長岡京エイリアン

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ちゃんと怪獣が怖いことって、大事ですよね  ~映画『大怪獣決闘 ガメラ対バルゴン』~

2014年12月23日 19時01分12秒 | 特撮あたり
映画『大怪獣決闘 ガメラ対バルゴン』(1966年4月公開 101分 大映)


 映画『大怪獣決闘 ガメラ対バルゴン』は、大映東京撮影所が製作した特撮映画「ガメラシリーズ」の第2作。シリーズ第1作『大怪獣ガメラ』(1965年)の半年後に公開された作品で、再び現れたガメラと新怪獣バルゴンとの決闘を描く、シリーズ初の総天然色作品。
 大映の永田秀雅専務によると、大映本社は前年の『大怪獣ガメラ』について、「東宝のゴジラの二番煎じで、よくこんなものをやれるな。」と危険性を感じていたという。ところが『大怪獣ガメラ』が大ヒットしたため、本社側もこれを受けて第2弾を急遽企画し、永田雅一社長が直々に製作者名として自らの名をクレジットさせ、破格の予算を投入して製作に乗り出す意気込みとなった。
 1966年のゴールデンウィーク興行作品として、大映京都撮影所の制作による『大魔神』と本作の「特撮二本立て興行」は、円谷英二ひとりが全特撮作品の制作を担当していた東宝にも実現できないものだった。
 脚本を執筆した高橋二三(にいさん)によると、「『大怪獣ガメラ』のあと、これは次も来るなという感触があった。」そうで、実際に本作の製作が決定した時には、「ほら見ろ、さあ何作でもいらっしゃい。」と思ったという。高橋は本作について、「メロドラマと怪獣特撮がひとつになった作品」と評している。
 クレジットはされていないが、永田社長の実子で専務の永田秀雅がプロデューサーに就いており、永田は「子供を出すように」と現場に要望していたが、田中重雄監督は劇中に一切子供の登場しない作劇を通し(子供らしい子供は避難民で映るだけである)、昭和ガメラシリーズでも唯一ストーリーに子供がからまない、一般向けの内容の映画に仕立てている。
 本作は前作に続いて興行的に大ヒットとなったが、特撮に予算を使いすぎて結果的には赤字になった。また大ヒットにもかかわらず、湯浅特撮監督は内容に不満が多かったという。その理由は、作劇が「主軸観客層である子供向けでないこと」であり、劇場での子供たちの反応を基にしてのスタッフの反省会では、「バルゴンが出てくるまでが長すぎて子供の集中力が続かない」、「大人向けのドラマは子供たちには退屈」などの意見が出された。こうして、湯浅監督が全編監督となって翌年に制作された第3作『大怪獣空中戦 ガメラ対ギャオス』(1967年)では、子供たちを飽きさせない演出に最重点が置かれ、子供を主役とする湯浅監督の作劇が徹底されることとなった。

 田中重雄監督をはじめとするベテラン中心の本編スタッフに対し、特撮現場は若いスタッフが中心となったため、湯浅特撮監督らは逆に結集して仕事に燃えることができたそうで、これに伴い、特撮パートもかなり長いものになっている。前作から特殊美術を担当しているエキスプロでは、八木正夫社長以下スタッフ総出で特撮セットに入り、ミニチュアの制作の他に、操演も担当した。
 A級予算が組まれた作品だが、湯浅監督によると、東宝ほどの予算は望めないため、特撮はできるだけ現場で処理したそうで、バルゴンが噴射する冷凍液には光学合成ではなく消火器を使った。
 登場人物の小野寺が飲み込まれるシーンのために実物大のバルゴンの頭が作られ、日本の怪獣映画としては初めて、人間が怪獣に食べられるシーンを描写した作品となった。 湯浅特撮監督の「東宝のゴジラとは違う画を創ろう」との意向で、怪獣同士の戦いにも、切ったり突いたりといったアクションが採り入れられ、円谷英二の方針で流血を避けた東宝の怪獣映画と大きく差別化され、本作以降、ガメラシリーズでは怪獣の流血描写が頻繁に見られるようになった。カラー作品であることを考慮して、必要以上の残虐描写を避けるため、血の色はガメラが緑、バルゴンは紫となった。「四つ足怪獣同士の戦い」という本作の構図も、従来の東宝作品に見られなかったもので、これも斉藤米二郎プロデューサーや湯浅特撮監督らの、「ゴジラが二本足なら、こっちは四本足で。」という東宝ゴジラシリーズへの対抗意識の現れだったという。

