医者から詳しく聞かされない医療情報:セカンドオピニオン

誤解と批判を恐れない斜め後ろから見た医療情報

心房細動に対する新しい抗凝固療薬イグザレルトの臨床試験のワーファリン群の脳出血が多すぎる件(その1)

2016年12月19日 | 循環器
米国心臓協会学会で発表するためにニューオリンズに行ってきました。
レイト・ブレイキング・クリニカル・トライアルの会場で以下の臨床研究の結果を聴きました。

Prevention of bleeding in patients with atrial fibrillation undergoing PCI
N Engl J Med November 14, 2016DOI: 10.1056/NEJMoa1611594
(インパクトファクター★★★☆☆、研究対象人数★★★★★)

これは、心臓の血管に対してステント治療をすると動脈系のさらさら療法として2種類の抗血小板薬を内服しなければならないのですが、そんな患者が心房細動の場合、静脈系のさらさら療法として抗凝固薬を内服しなければならなくなり、合計3種類内服しなければならないけれど、このような場合でも新しい抗凝固薬であるイグザレルトの効果は従来の薬ワーファリンと比較してどうか、という臨床研究です。

結果は、ワーファリンと比較して出血性の病気が少なかったので、新しい抗凝固薬であるイグザレルトの方が良い場合がある、ということでした。

原文はこちらです。

http://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa1611594


以前、心房細動に対する新しい抗凝固療薬エリキュースの臨床試験のワーファリン群の脳出血が多すぎる件(その2)

の記事で、新しい抗凝固薬であるエリキュースの臨床試験を計画した医者や製薬会社の人間は、トルコ、韓国、プエルトリコ、ウクライナ、フィリピン、ロシア、ルーマニア、中国、メキシコ、ブラジルなどでは上手にワーファリンでコントロールできないことを知っていて、自社の薬の成績を良く見せるために意図的に医療後進国臨床試験に組み込んだということをお伝えしました。

上の図の右側が今回の臨床試験に参加した国です。レイト・ブレイキング・クリニカル・トライアルの会場で表示されていました。

でました!国家ぐるみでドーピング、ハッキングしてもシラをきるロシアが265人も参加しています。参加人数はドイツの295人に次いで二番目です。その他、例のごとく、ルーマニア、メキシコ、ウクライナ、ブラジル、チリなんて国も参加しています。

よほど、ワーファリン群の成績を悪くしたかったのでしょうね。あ~あ、という感じです。

↓なるほどなぁ~と思われた方!ここをポチッ、応援よろしくお願いいたします。
「ブログランキング」

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

悪玉コレステロール値は80未満でも100~119でも動脈硬化性心臓病の発症は同じ

2016年10月21日 | 循環器
以前、京大の医者は本当に私たちに有益なデータを公開してくださるというお話をしました。。
私が「循環器内科の良心」と認識している京大K教授、素晴らしいです。CREDO-Kyoto研究の益々の発展をお祈りしています。そんな京大からの報告です。

東大の場合は製薬会社の広告塔になっていかに名誉と講演料を増やすか考えている医者が障壁となりますから(全員ではありません)東大からはこういうデータはほとんど出ません。


これは「二次予防」すなわち一度狭心症や心筋梗塞にかかった方が次の発症を予防するためのデータです。
Intensity of Statin Therapy, Achieved Low-Density Lipoprotein Cholesterol Levels and Cardiovascular Outcomes in Japanese Patients After Coronary Revascularization
Circ J 2012;76:1369
(インパクトファクター★★☆☆☆、研究対象人数★★★★★)

原文もここからダウンロードできます

https://www.jstage.jst.go.jp/article/circj/76/6/76_CJ-11-1356/_pdf

この研究では心臓の血管に風船治療やステント治療を受けた(二次予防)患者で、初めて治療をうけ退院の時点で悪玉コレステロール低下薬を内服している患者7,299人が対象となり、その後2年間の、動脈硬化性心臓病の発症率が調査されました。

その結果、
図A、悪玉コレステロール値80mg/dl未満の患者と80~99mg/dlの患者で、その発症に差がありませんでした。

図B、悪玉コレステロール値80~99mg/dlの患者と100~119mg/dlの患者で、その発症に差がありませんでした。

図C、悪玉コレステロール値120mg/dl以上では80~99mg/dlの患者と比較して、その発症が増えました。

すなわち、悪玉コレステロール値100~119mg/dlであれば、それ以下すなわち80~99mg/dlや80mg/dl未満の場合と動脈硬化性心臓病の発症率に差がありませんでした。

欧米人と異なり、日本人の場合、二次予防であっても、悪玉コレステロール値は100~119mg/dlで良いということです。

↓なるほどなぁ~と思われた方!ここをポチッ、応援よろしくお願いいたします。
「ブログランキング」
コメント (2)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

