(左から)連合の芳野会長、岸田首相、経団連の十倉会長
岸田文雄首相は15日、首相官邸で経済界や労働団体の代表者と意見交換する政労使会議を開いた。デフレ脱却のため2024年春季労使交渉(春闘)で23年を上回る水準の賃上げを実現するよう要請した。物価高や人手不足を背景に、公正取引委員会は経済界に価格転嫁を促す指針を示した。
政労使会議は首相や武見敬三厚生労働相のほか、経団連の十倉雅和会長、連合の芳野友子会長らが参加した。8年ぶりに開催した前回は23年春闘が大詰めの3月だった。今回は24年春闘の4カ月前という早い段階からの地ならしを狙った。
首相は同日の会議で来年の春闘に関し「デフレ完全脱却のチャンスをつかみ取るため、今年を上回る水準の賃上げに協力をお願いする」と述べた。所得税減税を含む政府の経済対策を説明し「官民連携により賃金を含めた可処分所得が物価を超えて伸びていくよう取り組む」と強調した。
会議には公取委の古谷一之委員長が出席し「労務費の適切な転嫁のための価格交渉に関する指針」の骨子案を示した。
経営トップに労務費転嫁を受け入れるよう促し、受注者との協議の場を設けることを提起。受注者側には積極的な情報収集や、最低賃金の上昇率などを参考とするよう働きかけた。
首相は「違反行為は独占禁止法に抵触する恐れがあることを示す。周知徹底し中小・小規模企業の賃上げを全力で支援する」と語った。
連合調査によると23年春季労使交渉で中小企業を含む賃上げ率は3.58%と30年ぶりの上げ幅だった。24年はさらに高い上昇率をめざし、継続的な賃上げを実現させて政権浮揚につなげる戦略を首相は描いている。
政労使が賃上げの必要性で足並みをそろえやすい環境にはなっている。理由のひとつは物価高騰が続いていることだ。適正な価格転嫁や賃金引き上げに取り組まざるを得ないとの認識が広がる。
深刻な人手不足も背景だ。有効求人倍率が1倍を上回る業種が多く、建設や運輸、サービス業などを中心に事業拡大の障壁となっている。
24年春闘に先だって、昨年を上回る賃上げを表明する動きも出ている。サントリーホールディングス(HD)の新浪剛史社長は7%程度の賃上げを実施する方針を明らかにした。
経団連が会員企業に示す基本方針の原案は「来年以降も賃金引き上げのモメンタムを維持・強化し、構造的な賃金引き上げの実現に貢献していくことが社会的な責務」と明記した。
連合はベア相当分で3%以上、定期昇給(定昇)などと合わせて5%以上の賃上げ要求する方針を公表している。新たな要求目標は23年の5%「程度」から「以上」に表現を強めた。
中小企業は大企業に比べて賃上げの余力が乏しい。日本全体に賃上げの動きを広げるには中小企業も原材料費の高騰分や人件費の上昇分を製品やサービスの価格に反映し、賃金にあてる原資をつくりだす必要がある。今回の会議が価格転嫁を重視したのはこのためだ。
持続的な賃上げには企業の生産性向上や成長分野への労働移動も欠かせない。政府は経済対策で中堅・中小企業が省力化を進めるための設備投資の支援策を盛り込んだ。リスキリング(学び直し)を通じた転職を後押しするため「教育訓練給付」の補助も手厚くする。
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日経記事 2023.11.15より引用