赤襟の清ちゃんと、三毛猫のたま (70)
捜索隊が行く

「4人一緒では、ラチがあかない。
お互いの距離をおき、広めに展開して幅広く探していこう」
「効率は悪いが今のままで行こう。
下手に散開すると、今度は俺たちがおたがいを見失う危険がある。
足元も滑る。注意しながらこのまま前進しょう」
4人が濃霧の中を、手探りで前進していく。
このあたりの地形を知り尽くしているひげの管理人でさえ、
思わず腰が引けるほどの、深い霧。
尾根からくだりはじめた草の斜面は、ちょっと足を滑らせただけで
深い谷底へ、まっさかさまに滑落する危険を秘めている。
「このあたりから、語らいの丘へ行く枝道だ。
お~い、誰かいるか。助けに来たぞ、おねえちゃんたち。
居るなら返事をしてくれ。救助に来たぞ~」
「お姉ちゃ~ん.たち、居るかぁ~。山小屋のヒゲオヤジだぞ~。
お前さんたちを救助に来たぞ~」
男たちの声が、濃霧の中へ消えていく。
しかし。返事は帰って来ない。
男たちの頭上を、いきなり閃光が走る。
次の瞬間。激しい雷の音が、男たちの耳を直撃する。
「見たか、いまの閃光。まっすぐ横へ走ったぜ・・・」
「どうやら雷雲が頭上まで来たようだな。ぐずぐずしてはおれん。
早く発見しないと、俺たちまで危なくなる」
「ちょっと待て。なんだ・・・これは」
作業員が、ハイマツに結ばれたオレンジ色のテープを見つける。
草刈り作業をしていたときは、無かったものだ。
「ということはこれは、お姉ちゃんたちが結んでいったものだ。
ここへ戻ってくるための目印だ。
こいつがまだ、ここへ残っているということは、お姉ちゃんたちはまだ
この先に居るってことだ。
おい。ハイマツに結ばれた目印のテープを探せ。他にもあるはずだ。
ただし。足元には十分注意しろ。
東側の斜面は急だ。足を滑らすと、深い谷底へまっしぐらだからな」
20メートルほど進んだ先で、2つ目の目印を発見する。
上下2つに、きっちりオレンジ色のテープがハイマツに巻き付いている。
「おい。あったぞ。2つ目の目印だ。2つ結んである。
ということは、ここから進路をかえたようだ。
このあたりの枝道から、語らいの丘へ向ったようだな」
「ここにも目印が残ったままということは、2人はまだ
草原に居るということになるな」
「斜面を横に移動して、麓へ下っていった可能性はどうだ?」
「おねえちゃんのひとりは慣れている。
だが連れのもうひとりは、まったくの素人だ。
斜面に慣れている俺たちでさえ、ガスが巻いたときは安全のため登山道へ戻る。
目印のテープを残していったほどの登山経験者だ。
登山道へ戻ったのなら、このテープもきっと回収していくだろう」
「ということはまだ、この悪天候の草原に居るのか、2人とも・・・」
ごくりと男たちが唾を呑み込む。
ひげの管理人がリュックサックから、ザイルを取り出す。
岩場を下ることも出来る、きわめて丈夫なものだ。
「念のために持ってきた。だがどうやら、こいつの出番の様だ。
9ミリ45mのザイルだ。
こいつを腰に巻き付けて、ピンと張り、横に展開しょう。
何か有ったらザイルを引いてくれ。それが全員への合図になる。
霧で足元が濡れて、滑る。
くれぐれも慎重に行動してくれ。
お姉ちゃんたちを見つける前に、俺たちが遭難したんじゃ話にならねぇからな」
男たちが、ザイルを横に結んでいく。
頭上に閃光が走る。すぐ直後、激しい音が草原を突き抜けていく。
猶予はない。まもなく雷雲が頭上へやって来るだろう。
それまでのごく短い時間が、救助できるかどうかの分かれ目になる・・・
誰もが直感的にそう感じている。
「行こうか」
管理人の声を合図にザイルを腰に結び付けた男たちが、横へひろがっていく。
(71)へつづく
落合順平 作品館はこちら
捜索隊が行く