心房細動に対する新しい抗凝固療薬エリキュースの臨床試験のワーファリン群の脳出血が多すぎる件(その11)

2016年10月21日 | 循環器
アリストテレス研究のコマーシャルスライドでは、ワーファリン群の脳出血はもっと多いです。

多すぎですよね、ロシアとかメキシコとかルーマニアでは、日本のようにワーファリンで上手にコントロールできなかったのでしょう。

日本の医者がワーファリンを使用すれば、脳出血の発症率は以前お伝えしたように、
心房細動に対する新しい抗凝固療薬エリキュースの臨床試験のワーファリン群の脳出血が多すぎる件(その8)

血液のさらさら度を示すPT-INRを1.6~1.99でコントロールすれば、年間0.25%です。

外国のお医者さん、ワーファリンでの治療の仕方が下手すぎませんか?

それを日本の医療に当てはめることはできませんね。

↓なるほどなぁ~と思われた方!ここをポチッ、応援よろしくお願いいたします。
「ブログランキング」
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

心房細動に対する新しい抗凝固療薬エリキュースの臨床試験のワーファリン群の脳出血が多すぎる件(その10)

2016年09月07日 | 循環器
欧州心臓病学会で発表するためにローマに行ってきました。今回は3題の口頭発表をしました。診療、論文執筆、原稿執筆、論文審査で多忙なうえ、発表の準備で睡眠時間を削る毎日です。

口頭発表する準備の時間もあまりありませんので、ほとんどアドリブ状態になってしまいます

さて、私はこれまで心房細動に対する新しい抗凝固療薬の臨床研究のワーファリン群の脳出血が多すぎる件を9回にわたりお伝えしてきました。

今回の欧州心臓病学会でも、この件に関する発表がありましたので、お伝えします。

上の図が、ネットで発表された学会のステートメントです。私なりに和訳してみます。
「43,000人の調査で、新しい抗凝固療薬を使用した場合の脳梗塞の発症率は年間2.0%~2.5%でワーファリンを使用した場合と同じだったが、脳出血の発症率は新しい抗凝固療薬を使用した場合は年間0.3%~0.4%で、ワーファリンを使用した場合の年間0.6%より少なかった」

でも、ちょっと待ってください。日本の医者がワーファリンを使用すれば、脳出血の発症率は以前お伝えしたように、
心房細動に対する新しい抗凝固療薬エリキュースの臨床試験のワーファリン群の脳出血が多すぎる件(その8)

血液のさらさら度を示すPT-INRを1.6~1.99でコントロールすれば、年間0.25%です。

外国のお医者さん、ワーファリンでの治療の仕方が下手すぎませんか?

日本のお医者さんがワーファリンで治療すれば、脳出血の発症率は年間0.25%で、新しい抗凝固療薬を使用した場合と同じです。

なんだかなぁ~この発表、という感じです。

日本のお医者さんは世界で最高レベルです。こんな発表の結果など、日本の場合参考になりません。


↓なるほどなぁ~と思われた方!ここをポチッ、応援よろしくお願いいたします。
「ブログランキング」
コメント (1)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

心房細動に対する新しい抗凝固療薬エリキュースの臨床試験のワーファリン群の脳出血が多すぎる件(その9)

2016年08月04日 | 循環器
私が「循環器内科の良心」と認識している京大K教授、素晴らしいです。そんな京大からの報告です。
東大からはこういうデータがなかなか出てきません。

Anticoagulant and antiplatelet therapy in patients with atrial fibrillation undergoing percutaneous coronary intervention.
Am J Cardiol. 2014 Jul 1;114(1):70-8.
(インパクトファクター★★☆☆☆、研究対象人数★★★★★)


本来この臨床研究は、心筋梗塞や狭心症で心臓の血管にステント療法を受けた患者のその後を調べようと行われているCREDO-KYOTOというものですが、その患者が心房細動の場合にどれぐらいワーファリンによる抗凝固療法(静脈のさらさら療法)が行われ、脳梗塞や脳出血の発症率はどうなのか5年間調査されたものです。素晴らしいです。

以前、心房細動に対する新しい抗凝固療薬エリキュースの臨床試験のワーファリン群の脳出血が多すぎる件(その1)の記事で、プラザキサ、イグザレルト、エリキュースの3種類の臨床試験でのワーファリン投与群というのは、コントロールの仕方がとても下手で、ほとんどワーファリンを投与していない群に近い群であるということをお伝えしました。

そして以前、心房細動に対する新しい抗凝固療薬エリキュースの臨床試験のワーファリン群の脳出血が多すぎる件(その2)の記事で、エリキュースのこの臨床試験を計画した医者や製薬会社の人間は、トルコ、韓国、プエルトリコ、ウクライナ、フィリピン、ロシア、ルーマニア、中国、メキシコ、ブラジルなどでは上手にワーファリンでコントロールできないことを知っていて、自社の薬の成績を良く見せるために意図的に医療後進国臨床試験に組み込んだということをお伝えしました。

今回のCREDO-KYOTOという臨床研究では、心筋梗塞や狭心症で心臓の血管にステント療法を行われた患者を対象にしており、治療後、抗血小板療法(動脈のさらさら療法)を2種類の薬で行わねばならない患者で、医者としては、すでに2種類の薬でさらさら療法をしているのに、さらに3剤目で静脈のさらさら療法を行わなければならない「3種類もの薬でさらさらにして大丈夫?」という心理が働く患者を対象にしています。

図の上は、これまで説明してきたアリストテレス研究での脳梗塞・脳出血の年間発症率です。そして、下の右側は今回のCREDO-KYOTOからで、「3種類もの薬でさらさらにして大丈夫?」という医者の心理を反映してワーファリンでコントロールするうえで弱めにしてしまって、TTRが65%以下が3分の2以上であることを示しています。

図の下の左ですが、これは5年間での数値です。年間にするには5で割らなければなりません。どうでしょうか?上の方、心房細動があるほうが当然脳梗塞は多いです。2.2%対0.88%です。心房細動がない患者は今回関係がないので、心房細動がある患者で考えます。

心房細動がある患者1,057人のうち、ワーファリンによる抗凝固療法を受けた場合と受けてない場合で、脳梗塞は2.3%/年対2.1%/年でほとんど変わらないのは印象的です。「3種類もの薬でさらさらにして大丈夫?」という医者の心理が働いて弱めにしてしまうからです。

心房細動がある患者1,057人のうち、ワーファリンによる抗凝固療法を受けた場合と受けてない場合で、脳出血は0.6%/年対0.3%/年です。

ここで、あれ~?っと思いませんか?上のアリストテレス研究では脳出血の発症率はエリキュースという新薬群で0.24%/年、ワーファリン群で0.47%/年です。

心筋梗塞や狭心症で心臓の血管にステント療法を行われた患者を対象にして、治療後、抗血小板療法(動脈のさらさら療法)を2種類の薬で行わねばならない患者で、医者としては、すでに2種類の薬でさらさら療法をしているのに、さらに3剤目で静脈のさらさら療法を行わなければならない「3種類もの薬でさらさらにして大丈夫?」という心理が働き弱めにワーファリンを投与している患者群で脳出血は0.6%/年(動脈硬化による病気の発症リスクが非常に高い患者群です。すでに2種類の薬でさらさら療法をしていて脳出血は起こりやすくなっています)で、アリストテレス研究のワーファリン群0.47%/年とほとんど差がありません。

つまり、アリストテレス研究でのワーファリン群というのは、「どれだけ下手に治療したんや~」群なのです。脳出血の発症が多すぎるのです。

さすが、トルコ、韓国、プエルトリコ、ウクライナ、フィリピン、ロシア、ルーマニア、中国、メキシコ、ブラジルなど医療後進国を参加させているだけあります。本当に「恐るべし、ファイザー製薬」であります。そしてそのファイザーの広告塔になってその薬の都合の良いことだけいう医者たちも恐るべしであります。

京大の先生方、今回も素晴らしい報告ありがとうございました。CRODO-KYOTO研究の益々の成功をお祈りしたします。

↓なるほどなぁ~と思われた方!ここをポチッ、応援よろしくお願いいたします。
「ブログランキング」
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

心房細動に対する新しい抗凝固療薬エリキュースの臨床試験のワーファリン群の脳出血が多すぎる件(その8)

2016年07月06日 | 循環器
それでは本題に戻します。
以前、心房細動に対する新しい抗凝固療薬エリキュースの臨床試験のワーファリン群の脳出血が多すぎる件(その2)

の記事で、エリキュースのこの臨床試験を計画した医者や製薬会社の人間は、トルコ、韓国、プエルトリコ、ウクライナ、フィリピン、ロシア、ルーマニア、中国、メキシコ、ブラジルなどでは上手にワーファリンでコントロールできないことを知っていて、自社の薬の成績を良く見せるために意図的に医療後進国臨床試験に組み込んだということをお伝えしました。

そして以前、エリキュースの臨床試験の論文と、医療後進国の、トルコ、韓国、プエルトリコ、ウクライナ、フィリピン、ロシア、ルーマニア、中国、メキシコ、ブラジルなどが参加していない日本国内だけの研究結果を比較ました。以前は年齢別になっていない全体の比較だったのですが、心房細動で脳梗塞、薬を飲んで脳出血なんていう話はほとんど高齢者での話ですので、日本国内だけの研究では70歳未満と70歳以上のデータに分けても分析されていて素晴らしいです。

今回はその結果についてです、比較対象のエリキュースの臨床試験は年齢の中央値が70歳ですから、つまり70歳未満が半数、70歳以上が半数の分析ということになります。70歳未満の若い人は脳梗塞にも脳出血にもなりにくいので、70歳以上を解析した日本の研究と、若い人も入れて解析してあるエリキュースの研究では、日本の研究の方が不利になる条件での比較です。

上の図の上は、エリキュースの臨床試験の論文に載っている結果です。
Apixaban versus Warfarin in Patients with Atrial Fibrillation
N Engl J Med 2011;365:981-992.
(インパクトファクター★★★★★、研究対象人数★★★★★)

赤色で私が囲ったところが脳出血です。アピキサバンすなわちエリキュース群では年間0.24%、ワーファリン群では0.47%です。

一方上の図の下は、日本国内だけの研究J-RHYTHM研究の結果です。
Target International Normalized Ratio Values for Preventing Thromboembolic and Hemorrhagic Events in Japanese Patients With Non-Valvular Atrial Fibrillation
–Results of the J-RHYTHM Registry–
Circ J 2013;77:2264-2270.
(インパクトファクター★★☆☆☆、研究対象人数★★★★★)

無料でダウンロードできますので、原文も見てください。

https://www.jstage.jst.go.jp/article/circj/77/9/77_CJ-13-0290/_article


これは2年間の結果ですから、私が計算して年間の脳出血の発生率を記載しました。ワーファリンを内服していないと年間0.11%、ワーファリンを内服して血液のさらさら度を示すPT-INRが低いと年間0.22%、PT-INRがちょうど良く1.6~1.99にコントロールされると年間0.25%です。

エリキュースの臨床試験のワーファリン群での0.47%は発症率が日本の研究の結果より1.5倍高いことがわかります。基準値内とはいえ、2.0~2.59ではさすがに日本でも発症率は年間0.70%になります。

さて、脳梗塞についてですが、
青色で私が囲ったところが脳梗塞です。アピキサバンすなわちエリキュース群では二項目合わせて年間0.97%、ワーファリン群では1.05%です。

ところが、日本国内だけの研究J-RHYTHM研究の結果を見ると、
これは2年間の結果ですから、私が計算して年間の発生率を記載しました。ワーファリンを内服していないと年間1.96%ですが、ワーファリンを少しでも内服して血液のさらさら度を示すPT-INRが1.6に達していなくても発症は年間1.13%に有意に抑制させることができているのがわかります(これは私が自分でカイ2乗検定をして確かめていますし、この解析でも明らかになっています)。そして、PT-INRがちょうど良く1.6~1.99にコントロールされると脳梗塞の発症率は年間0.77%です。これはエリキュースの臨床試験のエリキュース群0.97%、ワーファリン群1.05%より良好な数字です。

これらの結果から、本当はPT-INRが1.6~1.99が一番良い(つまり脳梗塞も抑制できているが2.0以上にすると脳出血が少し増えてくるから)し、1.6に達していなくても1.4や1.5でもワーファリンの効果は十分あるということがわかります。ガイドラインでは「1.6~1.99が一番良い」とすると、PT-INRの範囲が狭いためコントロールしにくいと苦情が出ることを予想して、少し広めの範囲で1.6~2.6と決定されたと推測できます。

私はこの研究の結果を知っているので、70歳以上の患者の場合1.5~2.0でコントロールしています。例えば1.5であってもワーファリンを増量しません。それでも私のTTRは約85%です。

70歳以上であってもPT-INRが1.6~2.0にコントロールされていれば、トルコ、韓国、プエルトリコ、ウクライナ、フィリピン、ロシア、ルーマニア、中国、メキシコ、ブラジルなどでは上手にワーファリンでコントロールできない国のデータではなく、「上手に処方できる日本のお医者さんによる」ワーファリンの処方であれば、値段が10倍する新薬エリキュースよりもワーファリンの方が脳出血も脳梗塞も少ないことが一目瞭然です。

プラザキサ、イグザレルト、エリキュース、リクシアナを販売している、日本ベーリンガーインゲルハイム、バイエル、ファイザー、第一三共が、これらの新薬はワーファリンより脳出血が少ないと宣伝しているのにはトリックがいっぱいなのです。これは、公共性、公益性、真実性に誓って言えることです。


↓なるほどなぁ~と思われた方!ここをポチッ、応援よろしくお願いいたします。
「ブログランキング」

コメント (2)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

心房細動に対する新しい抗凝固療薬エリキュースの臨床試験のワーファリン群の脳出血が多すぎる件(その7)

2016年04月25日 | 循環器
以前心房細動に対する新しい抗凝固療薬エリキュースの臨床試験のワーファリン群の脳出血が多すぎる件(その2)

