上州の「寅」(17)
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出口でサングラスの大前田氏が待っていた。
「無事に来たな。ご苦労」片手をあげて合図する。
「これが当座の軍資金。これがチケット。
心配するな。あとで給料から天引きするから前借だとおもえ。
それからこれは先方へわたす大事な荷物だ。
機内に持ち込んでだいじに管理しろ。ぜったい無くすな。
これが現地の連絡先だ。着いたら電話しろ。
じゃな。気をつけていけ」
手にしていた中型のボストンバッグをひょいと差し出す。
寅が受け取る。ずしりと重い。なんだ、この重さは・・・
「まっ、待ってください。これから僕はどこへ向かうのですか?」
「言ってなかったか?。チケットの行き先を見ろ。九州だ」
「き・・・九州!。なんでまたそんな遠いところへ!」
「新幹線じゃ時間がかかりすぎる。遠いから飛行機を使うのさ。
気をつけていけよ。あとのことは現地の人間に聞け。
じゃなぁ」
大前田氏が肩を揺らして立ち去っていく。
(ええ・・・どうなっているんだ・・・いったい、ぜんたい・・・)
キツネのつままれて立ちつくしている寅を、大前田氏の怒声がおそう。
「こらぁ!。さっさと行動せんか!。
ぐずぐずしていると飛行機に乗り遅れるぞ!」
「あっ、はい」弾かれたように寅がエスカレーターへ飛び乗る。
飛行機に乗るのは初めてだ。
(まいったなぁ・・・)封筒を裏返したとき、汚いメモが目に飛び込んできた。
①カウンターでチェックイン
②大きな荷物はあずける
③保安検査を受ける
④搭乗ゲートへ行く 以上
と手順が書いてある。
寅が手にしているチケットは、50分後に飛び立つ格安の片道チケット。
(特攻隊じゃあるまいし、片道チケットでいきなり鹿児島へ行くのか)
とりあえず搭乗券をもらうため、カウンターへ急ぐ。
「チェックインは機械でできます。そちらでどうぞ。
搭乗券を受け取りましたら、荷物をあずけるカウンターへ向かってください。
機内へ持ち込める荷物には制限がありますので」
係員が大前田氏からあずかったボストンバッグへ目をつけた。
「お客さん。重そうですね。
機内へ持ち込めるのは、10㎏までです。
念のため確認させてください」
「大切なものだから機内へ持ち込めといわれていますので」
「大切なものですか。中身はなんでしょう?」
「大切なものとしか聞いていません」
「中身を確認させてください」
係員がボストンバッグをあける。
中から白い粉が入ったビニール袋が出てきた。ひとつおよそ1㎏。
それが全部で15個も出てきた。
「お客さん。なんですか?。これは?」
(18)へつづく