落合順平 作品集

現代小説の部屋。

上州の「寅」(18)中味は? 

2020-08-13 15:57:59 | 現代小説
上州の「寅」(18) 




 「大量の白い粉が出た!」


 保安検査場が騒がしくなってきた。
係員たちがいそがしく出入りする。
緊張ぎみの警備員たちが、ぐるり寅のまわりにあつまってきた。
麻薬犬までやって来た。


 (なんだいったい・・・なんの騒ぎだ)


 寅はただぼんやり立ち尽くしている。
無理もない。騒ぎの原因が自分にあることにまったく気づいていない。
係員のひとりが寅を、こちらへと手招きする。
テーブルの上に15個の白いビニール袋が、積み上げてある。


 「なんですか?。これは?」


 「知りません。大事な荷物だと知り合いからあずかりました」


 「開封していいですね」


 係員が白い袋を指さす。
いまさら嫌だと断れる雰囲気でない。


 「念のためです。中身を確認させていただきます」


 係員が白い粉の入ったビニール袋をもちあげる。
ハサミで開封する。
匂いを嗅ぐ。匂いはなさそうだ。
少量を指にとる。さらさらと指から粉がこぼれおちる。


 「さらさらしているな」


 「砂糖か?」


 「砂糖ではなさそうだ」


 「塩か?」


 「塩でもなさそうだな」


 「味はどうだ?」


 味?。正体不明の粉の味を確認するのか・・・?。
係員の目が自分の指先についた白い粉を見つめる。
さすがにためらいが有るようだ。


 「どうした?。舐めんのか?」


 係員の背後へ屈強な男があらわれた。
現場の上司らしい。
「どれ。見せろ」係員から白い粉の袋を受け取る。
おもむろに袋の中へ指をさし込む。
そのままぺろりと口の中へ、粉のついた指をさしこむ。


 「甘くないな。しょっぱくもないぞ。
 ふむ。味はまったくないな・・・」


 塩でも砂糖でもない。まったく味のない白い粉。
危険なものではなさそうだ。
それが証拠にとつぜんあらわれた上司は、自分の指をきれいに舐めた。
大麻やマリファナではないようだ。


 「プロテインだ。俺が飲んでいるやつと同じだな」


 「プロテイン!」


 「筋肉を増強したいときに呑む、あのプロテイン?」


 「うむ。危険なものではないようだ。
 お客さん。お手間をとらせました。危険人物の容疑は晴れました。
 しかし重量が15㎏ある。機内へ持ち込めるのは10㎏までです。
 残念ながらこちらの荷物は機内へ持ち込めません。
 機内荷物として預かりますので、あちらのカウンターで手続きしてください。
 お騒がせしました。どうぞお通りください。
 はい。お待たせしました。次の方どうぞ」


 


(19)へつづく