の記事で、エリキュースのこの臨床試験を計画した医者や製薬会社の人間は、トルコ、韓国、プエルトリコ、ウクライナ、フィリピン、ロシア、ルーマニア、中国、メキシコ、ブラジルなどでは上手にワーファリンでコントロールできないことを知っていて、自社の薬の成績を良く見せるために意図的に医療後進国臨床試験に組み込んだということをお伝えしました。

そして前回、医療後進国の、トルコ、韓国、プエルトリコ、ウクライナ、フィリピン、ロシア、ルーマニア、中国、メキシコ、ブラジルなどが参加していない日本国内だけの研究結果を紹介しました。

Target International Normalized Ratio Values for Preventing Thromboembolic and Hemorrhagic Events in Japanese Patients With Non-Valvular Atrial Fibrillation
–Results of the J-RHYTHM Registry–
Circ J 2013;77:2264-2270.
(インパクトファクター★★☆☆☆、研究対象人数★★★★★)

無料でダウンロードできますので、原文も見てください。

https://www.jstage.jst.go.jp/article/circj/77/9/77_CJ-13-0290/_article


これは2年間の結果ですから、私が計算して年間の発生率を記載しました。ワーファリンを内服していないと年間0.15%、ワーファリンを内服して血液のさらさら度を示すPT-INRが低いと年間0.24%、PT-INRがちょうど良く1.6~1.99にコントロールされると年間0.32%です。

エリキュースの臨床試験のワーファリン群での0.47%は発症率が日本の研究の結果より1.5倍高いことがわかります。

ところが、日本国内だけの研究J-RHYTHM研究の結果を見ると、
これは2年間の結果ですから、私が計算して年間の発生率を記載しました。ワーファリンを内服していないと年間1.45%ですが、ワーファリンを少しでも内服して血液のさらさら度を示すPT-INRが1.6に達していなくても発症は年間0.87%に有意に抑制させることができているのがわかります(これは私が自分でカイ2乗検定をして確かめています)。そして、PT-INRがちょうど良く1.6~1.99にコントロールされると脳梗塞の発症率は年間0.57%です。これはエリキュースの臨床試験のエリキュース群2.16%、ワーファリン群2.66%より断然良好な数字です。

これらの結果から、本当はPT-INRが1.6~1.99が一番良い(つまり脳梗塞も抑制できているが2.0以上にすると脳出血が少し増えてくるから)し、1.6に達していなくても1.4や1.5でもワーファリンの効果は十分あるということがわかります。ガイドラインでは「1.6~1.99が一番良い」とすると、PT-INRの範囲が狭いためコントロールしにくいと苦情が出ることを予想して、少し広めの範囲で1.6~2.6と決定されたと推測できます。

私はこの研究の結果を知っているので、70歳以上の患者の場合1.5~2.0でコントロールしています。例えば1.5であってもワーファリンは増やしません。それでも私のTTRは約90%です。

今回はその研究のサブ解析で、サラサラ度を示すPT-INRをもう少し細かく分類して、どの領域が一番いいかを調べた研究です。
Warfarin anticoagulation intensity in Japanese nonvalvular atrial fibrillation patients: A J-RHYTHM Registry analysis.
Yamashita T, Inoue H, Okumura K, et al.
J Cardiol 2015;65:175.

(インパクトファクター★☆☆☆☆、研究対象人数★★★★★)

ご覧になってわかるように、脳梗塞・全身性塞栓症の予防ではPT-INR 1.8~2.0と比較してPT-INR=1.4までは効果がありませんが、1.4より上では効果が認められています。しかも前回お伝えしたように、日本人の医者が上手にコントロールしていますので、プラザキサ、イグザレルト、エリキュース、リクシアナよりも発症率は低いのです。

脳出血の予防ではPT-INR 1.5~2.0と比較してPT-INR=2.5までは発症が増えます。

この2つの結果から、日本人の医者がコントロールすれば、1.4~2.5の間が一番予防に効果的で、その発症率はプラザキサ、イグザレルト、エリキュース、リクシアナよりも低いのです。

これが私の患者でPT-INRが1.5と、1.6以下になってもワーファリンを増やさずに1回様子を見る理由です。

どうですか?医療後進国の、トルコ、韓国、プエルトリコ、ウクライナ、フィリピン、ロシア、ルーマニア、中国、メキシコ、ブラジルなど参加させずに、日本人の医者がコントロールすればワーファリン群は脳梗塞も脳出血もエリキュース群より少ないのです。

この論文の著者は、これらの製薬会社の断トツの広告塔だったのに自分でこのサブ解析をやって、どうも自分が言っていることの間違いに途中から気がついたようで、広告塔としてのトーンを急に弱めましたよね。そう感じた医者の皆さんも多かったと思います。

