神田氏はブチャの慰霊碑の前でひざまずき手を合わせた=在ウクライナ日本大使館のX(旧ツイッター)より
「国際社会とともにウクライナが必要とする経済支援を確保する」。2日、財務省の神田真人財務官はウクライナの首都キーウ(キエフ)で向き合ったマルチェンコ財務相に日本と主要7カ国(G7)として揺るぎない支援を続ける意志を伝えた。
バイデン米大統領や岸田文雄首相ら各国首脳の訪問は相次いだものの、事務方の幹部が個別に訪れるのは世界でも珍しい。訪問は数カ月前から神田氏らが水面下で検討を重ねてきたものだった。
入国ルートは公表していない。複数の関係者によると、民間航空機でポーランドまで移動し、南東部のプシェミシル駅から鉄道でキーウに入った。
国境での待機の時間など含めて鉄道は片道15時間ほど。一般の乗客もいる通常の列車で入国した。水やスナック菓子などの軽食を持ち込み、コンパートメント席で車中を過ごしたという。
3月に岸田首相がウクライナを訪問した際も同じように鉄道で移動したが、日本政府が全車両を貸し切った寝台列車だった。国のトップである首相と異なり今回はあくまで事務方の訪問だ。防弾車や現地での警備なども自前で手配した。
滞在中には空襲警報が鳴る緊迫した場面もあった。ウクライナ側の抵抗に対して、ロシア側による激しい攻撃が繰り広げられていたようだ。政府の建物の周辺には土のうが積まれるなど、戦時下の緊張感が漂っていたという。
移動の合間に見かけたレストランも人はまばらだった。一方でスーパーには野菜などの食料も豊富に陳列されており「想像していたよりも平穏な面もあった」(同行筋)。
ウクライナのマルチェンコ財務相(右)との協議に臨む神田財務官(左)=日本財務省提供
ウクライナ側との協議はワーキングディナーも含めて夜遅くまで続いた。戦況や財政面の支援のあり方、これからの復興のニーズなど、議題は多岐にわたった。マルチェンコ氏との会談に加え、大統領府も訪れてスビリデンコ第1副首相とも会った。
「日本が協力を強化したいという明確な姿勢に感謝している」。スビリデンコ氏は会談後、X(旧ツイッター)に投稿した。
神田氏らは民間人の虐殺が起きたキーウ郊外のブチャにも足を運んだ。神田氏は死者の名前が刻まれた慰霊碑の前でひざまずき手を合わせた。画像を投稿した在ウクライナ大使館のXのアカウントにはウクライナ語で「ありがとう」という投稿が相次いだ。
およそ1週間の旅程は移動時間に大半を割き、キーウ滞在は24時間に満たなかった。訪問を通じて浮かび上がったウクライナの現状を、いかに実効性のある支援策に移せるか。今年のG7の議長国でもある日本に課せられた責任だ。
日経記事 2023.08.13より引用