岸田文雄首相が保有に向けた検討を本格化させた「敵基地攻撃能力」は、安倍政権時に成立した安全保障関連法の下で、日本への直接攻撃がなくても他国をたたくことが可能になる。安倍晋三元首相が憲法解釈を変更し、他国を武力で守る集団的自衛権の行使を認めたためだ。周辺国にとって脅威となる攻撃能力は軍拡競争を招き、かえって日本が紛争に巻き込まれる恐れも拭えない。憲法や国際法との整合性でも問題は多い。(川田篤志)
◆1956年には「国土に攻撃行われた場合」
政府が「国家安全保障戦略」などの改定に向けた議論を始めた26日。共産党の穀田恵二国対委員長が衆院予算委員会で「日本に攻撃がない場合も安保法に基づき敵基地攻撃を行うことがあるか」と追及した。首相は「原則に基づいて対応する」と述べ、集団的自衛権の行使で敵基地攻撃を行う可能性を否定しなかった。
敵基地攻撃を巡っては、政府が1956年の国会で、戦力不保持を定めた憲法9条に照らし「わが国土に攻撃が行われた場合」に認められるとの見解を表明していた。だが、安倍氏が2014年に閣議決定で憲法解釈を変更し「わが国と密接な関係にある他国」に攻撃が発生して日本の存立が脅かされ、排除する手段がないなどと政府が認定した場合にも武力を行使できるようになった。
このため、例えば、同盟国である米国の艦艇へ他国からミサイルが発射された際に、日本が米艦を攻撃した国をたたいて反撃することも可能となる。憲法九条の専守防衛を基本方針とする日本がこうした攻撃能力の保有を進めれば、周辺国が警戒感を強めるのは確実だ。
◆軍拡競争激化の懸念、国際法との整合性も課題
各国に軍備増強の口実を与え、軍拡競争を激化させかねない。首相が「いっそう厳しさを増す」と主張する東アジアの安全保障環境をさらに悪化させる懸念は否定できない。
首相は衆院予算委で、敵基地攻撃能力について「憲法や国際法、日米の役割分担を逸脱する議論は行わない」としつつも「防衛力を抜本的に強化していかないといけない」と強調。安保法に基づく武力行使が、憲法の認める範囲内に収まらない恐れもある。
国際法との整合性にも課題を残す。国際法では、自衛権を行使する場合には敵国が攻撃を行おうとしていることを証明する必要があり、実際に行う攻撃は敵国と同程度に抑えなければならない原則がある。厳格な要件を満たせるかは不透明で、相手国から日本の先制攻撃と見なされ、日本が反撃を受けるなど武力衝突の引き金になる危険もある。
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