長岡京エイリアン

日記に…なるかしらん

その潔さ……吉と出るか、それとも!? ~映画『ハケンアニメ!』~

2022年05月29日 22時48分35秒 | アニメらへん
 どもどもみなさま、こんばんは! そうだいでございます~。5月ももうそろそろおしまいですが、5月病、今年はいかがでしたか? これから来る梅雨のじめじめと、その後の猛暑地獄に耐える体力は戻りましたか~!? 私はもうダメ……

 そんな自分に気合を入れるべく、ここ1~2週間、私は週末に映画館に行っております。いや~、なんだかんだ言って、仕事帰りや休日に映画館に行って、パンフレットとコーヒーを抱えて座席でワクワクするのって、楽しいですよね。そんなにお安いもんじゃないですけど、束の間でも日常のあれやこれやを忘れる時間をもらえるっていうのは、ありがたいもんです。私にとっての温泉めぐりも、いわばそんな効果を期待しての趣味なんですが、温泉はそれ自体けっこう体力を使うもんだし、暖かい季節になるとちょ~っと行きづらくなっちゃうんで、映画館の方が、いいかな! おサイフに余裕があったらの話なんですが、ゆくゆくは私も、特に見たいものがあるってわけでもないけどとりあえず映画館に行ってみる、みたいな文化度の高いおじさんになりたいもんです、ハイ……

 さて、そんなこんなで最近は主に『シン・ウルトラマン』関連で映画館に行くようになっているのですが、今回は、ある意味で『シン・ウルトラマン』以上に、私の中での期待度が高かった作品を観に行ってまいりました。きたきた~!

 そうです、私が愛してやまない小説家・辻村深月先生の作品を映画化した、こちら!


映画『ハケンアニメ!』(2022年5月20日公開 128分 東映)

 『ハケンアニメ!』は、辻村深月によるアニメ制作現場を舞台とした小説作品である。女性週刊誌『an・an』(マガジンハウス刊)に2012年10月~14年8月に連載された。連載時から作品の挿絵は CLAMPが担当する。
 2019年10・11月に G2の脚本・演出により大阪・東京で舞台化作品が上演され、2022年に実写映画化された。

おもなキャスティング
斎藤 瞳   …… 吉岡 里帆(29歳)
王子 千晴  …… 中村 倫也(35歳)
行城 理   …… 柄本 佑(35歳)
有科 香屋子 …… 尾野 真千子(40歳)
並澤 和奈  …… 小野 花梨(23歳)
宗森 周平  …… 工藤 阿須加(30歳)
群野 葵   …… 高野 麻里佳(28歳)
根岸(制作デスク)…… 前野 朋哉(36歳)
越谷(宣伝担当)…… 古館 寛治(54歳)
前山田(脚本家)…… 徳井 優(62歳)
関(作画スタジオ社長)…… 六角 精児(59歳)
河村(作画監督)…… 矢柴 俊博(50歳)
白井(編集担当)…… 新谷 真弓(46歳)
田口(アニメ演出家)…… 松角 洋平(44歳)
星(TV局重役)…… みのすけ(57歳)
ナレーション …… 朴 璐美(50歳)

おもなスタッフ
監督 …… 吉野 耕平(43歳)
脚本 …… 政池 洋佑(38歳)
企画 …… 須藤 泰司(54歳)
編集 …… 上野 聡一(53歳)
音楽 …… 池 頼広(58歳)
主題歌『エクレール』(ジェニーハイ)
アニメーション制作 …… Production I.G
アニメーション監修 …… 梅澤 淳稔(62歳)

『サウンドバック 奏の石』
 斎藤瞳が監督として制作する、石が変形するロボット「サウンドバック」に乗って戦いに身を投じる少年少女達を描いたアニメ。
劇中アニメ制作スタッフ
監督 …… 谷 東
演出 …… 森川 さやか
キャラクター原案 …… 窪之内 英策(55歳)
メカニックデザイン …… 柳瀬 敬之(48歳)
キャラクターデザイン・作画監督 …… 大橋 勇吾
アニメーション制作 …… コヨーテ(本作公開前の2021年7月に会社解散)
アニメーション制作協力 …… 白組
声の出演(群野葵役以外)…… 潘めぐみ、梶裕貴、木野日菜、速水奨

