……ぐっちゃぐちゃにされて。
私はその奇抜なデザインと攻撃法から、この第12使徒レリエルが数ある使徒のみなさんの中でもいちばん好きなのですが、使徒もエピソード自体もきわめて秀逸なこの対レリエル戦が、のちのリメイク作品でまったく触れられていないのは非常に残念でなりません。でもこれは、よく考えられた上でのカットであるはずなのです。TVシリーズと同じ轍を踏まないための。
現に、もはやリメイクといえるのかどうかもわからなくなってきた『ヱヴァンゲリヲン新劇場版』シリーズでも、『破』の「第8の使徒」( TVシリーズ版の第10使徒サハクィエルにあたる)の地上に接近してきた1形態にレリエルに似たデザインがちょっとだけ引用されますし、あまり詳しいことは言いませんが、『Q』に登場した「最後の使徒」も、シチュエーションこそまったく違うものの、エヴァンゲリオンとの戦い方がレリエルにかなり似通っている、と言えなくもないのです。
蛇足ですが、殲滅される直前になって初号機が出てくるのは、本来開発主任が「影にすぎない」と言っていた上空の球体のほうだったのですが、これはおそらく、レリエルが「本体」を球体と地上の暗黒部分のどちらにも自由に移動させることができる性質を持っていたからなのではないのでしょうか。「本体」を自由自在に移動させられる。この描写から、私はレリエルの初号機専用パイロットの肉体乗っ取り説を考えました。
さぁ、今回もずいぶんと記事が長くなってしまいましたが、この第12使徒レリエルが開いてしまった「初号機専用パイロットの深すぎる内的世界」というパンドラの箱をかかえて、『新世紀エヴァンゲリオン』はいったいどうなっていくのでしょ~か!?
以下、次回!! ぴえ~。