ジャニーズ事務所が7日午後、東京都内で記者会見を開く予定だ。創業者故ジャニー喜多川氏の性加害問題を調査していた外部専門家らのチームが先月末、調査結果を発表したことへの対応となる。問題や責任の所在、組織の在り方を巡り、だれがどんな説明をするのか。ファンら一般の人々の受け止め方を聞きつつ、会見で注目すべき点を探った。(西田直晃、安藤恭子)
◆目を背けたくなる状況だからか、ファンは口閉ざす
会見前日の6日午後。東京新聞「こちら特報部」記者は東京都内のジャニーズゆかりの地に赴き、性加害問題へのファンの反応を探った。
まず、所属タレントの写真やグッズが売られている渋谷区の原宿・竹下通り。ところが、店の前で声を掛けても「ごめんなさい」と「話したくない」のオンパレード。らちが明かない。
渋谷駅近くの「ジャニーズショップ渋谷」での出待ちに切り替えても、同じく口ごもり、無言で立ち去るファンが続いた。5人、10人、20人…。「その話はNGですから」と、人さし指を口に当てながら、片方の目をつぶる女性もいた。
熱烈なファンには、それほどまでに目を背けたくなる状況かもしれない。
◆多数の性加害を確認…「芸能界の怖さを感じてしまう」
先月29日、事務所が設置した「外部専門家による再発防止特別チーム」は調査結果を発表した。喜多川氏が1950年代から2010年代半ばまでに、所属タレントらに性加害を繰り返していたと認定。被害者は少なくとも数百人との証言を複数得たとした。
衝撃が広がる中、わずかながら取材に応じるファンもいた。
ショップ近くを歩いていた会社員山野彩さん(25)。「KinKi Kids」が好きで、コンサートにも足を運んできた。だが「今のままではこれまで通り楽しめない。芸能界の怖さを感じてしまう」という。「応援は続けたい。でも、事務所が組織として被害者に謝罪することが絶対に必要。責任を取り、現社長は辞任すべきでしょう」と語った。
ジャニーズのコンサートの聖地ともいえる東京ドーム。散歩中の女性(66)は「そこまでのファンではない」と前置きした上で「芸能界であれどこであれ、これだけの問題が発覚したのに、社長が記者会見しないのはあり得ない。しっかりした説明が聞きたい」。
◆「会社を清算し、解体的出直しを」
ジャニーズのアイドルの影響は女性に限らない。
「嵐」のファン歴約20年の会社員男性(38)は「メンバーがもし被害に遭っていたらと思うと、気の毒すぎてどうしようもない。2児の父だが、最近はわが子と一緒に出演DVDを見られなくなった。うわさ話にとどまらず、第三者が性加害を結論付けたのは衝撃的だ」と声を落とした。
この男性はかつて、ジャニーズ好きが高じ、事務所の新卒採用にエントリーした経験を持つ。「国民的な人気者を発掘し、育成し、多くの人に元気を与えていたのは事実。ジャニーズの名前自体には愛着がある」としながらも「今の状況を見れば、就職できなくてよかった。まずは、社長の被害者への謝罪と辞任だ。会社を清算し、解体的出直しに取り組んでほしい」と訴えた。
◆当事者の会「辞任で責任から逃れることは許しがたい」
一部の芸能メディア関係者は、7日の会見で藤島ジュリー景子氏(57)の社長辞任が発表されるとみている。
ただ、被害を訴える元ジャニーズJr.らでつくる「ジャニーズ性加害問題当事者の会」は、藤島氏が辞任によって「責任から逃れることは許しがたい」とくぎを刺し「辞任とは異なる責任の取り方」としてまず事実認定と謝罪を求めている。
◆新社長に「ヒガシ」⁉
また、新社長として名前が挙がっているのが東山紀之氏(56)だ。
東山氏は「少年隊」メンバーとしてデビューし、俳優としても活躍。5月にはキャスターを務めるテレビ番組で問題を謝罪し、「ジャニーズという名前を存続させるべきなのか」と言及した。
だが、新社長として適任なのか。ジャーナリストの松谷創一郎氏は「当事者の会のメンバーには、Jr.時代から東山氏をよく知る同世代がいて、思いは複雑だろう。経営能力も未知数だ」と指摘する。
◆白波瀬傑副社長は? 会見出席者で事務所の姿勢がわかる
また、事務所の株式は藤島氏が100%保有する。社長を辞任したとしてもその後の処遇が焦点となる。
松谷氏によると、外部人材を登用できない事情もあるという。「今のジャニーズ事務所を経営支援するリスクが大きく、藤島氏が保有する株式の譲渡や役員派遣の交渉がうまくいっていない」
会見の出席者や発言内容を注視すべきだと松谷氏は言う。動画での謝罪にとどめてきた藤島氏のほか、メディア対策を担ってきたという白波瀬傑副社長も出てくるのか。「性加害やメディアコントロールの実態など、自らの知り得ることを明らかにし、被害者に寄り添う姿を示してほしい」
◆「喜多川氏お気に入り→デビュー」がネタにされてきた
先述の再発防止特別チームが発表した報告書は、被害者を補償する救済措置制度構築や人権方針の策定、内部通報制度の活性化、相談者の拡充を求めている。
末冨芳・日本大教授(こども政策)は「いずれもこれまで取り組んでこなかったことがおかしい。喜多川氏のお気に入りならデビューできるという話がネタとされ、深刻な性加害と捉えられてこなかった」と苦言を呈する。
背景には国連から指摘される日本の人権政策の遅れがあるという。日本には国による人権救済機関も子どもの権利擁護機関もない。
当事者の会は現在、補償に向けた救済基金の設置をジャニーズ事務所に求めているほか、刑事告訴や海外での訴訟も検討している。
末冨氏は「当事者の心の傷は今も広がっている。オフの場でいいので、藤島氏は直接の謝罪の場を設けるべきだ。隠蔽に加担してきたメディアも告発に込められた悲しみと怒り、再発防止の願いを受け止めないといけない」と話す。
一方で、7日の会見で事務所が「タレントを守る」というメッセージを発するように要望する。「性被害を受けたかどうかにかかわらず、所属タレントも被害を見聞きしてきた『サバイバー集団』。言い出せる環境になく、エンタメ業界で搾取されてきた。スポンサー企業も、今後は起用にあたり人権擁護のルールを導入・実施すると宣言し、立場の弱いタレントたちを守ってもらいたい」
◆性被害の拡大に沈黙で加担したメディアも問われている
元毎日放送プロデューサーの影山貴彦・同志社女子大教授(メディア論)は、会見で「新生ジャニーズ」が強く打ち出されることで、問題の本質が薄らいでしまうことを危ぶむ。
大切なのは「被害者への謝罪と補償、再発防止に向けた改革」という。企業統治に経営陣の刷新は不可欠とした上で、「スター性のある新社長発表で主客が入れ替わり、お祭り騒ぎになってはならない。性被害の拡大に沈黙で加担したメディア自体が、この会見で問われているということを強く意識し、誠意をもった報道を求める」と話した。
◆デスクメモ
子ども向け新聞で著名人インタビュー担当のチームを率いた時、何度かジャニーズを取り上げた。希望と違うタレントを提示されたが「まあ有名だし」と応じたこともある。まんまとコントロールされたわけだ。7日の会見で謝罪はあるだろう。だが打算がゼロだとは思わない。(北)
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます