オヤジ達の白球(3)敵に塩?
「バ~カ。身動きさえ出来ないくせに、言う事だけは一人前だ。
お茶を入れてきます。台所はこっちかな?」
「廊下の先だ。わるいなぁ、面倒かけて」
「どうってことありません。
昔馴染みの男へ、塩を食わせるためにやって来たのさ。
これでもかとたっぷり塩をふってきた。
塩分のとり過ぎで早めに地獄へ送ってあげるから、感謝にはおよびません」
(魔性の女ですからね、あたしは。近寄ると火傷するよ)
ふふふと笑い声を残し、陽子が台所へ消えていく。
陽子は、いまもスレンダーな体型の持ち主。
しかし胸は有る。貧乳ではない。
こんもりと、形のよい盛り上がりを見せている。
尻も下がっていない。丸みを帯びたラインが妙に色っぽい。
身体に衰えが見えないのは、こどもを産んでいないから。
サングラスをかけると、いまどき流行りの美魔女のように見える。
「ここまで這ってきて、食べることができるかい?」
台所から土鍋を運んできた陽子が、隣の部屋から声をかける。
「いまさら、食べさせてくれとは言えないだろう。そこまで甘えたらバチが当たる。
そこに置いてくれ。這って行く。そこで食う」
祐介が腹ばいになる。布団からそろりそろりと抜け出していく。
「急がなくてもいいよ。無理してバランスを崩さないでおくれ。
見た通りの細腕だ。何の手助けも出来ないよ。
寝ていたのなら、電話くらいかけてくればよかったのに。
ご飯くらい、あたしが作ってあげたのにさ」
「ありがたてぇ話だ。こんど何か有ったらかならず電話する。
でもよ。こんな風に世話を焼くのは、お天道様が出ている日中だけにしてくれ。
日が暮れると別のことを頼みたくなる」
「うふふ・・・
その気もないくせに、口ばかり達者なんだから、このエロじじぃ。
その気があるのなら襲ってみなさいよ。
長年の夢がひょっとしたら、叶うかもしれません」
「えっ。あれから30年も経つのに、俺が惚れていたことをまだ覚えていたか。
薄情な女だとばかり思っていたが、意外だねぇ」
「よく言うよ。薄情なのはあんたじゃないか。
あたしが離婚したとき。あんたはさっさと別の女と所帯を持ったくせに。
あ・・・文句を言える筋合いじゃないか、お互い様だ。
あんたの気持ちはわかっていたさ。
お金に目がくらんで嫁に行ったあたしが悪い。
あら、いやだ。朝っぱらからいったい、なんてことを言わせるのさ。
顔から火が出るじゃないの。
支度はできました。あとは勝手に食べてくださいな。
片付けなくてもいいよ。あとでまた、次の差し入れにやって来るからね。
今度は庭からじゃなく玄関から堂々と入ってきます。
開いているんだろうね、玄関は?」
「あっ、3日前から玄関の鍵は締めたまんまだ。
お前さんが訪ねてくることなど、露ほども考えていなかったからな。
おっ、あっ・・・・おっとと、イテテ・・・」
数歩すすんだところで、祐介が動きを止める。
また腰に激痛がやってきた。力が入らない。そのままバランスが崩れる。
グズグズと祐介の身体が畳へ崩れ落ちていく。
陽子があわてて立ち上がる。
「なんだい。口ほどもないね。
見栄を張って格好ばかりつけているから、そうやっていつも墓穴を掘るんだ。
駄目なら駄目で最初から甘えればいいのに。
いつだってやせ我慢ばかりするんだから、この人は。
そこからU-ターンしなさい。
仕方ありませんね。あたしがおかゆを食べさせてあげますから。うふふ」
(4)へつづく
落合順平 作品館はこちら
「バ~カ。身動きさえ出来ないくせに、言う事だけは一人前だ。
お茶を入れてきます。台所はこっちかな?」
「廊下の先だ。わるいなぁ、面倒かけて」
「どうってことありません。
昔馴染みの男へ、塩を食わせるためにやって来たのさ。
これでもかとたっぷり塩をふってきた。
塩分のとり過ぎで早めに地獄へ送ってあげるから、感謝にはおよびません」
(魔性の女ですからね、あたしは。近寄ると火傷するよ)
ふふふと笑い声を残し、陽子が台所へ消えていく。
陽子は、いまもスレンダーな体型の持ち主。
しかし胸は有る。貧乳ではない。
こんもりと、形のよい盛り上がりを見せている。
尻も下がっていない。丸みを帯びたラインが妙に色っぽい。
身体に衰えが見えないのは、こどもを産んでいないから。
サングラスをかけると、いまどき流行りの美魔女のように見える。
「ここまで這ってきて、食べることができるかい?」
台所から土鍋を運んできた陽子が、隣の部屋から声をかける。
「いまさら、食べさせてくれとは言えないだろう。そこまで甘えたらバチが当たる。
そこに置いてくれ。這って行く。そこで食う」
祐介が腹ばいになる。布団からそろりそろりと抜け出していく。
「急がなくてもいいよ。無理してバランスを崩さないでおくれ。
見た通りの細腕だ。何の手助けも出来ないよ。
寝ていたのなら、電話くらいかけてくればよかったのに。
ご飯くらい、あたしが作ってあげたのにさ」
「ありがたてぇ話だ。こんど何か有ったらかならず電話する。
でもよ。こんな風に世話を焼くのは、お天道様が出ている日中だけにしてくれ。
日が暮れると別のことを頼みたくなる」
「うふふ・・・
その気もないくせに、口ばかり達者なんだから、このエロじじぃ。
その気があるのなら襲ってみなさいよ。
長年の夢がひょっとしたら、叶うかもしれません」
「えっ。あれから30年も経つのに、俺が惚れていたことをまだ覚えていたか。
薄情な女だとばかり思っていたが、意外だねぇ」
「よく言うよ。薄情なのはあんたじゃないか。
あたしが離婚したとき。あんたはさっさと別の女と所帯を持ったくせに。
あ・・・文句を言える筋合いじゃないか、お互い様だ。
あんたの気持ちはわかっていたさ。
お金に目がくらんで嫁に行ったあたしが悪い。
あら、いやだ。朝っぱらからいったい、なんてことを言わせるのさ。
顔から火が出るじゃないの。
支度はできました。あとは勝手に食べてくださいな。
片付けなくてもいいよ。あとでまた、次の差し入れにやって来るからね。
今度は庭からじゃなく玄関から堂々と入ってきます。
開いているんだろうね、玄関は?」
「あっ、3日前から玄関の鍵は締めたまんまだ。
お前さんが訪ねてくることなど、露ほども考えていなかったからな。
おっ、あっ・・・・おっとと、イテテ・・・」
数歩すすんだところで、祐介が動きを止める。
また腰に激痛がやってきた。力が入らない。そのままバランスが崩れる。
グズグズと祐介の身体が畳へ崩れ落ちていく。
陽子があわてて立ち上がる。
「なんだい。口ほどもないね。
見栄を張って格好ばかりつけているから、そうやっていつも墓穴を掘るんだ。
駄目なら駄目で最初から甘えればいいのに。
いつだってやせ我慢ばかりするんだから、この人は。
そこからU-ターンしなさい。
仕方ありませんね。あたしがおかゆを食べさせてあげますから。うふふ」
(4)へつづく
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