永田町を驚愕させる「原則四項目」
小沢一郎×横路孝弘
民主党の両極、ここに安全保障論で合意する
月刊現代 2月号 2003.12.17
小沢さんを誤解していた
――小沢さんの安全保障政策についての意見と、横路さんのそれとは相当隔たりがあると世間では受け止められていますが、その二人がいまや同じ民主党の一員となった。まずはお互いに対する評価を伺いたい。
小沢 生い立ちは自民党と社会党という異なる政党だけど、55年体制の中でやってきて、このままではダメだという思いを持ったのは、横路さんも私も同じだと思う。何だかんだと言い合っても、新しい時代の要請に応えられる政党を目指していくという点では、民主党は一致してますよ。
横路 小沢さんを誤解していたのかなと最初に思ったのは、自衛隊の邦人救出を可能にする法改正を審議していたときです。小沢さんはそのとき「戦前の軍は国外に展開するとき、『邦人救出』を口実に使ったのだ」と言って、この改正に消極的だった。その意見を聞いて、小沢さんとは話してみたほうがいいのかなと思ったんです。
今回の選挙のとき、地元で選挙活動してみて感じたのは、小沢さんが合流したことによって、中小企業の経営者が民主党に安心感を持ったということです。選挙では177議席を獲得しましたが、これは小沢さんと合流した力が大きかったと思う。
――イラクの復興支援のため、小泉首相が決めた自衛隊派遣についてはどう考えていますか。
小沢 自衛隊を海外に派遣する場合、日本は憲法との関係でクリアにしなければならない問題があるわけです。軍隊を外国に出すのなら、基本的なルール、原則をハッキリさせておかないと、なし崩しでズルズルと軍が暴走していく可能性がある。だから、軍隊を派遣するならば、きちんとした憲法解釈のもとで、日本はどういう考えで派遣するのか、軍隊にどういう行動をとらせるのかを、国民と世界の国々に説明して、そのうえで実行しなければならない。
しかし、小泉さんの決定は、そのことをまったく語っていない。しかも、非常に利己的、功利的です。損得を考えたら、アメリカの機嫌をとっておいたほうがいいから、「やりましょう」ということでしょう。人を殺す手段を備えた、武装した軍隊を動かすのに、そんな考え方で決めてはいけない。だから僕は断固反対です。
世間からは、「なんだ、小沢は『自衛隊を出せ、出せ』って言っていたのに、今度は反対なのか」と言われるんだけれど、そうじゃない。きちんとした原則を確立した後であれば反対はしません。
横路 戦争後のイラクでは、日本のNGOが30ヵ所以上で活動していたんです。いまは危険ということで撤退していますが、これらのNGOの活動が少ない費用で効果をあげて、イラクの人人から非常に喜ばれていた。だから日本が復興支援する場合、そういう支援の仕方を考えなくてはならないと思うんです。米英の占領軍のもとにあるイラクに自衛隊を派遣して、果たしてそういう活動ができるのか、ということです。むしろ占領軍と同一視され、攻撃の対象となることもありえる。
今回、アメリカは国際的な約束事を無視して、「単独でやりますよ」と言って行動してしまった。しかし本来は、国連を中心にして行動することが最優先されるべきなんです。国際社会はいろいろな問題を抱えているけれど、それはみんなで協力し対処しなければならない。国連のアナン事務総長が、「予防戦争や報復戦争は、国連憲章では認めていません」と言ってアメリカの行動を批判していますが、これこそが正論です。
それなのに小泉さんはアメリカの尻馬に乗って、自衛隊を出さなければ国際的に孤立すると言っています。そんなことはありませんよ。国際協調はもちろん大事だけれど、彼はアメリカに協力することを国際協調と称しているだけ。そこがまず問題です。
中東は、日本がまだ手を汚していない地域です。イランやイラク、パレスチナやイスラエルとも日本は対話が可能です。こうしたこれまでの外交の積み重ねを、小泉さんは変えようとしている。はなはだ心配です。