 本作では主演に本郷功次郎が起用されているが、これに本郷自身ははなはだ不本意だったという。デビュー7年目で「やっと一人前の俳優になれた」と思っていた矢先に本作の話が大映本社から来て、「周りの俳優はみんな逃げてしまい、自分だけつかまった」、「自分が目指しているものとは違う」と大弱りだったという。そこで本郷は仮病を使って大阪のホテルに逃げ込み、このためついに本編の撮影開始が1ヶ月遅れることになった。
 本郷は、「相手が怪獣じゃ、まったく勉強をしてられない」ということで、撮影に入るまで台本を読まなかったという。しかし、本作は予想外にヒットし、後年には、「今ではもう財産になってしまった。ガメラに出られたことを本当に感謝してますよ。」と語っている。
 ニューギニアのシーンはすべてスタジオ内で撮影された。本作は神戸や大阪といった関西を舞台とする作品であるが、登場人物のほとんどは関西弁を話さない。
 前作では大映特殊技術部のスタッフがガメラを演じていたが、本作からは専門のスタントマンを起用し、第4作『ガメラ対宇宙怪獣バイラス』までは荒垣輝雄がガメラを演じた。湯浅特撮監督は、「ガメラのぬいぐるみの甲羅は鉄線で骨組みを作ってあるので入るだけで大変なんですが、荒垣さんは実に軽快に動いてくれました。」と語っている。


あらすじ
 半年前に打ち上げられた Zプランロケットが宇宙空間で隕石に衝突し、中に閉じ込められていたガメラが脱出。ガメラは地球へと舞い戻り、エネルギーを求めて黒部ダムを破壊した後、赤道直下の噴火した火山に潜伏した。
 大阪で航空士のライセンスを得たばかりの平田圭介は、独立して観光飛行機会社を設立するための元手を集めるために、勤めていた会社を辞めて兄・一郎の企てた計画に参加した。一郎は、太平洋戦争中にニューギニア奥地の洞窟に現地で発見した巨大なオパールを隠しており、負傷して片脚が不自由になった彼に代わって仲間の小野寺、川尻と共に、オパールの密輸計画が実行されることになる。
 現地に到着した3人は、洞窟へと続くジャングル手前の集落で村人たちと暮らしている日本人医師の松下博士から、その洞窟が「虹の谷」と呼ばれる禁忌の魔境であると聞かされ諌められるが、欲に目のくらんだ一行は強引に突破して洞窟にたどり着き、ついにオパールを発見した。しかし、強欲な本性を現した小野寺は、川尻が毒サソリに刺されて死ぬのを見殺しにし、川尻の死に嘆く圭介を残して洞窟をダイナマイトで爆破、オパールを独り占めして、船で日本へと向かった。
 日本への途上、マラリアと水虫を患った小野寺は、船医の佐藤の奨めによって赤外線による治療を受ける。しかし、小野寺が上着のポケットに隠していたオパールが赤外線を浴び続けてひび割れ、中から1匹のトカゲのような生物が生まれた。これはオパールではなく、伝説の怪獣バルゴンの卵だったのだ。


登場する怪獣
ガメラ
身長60メートル
 前作に続き、本作のためにエキスプロが新規製作した。鋭い目つきが特徴。本作ではガメラは四足歩行を基本とするが、これは湯浅特撮監督の「動物的にリアルに見せたい。」との意向によるもので、最初は必ず這わせ、戦いになって初めて二足になるよう演出したという。
 「手足を引っ込めた回転ジェット」の飛行シーンは、前作ではアニメーションで描かれたが、本作からは「迫力が違う」との湯浅特撮監督の意向で、火薬を仕込んだミニチュアを使ったものとなった。このジェット噴射の火炎の色は、口から吐く火炎放射の赤色と区別して、青い色にされている。
 1尺サイズと3尺サイズの回転ジェット用ミニチュアが作られたが、湯浅監督は迫力にこだわり、なるべく3尺ミニチュアを使ったという。

冷凍怪獣バルゴン
体長80メートル
 ニューギニアの孤島にある魔境「虹の谷」に隠されていたオパールに似た卵から誕生した、現地では「千年に一度誕生する」と言い伝えられている伝説の怪獣。鼻先から前方へ伸びる大きな角を持つ、ワニとオオトカゲを合わせたような外見の四足歩行怪獣である。
 本来は孵化から10年近い年月を経て成長するところを、卵の状態で医療用の赤外線を大量に浴びたため、孵化後わずか数時間で巨大化した、特異体質の変異個体である。ダイヤモンドの放つ光に引き寄せられる習性があったが、変異個体であるため、赤外線を当てて増幅されたダイヤの光でなければ認識できなくなっている。
 カメレオンのような長い舌を持ち、人間に巻きつけて捕捉したり、建造物を破壊することもできる。先端からは零下100℃の霧状の冷凍液を噴射し、この冷凍液で大阪市内の広範囲とガメラを凍結させた。また、バルゴンが通過しただけで、その周辺がものの数秒で凍結する光景も描かれた。自分の身に何かしらの危険が迫ると、その殺気を遠くからでも敏感に感じ取れるほどの優れた動物的感覚を持つ。
 背中に並ぶ光り輝くトゲからは、「悪魔の虹」と恐れられる虹色の殺人光線を放つ。この光線はあらゆる物質を破壊できるが、鏡の反射だけは光線を無効化することができる。体組織は水に極端に弱く、大量の水分にさらされると細胞が溶け出してしまい、同時に舌先からの冷凍液も噴射できなくなる。

