外交では評価を得たが、内政の課題は山積している=ロイター
イタリアのメローニ首相は10月、就任一年を迎えた。極右政党「イタリアの同胞(FDI)」を率いて総選挙で大勝した同氏の右派連立政権には外交姿勢などで不安視する向きがあったが、欧州連合(EU)や北大西洋条約機構(NATO)寄りの姿勢を強め、同盟国を安堵させた。
一方、経済面の実績は乏しく、巨額の債務にむしばまれるイタリア財政のかじ取りが最大の課題として浮上している。
「信頼に応え、新たなイタリアを築くことが可能だと証明するためにあらゆる努力をしてきた」。メローニ氏は10月下旬のビデオメッセージで政権1年の歩みを振り返った。
同氏は戦後のイタリア政界で、最も右派的な主張を掲げて首相に上り詰めた。このため、トランプ前米大統領やハンガリーのオルバン首相ら他の欧米の右派のポピュリスト(大衆迎合的)政治家と同様、NATOやEUに対する懐疑的な路線を打ち出すとの見方もあった。
実際、連立相手の極右「同盟」のサルビーニ副首相はロシアに対する親近感を隠していなかった。ロシアのウクライナ侵攻が長期化する中で、NATOの結束に揺らぎが生じるとの懸念もくすぶっていた。
ただ、メローニ氏は就任早々にウクライナへの支援を強化する考えを表明。EUとの協調路線も打ち出した。7月には訪米してバイデン大統領と会談し、対ウクライナ支援での連携も再確認した。
対中国政策でも西側の一員としての姿勢を鮮明にした。イタリアは2019年に中国の広域経済圏構想「一帯一路」への協力の覚書を結んだが、24年春に更新せずに離脱する方向で調整している。
一方、内政では目立った実績は乏しかった。ガソリン税の廃止の公約もほごにし、8月に打ち出した銀行への追加課税も骨抜きになった。地中海経由の中東などからの移民を阻止する公約も掲げたが、23年1〜10月の移民の到着数は前年同期比でほぼ倍増した。
当面の最大の課題は、巨額の債務問題だ。イタリアは国内総生産(GDP)比でおよそ140%の政府債務を抱える。欧州中央銀行(ECB)が9月まで続けた10会合連続の利上げにより、年間の利払い費は2年前の想定と比べ約140億ユーロ(約2兆2000億円)増える見通しとなっている。
これを受け、イタリア政府は9月、24年の財政赤字をGDP比4.3%と従来の3.7%から引き上げる方針を打ち出した。赤字の拡大でイタリア国債は市場で暴落しやすくなっている。財源確保が難しくなることで減税などの公約実施がさらに遠のく懸念も出ている。
(ウィーン=田中孝幸)
[日経ヴェリタス2023年11月5日号掲載]
日経記事 2023.11.07より引用