何らかの形で復興支援は行うべきですが、米英の占領軍のもとで自衛隊を出しても、本当の復興支援はできないんじゃないかと思う。
「国連待機部隊」とは何か
――国際貢献全般について、お二人は「国連待機部隊」を作ることで一致したと報じられています。この部隊の性格や運用法について、これまでどういう議論をしてきたのですか。
小沢 カナダやスウェーデンも、軍の中に国連向けの部隊を置いています。けれど日本の場合は、もっと分かりやすいほうがいいと、僕も横路さんも思っていス。そこで、自衛隊は専守防衛という役割に徹して、自衛隊とは別個に、国連のために用立てる部隊を作ったらどうかということなんです。そうしたほうが日本の場合、より国情にあっているし、分かりやすいだろうとね。
戦術的に見ても、自衛隊と国連待機部隊はそもそも軍の前提が違う。自衛隊は日本の国土防衛だけど、国連部隊は最初から渡洋作戦を前提としているわけでしょう。だから、考え方も装備も違うものにしたほうがいいんです。
国連待機部隊は武装部隊なので、行政的には防衛長官の管轄下に置かれることになるだろうけど、この部隊は「われわれは自分たちの意思であっちこっちに展開したりしませんよ」と明確なメッセージを出さなければなりません。「国連のため、国際貢献のために力添えをします。ただそれだけです」という姿勢を内外に示すためにも、この仕組みがいいと思うんです。
横路 国連憲章を読むと、国連は将来、国連軍を創設することになっている。日本も国連憲章を認め国連に加盟している以上、どういう形かは別にしても、いずれは国連軍に参加していくことになる。そういう将来のことも考えて、組織もそれに対応できるものにしておこうじゃないかというのが、われわれの発想です。
そこで小沢さんとは4つの項目で合意しました(左表参照)。自衛隊は専守防衛に徹する。国際協力は、自衛隊とは別の組織で対応するという内容で、これは国連憲章の理念にも合致しているし、日本国憲法の前文と第9条をうまく調和させたものだと自負しているんです。だから今日のようなイラクへの派遣は認められないのです。
2000年に国連のPKO活動の見直しを求めるブラヒミ報告が出されましたが、そこでは軍事部門や文民警察部門、医療部門といった専門チームの必要性が訴えられました。東チモールでもそうなんですが、紛争地に新しい政府を作るには専門のチームが必要なんです。
イラク人でもクルド人、スンニ派、シーア派の三つのグループをまとめたイラクの国民政府を作ることになる。だが、これは大変な仕事です。米英占領軍では無理でしょう。国連をあげて協力してもなかなか厳しい。専門の人々が必要だ。中身の議論はこれからしますが、そういう多様な機能を持った部隊にすることも、今後の国際社会で求められると思います。
憲法9条には抵触しない
――この国連待機部隊は、多国籍軍に参加する可能性もあるんですか。
小沢 国連に常設部隊があればいいのだけれど、紛争を武力で鎮圧する場合、現状では国連の呼びかけによる多国籍軍しか手段がない。だから、国連決議を経て、多国籍軍参加の要請が日本に来た場合にも対応できるように、あらかじめ自衛隊とは別の組織を作っておいて、参加要請があったときは、その部隊を出せばいいんです。
これは憲法9条が禁じている、国権の発動たる武力行使とは全く異質なものです。国際社会の治安維持、平和維持のためのオペレーションですから、憲法の精神からいっても日本が参加するのは当然だというのが私の考えです。
――その活動は、集団的自衛権の行使ではないと?
小沢 内閣法制局の連中は、「国連のオペレーションであっても、そこに日本は参加できない」と言う。集団的自衛権延長線上で国連の活動を捉えているからです。しかし、国連決議を得たオペレーションと日本の集団的自衛権とを同じレベルで捉えるのは、本当におかしい。
例えば、国の内部の秩序維持のためには警察というものがある。しかし警察官は、個人の正当防衛を行使してピストルを持ち、治安維持活動をしているわけじゃないでしょう?