 着ぐるみは高山良策によって造型され、エキス・プロダクションが細部の仕上げを行った。まぶたが横方向に開閉する。バルゴンの頭が大きいのは人間体型をできるだけ隠すためで、撮影では足元を写さないよう気をつけたという。
 湯浅特撮監督は、「バルゴンは見栄えよりも動きを優先させて作った。」とコメントしており、そのため高山良策の怪獣造形は動きやすさを重視して作られ、非常に軽いぶん傷みやすかった。撮影でも痛みが激しく、連日補修が欠かせなかったという。
 着ぐるみと同サイズで、たれ目気味で上半身だけの、舌が伸びるギミック入りのギニョールも高山によって作られた。長い舌からの冷凍液の噴霧には消火器が使われた。


主な登場人物
平田 圭介 …… 本郷 功次郎
 本作の主人公。航空士として大空を駆け回る夢を持ち、独立して小さな観光飛行機会社の設立を目指す。そのため、航空士のライセンスを得ると勤めていた航空会社を辞め、兄のオパール密輸計画に参加することになる。

カレン …… 江波 杏子
 本作のヒロイン。ニューギニアの秘境「虹の谷」近辺の集落の酋長の娘。村に住み着いている日本人医師・松下博士の助手を勤めており、日本語を流暢に話せる。幼い頃からバルゴンの伝説を聞かされているため、バルゴンの特徴や弱点などに詳しい。

平田 一郎 …… 夏木 章
 圭介の兄。戦時中、兵士としてニューギニアにいた過去があり、その時に足を負傷し、現在は大阪で写真館を経営している。ニューギニアの捕虜収容所へ入れられる前、虹の谷で巨大なオパール(実はバルゴンの卵)を発見し、現地に隠していた。20年後、そのオパールを密輸するために弟の圭介、小野寺、川尻の3人を現地へ向かわせる。

小野寺 …… 藤山 浩二
 一郎の友人である山師。「金目の物は全て俺の物」がモットーの極めて強欲かつ自分本位な性格であり、利益を独占するために仲間や友さえも平気で手にかけ、それを悪びれもしない厚顔無恥な外道。日本に帰国してからも一郎夫婦を殺害して逃走し、バルゴンを琵琶湖に誘導するためのダイヤを強奪しようする。大阪在住だが、愛人ともども標準語を話す。

川尻 …… 早川 雄三
 一郎の友人である貨物船「あわじ丸」の船員。オパール密輸計画のために圭介と小野寺の船員手帳を偽造する。妻子持ちであり、計画が成功した後は船員を辞めて家族と一緒に暮らそうと考えていたが、オパールを発見した直後、毒サソリに刺されて死亡する。大阪弁を話す。

自衛隊司令官 …… 北城 寿太郎
 バルゴン退治のために様々な作戦を練る。作戦助言者として名乗り出た圭介とカレンを作戦室に受け入れる。

佐藤船医 …… 藤岡 琢也
 貨物船「あわじ丸」に乗船する船医。日本への帰途、マラリアと水虫を患った小野寺を治療する。後にバルゴンの卵に赤外線が当てられていたことを証言し、バルゴンの習性を生かした誘導作戦を作戦室で提案する。大阪弁を話す。

天野教授 …… 北原 義郎
 殺人光線の研究に努め、ルビー殺人光線照射装置を開発する。バルゴン誘導作戦のために装置を赤外線照射装置に改造した。

松下博士 …… 菅井 一郎
 風土病の研究のためにニューギニアの集落に15年前から住み着いている日本人医師。妻を風土病で亡くしている。


主なスタッフ
製作      …… 永田 雅一
企画      …… 斉藤 米二郎
監督      …… 田中 重雄
脚本      …… 高橋 二三
撮影      …… 高橋 通夫
音楽      …… 木下 忠司
特撮監督    …… 湯浅 憲明
特撮美術    …… 井上 章
怪獣造形・操演 …… エキス・プロダクション
制作・配給   …… 大映




《もちのろんで本文マダヨ》
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