プラザキサ、イグザレルト、エリキュース、リクシアナを販売している、日本ベーリンガーインゲルハイム、バイエル、ファイザー、第一三共が、これらの新薬はワーファリンより脳出血が少ないと宣伝しているのにはトリックがいっぱいなのです。そしてそれに乗せられた広告塔医師たちが誤った情報を流布しているのです。

国民に不利益になる(効果がそれほどでもない薬を高い値段で買わされるという(真実性))コメントが間違って公言されることがあれば、それは(公共性)(公益性)という観点からも大問題です。



まだまだエビデンスはたくさんありますので、順次お伝えします。

↓なるほどなぁ~と思われた方!ここをポチッ、応援よろしくお願いいたします。
「ブログランキング」
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

心房細動に対する新しい抗凝固療薬エリキュースの臨床試験のワーファリン群の脳出血が多すぎる件(その6)

2016年04月15日 | 循環器
以前、心房細動に対する新しい抗凝固療薬エリキュースの臨床試験のワーファリン群の脳出血が多すぎる件(その2)

の記事で、エリキュースのこの臨床試験を計画した医者や製薬会社の人間は、トルコ、韓国、プエルトリコ、ウクライナ、フィリピン、ロシア、ルーマニア、中国、メキシコ、ブラジルなどでは上手にワーファリンでコントロールできないことを知っていて、自社の薬の成績を良く見せるために意図的に医療後進国臨床試験に組み込んだということをお伝えしました。

今回はいよいよエリキュースの臨床試験の論文と、医療後進国の、トルコ、韓国、プエルトリコ、ウクライナ、フィリピン、ロシア、ルーマニア、中国、メキシコ、ブラジルなどが参加していない日本国内だけの研究結果を比較してみます。

上の図の上は、エリキュースの臨床試験の論文に載っている結果です。
Apixaban versus Warfarin in Patients with Atrial Fibrillation
N Engl J Med 2011;365:981-992.
(インパクトファクター★★★★★、研究対象人数★★★★★)

赤色で私が囲ったところが脳出血です。アピキサバンすなわちエリキュース群では年間0.24%、ワーファリン群では0.47%です。ちなみに、脳梗塞のなりやすさを示すCHADS2スコアーのこの研究での平均は2.1です。

一方上の図の下は、日本国内だけの研究J-RHYTHM研究の結果です。
Target International Normalized Ratio Values for Preventing Thromboembolic and Hemorrhagic Events in Japanese Patients With Non-Valvular Atrial Fibrillation
–Results of the J-RHYTHM Registry–
Circ J 2013;77:2264-2270.
(インパクトファクター★★☆☆☆、研究対象人数★★★★★)

無料でダウンロードできますので、原文も見てください。

https://www.jstage.jst.go.jp/article/circj/77/9/77_CJ-13-0290/_article

これは2年間の結果ですから、私が計算して年間の発生率を記載しました。ワーファリンを内服していないと年間0.15%、ワーファリンを内服して血液のさらさら度を示すPT-INRが低いと年間0.24%、PT-INRがちょうど良く1.6~1.99にコントロールされると年間0.32%です。ちなみに、脳梗塞のなりやすさを示すCHADS2スコアーのこの研究のワーファリン群の平均は1.8です。エリキュースの臨床試験より少し低いです。

これらの結果から、エリキュースの臨床試験のワーファリン群での0.47%は発症率が日本の研究の結果より1.5倍高いことがわかります。

さて、脳梗塞についてですが、
青色で私が囲ったところが脳梗塞です。アピキサバンすなわちエリキュース群では二項目合わせて年間2.16%、ワーファリン群では2.66%です。

ところが、日本国内だけの研究J-RHYTHM研究の結果を見ると、
これは2年間の結果ですから、私が計算して年間の発生率を記載しました。ワーファリンを内服していないと年間1.45%ですが、ワーファリンを少しでも内服して血液のさらさら度を示すPT-INRが1.6に達していなくても発症は年間0.87%に有意に抑制させることができているのがわかります(これは私が自分でカイ2乗検定をして確かめています)。そして、PT-INRがちょうど良く1.6~1.99にコントロールされると脳梗塞の発症率は年間0.57%です。これはエリキュースの臨床試験のエリキュース群2.16%、ワーファリン群2.66%より断然良好な数字です。

これらの結果から、本当はPT-INRが1.6~1.99が一番良い(つまり脳梗塞も抑制できているが2.0以上にすると脳出血が少し増えてくるから)し、1.6に達していなくても1.4や1.5でもワーファリンの効果は十分あるということがわかります。ガイドラインでは「1.6~1.99が一番良い」とすると、PT-INRの範囲が狭いためコントロールしにくいと苦情が出ることを予想して、少し広めの範囲で1.6~2.6と決定されたと推測できます。