『運命戦線リデルライト』
 王子千晴が監督として制作する、自らの魂の力で操作するバイクでレースを競い合う魔法少女達の姿を描いたアニメ。
劇中アニメ制作スタッフ
監督・絵コンテ・演出 …… 大塚 隆史(41歳)
キャラクター原案 …… 岸田 隆宏
キャラクターデザイン・作画監督 …… 高橋 英樹
アニメーション制作 …… Production I.G
声の出演 …… 高橋李依、花澤香菜、堀江由衣、小林ゆう、近藤玲奈、兎丸七海、大橋彩香


 ……いや~、とんでもない力の入れような作品でしたよ、これ!
 もう、上にあげた作品情報をご覧いただいてもお分かりかと思うのですが、「実写映画1本にアニメ映画2本」って言ってもオーバーじゃないくらいに、アニメパートのスタッフ・キャストの陣容が真剣すぎませんか!? これで、作中で流れるのは各作品5~10分くらいなんだもんね。贅沢だな~!!
 原作の時点で、この「アニメ業界トップレベルの作中作が2本!」という入れ子構造があった以上、それを実写映像化するのはそうとうに高いハードルだったかと思うのですが、そこは、さすが東映さん! 真正面からフルパワーで『サウンドバック』と『リデルライト』をアニメ化しちゃうという、採算度外視の正攻法でぶつかってくださったと思います。う~ん、『シン・ウルトラマン』の東宝という強大すぎる敵に、なんとしても一矢報いたいという執念のようなものさえ感じさせるこだわりようですね! まぁ、この5月の興行番付は、コロナやなんやかやがあってこうなったものなので、この顔合わせも想定外のものだったのかもしれませんが、消費者としては、とっても対照的で面白い好カードになったと思います。

 さて、もともとこの『ハケンアニメ!』という小説は、はっきり申せばひと昔前、10年前のアニメ業界を舞台にした作品です。
 私も、10年前にまず小説という形でこの作品を楽しんだわけだったのですが、すでにその時点で、この作品では語られていない、作者があえてカットしたと思われるアニメ業界のあれこれがあるのでは?と感じていました。
 そのことに関しては、ハードカバー版の『ハケンアニメ!』を読み終えた直後に我が『長岡京エイリアン』で検証してみたいと思ったのですが、『ハケンアニメ!』の連載当時に実際に放送されていたアニメ作品を羅列してみただけで終わってしまっていました……なんにも始めてねぇよ!!
※過去の関連記事は、こちら

 ともかく、その時に私が感じたのは、「誰がその作品を作っているのか?」という点を、辻村先生は意図的に簡略化して『サウンドバック』の斎藤瞳監督と『リデルライト』の王子千晴監督に集約させていた、ってことなんですね。
 言うまでもないことですが、アニメ作品というものはたいてい、まず小説やマンガの形での原作者がいて、アニメ化するとなるとシリーズ全体の流れを統括する「シリーズ構成」を担う総監督とメイン脚本家がいて、さらには各話の制作を受け持つ演出家と脚本家もいるし、すべての人材を作品作りにまとめ上げるプロデューサーだっているという、「船頭多くして船、宇宙に旅立つ」状態からできあがっていくものだと思います。

 そこを『ハケンアニメ!』は、「なぜ人は作品を作るのか」という、普遍的な人間の情熱の源泉を小説の形で分かりやすく伝えるために、あえてウソをついてシンプルにしているな、と感じたのです。ただ、小説の『ハケンアニメ!』では、放送されるアニメ本編の世界だけでなく、その周辺にいるアニメーターや付属商品となるキャラクターフィギュア制作会社、果てはアニメ作品を観光資源にしようと奔走する地方自治体までに語る視点を増やしているために、どっちかというとアニメ業界ではそんなに多くはないはずの「アニメ制作会社のオリジナル作品」を、しかも2つも主軸に据えているというウソっぽさをまぎらわせている巧みさはあるな、と感じていました。さすがは辻村先生。
 なので、Wikipedia において、この『ハケンアニメ!』を「お仕事小説」と定義しているのは、ちょっとどうかと思うんですよね。そこはそれ、リアリティ重視ではない味付けがされているフィクション作品であることを忘れてはならないと思います。