地域社会の中で、ほとんどの国が国連に参加している。そこにはまだ常設の警察はないけれど、みんなで決めて多国籍軍を組織し、治安を維持する。言ってみれば、それが地球社会の警察です。だからこれは、個別の国の集団的自衛権ではないんです。全員で平和を守る力なのであって、憲法9条にまったく抵触しないんです。
僕に言わせれば、むしろ憲法の理念に適うものです。第一、あまり認識されていませんけど、日本国憲法と国連憲章はほとんど同じなんです。国連憲章にだって、憲法9条と同じように、武力の行使は止めましょうという条文がある。その上で、「だが無法者に対しては、力をあわせ、軍事力を行使してでも鎮圧しよう」と書いてある。日本国憲法には、この条文にあたる規定はないけれど、これは憲法の前文の理念と同じだと思う。だから、9条の法理と国連の平和維持活動はぜんぜん異質じゃない。むしろ憲法の理念に従って、国連の平和維持活動には軍事面であれなんであれ、積極的に関わっていュべきです。
ところが小泉さんは、「(集団的自衛権の行使は憲法上認められない、国連の平和維持活動も集団的自衛権の行使だから日本は参加できない、という)憲法解釈は変えない」と言いながら、自衛隊を海外に派遣し、イラクにも出そうとしている。もしも小泉さんが「集団的自衛権の行使も憲法上許される。生きるも死ぬも、アメリカと一緒だ」と言うのなら、賛否は別として、それも一つの日本としての生き方でしょう。でも彼は嘘ばっかり。兵隊を玩具にして遊んでいるだけ。目先の損得やアメリカの機嫌取りばかり考えながら政治をやっていてはダメなんですよ。
横路 先日、中曽根さんが「小泉には思想も哲学もない」と言っていたけど…。
小沢 いまごろ言っても遅いって(笑)。
横路 世の中では、「集団的自衛権」と「集団的安全保障」とを混同して議論することが多いんです。国連というのは、集団的安全保障の仕組みです。小沢さんが言ったように、戦争は違法だと言うことを前提にしていて、もしもそれに反した国が出てきたらどうするのか、ということを決めるところが国連なんです。
そして、そういうルールの中でも、もし他国から武力攻撃を受けた場合には、国連が機能するまで時間がかかるので、それまでは各国に集団的自衛権を認めます、という話なんです。
小泉さんの決定は、アメリカが自衛権を発動したのに協力するということですから、これは実質的に集団的自衛権の行使なんです。小沢さんや私が言っているのはそうではなくて、集団的安全保障の仕組みが国連そのものなんだから、その仕組みに日本も積極的に関わっていきましょうということです。
これは日米安保条約とも矛盾しない考え方なんです。日米安保でいえば、日本が攻撃されたとき、アメリカが支援することになっている。しかし反対に、小泉さんがやろうとしていることのように、アメリカが攻撃されたからといって日本が支援する、という規定にはなっていないんです。
小沢 日米安保条約の前文には「お互いが国連憲章に基づいて、個別的集団的自衛権を保障することを互いに確認し」と書いてある。これは横路さんが言ったように、国連の決定がなされるまでの間は、個別的自衛権、集団的自衛権をもって平和を乱す侵略に対抗しようという規定です。さらに、「国連の決定があった場合には、この日米の措置はその時点で終わる」と書いてある。
「日米安保は国連憲章と相反する」と、かなりの知識人でも言うんですが、とんでもない。日本国憲法も日米安保も、みんな国連憲章の考え方の枠内で出来ているんです。
小泉さんで許認可権が増えた
――国連待機部隊は、日本の有事の際には出動可能なんですか。
小沢 性格上は、「国連部隊」に徹すべきです。ただ、普段の訓練は自衛隊と一緒にやらなければならないだろうし、人員や装備の融通性もあるでしょう。だから、勝手に出動することはできないけれど、国連から「緊急事態だから、まずは日本の待機部隊も参加せよ」という命令が下れば、そのときは出動すればいい。
横路 同感です。原則的には国土防衛は自衛隊、待機軍は国連への協力と、はっきり分けたほうがいい。
小沢 僕が描いているイメージは、将来、この待機部隊を国連に預けてしまい、国連の「御親兵」にしたい、というものなんです。
――安全保障問題でお二人は相当歩み寄ったのかも知れませんが、経済政策ではどうですか。小沢さんは自由な市場競争を進めようとしているし、横路さんは「結果の平等」を重んじている。この隔たりは克服できますか。
小沢 自民党みたいにバラバラすぎるのは論外だけれど、国内政治の細かい手法や、AとBのどちらに比重を置くかという問題については、少しくらい意見が違ってもいいと思う。
僕はフリーでオープンな自立社会を目指しているけれども、だからといって終身雇用や年功序列を全面否定するつもりはないんです。ただ、グローバリゼーションが否応なしに進む中で、日本的な制度や発想だけではアメリカに対抗できないと思う。日本的なシステムの中に競争原理を取り入れていかないとね。
もっと稼ぎたい人や、能力があって努力する人は、きちんと報われるべきです。しかし、だからといって「自分はもっと普通でいい」という人が虐げられる必要もない。また、自由で公正な競争の前提として、セーフティネットはキチンと整備すべきだと思いますよ。
