蛙と蝸牛

本の感想。ときどき競艇の話。

父を撃った12の銃弾

2022年07月17日 | 本の感想
父を撃った12の銃弾(ハンナ・ティンティ 文藝春秋)

中学生のルーは、父のサミュエル・ホーリーに連れられて、海辺の町オリンパスに住みつく。父の体には無数の銃弾を受けた跡があり、多種多様の銃を持っており、ルーにも銃の手ほどきをする。
ルーは、環境保護活動をする親を持つマーシャルと仲良くなり、地元の店(ノコギリの刃)でウエイトレスをやって楽しく暮らしていたが、ホーリーの昔の悪事の相棒(ジョーヴ)が現れて・・という話。

ルーの前にジョーブが現れるのは物語の終盤で、それまではルーの日常生活と、平穏な日常とはかけ離れたサミュエルの過去(泥棒などをしては銃撃を受けていた)が交互に語られる構成になっている。サミュエルの過去の話が面白く、それぞれがピカレスクの短編として見ても十分に耐えられる内容だった。

日本に住んでいると、多くの場合、生涯一度も銃を見たり触ったりすることはなく、ましてや操作方法を知っていたり、実際に撃ってみたことがあるなんて極く稀だろう。
本書を読むと、アメリカでは銃が普通に日常生活に存在していることがよくわかる。サミュエルのように銃に撃たれた経験がある人は少ないだろうし、ましてや自分で治療できちゃう人はあまりいないのだろうけど。

本書は、登場する小物も魅力的。
サミュエルが盗んだりしようとする時計(超高価な腕時計や金時計、珍しい水時計)や、リコリスキャンディの瓶に100ドル札の束を丸めて詰め込み、トイレのタンクに沈めておく隠匿方法など。
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クジラアタマの王様

2022年07月12日 | 本の感想
クジラアタマの王様(伊坂幸太郎 新潮文庫)

岸は製菓会社の苦情処理の担当。人気ダンスグループの小沢ヒジリが好みだと発言してくれたおかげでヒットしたお菓子に異物が混入していたというクレーム対応がうまくいかず、窮地に陥るが、クレーマーの夫で都議会儀委員の池野内が妻の狂言であったことを申し出てくれた
て助かる。3人はかつて宿泊していたホテルで火事にあうという経験を共有していた・・・という話。

ハードカバーで出版された時、読み逃していたので文庫で読んだ。

途中に絵本風イラストが何箇所が挿入され、3人が夢?の中でRPGの勇者風に闘う場面が描かれているのが新基軸。

うーん、
夢と現実の融合という、ありがちなアイディアが、伊坂さんの手にかかるとこんなにも素敵な作品に・・・という結末を楽しみに読み進んだのだけど、いつまでたっても融合しないというか、夢パートと現実パートが並行したまま終わったという感じだった。

ちなみに、あとがきによると岸とヒジリという登場人物の名前はプロ野球の楽天の選手名にちなむものだそう。確かに、聖澤はまだまだ活躍できそうな感じだったのになあ。
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水よ踊れ

2022年07月08日 | 本の感想
水よ踊れ(岩井圭也 新潮社)

瀬戸和志は、13〜17歳まで香港で暮らし、その時知り合った梨励(レイヤン)のことが忘れられない。梨励は中国からの密入境者(小人蛇)で、スラム化したマンションの屋上に家族と暮らしていたが、和志が帰国する直前その屋上から飛び降りて亡くなっていた。和志はその真相を探ろうと、中国への返還直前の香港大学に留学するが・・・という話。

梨励の死の真相を知るために、死の直前に会っていたイギリス人を探すのが主筋になっているのだが、そのイギリス人の正体や梨励の死因は、あっけないほど平凡で、ミステリだと思って読んでいた私としてはかなり拍子抜けしてしまった。

都市論でもあり、香港の内実の描写もあるし、そうはいっても主人公の恋が物語の中心のはずでもあるのだが、どっちつかずになってしまっているかなあ、という印象。

ちょっと前に読んだ「チョンキンマンションのボスは知っている」は香港の場末?のマンションで暮らす異国人を描いたノンフィクションで、からっとして明るいイメージを抱いた。
一方、本書を読むと同じようなマンションやそこで暮らす人達が、救いのない暗い闇の底にいるように思えてしまい、その落差に驚いた。
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キャッシュトラック

2022年07月06日 | 映画の感想
キャッシュトラック

ヒル(ジェイソン・ステイタム)は、現金輸送の専門業者フォーティコに警備員として採用される。訓練の成績はさえなかったが、乗務して強盗に襲撃された際、水際だった活躍をみせ、犯人を全員射殺してしまう。
ヒルは有名なギャング団のリーダーで、現金輸送車の襲撃事件に巻き込まれて殺されてしまった息子の仇を探していたのだった・・・という話。

万能のヒーローが、様々な事情から凡人のフリをして爪を隠しているが、クライマックスに至ってその実力を如何なく発揮してカタルシスを演出する、というのは、よくあるパターンだが、本作においては、主人公が正体をあらわにするのが、ちょっと早すぎる。タメがなくて?感動が薄いような気がした。

それに息子の仇討ちのために、部下を総動員して危ない橋を渡らせるというのも、親分としてどうよ?とか思ってしまった。

と、文句ばかり言ってみたが、中だるみがない緊迫した場面の連続で、飽きることなく最後まで楽しめる秀作だった。

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竜との舞踏

2022年07月01日 | 本の感想
竜との舞踏(ジョージRRマーティン ハヤカワ文庫)

ティリオンはペントスからロイン河をくだってターガリエン家の末裔グリフとともにヴォランティスをめざすがモーモントに捕らえられてしまう。
デナーリスは凶暴化するドラゴンと反奴隷解放派の反抗に苦慮し、ミーリーンの有力者ロラクと結婚することになる。
ジョンは野人を壁の内側に招いて戦力にしようとするが仲間の反対にあう。
スタニスは南下してアシャが占拠していた城を攻略し、そのままウインターフェル城をめざすが豪雪に阻まれる。
ダヴォスは白い港でマンダリー公と交渉する。
サーセイは七神教の総司祭に不義を追及されて捕らえられる。
ジェイミーはサーセイの不義を疑い、キングスランディングに帰還せず、ブライエニーと姿を消す。
ブランドンは壁の向こうで超能力?を磨く。

本編としては刊行されている最後の巻で、当初構想ではシリーズの4分の3は過ぎたはずなのだが、話が拡散するばかりで、方向性が全く見えない。

本編とあまり関係がない脇筋とか外伝的エピソードが盛んに挿入されるので、話自体がさっぱり進行しないのには困ったものだが、そういった部分がまたとても面白いのが、また困る。

TVシリーズは別モノと言っても、原作者が監修しているそうだし、おおよそは原作と同じ筋になっているらしい。
TVシリーズは、本作が終わるくらいのあたりで見るのを止めていたのだが、原作の続きがなかなか出そうにない以上、結末を見てみたいという誘惑に勝てそうにない。
というか、TVシリーズの筋が実はもともとの構想通りで、「TVシリーズとは別モノにしちゃおう!」なんて茶目っ気を出して書き直しているじゃないだろうか、なんて邪推してしまう。

とにかく、本編の続きを早く刊行してもらいたいです。
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