オヤジ達の白球(31)ミスターX
「投げるときは、まっすぐキャッチャーへ向かって足を踏み込む。
大切なことは投球動作の開始から投げ終わるまで、キャッチャーのミットを
しっかり見続けることだ」
「えっ。たったそれだけでコントロールが良くなるのか?」
「当たり前だ。これは基本中の基本だ。
この程度のことが出来なければ、今後の上達の見込みはまずない。
つぎに腕の力だけで投げようとしないことだな。
下半身を含めて、体全体を使って投げることがなによりも大切になる」
「なるほどね。腕だけではなく、身体全体を使ってボールを投げるのか」
「初心者はどうしても、上半身が先に動きがちになる。
だが上半身から先に動き出すフォームだと、腰が入らず、下半身の力が伝わらない。
それではスピードにのったボールも投げられない。
コントロールも安定しない」
「上半身と下半身の動きを、上手にリンクさせるということか?」
「そういうことだ。なかなかに筋がいいぞお前さんは。理解が早いな岡崎。
なんだかお前さんのほうが、坂上よりセンスが良さそうだ。
全体の動きが、バラバラにならないように注意する必要がある。
ロボットのようにギクシャクと動いたら、まず駄目だ。
硬い動きでは、力が上手く伝わらない。
スムーズに、しなやかに動くことをイメージする。
それを前提に足のステップと、腕の振りのバランスを整えていく。
そのために普段からしっかり投げ込み、そいつをしっかり体に覚えこませる」
「なるほどな。基本はよくわかった。
次に、ワンランクあげるていくための、何かコツがあるか?」
「なんだよ。欲が深いなお前さんも。ボトル3本でそこまで聞くか。
まぁいい。
投げるとき、腕をむちのようにしならせて、素早く腕を振ることだ。
そうするとボールにキレとスピードが生まれる。
投げる瞬間。思い切り手首を返して、スナップを効かせる。
こうするとボールのキレが格段にあがる。
まぁ、初心者の猿に出来ることといえば、このあたりで限界だな」
「ありがたい。ずいぶん分かりやすい解説だ。
あとで坂上のやつに、俺からのアドバイスだと言って伝えておこう。
で・・・ついでにおまえさんへの本題だが、そいつも聞いてくれるかな?」
メモを胸ポケットへしまい終えた岡崎が、北海の熊に向かってニヤリと笑う。
「実は今度の試合なんだが、どうにも投手が坂上ひとりじゃ不安すぎる。
そこでお前さんに、白羽の矢をたてた」
「なんだぁ?ひょっとすると俺に、坂上のリリーフをしてくれと言う頼みか?」
「そう言うことだ。助かる、とにかくお前さんは話が早くて」
岡崎がニコリと笑う。
熊の目の前にずいと、右手の5本指を突き出す。
「追加しょう。大盤振る舞いだ。山崎のフルボトル、5本で契約してくれ。
ただしおまえさんは、あの乱闘事件の一件以来、無期限の永久追放にされている身だ。
そこでだ。ミスターⅩとして登録しておく。
したがって投げるときには、サングラスとマスクで顔を隠してくれ」
「ミスターⅩ・・・ああ、”わたし、失敗しないので”という、例のあれか!」
「失敗しないのは女医だ。あっちはドクターⅩ。
おまえさんはミスターⅩだ。。
サングラスとマスクで顔と正体を隠した謎の投手、ミスターⅩということさ」
「なるほど、正体を隠して登板するのか。
だがよ。ホントにいいのかよ、俺が投げても。
事実をしったら町の体協の連中が、目を丸くして驚くぜ」
「いま大将が対策を考えてくれている。
だがいまのところは、素顔のままじゃまずい。
しばらくは顔を隠せ。ミスターⅩとして、うちのチームで投げてくれ」
「山崎をあと2本、追加しろ。。今年の夏は例年になく暑くなるそうだ。
くそ暑い中。マスクとサングラスで顔を隠していたんじゃ、それだけで
熱中症になりそうだ」
「そうだな。とにかく熱くなりそうだ。今年の夏は。
だがよ。ひさしぶりに楽しい夏がやってきそうだ。
なんだかよ。試合するのがいまから、がぜん、楽しみになって来たぜ」
(32)へつづく
落合順平 作品館はこちら
