落合順平 作品集

現代小説の部屋。

オヤジ達の白球(33)いざ決戦

2017-11-14 18:31:12 | 現代小説
オヤジ達の白球(33)いざ決戦


 
 練習試合の当日がやって来た。
集合時間は6時だが、午後5時を過ぎた頃から消防団員たちが集まって来た。
寅吉が、「悪いなぁ」と若い者たちに声をかけていく。

 「先日様子を見に来たら、荒れ放題になっていました。
 何か有ってからでは困ります。
 グランド整備に時間がかかると思い、5時に来られる奴は全員集まれと
 号令を出しておきました」

 団長の篠原が、最敬礼で寅吉を出迎える。

 「ありがてぇ。
 なにしろウチのメンバーはほとんどが、50過ぎのジジィだからな。
 あ・・・そういう俺も今度の誕生日が来れば、晴れて50歳の仲間入りだ。
 おまえさんたちの若さが、うらやましく見える歳になってきた」

 「1時間も有ればグランドの整備が終ると思います。
 試合開始は、6時半からでいいでしょうか!」

 「おう。世話になるな。かまわねぇよ、それで」

 俺も少し手伝おうと、寅吉がトンボを手にする。
T字型をした整地用具のことをトンボと呼ぶ。トンボに似ていることからこの名がついた。
あわてて団長が寅吉の手から、トンボを奪い取る。

 「大先輩自らがグランド整備するなんて、とんでもないことです。
 グランドは我々に任せてください。どうぞ先輩はベンチでくつろいでください。
 ベンチに、冷たいものが用意してあります」

 「おいおい。俺は敵だぜ。そこまで特別扱いしてくれなくても結構だ」

 「いえいえ。ゲームがはじまれば敵ですが、いまは我々の大先輩です。
 東京消防庁のレスキュー隊長といえば、消防のエリート中のエリートです。
 我々から見ればエベレストよりも、はるかに高い存在です。
 他に何か有れば、遠慮なく、若い者へ何でも言い付けてください!」

 ペコリと頭をさげた団長がトンボを片手に、グランドへ飛び出していく。
その様子を球場へ入って来た祐介が、呆気にとられた顔で見送る。

 「じゃ。
 ハンディとして2~3点、先に点をもらっておけばいいじゃないのさ。
 どう頑張ったって勝てない相手だよ。
 あんたが言い出せば2点や3点、かんたんにくれるんじゃないの?。
 どう。我ながら名案でしょ」

 祐介のあとから入って来た陽子が、寅吉へ声をかける。

 「そうだな。孫みたいな連中を相手にするんだ。
 適当に手を抜けと団長に言っておこう。
 そういえば、今日先発するはずの坂上のやつはどうした?。
 まだ顔が見えないが?」
 
 「まだ来てないのか、やっこさん。
 あいつなら午後の1時に家を出たそうだ。
 ということはまだ例のあの場所で、投球練習をしているのかな?」

 球場へはいってきた岡本が、寅吉に向かって大きな声でこたえる。

 「例のあの場所?。なんだ。それは?」

 「河川敷にある、テニスの壁打ち用のコンクリート壁のことさ。
 坂上の奴。緊張してんだろう。
 きっといまごろはまだ、汗だくになって、壁にボールを投げているんだろう」

 「午後1時からいままで、壁を相手に投球練習をしているってか?。あの野郎は。
 何を考えているんだ、いったい、あの単細胞は!」

 「そういう男だ、坂上は。
 放っておけばそのうち、汗だくになって顔を出すだろう。
 そういうやつだ、あいつは」

 消防団員たちによってグランドの整備がすすむ中。
ドランカーズのメンバーたちも集まって来た。

 駐車場へ見慣れない車が1台、滑り込んで来た。
ドアから、男女の4人が降りてくる。
いずれもソフトボールの、公式審判員の制服を着用している。
先頭を歩いてくるのは国際審判員をめざしている、例のあの謎の美女だ。
 
 
 (34)へつづく

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