落合順平 作品集

現代小説の部屋。

赤襟の清ちゃんと、三毛猫のたま 最終回

2017-04-14 19:16:49 | 現代小説
赤襟の清ちゃんと、三毛猫のたま 最終回
 清子とたま



 「ここが遭難しかけたという、語らいの丘か。
 なるほど。噂には聞いていたが、想像していた以上に素晴らしい所だ。
 まさに絶景だ」


 「訂正してちょうだい。パパ。
 私たちは遭難しかけたのではなく、緊急避難していたの。
 天候の回復を待ち、ここでじっとしていました。
 うふふ。霧に閉じ込められて、進退を窮まっていただけです。
 わたしたちが助かったのは、たまが、カツオ節に反応してくれたおかげです。
 ビバークなんか出来なかったわ。まる2日間も荒れ狂ったのよ。
 たまのおかげで命拾いしました。お前はやっぱり、奇跡の猫だ」

 
 「小さくてもたまは男の子だ。勇敢だったねぇお前。
 それにしても満開のヒメサユリは素晴らしい。
 飯豊連山のすべてが、ここから一望できる。
 すごい場所だ此処は。そう思うでしょう、小春さん。あなたも」


 『はい』と小春が振り返る。



 まる2日間。ヒメサユリは嵐の中を翻弄された。
しかし今朝は何事もなかったかのように、シャンと立ち直っている。
満開の草原が、4人の前にひろがっている。
ピンク色のヒメサユリに混じり、あざやかなオレンジ色のニッコウキスゲも
負けじと朝の風に揺れている。
蝶と戯れているたまを、恭子がひょいと抱き上げる。


 『世話になったわねぇ。お前には。
 お礼に、お前が大好きな乙女の匂いをたっぷり嗅がせてあげましょう。
 ほら。成熟した乙女の豊満なおっぱいだ。
 なんだ。そのつまらなそうな顔は。
 清子のペチャパイより、あたしの胸の方がほうがよほどもいいだろう?。
 ふん。つまらない子だねぇ、お前って子も。
 貧乳の清子の方がいいのか、やっぱりお前は・・・』



 『うん』たまが嬉しそうに、目を細める。
『そうか。やっぱり清子が好きか。仕方ないわよねぇ。
あたしも清子は大好きさ。可愛いし、お茶目だし、素直だもの。
でもさぁ・・・・まもなく会津を離れて、次のお姉さんのところへ修行に
行っちゃうのが少し気に入らないのよ。
盆踊りまでいると、あれほどわたしと約束したくせに、さ』


 たまを抱きかかえた恭子が、景色に見とれている清子の背中へ寄っていく。
『たまはあんたが好きだってさ。あんたのぺちゃんこの胸がたまには最高なんだ』
返すわ、こんな愛想の無いやつ、と恭子がたまを手渡す。



 「清子。盆踊りの約束は帳消しでいいよ。
 あの2人は放っておいても、何とかなるような雰囲気になっているもの。
 わたし。高校を卒業したら東京へ行く。
 4年間、大学で学んでくるけど、それが終ったら喜多方へ戻って来る。
 あんたも4年間、せいっぱい、芸者の修行に励んでね」


 「帰ってきたら、酒蔵の10代目を継ぐのですか?」


 「あんただって、有名な芸妓の2代目を継ぐんだろう?」


 「2代目を継ぐ?。わたしが?・・・」



 「小春さんから聞いたよ。
 あんたは、6人も弟子を育てた春奴母さんの2代目になるそうだ」



 「わたしが春奴母さんの2代目になる!・・・ホントですか!」


 「春奴母さんは、その気でいるらしい。
 もっとも、瓢箪から駒が出るかどうかはあんた次第だけどね。
 でもさ。あんたの懐に奇跡を呼ぶ三毛猫のたまが居る限り、成就しそうだね。
 なんとなくだけど、わたしも、そんな気がしてきた」


 わたしが居ない間、清子のことは頼んだよと、恭子がたまの頭をなでる。


 「えへん。そうさ。おいらは奇跡を呼ぶ三毛猫だぜ。
 いたずら小僧がおいらを拉致したおかげで、芸者修業を始めた清子の胸という、
 居心地のいい場所へたどり着いた。
 2度と出るものか。いいにおいのする、清子のペチャパイの胸から!』

 イヒヒとたまが、目を細めて笑う。

(完)


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