落合順平 作品集

現代小説の部屋。

上州の「寅」(21)赤信号

2020-08-20 17:07:25 | 現代小説
上州の「寅」(21)


 それから1時間後。チャコが軽トラックに乗ってやってきた。
軽トラック?。


 「軽トラ?。いままで乗っていたワンボックスはどうしたの?」


 「仕事の都合上、こいつのほうが便利なのさ。
 これ。悪路でも走れるフルタイムの4WD(4輪駆動)よ」


 「農業でもはじめたの?」


 「行けばわかる。
 これからまた携帯の圏外まで帰るけど、覚悟はいいね」


 「覚悟?。いったいなんの覚悟だ」


 「3日や4日じゃ帰れない。
 はやくて1年。ひょっとすると3~4年は帰れないかもね」


 「ちょっと待て。聞いてないぞそんな話!。初耳だ」


 「あら。義父から何も聞かされていないの?。
 おかしいな。長くいられる奴を送り込むと言っていたのに。
 候補がいるのと聞いたら、うってつけの奴が居ると自信たっぷりだった」


 「それが僕だというのか?。
 大学はどうすんだ。あと1年で卒業だ」


 「卒業したあと、どうするつもりだったの。あんたは」


 「決まっているだろう。デザイン関係の仕事へ着く」


 「あんたを採用する就職先があるの?」


 「あるさ。おれは商品デザイナーになるんだ」


 「あんた。単位足りてないでしょ。
 卒業できるかどうかもわからない落ちこぼれのくせに、よく言うわ」


 「な・・・何で知ってる。おれの成績まで!」


 「テキヤの情報力を甘くみないで」


 「大学にスパイでも居るのか?」


 「調べればわかることだわ」


 「適当に言うな。大学が個人情報をもらすはずがない」


 「大学の情報管理は完璧です。
 正攻法ではだめでも、なかにはもろい人もいるわ」


 「誰かしゃべった奴がいるのか?」


 「あんたの通っているゼミの大学教授。
 還暦ジジィのくせに、若い娘にめっぽう目がないでしょう。
 色仕掛けで誘ったら尻尾をふってついてきたわ」


 「君が誘惑したのか?」
 
 「チョロいものよ。大学の教授なんて。
 わたしが本気で色気を見せれば、それだけでイチコロさ」


 「どうやって落とした?」


 「ホテルの入り口のところで写真を盗撮させた。
 これを奥さんに見せれば、あんたもおしまいだねと脅迫した」


 「美人局(つつもたせ)で脅かしたのか」
 
 「効果はてきめんだった。
 あんたのこと、あらいざらい全部しゃべったわ。
 才能ないんだって。あんた。
 デザイナーとしての未来に赤信号がともっているそうよ」


 「あ・・・赤信号が!。ホントかよ」


(22)へつづく