 そんでもって、原作連載のなんと10年後に満を持して実写映画化された『ハケンアニメ!』だったのですが、やはりこの映画版もまた、2010、20年代の日本のアニメ業界をリアルに画面に落とし込んだ作品……にはなっておりません。
 むしろ、情報量の莫大な小説よりも、もっと単純でタイトな2時間前後という枠の中で作品の熱量を伝えきるために、今回の映画版は、原作以上にウソっぽさが強くなり、人によっては「10年前の小説よりもさらに古くなってる!?」とビックリしかねないアレンジもなされているのでした。

 まぁちょっと、本題の映画版の感想に入る前に、そこら辺の原作小説との内容の違いについて、整理してみましょう。


≪原作と映画版との主な相違点≫
・有科香屋子の年齢設定が、原作では35歳だが映画版では36歳。しかし原作は『リデルライト』の完成する約1年前から物語が始まっているため、『リデルライト』完成時点での香屋子の年齢は同じ36歳ということになる。
・王子千晴の年齢設定が、原作では32歳(『運命戦線リデルライト』完成時は33歳)だが、映画版では36歳。『光のヨスガ』を制作したのは、原作では24歳の時で、映画版では物語の時点での瞳と同じ28歳の時。
・王子の『光のヨスガ』から『運命戦線リデルライト』までの期間は、原作では9年だが、映画版では8年。
・フィギュア会社「ブルー・オープン・トイ(ブルト)」の企画部長・逢里哲哉の出番が映画版では大幅に減らされており、有科香屋子との接点が描写されない。ブルト関連のエピソードは映画版ではほぼ語られない。
・フリーのアニメーターの迫水、スタジオえっじの江藤社長、小説家のチヨダコーキとチヨダの担当編集者の黒木、『運命戦線リデルライト』の音響監督の五條、行城の妻、ブルトのフィギュア造形師の鞠野カエデとその娘、選永市民と「河永祭り」の関係者が、映画版では登場しない。
・原作で語られるアニメ監督の野々崎努の存在が映画版では語られず、王子の設定に取り込まれている。
・『運命戦線リデルライト』の制作進行担当の川島加菜美の出番が大幅に減らされている。
・行城理は、原作ではブランド物のポロシャツにジーンズというラフな普段着で勤務しているが、映画版では常にスーツ姿で勤務している。
・斎藤瞳の年齢設定が、原作では26歳だが映画版では28歳。
・瞳は、原作では2年前にアクションゲーム『太陽天使ピンクサーチ』のゲーム内アニメを手掛け話題になるなどのキャリアを積んでから『サウンドバック』の監督になっているが、映画版では無名の新人監督。
・瞳は、原作では東京都内の有名私立大学・X大学法学部卒業後にトウケイ動画に就職しているが、映画版では国立大学を卒業して地方公務員になってからトウケイ動画に転職している。
・王子が失踪後に香屋子と再会したのは、原作では製作発表記者会見の5日前で、映画版では製作発表記者会見の当日。
・王子が香屋子と再会した時に渡した『運命戦線リデルライト』の脚本は、原作では最終話分まであるが、映画では最終話分のみできていない。
・『運命戦線リデルライト』と『サウンドバック』の製作発表記者会見は、原作では別々に記者会見を開いているが、映画版では合同記者会見。
・『運命戦線リデルライト』の放送時間は、原作では木曜深夜0時55分からだが、映画版では土曜夕方5時からで『サウンドバック』と同じ時間帯。原作において、初回放送は『リデルライト』の方が先であったが、番組編成上の都合により最終回は『サウンドバック』の方が『リデルライト』よりも1週早かった。
・瞳がトウケイ動画の入社面接で答えた、アニメ業界で働きたいと思うきっかけとなった作品が、原作では野々崎努監督の『ミスター・ストーン・バタフライ』劇場版だが、映画版では王子の『光のヨスガ』。
・瞳の好物が、原作ではミスタードーナツのフレンチクルーラーだが、映画版ではチョコエクレア。
・原作に登場した声優の美末杏樹が映画版に登場しないため、美末の設定が映画版の群野葵に組み込まれている。
・並澤和奈は、原作ではメガネをかけているが映画版では普段はかけていない。
・和奈が瞳や行城と面識を持つきっかけとなった雑誌『アニメゾン』の表紙イラスト騒動は、原作では『サウンドバック』の放送開始後に起きるが、映画版では放送開始前に起きる。
・『サウンドバック』制作スタッフにおいて、原作で登場するのはシリーズ構成担当の結城と宣伝プロデューサーの越谷と各話演出の大内のみだが、映画版では各現場スタッフが名前付きで登場し、結城と大内は登場しない。映画版では越谷に大内のキャラクターも取り込まれている。
・トウケイ動画の根岸は、原作では行城の先輩にあたるプロデューサーだが、映画版では『サウンドバック』の制作デスク。
・『サウンドバック』の作画監督の名前が、原作では後藤だが映画版では河村。ただし、原作の後藤は作中にほとんど登場しない。
・関は、原作ではアニメ原画スタジオ「ファインガーデン」で働く原画担当の社員だが、映画版では原画も行うファインガーデン社長。ちなみに、原作でのファインガーデン社長は古泉という男性で、関とは別人。
・宗森周平は、原作では新潟県選永市(えながし 架空の自治体)観光課の職員だが、映画版では埼玉県秩父市観光課の職員。ちなみに、原作で宗森がアニメ聖地巡礼の勉強のために視察した地方自治体の中に「埼玉県 C市」が含まれている(おそらく2011~19年の長井龍雪監督による「秩父三部作」に関連してのことと思われる)。
・宗森と和奈の住む自治体で行われている祭りのメインイベントが、原作では選永川の舟下りだが、映画版では『塔の上のラプンツェル』みたいなランタンフェスティバル。
・「ハケンアニメ」の判断基準のひとつとして語られるのが、原作では DVD売り上げ枚数だが、映画版では放送視聴率。
・映画版で語られるのは、原作の第3章「軍隊アリと公務員」の半ばまで(全体の2/3ほど)。そのため、『サウンドバック』と『運命戦線リデルライト』が放送終了した後の選永市の河永祭りのエピソードは語られないが、『サウンドバック』のオープニング主題歌を元にしたという舟下りの「舟謡(ふなうたい)」の歌詞の内容が、映画版で流れる劇中挿入歌『 Be who you gotta be.』(原詞・辻村深月)の歌詞に反映されている。