横路 市場そのものは、護送船団ではなく、フェアで透明で自由なものにしていかなければなりません。ただその競争主義が、アメリカ的なマネー資本主義になってしまっては困るし、またそれが社会保障などの分野にストレートに入ってくることは避けなければならないと思う。いくら努力しても自分の力だけではどうにもならないこともあるし、生きていくために必要な制度もある。警察や消防、公教育とか医療制度とか年金制度とかね。
たとえば、障害を持っている人が働きたいと思えば、就職のための試験は受けられますが、実際に採用されるのはなかなか難しいんです。そこで法定雇用率を定めている。機会を提供しただけでは解決できない問題もあるんです。別に私は「結果の平等」論者ではありませんが、それも社会の大事な要素であるんです。
小沢 障害者の人たちが、その能力を発揮できる場を作ってあげることが必要です。私は自由党時代に、障害者や女性、高齢者について、雇用率を法律で定めようという提案をしてきた。それぞれの人がそれぞれの能力を発揮できるような社会のシステムにしていくことを、これからはもっと考えていかなければならない。
横路 このごろは障害のある人でも、どんどん外へ出るようになっています。すると駅やバスの構造をバリアフリーにすることが必要なんですが、これを民間の市場に任せていたら、なかなか進みません。そこで法律を作って、補助金を出したりすることも必要になるんです。もちろん市場の競争は大事ですよ。経済分野において、日本は許認可権で完全に締め付けられてきたから。ただ、小泉さんが首相になって経済分野の許認可は増えている。「規制緩和、規制緩和」と言っているけれど、実体は逆行しているんです。
小沢 彼は本当に役人の言うとおりなんだよね。役人っていうのは、常に焼け太りを狙っている。何かあると規制を強化しようとする。ところが肝心の政治家のほうも、そのマインドコントロールにどっぷり浸かっているから、何かあると新しい機構や組織を作ろうとする。党に小泉さんは中身がスッカラカンだから、すべて役人の言うとおり。結局彼は政治に興味がなくて、政局だけで生きてきた男なんです。そんな彼を首相に選ばなかったのは、日本の悲劇ですよ。
議員個人が追う責任
――小渕内閣のときに提出された国旗国歌法案に、自由党は賛成し、民主党は真っ二つに割れた。新しい民主党で一緒になったわけですが、日の丸、君が代について、いまの時点ではどう考えていますか。
小沢 僕らは喜んで積極的に法案に賛成したわけじゃない。僕はよく言うんですが、国会議員の靖国参拝で、オイッチニ、オイッチニと、いい大人が列を組んで歩いていくでしょう?そのさまは滑稽としか言いようがない。
そんなふうに参拝したからといって、それが彼らの好んで言う「愛国心」なんていうものではないんです。愛国心というのは、心に宿るものでしょう。形式を推しつけただけでは育ちません。そこは国旗や国歌も同じで、いくら強制したって、それで愛国心が育つというものではない。だから、国旗国歌法案には反対というほどじゃないけれど、強制するのは間違っているというのが僕らの考えだった。
横路 民主党は、国旗には賛成したけど、国歌は自由投票にした。そこで割れたわけです。私自身は国歌を法制化することに反対したけれど、なんでもかんでも政党は統一的に対応しなければならないということもないと思うんです。民主政治の進んだ国では、選挙のときに、それぞれの政治家がどの法案に賛成し、どの法案に反対したかをチェックされる。法案に対してどういう態度をとったのか、その責任は議員個人が負うようになっている。
だから日本でも、総理大臣を選ぶとか予算を通すといった大事な問題は党議拘束すべきですが、それ以外のものはしなくてもいいと思う。いまは違ってきましたが、民主党がスタートしたときは、そういう考え方が強かったので党議拘束がなかった。だから意見が割れたんです。
スカッと爽やかな政策を
――これから民主党は政権の獲得に向けて動いていくわけですが、そこで民主党に欠けているものは何ですか。
横路 まだまだ地域的に弱いところがある。とくに九州や四国、中国など西のほうで、これは社民系の労働組合の力が強いところなんです。しかし小選挙区制が二大政党制に向かいやすい選挙制度ということもあって、いまは多様な意見を吸収しにくい制度になっている。だから私は社民党にも「民主党に合流しよう」といっているんですけれど、あそこもなかなか頑固な人が多いから……(笑)。
まだ民主党は、国会議員中心の政党です。各選挙区を見てみると、民主党系の地方議員がいる地域は強いけれど、そうでないところは国政選挙でも弱い。だからもっと地方議会に民主党の仲間を増やしていかなければならないと思う。
小沢 国会議員も次の選挙の候補者も地方議員も一体となって、地域の日常活動をしていくことが大事なんです。
それから骨太の政策をもっとはっきり打ち出すこと。僕は民主党のマニフェストは、自民党のものよりはるかに優れていると思っているけれど、世間からはどうしても同列に見られてしまう。先日も日本経団連に説明に行った議員が、「自民党とどこが違うの?」って言われたらしい。だから骨太で、曖昧さを排除した、スカッっと爽やかな政策論を打ち出すべきです。
国民も「そろそろ政権交代させてもいい」、「新しい民主党はいいね」という意識になりつつある。この流れは変わらないと思う。流れをより確実なものにするためには、地域の日常活動を広げ、もう少しクリアで骨太な政策を仕上げることですね。
菅さんも、団塊党ばかりでなく国連待機軍提唱にもっと積極的になれ(^^)