黄金週間(GW)が始まりました。今年は、土曜日も含めると、3連休のち4連休。ただ、年次有給休暇(年休)で間を埋めて10連休という方もおられましょう。「憲法記念日」など、この時期に集中する四つの日をはじめ、「国民の祝日」は16日。その数は、フランスやドイツより多く、世界でも上位です。今年は他に振り替え休日も5日あります。年休も労働者には年間最高で20日が付与されます。ただ、厚生労働省によれば2022年の年休付与日数は平均17・6日でしたが、取得率は62・1%。5日は取得させるよう企業に義務づけられた19年以降、上がったとはいえ、なお4割は未消化ということ。しかもフランスのように「連続○日」の定めがないため、長期旅行などでなく、日常の用を済ますのに、ばらばらで使われがちです。
◆なおも残る「後ろめたさ」
経済協力開発機構(OECD)によると、22年の日本の年間労働時間は44カ国中、短い方から数えて15位の1607時間。ただ、短時間労働の多い非正規労働者を4割近くも含むので到底、実態とは言い難い。しかも、1位のドイツは実に1341時間。同じ先進7カ国(G7)の国に、ここまで水をあけられているのが実情です。2100時間前後だった1980年ごろに比べれば、相当短くなってきてはいますが、年休消化の状況に鑑みると、まだ企業文化の中に「休み」を後ろ向きにとらえる意識が残っているように見受けられます。少し前の厚労省の調査でも、年休を取りにくい理由の最多は「みんなに迷惑がかかると感じるから」。働く人にそうした「罪悪感」を抱かせる状況が厳然としてあるということでしょう。思い出したのは、作家の半藤一利さんが江坂彰さんとの共著『撤退戦の研究』に書いていた話。太平洋戦争の末期、米側でマリアナ沖海戦を戦ったのは、スプルアンス率いる第5艦隊で、レイテ沖海戦は、ハルゼーが指揮官を務める第3艦隊-。日本側はそう考えていた。だが、半藤さんによれば、実際は艦隊は一つだけ。使う艦船は同じで、休暇の時期が来ると司令部と参謀がそっくり入れ替わる交代制だったのだそうです。なぜ、日本側は二つの艦隊と誤認したのか? 答えは、日本軍に休暇制度がなかったから、だといいます。想像もつかなかったのでしょうね、敵が「休み」に効用を認め、戦力や士気の維持に休暇は不可欠だと考えているなんて。『月月火水木金金』という軍歌もありましたが、軍に限らず、当時の日本社会には、極端に言えば「働く」は美徳、「休む」は罪とみなす空気が色濃かったのだと思います。さすがに戦後、薄まってはいきますが、「働きすぎ」の風潮は長く残り、やがて「過労死」の問題へともつながっていく。近年は「働き方改革」が言われますが、もしかすると、「年休の取りにくさ」にまで水脈は通じているのかもしれません。
◆「バカンス」で消費活性化
フランスのバカンスは、1936年、左派のレオン・ブルム政権が「原則連続15日間の年休」を全労働者に保障したのが始まりだそうです。往時は、世界恐慌からの回復未(いま)だし、深刻な不況の真っただ中で、街には失業者があふれていたといいます。その状況を、大胆にも「休み」を増やすことで打開しようとした。一つの明確な狙いは消費拡大でした。「働く」でなく「休む」で経済を上向かせるという発想。長く需要不足、消費不振に苦しむ日本にうってつけではないでしょうか。例えば、もう10年以上前、日本生産性本部の提言機関は「年休完全消化」が達成されるだけで5兆円近い余暇消費支出が見込め、関連を含めた経済波及効果は15兆円以上-と試算しています。今、「連続○日」の長期休暇なら一体どれだけの経済効果になることか。もちろん、一番重要な効果は、生きる上での充実感、幸福感への寄与です。ストレス軽減で心身には好影響を及ぼし、新たな学びや活動に挑むことも、家族の絆を強める経験をすることもできるはずです。畢竟(ひっきょう)、生産性も高まりましょう。消費拡大で利益が増えるうえ従業員のパフォーマンスも上向くなら、経営者側にとってもこんなうまい話はない気がします。
◆他国にできるのだから…
休暇の時期が集中しない仕組みなど解決すべき問題は多々あるとしても、どうでしょう、わが国でも「連続○日」の長期休暇の法制化を考えてみては。バカンスも休み…じゃなかった、「バカも休み休み言え」と叱られそうですが、いうなれば、休み方から社会を変える「休み方改革」です。他国にできて日本にできない道理はないとも思うのですが…。
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