 いっぱいありますね~!! でも、これは小説と映像作品との、表現形式の違いから生じる仕方のない選択ですよ。そりゃ、『ハケンアニメ!』を全編まともに映像化しようとしたら、2クールぶんくらいの連続ドラマにしないといけなくなっちゃうし、キャストも倍以上になっちゃうだろうしなぁ。チヨダ・黒木ペアとか鞠野ゲリ……じゃなくてカエデさんも、そうとうな売れっ子俳優さんを起用しなきゃいけなくなるだろうし。

 こうやって羅列してみますと、今回の映画版は、意外と大胆にアレンジを加えていることに気がつきます。また、『サウンドバック』と『リデルライト』のアニメ本編放送終了後の選永市のエピソードや鞠野カエデさん関連といった非常においしい要素もばっさりカットしているので、小説と映画版とで、観終わった後の印象がけっこう違うと感じた方も多いのではないのでしょうか。小説の『ハケンアニメ!』って、選永市の展開でそれまでの全ての登場人物たちの苦労が報われ、オールキャストが勢ぞろいして大騒ぎの大団円といった感じで、辻村作品としては珍しいくらいにハッピーエンドな締め方になっていると思います。そこらへん、もしかしたら映画版の、斎藤監督がたった一人で「ものづくりのしあわせ」を静かに噛みしめるラストとはだいぶ雰囲気が対照的なのではないでしょうか。

 そうなんです、今回の映画版『ハケンアニメ!』は、「主人公は斎藤瞳ひとり」という視点に集約させるために、多くの才能の集まりとしてのアニメ作品を語る原作小説の群像劇スタイルから、だいぶ離れた作品に仕上がっているのです。

 往々にして、ここまで小説から離れた構造になると、辻村先生の作った強固な「枠」が外れて、作品自体が迷走しかねない危険性があったかと思うのですが、今回に関しての、約2時間という映画の制約に応えるために「主人公を1人に絞った」という選択は、まったくもって大正解だったと私は感じました。
 そして、この主人公の一本化が成功した理由は、たったひとつ! 斎藤瞳監督役の吉岡里帆さんがよかった!! ここ! ここに尽きるのよね。

