俳優の真田広之さん(63)が主演とプロデューサーを担当した米配信ドラマ「SHOGUN 将軍」が、第76回米エミー賞で連続ドラマ部門作品賞と主演男優賞、主演女優賞など同賞史上最多の18冠に輝いた。日本の時代劇の歴史に新章をもたらす快挙だ。
エミー賞は、米テレビ界で最も権威ある賞で、映画界のアカデミー賞に匹敵する。その主要部門での日本人俳優の受賞は初めてだ。
英国出身の作家ジェームズ・クラベルによる同名の小説が原作。徳川家康がモデルの武将「吉井虎永」を軸に、船で漂着し、虎永に取り立てられる英国人「按針」ら戦国末期の人物群像を活写する。有料の配信サービス「ディズニープラス」で日本でも視聴できる。
米作品ながら台詞(せりふ)の7割が外国語(日本語)という点も異例だ。英語圏の視聴者に、文化も時代もまるで異なる物語を字幕によって見事に理解させ、結果、大人気を博したことは、その他の非英語圏の作品への影響も大きいだろう。
巨額の制作費を投じ、ハリウッドが本腰を入れた作品の映像美や迫真力には目を見張るものがあるが、特筆すべきは真田さんや主演女優賞のアンナ・サワイさん(32)たちの所作の美しさ、殺陣の見事さ。死生観も含め全編に異文化への敬意がにじむ。多くのスタッフを日本から集め、制作側が目指した通り「日本人が見ても違和感のない時代劇」となっている。
受賞スピーチで真田さんは、日本の時代劇関係者に謝意を示して「あなた方から受け継いだ情熱と夢は海を渡り、国境を超えた」と語った。その述懐の通り、日本の時代劇の長年の蓄積と、ハリウッドの圧倒的なスケールの融合が生んだ名作ドラマだといえる。
忘れてならないのは、単に戦闘シーンを仰々しく描く作品ではないという点だ。「何故(なにゆえ)、戦場(いくさば)に出たことのない者が、総じて戦(いくさ)をしたがるのか」という虎永の独白は戦後80年近く、戦争の記憶が風化する日本にも重く響く。
虎永(家康)の物語には、まだ続きがある。当然、第2シーズン以降への期待も高まっている。
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