私はこの研究の結果を知っているので、70歳以上の患者の場合1.5~2.0でコントロールしています。例えば1.5であってもワーファリンは増やしません。それでも私のTTRは約90%です。

医療後進国のトルコ、韓国、プエルトリコ、ウクライナ、フィリピン、ロシア、ルーマニア、中国、メキシコ、ブラジルなど参加させずに、日本人の医者がコントロールすればワーファリン群は脳梗塞も脳出血もエリキュース群より少ないのです。

プラザキサ、イグザレルト、エリキュース、リクシアナを販売している、日本ベーリンガーインゲルハイム、バイエル、ファイザー、第一三共が、これらの新薬はワーファリンより脳出血が少ないと宣伝しているのにはトリックがいっぱいなのです。そしてそれに乗せられた広告塔医師たちが誤った情報を流布しています。


(以下、m3より引用)
非弁膜症性心房細動(NVAF)に伴う全身性塞栓症および大出血イベントの発生は、新規(非ビタミンK阻害)経口抗凝固薬(NOAC)によって半減する可能性が、日本人における大規模観察研究J-RHYTHM Registry 2から示された。日本医科大学多摩永山病院内科・循環器内科の小谷英太郎氏らが、第80回日本循環器学会学術集会(3月18-20日、仙台市)で発表した結果で、NOAC群では抗凝固療法を行わなかった群に比べ、全身性塞栓症発生リスクが58%、大出血発生リスクが47%、有意に低下した。

 2009年開始のJ-RHYTHM Registryは2011年にいったん終了しているが、同年3月に登場したNOACの影響をみるため、期間を3年延長したJ-RHYTHM Registry 2が続けてスタートした。計5年の追跡で、ワルファリン療法の長期成績とNOAC服用患者のイベント発生率についての検討を続けている。小谷氏は今回、後者について報告を行った。

 J-RHYTHM Registry 2が対象としたのは6616例。このうち976例は最終的な治療内容が把握できず、残る5640例について解析が行われた。2009年時点では約85%の患者がワルファリン療法を受けていたが、データ解析時には約60%に低下し、代わって20%近くの患者がNOACを開始していた。いずれの抗凝固療法も受けていない患者(No-OAC)は登録時で13.3%、解析時で11.4%だった。追跡期間中の治療の変遷があるため、研究では最終的な治療内容に基づく3群(No-OAC群、ワルファリン群、NOAC群)で解析を行った。

 追跡期間中の全身性塞栓症発生率はNo-OAC群6%、ワルファリン群4.9%、NOAC群2.1%、大出血発生率はNo-OAC群4.8%、ワルファリン群5.9%、NOAC群2.4%で、いずれもNOAC群で有意に低かった。全死亡あるいは心血管死も同様にNo-OAC群で最も多く、NOAC群で最も少なかった(全P<0.001)。抗血小板薬併用の有無で分けて解析すると、「ワルファリン+抗血小板薬群」では大出血が有意に多く、全死亡および心血管死も有意に高率であったが、「NOAC+抗血小板薬群」ではそうした傾向は認められなかった。

 NOAC群では他2群に比べ低リスク患者が多かったため、CHA2DS2-VAScスコアおよび抗血小板薬の有無で補正して分析を行ったところ、No-OAC群に対するNOAC群の全身塞栓症発生オッズ比(OR)は0.42 (95%CI 0.24–0.74、P=0.003)、大出血発生オッズ比は0.53 (95%CI 0.31–0.93、P=0.027)と有意に低いことが分かった。全死亡および死血管死のリスクも有意に低かった。

 一方のワルファリン群では、全死亡および心血管死のリスク低下は有意だったものの、全身塞栓症のリスク低下は有意でなく、大出血リスクは有意でないがむしろ上昇傾向にあった。

 小谷氏は「NOACとワルファリンの両方に適応のある患者に関しては、NOACが推奨されることは既にガイドラインに記されているが、日本人NVAF患者の実臨床データからもNOACの便益が裏付けられた」と結論している。

 この発表にコメントした国立病院機構大阪医療センター臨床研究センターの是恒之宏氏は、NOACの良過ぎる成績に対する疑問を提起。「何らかの理由で抗凝固療法を続けられなかった患者はリスクが高いことが知られる。本解析ではNo-OAC群にワルファリン中断患者が45%ほど含まれる上、最終的な治療内容が把握できなかった患者が1000例近いなどの限界がある。これらを加味すれば、NOACの成績はここまでは良くなかった可能性がある」として、結果を慎重に解釈する必要性に言及している。
(ここまで引用)