 はっきり言って斎藤瞳という人物は、20代のみそらで夕方5時台放送のアニメ枠のシリーズ構成・総監督を担当するという、現実の世界ではなかなか存在しえないバケモン的天才です。いやいや、そんなの『サザエさん』や『ドラえもん』に匹敵する名作を、マンガ原作連載という前提なしで現出せしめよ、って言ってるような異常な要求ですよ……ムリムリ!! パラケルススじゃないんですから。
 ただ、そんな彼女が、徹底的に悩み、苦しみ、寝るのも惜しんで、「なんで私はものを作ってるんだ? 誰のために?」という問いにまじめに向き合い、その末に彼女なりの答えを見つけ、周囲の人の理解を勝ち取りながら、カイコのように文字通り身を削って作品をつむぎ出していく徒手空拳のさまを、ただひたすらにカメラに写し取ること。その泥臭い歩みの記録に集中したことが、今回の映画版の熱量の異様な高さにつながったのではないでしょうか。アツい! そりゃもう『ロッキー』みたいに熱いんだ、画面からにじみ出る情熱が、業が!!

 要するに吉岡さんが、斎藤瞳の非凡さをあえて薄めにして、理不尽な圧力に屈して自分の思うようにならないことも多い世の中を、それでも歯を食いしばって生きているすべての人にとって「刺さる」リアリティを持った生身の人間として演じ切っていること。こここそが、今回の映画版『ハケンアニメ!』最大の見どころだと思うのです。

 その点、そういった全面的主人公の斎藤瞳に対して、周囲の行城理や対抗陣営の王子・香屋子ペアをはじめとした他キャストの皆さんは、少々デフォルメされすぎたきらいもあります。まぁ、もともとが CLAMPさんが挿絵を描いているような方々なんですから、それを生身の俳優さんがたが演じるとしたら、アウェー感は否めませんよね。でも、みなさんステキな存在感を持つキャラクターになっていたと思います。特に行城さんの人物設定は原作とはだいぶ異なったものになっていましたが、だからこそ、ダウンした瞳監督を介抱した時の会話や、エンドロールの後の「おたのしみ」などで観られた行城の素顔は、とっても温かみのある意外性に満ちていたのではないでしょうか。

 でも私としましては、残念ながら今回の映画版では出番は思ったよりも多くはなかったけど、和奈を演じた小野花梨さんと、宗森を演じた工藤阿須加さんのペアが特に良いと感じましたね!
 以前、私、同じ辻村先生原作の『ツナグ』の映画版を観た時に、原作小説では「言下のやりとり」だったのが良かったな、と感じた部分を、映画版ではしっかりセリフに変換して演じられていたのを観て、「あぁ~、まぁ、そんなもんよね……」とちょっとした諦念を感じていたのですが、今回の和奈と周平のやりとりで、原作小説でも印象的なやりとりだった「リア充」に関する認識の違いを和奈が感じるところを、補足セリフもナレーションもなく、完全に和奈を演じる小野さんの目の演技だけで処理していたのには、本当に感動しました。あれは監督の演出というよりも、小野さんの演技力に全幅の信頼を置いた監督との信頼関係がすばらしかったですね! 小野さんを起用した時点で、映画版『ハケンアニメ!』は神に愛される作品となっていたのだ!!

 そんな感じで、原作のあまたある見どころの中から、勇気をもってたったひとつ「斎藤監督の闘い」という部分をチョイスして徹底的に掘り下げた映画版『ハケンアニメ!』の英断を大いにたたえ、「リアルじゃなくてもいいじゃないか!」という開き直りに賛意を表したいと思うのでありました。その潔さや、よし!!

 ただ、ちょっと一つだけ気になったくだりがありまして、映画の前半、クセの強い『サウンドバック』スタッフ陣とのコミュニケーションに苦慮する斎藤監督が、原作では登場しなかった脚本家・前山田という人物と打ち合わせ中に対立するシーンがありました。そこで前山田は、