「4人一緒では、ラチがあかない。
お互いの距離をおき、広めに展開して幅広く探していこう」
「効率は悪いが今のままで行こう。
下手に散開すると、今度は俺たちがおたがいを見失う危険がある。
足元も滑る。注意しながらこのまま前進しょう」
4人が濃霧の中を、手探りで前進していく。
このあたりの地形を知り尽くしているひげの管理人でさえ、
思わず腰が引けるほどの、深い霧。
尾根からくだりはじめた草の斜面は、ちょっと足を滑らせただけで
深い谷底へ、まっさかさまに滑落する危険を秘めている。
「このあたりから、語らいの丘へ行く枝道だ。
お~い、誰かいるか。助けに来たぞ、おねえちゃんたち。
居るなら返事をしてくれ。救助に来たぞ~」
「お姉ちゃ~ん.たち、居るかぁ~。山小屋のヒゲオヤジだぞ~。
お前さんたちを救助に来たぞ~」
男たちの声が、濃霧の中へ消えていく。
しかし。返事は帰って来ない。
男たちの頭上を、いきなり閃光が走る。
次の瞬間。激しい雷の音が、男たちの耳を直撃する。
「見たか、いまの閃光。まっすぐ横へ走ったぜ・・・」
「どうやら雷雲が頭上まで来たようだな。ぐずぐずしてはおれん。
早く発見しないと、俺たちまで危なくなる」
「ちょっと待て。なんだ・・・これは」
作業員が、ハイマツに結ばれたオレンジ色のテープを見つける。
草刈り作業をしていたときは、無かったものだ。
「ということはこれは、お姉ちゃんたちが結んでいったものだ。
ここへ戻ってくるための目印だ。
こいつがまだ、ここへ残っているということは、お姉ちゃんたちはまだ
この先に居るってことだ。
おい。ハイマツに結ばれた目印のテープを探せ。他にもあるはずだ。
ただし。足元には十分注意しろ。
東側の斜面は急だ。足を滑らすと、深い谷底へまっしぐらだからな」
20メートルほど進んだ先で、2つ目の目印を発見する。
上下2つに、きっちりオレンジ色のテープがハイマツに巻き付いている。
「おい。あったぞ。2つ目の目印だ。2つ結んである。
ということは、ここから進路をかえたようだ。
このあたりの枝道から、語らいの丘へ向ったようだな」
「ここにも目印が残ったままということは、2人はまだ
草原に居るということになるな」
「斜面を横に移動して、麓へ下っていった可能性はどうだ?」
「おねえちゃんのひとりは慣れている。
だが連れのもうひとりは、まったくの素人だ。
斜面に慣れている俺たちでさえ、ガスが巻いたときは安全のため登山道へ戻る。
目印のテープを残していったほどの登山経験者だ。
登山道へ戻ったのなら、このテープもきっと回収していくだろう」
「ということはまだ、この悪天候の草原に居るのか、2人とも・・・」
ごくりと男たちが唾を呑み込む。
ひげの管理人がリュックサックから、ザイルを取り出す。
岩場を下ることも出来る、きわめて丈夫なものだ。
「念のために持ってきた。だがどうやら、こいつの出番の様だ。
9ミリ45mのザイルだ。
こいつを腰に巻き付けて、ピンと張り、横に展開しょう。
何か有ったらザイルを引いてくれ。それが全員への合図になる。
霧で足元が濡れて、滑る。
くれぐれも慎重に行動してくれ。
お姉ちゃんたちを見つける前に、俺たちが遭難したんじゃ話にならねぇからな」
男たちが、ザイルを横に結んでいく。
頭上に閃光が走る。すぐ直後、激しい音が草原を突き抜けていく。
猶予はない。まもなく雷雲が頭上へやって来るだろう。
それまでのごく短い時間が、救助できるかどうかの分かれ目になる・・・
誰もが直感的にそう感じている。
「行こうか」
管理人の声を合図にザイルを腰に結び付けた男たちが、横へひろがっていく。
(71)へつづく
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