石破茂首相が施政方針演説で、看板政策の地方創生を「令和の日本列島改造」に位置付け、日本全体の活力を取り戻すと訴えた。ただ、具体策の多くはこれまでの延長線上にとどまる。看板の掛け替えなら、成果は期待できまい。
人口減少が続く日本の課題は、地方の公的サービスや社会機能をどう維持するかだ。政府は2014年から「地方創生」と銘打ち、子育て支援や産業・雇用づくりに取り組んできた。
人口減少に対応するため各自治体が競い合う移住促進は、一部に成功例はあるが、実態は若年層という「限られたパイ」の奪い合いだろう。国全体の人口減少はむしろ加速し、東京一極集中は止まらず、地方からの人口流出に歯止めをかけるに至っていない。
首相は施政方針で、これまでの地方創生への「反省」には言及したものの、新たな具体策に踏み込んでいるとは言い難い。男女の賃金格差是正や中小企業の賃上げはすでに取り組んでいる課題で、政府機関の地方移転はこれまでも掛け声だけで進まなかった。
都市と地方の2拠点活動や地方公務員の兼業・副業に対する支援は新たな取り組みと言えるが、官民の人材が「一人多役」を務めることが人手不足の緩和にどこまで効果があるのかは未知数だ。
政府は25年度予算案に地方創生交付金2千億円を計上し、前年度から倍増させた。過去10年の経験から得た教訓は、広く薄く配っても効果が出ないということだ。自治体が国の交付金に群がった結果、自立とは逆に、国への依存が進んだとの指摘もある。
首相が初代担当相として地方創生に思い入れがあるなら、中央省庁の権限や財源を大胆に自治体に移譲する抜本的対策を打ち出すべきだ。中央集権を維持したまま地方創生の旗を振っても、魅力的な地域づくりにはつながらない。
政治の師と仰ぐ田中角栄元首相にあやかりたいのだろうが、「日本列島改造論」に「令和」と付けただけでは高度成長への郷愁の域を出ず、新時代を開けまい。
石破政権が少数与党の政治状況では、いくら地方創生を強調しても野党が賛成しなければ交付金を計上した予算案は成立しない。
人口減少下の地域活性化は党派を超えた喫緊の課題だ。政府案に固執せず、建設的議論により実効性のある政策に仕上げてほしい。
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