オヤジ達の白球(30)ソフトボールの投げ方
練習開始から10分。
坂上はすでに、見るからにクタクタ状態になっている。
投げるたびに大暴投がつづく。そしてそのたび、ボール拾いに駆け回る。
「なんでぇあの野郎。10分もしないうちにもうクタクタかよ。
あの程度でスタミナが切れているようじゃ、試合じゃ使い物にならねぇな」
土手の上で、熊が毒づく。
「球威はある。だがコントロールが悪い。そのうえスタミナも無い。
投手をやるには10年早いな。
投手をやるまえに毎朝30分くらい走って、まず足腰から鍛え直すことだな」
10年かけて一人前になるかどうかは、あいつ次第だと、北海の熊が立ち上がる。
「帰るのかよ、熊」つられて岡崎も立ち上がる。
「これ以上見たって無駄だ。どんなに頑張ったって、当分あいつに明るい未来は来ない。
そのあたりで投げているソフトボールの投手にいちから全部、教えてもらうんだな」
「お前が教えてやってくれないか。そのほうが、よっぽども話が早い」
「俺があいつに教える?。冗談は顔だけにしてくれ、岡崎。
あんな野郎に教えるくらいなら、俺が投げたほうがはるかに早い。
あきらめろ。いくら頑張ってもしょせん才能の無い奴に、未来は来ない。
やっぱりよ。瓢箪から、簡単に駒は出ねぇよ」
「そう言うな。じゃ、せめて俺に教えてくれ。
どうしたらコントロールがつき、早い球が投げられるようになるのかを」
「なんでぇ。坂上のかわりにお前が投げるというのか?」
「いや。坂上のやつに助言してやる。
あいつは他人の言う事には耳を傾けねぇが、なぜか、俺の言う事には素直にしたがう。
どうだ。俺にウインドミルの投げ方の極意を教えてくれないか」
「なんだかなぁ。ますますもって面倒くさいな、坂上もおまえも。
よし、分かった。山崎の12年物のフルボトル、2本、いや、3本で手をうとう」
「フルボトルを3本!・・・この野郎め。人の弱みに付け込みやがって。
まぁいい。仕方ねぇ。坂上のためだ。
山崎の12年物フルボトル3本で手をうとうじゃねぇか」
「零細企業の経営者は、やっぱり決断が速い。
しかし。一度しか言わねぇぞ。耳の穴かっぽじいて、よく聞けよ」
2人が見おろしている中。坂上が壁の前から、よろよろと立ち上がる。
(おっ、立ち上がったぞあいつ。まだやる気か・・・)
投球練習を再開すると思いきや、がっくりとうなだれたままの坂上が土手をのぼり、
トボトボと足を引きずりながら帰っていく。
「なんでぇ。投球を再開すると思いきゃ、帰っちまうのかあの野郎は。
スタミナもないが、粘りぬく根気も足らねぇな、あの単細胞やろうは。
まぁいい。あいつのことは放っておこう。
じゃいい球を投げるためのポイントを説明するから、聞いてくれ」
「待ってくれ。いまメモを取る。だから猿にもわかるように説明してくれ」
「猿はソフトボールなんかしないだろう!」
「わかりやすく説明してくれという言葉の綾(あや)だ。
そのくらいのことは、おまえさんも知っているだろう」
「本気になって怒るな。そのくらいのことは俺でもわかる。
じゃ超初心者でも理解できるように、わかりやすく説明するからメモを取ってくれ」
「ありがてぇ。世話になるぜ。恩に着る」
岡崎が北海の熊の目の前でメモ帳をひろげる。
さぁ教えてくれと、シャープペンシルの先をぺろりとなめる。
(31)へつづく
落合順平 作品館はこちら
練習開始から10分。
坂上はすでに、見るからにクタクタ状態になっている。
投げるたびに大暴投がつづく。そしてそのたび、ボール拾いに駆け回る。
「なんでぇあの野郎。10分もしないうちにもうクタクタかよ。
あの程度でスタミナが切れているようじゃ、試合じゃ使い物にならねぇな」
土手の上で、熊が毒づく。
「球威はある。だがコントロールが悪い。そのうえスタミナも無い。
投手をやるには10年早いな。
投手をやるまえに毎朝30分くらい走って、まず足腰から鍛え直すことだな」
10年かけて一人前になるかどうかは、あいつ次第だと、北海の熊が立ち上がる。
「帰るのかよ、熊」つられて岡崎も立ち上がる。
「これ以上見たって無駄だ。どんなに頑張ったって、当分あいつに明るい未来は来ない。
そのあたりで投げているソフトボールの投手にいちから全部、教えてもらうんだな」
「お前が教えてやってくれないか。そのほうが、よっぽども話が早い」
「俺があいつに教える?。冗談は顔だけにしてくれ、岡崎。
あんな野郎に教えるくらいなら、俺が投げたほうがはるかに早い。
あきらめろ。いくら頑張ってもしょせん才能の無い奴に、未来は来ない。
やっぱりよ。瓢箪から、簡単に駒は出ねぇよ」
「そう言うな。じゃ、せめて俺に教えてくれ。
どうしたらコントロールがつき、早い球が投げられるようになるのかを」
「なんでぇ。坂上のかわりにお前が投げるというのか?」
「いや。坂上のやつに助言してやる。
あいつは他人の言う事には耳を傾けねぇが、なぜか、俺の言う事には素直にしたがう。
どうだ。俺にウインドミルの投げ方の極意を教えてくれないか」
「なんだかなぁ。ますますもって面倒くさいな、坂上もおまえも。
よし、分かった。山崎の12年物のフルボトル、2本、いや、3本で手をうとう」
「フルボトルを3本!・・・この野郎め。人の弱みに付け込みやがって。
まぁいい。仕方ねぇ。坂上のためだ。
山崎の12年物フルボトル3本で手をうとうじゃねぇか」
「零細企業の経営者は、やっぱり決断が速い。
しかし。一度しか言わねぇぞ。耳の穴かっぽじいて、よく聞けよ」
2人が見おろしている中。坂上が壁の前から、よろよろと立ち上がる。
(おっ、立ち上がったぞあいつ。まだやる気か・・・)
投球練習を再開すると思いきや、がっくりとうなだれたままの坂上が土手をのぼり、
トボトボと足を引きずりながら帰っていく。
「なんでぇ。投球を再開すると思いきゃ、帰っちまうのかあの野郎は。
スタミナもないが、粘りぬく根気も足らねぇな、あの単細胞やろうは。
まぁいい。あいつのことは放っておこう。
じゃいい球を投げるためのポイントを説明するから、聞いてくれ」
「待ってくれ。いまメモを取る。だから猿にもわかるように説明してくれ」
「猿はソフトボールなんかしないだろう!」
「わかりやすく説明してくれという言葉の綾(あや)だ。
そのくらいのことは、おまえさんも知っているだろう」
「本気になって怒るな。そのくらいのことは俺でもわかる。
じゃ超初心者でも理解できるように、わかりやすく説明するからメモを取ってくれ」
「ありがてぇ。世話になるぜ。恩に着る」
岡崎が北海の熊の目の前でメモ帳をひろげる。
さぁ教えてくれと、シャープペンシルの先をぺろりとなめる。
(31)へつづく
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