パリ五輪が閉幕した。最高峰の熱戦や華やかなドラマの陰で、浮かび上がったのがアスリートの心のケアの問題だ。大会中は交流サイト(SNS)での誹謗(ひぼう)中傷が相次ぎ、傷つけられた選手も少なくなかった。注目が集まる五輪期間中だけではなく、選手を守る取り組みを充実させていくべきだ。
陸上競歩の柳井綾音選手は大会中、SNSで「身勝手」などと非難された。混合団体に専念するため個人種目の出場を辞退したためだ。試合後に号泣した柔道の阿部詩選手にも非難が殺到。バレーボールではミスをした選手への攻撃的な言葉がネットで飛び交った。
問題は大会中のSNSだけではない。レスリングの高谷大地選手は大会前、自身を追い込み過ぎて「うつ症状だった」と告白。喫煙、飲酒で代表を辞退した女子体操選手も、背景には過度のプレッシャーがあったという。
日本で選手の精神面への関心が高まった契機は、テニスの大坂なおみ選手が2021年にうつ病症状を告白したことだ。東京五輪でも、体操界のスター、シモーン・バイルス選手(米国)が心の健康問題を理由に途中棄権し、世界的な注目が集まった。
勝負の重圧と対峙(たいじ)するアスリートは肉体だけでなく「心も強い」と思われがちだ。だが、国際オリンピック委員会(IOC)の資料などによれば、エリート競技者の3割以上が「不安やうつ」の症状を経験しているという。しかも、「弱音を吐く」ことへの抵抗が強い傾向があるとされる。
まず、充実すべきは選手の苦しみを理解し、受け止める態勢だろう。パリ五輪では、IOCが選手村に初めてメンタル面をケアするスペースを設置。悩みを聞くスタッフが常駐したというが、こうした「人対人」のサポートを拡充していくのも一つの方向だ。
冷静な批評とは違い、感情に任せてアスリートを誹謗中傷する行為自体、非難されるべきなのは当然だが、匿名に隠れたネットの世界では、言葉が過激化しやすいのも特性とされる。ファンとつながる大事なツールだとしても、時には選手自身がSNSなどと距離を置くことを考えてもいいだろう。
体操のバイルス選手は東京五輪後、定期的セラピーなどで回復。パリ五輪では金3個を含む4個のメダルに輝いた。そうした事例も、ケアの参考になるのではないか。
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