「投げるときは、まっすぐキャッチャーへ向かって足を踏み込む。
大切なことは投球動作の開始から投げ終わるまで、キャッチャーのミットを
しっかり見続けることだ」
「えっ。たったそれだけでコントロールが良くなるのか?」
「当たり前だ。これは基本中の基本だ。
この程度のことが出来なければ、今後の上達の見込みはまずない。
つぎに腕の力だけで投げようとしないことだな。
下半身を含めて、体全体を使って投げることがなによりも大切になる」
「なるほどね。腕だけではなく、身体全体を使ってボールを投げるのか」
「初心者はどうしても、上半身が先に動きがちになる。
だが上半身から先に動き出すフォームだと、腰が入らず、下半身の力が伝わらない。
それではスピードにのったボールも投げられない。
コントロールも安定しない」
「上半身と下半身の動きを、上手にリンクさせるということか?」
「そういうことだ。なかなかに筋がいいぞお前さんは。理解が早いな岡崎。
なんだかお前さんのほうが、坂上よりセンスが良さそうだ。
全体の動きが、バラバラにならないように注意する必要がある。
ロボットのようにギクシャクと動いたら、まず駄目だ。
硬い動きでは、力が上手く伝わらない。
スムーズに、しなやかに動くことをイメージする。
それを前提に足のステップと、腕の振りのバランスを整えていく。
そのために普段からしっかり投げ込み、そいつをしっかり体に覚えこませる」
「なるほどな。基本はよくわかった。
次に、ワンランクあげるていくための、何かコツがあるか?」
「なんだよ。欲が深いなお前さんも。ボトル3本でそこまで聞くか。
まぁいい。
投げるとき、腕をむちのようにしならせて、素早く腕を振ることだ。
そうするとボールにキレとスピードが生まれる。
投げる瞬間。思い切り手首を返して、スナップを効かせる。
こうするとボールのキレが格段にあがる。
まぁ、初心者の猿に出来ることといえば、このあたりで限界だな」
「ありがたい。ずいぶん分かりやすい解説だ。
あとで坂上のやつに、俺からのアドバイスだと言って伝えておこう。
で・・・ついでにおまえさんへの本題だが、そいつも聞いてくれるかな?」
メモを胸ポケットへしまい終えた岡崎が、北海の熊に向かってニヤリと笑う。
「実は今度の試合なんだが、どうにも投手が坂上ひとりじゃ不安すぎる。
そこでお前さんに、白羽の矢をたてた」
「なんだぁ?ひょっとすると俺に、坂上のリリーフをしてくれと言う頼みか?」
「そう言うことだ。助かる、とにかくお前さんは話が早くて」
岡崎がニコリと笑う。
熊の目の前にずいと、右手の5本指を突き出す。
「追加しょう。大盤振る舞いだ。山崎のフルボトル、5本で契約してくれ。
ただしおまえさんは、あの乱闘事件の一件以来、無期限の永久追放にされている身だ。
そこでだ。ミスターⅩとして登録しておく。
したがって投げるときには、サングラスとマスクで顔を隠してくれ」
「ミスターⅩ・・・ああ、”わたし、失敗しないので”という、例のあれか!」
「失敗しないのは女医だ。あっちはドクターⅩ。
おまえさんはミスターⅩだ。。
サングラスとマスクで顔と正体を隠した謎の投手、ミスターⅩということさ」
「なるほど、正体を隠して登板するのか。
だがよ。ホントにいいのかよ、俺が投げても。
事実をしったら町の体協の連中が、目を丸くして驚くぜ」
「いま大将が対策を考えてくれている。
だがいまのところは、素顔のままじゃまずい。
しばらくは顔を隠せ。ミスターⅩとして、うちのチームで投げてくれ」
「山崎をあと2本、追加しろ。。今年の夏は例年になく暑くなるそうだ。
くそ暑い中。マスクとサングラスで顔を隠していたんじゃ、それだけで
熱中症になりそうだ」
「そうだな。とにかく熱くなりそうだ。今年の夏は。
だがよ。ひさしぶりに楽しい夏がやってきそうだ。
なんだかよ。試合するのがいまから、がぜん、楽しみになって来たぜ」
(32)へつづく
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