「後で効いてくる非常に重要な伏線として、劇中で寺の鐘の音を鳴らしたい。」

 とかなんとか言うのですが、斎藤監督が本編のテンポの邪魔になるから描写しないと応じたために、2人の間に非常に険悪な空気が流れてしまいます。ここ、のちのちの展開や両者の関係性を考えると、ちょっとおかしいんじゃないかと感じました。
 だって、こう言うからには、前山田の頭の中には『サウンドバック』の全体的な構造ができあがってるってことですよね? つまり、このやり取りを観た人の多くは、見るからに大ベテランの風格もある年配の前山田さんが構想した『サウンドバック』を斎藤監督がアニメ化するのかと思い込んでしまいます。だからこそ、自分の脚本を強引に修正してしまう斎藤監督に前山田も憤慨してしまったように見えるのです。
 ところが、原作でも映画版でも、『サウンドバック』の構想を担当しているのは斎藤監督なんですから、前山田が監督を差し置いて鐘の音がどうこう言う立場ではないことが、映画のクライマックスに向かうに従って露呈してきます。『サウンドバック』最終回での相当無茶な脚本変更においても、前山田は特に異論をとなえるでもなく、斎藤監督が口述する登場人物のセリフを聞いて台本の形にまとめる役割しかもらっていないのです。

 ここよ! 本来のアニメ業界ならたぶん、前山田の役割の人は、斎藤のようなアニメ監督とは違う人物であり(シリーズ構成とか原作者とか)、それこそドラマティックなバチバチのバトルが展開されてもいいいはずなのですが、『ハケンアニメ!』の場合は、内容のシンプル化のために泣く泣く省略されていたんでしょう。つまり、前半の斎藤監督の四面楚歌ぶりを際立たせるために、前山田の役割が前半と終盤とで全く違うスケールになってしまったのです。前半ではシリーズ構成のメイン脚本担当のように見えていたのに、フタを開けてみればただの台本起こし役だったというわけです。そこらへん、徳井さんらしいっちゃあ、徳井さんらしい。
 斎藤監督の苦心を演出する一環として、脚本部門からの抵抗勢力を入れたくなった気持ちもわからんではないのですが、そこは監督に対するシリーズ構成という超難敵を入れるなら入れる、入れないなら入れないでハッキリしてほしいな、とちょっぴり感じました。

 以上、非常に楽しく感動させてもらった映画版『ハケンアニメ!』だったのですが、現代はとかく「人からどう見られているか」を気にしながら生きなければいけない世の中なのだな~、と深く感じました。
 新人監督としてナメてかかられまいとする斎藤監督。伝説の監督というレッテルを忌まわしく思いながらも、「ハワイ旅行しながらちょちょいのちょいで書き上げたゼ☆」という新たな伝説を捏造しちゃう王子監督。互いに同業のライバルとして負けまいと水面下での努力に明け暮れる行城と有科。オタクとしての生き方を世間のリア充どもに馬鹿にされていると思い、いつの間にか勝手に自分で壁を築いていたことに気づいた並澤と、それを気づかせてくれた宗森、アイドル声優という不安定極まりない生き方を余儀なくされる中でも、自分の携わる作品を真剣に愛そうとする地道な努力を続ける群野葵……

 周囲の目という正体の無い敵を相手に、誰の共感も必要としない我慢と苦労を続ける登場人物たち。その日々を、斎藤監督を中心に据えながらも、まめにすくいあげる視点が随所にあるのもまた、映画『ハケンアニメ!』の魅力であると思います。だからこそ、あのシーンでの斎藤監督の「私はかわいそうじゃない!!」というセリフが、単なる負け惜しみでなく魂の叫びとして、多くの観客の心に「刺さる」のではないでしょうか。あの長回しカットは、女優としての吉岡さんのキャリアの、現時点での精華だと思います。すばらしい!


 世の中じゃあ、東宝の『シン・ウルトラマン』のほうが優勢かも知れませんが、どっこい東映の『ハケンアニメ!』も、っていうか、『ハケンアニメ!』の方がおもしろいぞ! 感動できるぞ!! ということを声を大にして叫びまして、今回の感想のおしまいにしたいと思います。子どもに見せるのなら、だんぜん『ハケンアニメ!』のほうがいいです!

 あの日、私が最初に『シン・ウルトラマン』を観に行ったとき、前の上映回が終わって中から出てきた野球帽の小学生男子の釈然としない表情が、いまだに忘れられません。「ウルトラマンとゼットン、結局死んだの? 死んでないの?」みたいな。

 少年よ、いい歳こいたオジサンたちのわがままムービーなんか見てないで、『ハケンアニメ!』を観てくれ!!

 ……などと、生涯最初に観たアニメが『エリア88』、特撮映画が1984年版『ゴジラ』だったために心に深いひねくれ属性を植え付けられてしまったオジサンがのたまっております。まぁ、ヘンな作品も、それはそれでいいよね。

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