中央銀行が発行するデジタル通貨(CBDC)を巡る制度論議が日本でも本格化する。財務省の有識者会議は年内に制度設計に関する論点整理をまとめる。
「現金を補完するもの」と位置づけ、発行要件として現金のほか電子マネーなど民間決済と円滑に交換できるといった考え方を盛り込む。
匿名性が高い現金と異なり、CBDCは誰がいつ何に使ったかを把握しやすくなる。プライバシー保護への懸念に配慮し、政府・日銀が扱う個人情報は最小限にするといった方向性も示す。
CBDCに関する研究・開発は海外が先行し、バハマやナイジェリアなどはすでに発行している。欧州中央銀行(ECB)は2028年ごろの発行をめざして「準備段階」に入ると表明した。
日本は日銀が実証実験を進めているものの、制度論では財務省が論点整理をする段階にとどまる。現時点で発行する計画はないが、将来的なニーズの高まりに備え、いつでも導入できるよう発行要件を先に固める。
貨幣の供給量を巡る政策決定は景気の動向などに影響する。従来の日銀の権限を損なうことなく、デジタル時代の法定通貨のあり方を探る。
CBDCは中央銀行が電子的に発行する通貨を指し、スマートフォンなどを使って通貨や紙幣と同じようにいつでもどこでも決済できる。
有識者会議は論点整理で、CBDCを導入しても①需要がある限り現金の供給を続ける②CBDCを現金と相互に補完するものと位置づける――との基本方針を明記する見通しだ。
決済手段として広く受け入れられるには今の通貨や紙幣と同じ法定通貨にするのが自然だとの認識も示す。CBDCの実際のやりとりは銀行など民間の仲介機関が担うのが適当ではないかとも提起する。
すでにPayPayなど民間のデジタル決済手段が多様にあり、中央銀行がデジタル通貨を発行する必要があるのかといった指摘はある。
財務省は中央銀行が関与し、各種決済手段と相互に接続できるようにすることで、利用者の選択肢の確保や利便性向上につながるとの見解を示す。
財務省が4月に開いたCBDCに関する有識者会議の初会合
個人データにひも付けしやすいCBDCを普及させるには、プライバシー保護に関する議論は欠かせない。論点整理では政府・日銀が扱う情報を最小限にするだけでなく、銀行などの仲介機関が情報を取得する際は利用目的を特定させることが必要だとの案にも触れる。
同時にプライバシーの確保を前提に「利用者情報・取引情報の利用を通じ、追加サービスの提供など利便性の向上が図られることも考慮する必要がある」と提案する。
プライバシー保護の一方で、マネーロンダリング(資金洗浄)など不正利用対策は不可欠となる。
財務省は既存の民間決済手段と同じような本人確認を求め、上限金額によって利用者が提供する情報の範囲を設定することを念頭に置く。
CBDCを巡る法整備は日銀法や刑法、民法など法改正が広範囲に及ぶ可能性がある。財務省は論点整理をもとに関係省庁と協議していく。
日銀も民間企業と組んだ実証実験に着手し、技術や機能などを話し合う「中央銀行デジタル通貨フォーラム」を設立するなど対応を急いでいる。
海外の取り組みは速い。国際決済銀行(BIS)が毎年実施する調査によると、28の先進国と58の新興国の計86カ国中銀のうち、CBDCに関する調査研究や開発前の検証などに取り組む中銀は全体の9割を超えた。
発行済みのバハマやナイジェリア以外では、中国がデジタル人民元の大規模な実証実験で給与の支払いや買い物への活用を始めた。インドは23年度中の「eルピー」の導入をめざす。
日米欧には先行する中国のデジタル人民元が国際化することへの警戒感がある。
欧州ではECBが11月から2年間、導入に向けた「準備段階」に入ると表明した。28年ごろの発行に向けて具体的なルールづくりやシステム事業者の選定、実証実験などを進める。米国もバイデン大統領が政権の最優先課題に位置づけ、対応を急いでいる。
日系記事 2023.11.13より引用