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蛙と蝸牛

本の感想。ときどき競艇の話。

ハロルド・フライの思いもよらない巡礼の旅

2024年04月13日 | 本の感想
ハロルド・フライの思いもよらない巡礼の旅(レイチェル・ジョイス 講談社)

ハロルドは65歳でビール工場を退職して半年。両親から虐待されたせいか社交的ではなく、家庭内でも優秀な息子から無視されていた。妻のモーリーンとはその息子の扱いをめぐって冷戦状態。
ハロルドにビール工場で同僚だったクウィニーから手紙がきて、そこにはガンで長くないと書かれていた。ハロルドは、返信の手紙を書いて投函しにいくが、クウィニーに大きな借りがあり、手紙を返すだけでよいとは思えなかった。立ち寄ったガソリンスタンドの店員のふとした言葉をきっかけに英国の南端からクウィニーのホスピスがある北端の街に向けて歩き始める・・・という話。

人づきあいいが悪くて退職後することがない、妻や息子との不和、恩人の重病、などハロルドの不幸は、世間一般にありふれたものだ。
1000キロ近い道程を歩き通すうち、そんなありふれた不幸とか世間体とか妻の不機嫌とかがどうでもいいものだと思えてくるプロセスは、そういう、ありふれているからこそ誰でもが持っている屈託を読んでいるうちに解きほぐしてくれるような錯覚を抱かせてくれる。これが本書が海外で評価された理由の一つだと思う。

ハロルドが抱える2つの秘密(妻との不和の根本的原因、クウィニーからの恩の内容)は、終盤にハロルドがガソリンスタンドの店員に出した手紙の内容で明かされる。
明かされてみると、これぞまさにありふれた不幸だったことがわかるのだが、ドンデン返し的な構成で趣きがあった。

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