家路を急いでいた。
ネット接続の為、電話会社から書留郵便が送られて来る予定だったからだ。
明日には接続工事の人が来るので、今日の内にその書類が手元に無いと困る。
いつもならゆっくり猫の居る路地を散策しながら帰る所を、家まで最短距離で行ける道を選んだ。
少し小走りになっていた。
『小鉄』が居る納骨堂エリアから少しずれた川沿いを急ぐと、平屋の空き家が見える。
小さな庭とブロック塀にチェーンが架けてある。
その玄関先に猫の影が見えた。
大きい。 『影虎』だ。
久し振りの再会に嬉しくて、急いでいるのも忘れてしゃがみ込んで『影虎』を呼んだ。
「ニャ~ッ」と可愛い声で短く鳴いて、そっと近付いて来た。
やっぱり『影虎』だ。慌てて何か食べるものを探す。
「憶えていてくれたか?元気だったか?ご飯ちゃんと食べてるか?どうしてここに居る?」
口の利けない猫に、ついつい矢継ぎ早に質問攻めにしてしまのは
『影虎』は言葉を理解しているからだ。
相変わらず、「食べて良いよ」と言われないと口を付けない。
黙々とドンブリ飯をかき込む武士の姿に惚れ惚れしながら、
「拙者は道を急ぐ、又会う日迄、達者で居てくれ。」と、
頭をポンポン撫でて立ち上がった。
『影虎』を背後にしながら、急ぎ足で帰る途中
今日私が急いでここを通る事も、
何の為に急いでいるのかも、
『影虎』は全部知っていてあそこに座っていた様に思えた。
