オヤジ達の白球(33)いざ決戦
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/5f/8f/98e6ee1e149d0756051cc30b95613f21.jpg)
練習試合の当日がやって来た。
集合時間は6時だが、午後5時を過ぎた頃から消防団員たちが集まって来た。
寅吉が、「悪いなぁ」と若い者たちに声をかけていく。
「先日様子を見に来たら、荒れ放題になっていました。
何か有ってからでは困ります。
グランド整備に時間がかかると思い、5時に来られる奴は全員集まれと
号令を出しておきました」
団長の篠原が、最敬礼で寅吉を出迎える。
「ありがてぇ。
なにしろウチのメンバーはほとんどが、50過ぎのジジィだからな。
あ・・・そういう俺も今度の誕生日が来れば、晴れて50歳の仲間入りだ。
おまえさんたちの若さが、うらやましく見える歳になってきた」
「1時間も有ればグランドの整備が終ると思います。
試合開始は、6時半からでいいでしょうか!」
「おう。世話になるな。かまわねぇよ、それで」
俺も少し手伝おうと、寅吉がトンボを手にする。
T字型をした整地用具のことをトンボと呼ぶ。トンボに似ていることからこの名がついた。
あわてて団長が寅吉の手から、トンボを奪い取る。
「大先輩自らがグランド整備するなんて、とんでもないことです。
グランドは我々に任せてください。どうぞ先輩はベンチでくつろいでください。
ベンチに、冷たいものが用意してあります」
「おいおい。俺は敵だぜ。そこまで特別扱いしてくれなくても結構だ」
「いえいえ。ゲームがはじまれば敵ですが、いまは我々の大先輩です。
東京消防庁のレスキュー隊長といえば、消防のエリート中のエリートです。
我々から見ればエベレストよりも、はるかに高い存在です。
他に何か有れば、遠慮なく、若い者へ何でも言い付けてください!」
ペコリと頭をさげた団長がトンボを片手に、グランドへ飛び出していく。
その様子を球場へ入って来た祐介が、呆気にとられた顔で見送る。
「じゃ。
ハンディとして2~3点、先に点をもらっておけばいいじゃないのさ。
どう頑張ったって勝てない相手だよ。
あんたが言い出せば2点や3点、かんたんにくれるんじゃないの?。
どう。我ながら名案でしょ」
祐介のあとから入って来た陽子が、寅吉へ声をかける。
「そうだな。孫みたいな連中を相手にするんだ。
適当に手を抜けと団長に言っておこう。
そういえば、今日先発するはずの坂上のやつはどうした?。
まだ顔が見えないが?」
「まだ来てないのか、やっこさん。
あいつなら午後の1時に家を出たそうだ。
ということはまだ例のあの場所で、投球練習をしているのかな?」
球場へはいってきた岡本が、寅吉に向かって大きな声でこたえる。
「例のあの場所?。なんだ。それは?」
「河川敷にある、テニスの壁打ち用のコンクリート壁のことさ。
坂上の奴。緊張してんだろう。
きっといまごろはまだ、汗だくになって、壁にボールを投げているんだろう」
「午後1時からいままで、壁を相手に投球練習をしているってか?。あの野郎は。
何を考えているんだ、いったい、あの単細胞は!」
「そういう男だ、坂上は。
放っておけばそのうち、汗だくになって顔を出すだろう。
そういうやつだ、あいつは」
消防団員たちによってグランドの整備がすすむ中。
ドランカーズのメンバーたちも集まって来た。
駐車場へ見慣れない車が1台、滑り込んで来た。
ドアから、男女の4人が降りてくる。
いずれもソフトボールの、公式審判員の制服を着用している。
先頭を歩いてくるのは国際審判員をめざしている、例のあの謎の美女だ。
(34)へつづく
落合順平 作品館はこちら
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/5f/8f/98e6ee1e149d0756051cc30b95613f21.jpg)
練習試合の当日がやって来た。
集合時間は6時だが、午後5時を過ぎた頃から消防団員たちが集まって来た。
寅吉が、「悪いなぁ」と若い者たちに声をかけていく。
「先日様子を見に来たら、荒れ放題になっていました。
何か有ってからでは困ります。
グランド整備に時間がかかると思い、5時に来られる奴は全員集まれと
号令を出しておきました」
団長の篠原が、最敬礼で寅吉を出迎える。
「ありがてぇ。
なにしろウチのメンバーはほとんどが、50過ぎのジジィだからな。
あ・・・そういう俺も今度の誕生日が来れば、晴れて50歳の仲間入りだ。
おまえさんたちの若さが、うらやましく見える歳になってきた」
「1時間も有ればグランドの整備が終ると思います。
試合開始は、6時半からでいいでしょうか!」
「おう。世話になるな。かまわねぇよ、それで」
俺も少し手伝おうと、寅吉がトンボを手にする。
T字型をした整地用具のことをトンボと呼ぶ。トンボに似ていることからこの名がついた。
あわてて団長が寅吉の手から、トンボを奪い取る。
「大先輩自らがグランド整備するなんて、とんでもないことです。
グランドは我々に任せてください。どうぞ先輩はベンチでくつろいでください。
ベンチに、冷たいものが用意してあります」
「おいおい。俺は敵だぜ。そこまで特別扱いしてくれなくても結構だ」
「いえいえ。ゲームがはじまれば敵ですが、いまは我々の大先輩です。
東京消防庁のレスキュー隊長といえば、消防のエリート中のエリートです。
我々から見ればエベレストよりも、はるかに高い存在です。
他に何か有れば、遠慮なく、若い者へ何でも言い付けてください!」
ペコリと頭をさげた団長がトンボを片手に、グランドへ飛び出していく。
その様子を球場へ入って来た祐介が、呆気にとられた顔で見送る。
「じゃ。
ハンディとして2~3点、先に点をもらっておけばいいじゃないのさ。
どう頑張ったって勝てない相手だよ。
あんたが言い出せば2点や3点、かんたんにくれるんじゃないの?。
どう。我ながら名案でしょ」
祐介のあとから入って来た陽子が、寅吉へ声をかける。
「そうだな。孫みたいな連中を相手にするんだ。
適当に手を抜けと団長に言っておこう。
そういえば、今日先発するはずの坂上のやつはどうした?。
まだ顔が見えないが?」
「まだ来てないのか、やっこさん。
あいつなら午後の1時に家を出たそうだ。
ということはまだ例のあの場所で、投球練習をしているのかな?」
球場へはいってきた岡本が、寅吉に向かって大きな声でこたえる。
「例のあの場所?。なんだ。それは?」
「河川敷にある、テニスの壁打ち用のコンクリート壁のことさ。
坂上の奴。緊張してんだろう。
きっといまごろはまだ、汗だくになって、壁にボールを投げているんだろう」
「午後1時からいままで、壁を相手に投球練習をしているってか?。あの野郎は。
何を考えているんだ、いったい、あの単細胞は!」
「そういう男だ、坂上は。
放っておけばそのうち、汗だくになって顔を出すだろう。
そういうやつだ、あいつは」
消防団員たちによってグランドの整備がすすむ中。
ドランカーズのメンバーたちも集まって来た。
駐車場へ見慣れない車が1台、滑り込んで来た。
ドアから、男女の4人が降りてくる。
いずれもソフトボールの、公式審判員の制服を着用している。
先頭を歩いてくるのは国際審判員をめざしている、例のあの謎の美女だ。
(34)へつづく
落合順平 作品館はこちら