ここの最後の方に別の医師が述べている
「NOACの良過ぎる成績に対する疑問を提起。「何らかの理由で抗凝固療法を続けられなかった患者はリスクが高いことが知られる。本解析ではNo-OAC群にワルファリン中断患者が45%ほど含まれる上、最終的な治療内容が把握できなかった患者が1000例近いなどの限界がある。これらを加味すれば、NOACの成績はここまでは良くなかった可能性がある」として、結果を慎重に解釈する必要性に言及している。」
私も、こちらの意見に賛成です。せめてプロペンシティー・スコアで両群の背景を揃えないと、結論は出せません。もう少し統計学を勉強する必要があります。</B>


↓なるほどなぁ~と思われた方!ここをポチッ、応援よろしくお願いいたします。
「ブログランキング」
コメント (5)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

心房細動に対する新しい抗凝固療薬イグザレルトの臨床試験のワーファリン群の脳出血が多すぎる件(その5)

2016年04月09日 | 循環器
前回、イグザレルトの臨床研究ロケット・スタディーのワーファリン群のTTRが世界全体で62%、日本だけで67%であり、ワーファリン投与群というのはほとんどワーファリン非投与群に近い群であるということをお伝えしました。

引き続き、衝撃的な事実です。BMJという信頼性の高い医学雑誌からです。

Rivaroxaban; Can we trust the evidence? BMJ 2016:352 i575

イグザレルト、私たちはその臨床試験の結果を信じられるのか?

まず、抄録の全文を記載します。

Doctors and scientists are calling for an independent investigation into the key trial underpinning use of rivaroxaban to prevent ischaemic stroke in non-valvular atrial fibrillation after The BMJ found that a defective point of care device was used in the warfarin arm of the trial.

Doctors and scientists have also told The BMJ that the validity of the trial—called ROCKET-AF and published in the New England Journal of Medicine in 20111—is in question until such independent analysis is done.

The drug was manufactured by Bayer and marketed in the United States by Janssen, part of Johnson and Johnson, and the companies relied on a single trial–ROCKET-AF—to gain approval from the US and European regulators. The trial included over 14 000 patients and found that rivaroxaban was non-inferior to warfarin for preventing ischaemic stroke or systemic embolism. There was no significant difference between groups in the risk of major bleeding—although intracranial and fatal bleeding occurred less often in the rivaroxaban group.

But there are now concerns about these outcomes. In a letter submitted to the NEJM (as yet unpublished) and shown to The BMJ, former FDA cardiovascular and renal drug reviewer, Thomas Marcinicak, says: “The care for the warfarin control arm patients [in ROCKET-AF] appears to have been compromised.”

Earlier last year, The BMJ found that the point of care device used to measure international normalised ratio (INR) in patients taking warfarin in ROCKET-AF had been recalled in December 2014. An FDA class I recall notice (the most serious kind) said that certain INR devices could deliver results that were “clinically significantly lower” than a laboratory method.

太字の箇所を私なりに意訳してみると
「イグザレルトの臨床研究ロケットAF・スタディーで使用されたワーファリンのコントロールの程度を示すPT-INR値を測定する器械はアメリカ食品医薬品局の最も重大なclass Iのリコールをしていた。その器械は実際の臨床的PT-INR値より低い値が表示されてしまい、医者の実際の診療は、患者が出血しやすい状態でコントロールされていた。」

すごい事実ですね。バイエルの社員から正直にこんな情報聴いたことないですよ。


心房細動に対する新しい抗凝固療薬の臨床試験のワーファリン群の脳出血が多すぎる件シリーズを書いていますが、まだその事実を示した論文をご紹介できていない状況です。その前に予習する事項が多いのでご了承下さい。

情報の続きはまだまだありますので、次回以降もどんどんお伝えします。

↓なるほどなぁ~と思われた方!ここをポチッ、応援よろしくお願いいたします。
「ブログランキング」
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

心房細動に対する新しい抗凝固療薬エリキュースの臨床試験のワーファリン群の脳出血が多すぎる件(その4)

2016年04月07日 | 循環器
5年前に心房細動に対する新しい抗凝固療法についてお伝えしました。5年前はまだ発売されていませんでしたので、今振り返ってみると時の流れは早いものです。

心房細動に対する新しい抗凝固療法プラザキサ

薬は、プラザキサ、イグザレルト、エリキュースの3種類と、最近リクシアナが加わり4種類になりました。

それらの薬はワーファリンを使用するより脳出血のリスクが少ないと宣伝され、多くの医者たちもそれらの宣伝に乗せられてその情報を信じていますが、私にはどうしてもそうは思えない根拠を多くのエビデンスからお伝えしているシリーズです。

前回、心房細動に対する新しい抗凝固療薬エリキュースの臨床試験のワーファリン群の脳出血が多すぎる件(その3)の復習です。

ワーファリンという薬を使う場合、血液検査のPT-INRという血液のサラサラ度を示す値を見ながら錠数を調節します。70歳未満では2.0~3.0、70歳以上では1.6~2.6を目標としています。そして例えば1月に1回測定して、合計10回のうち6回がその目標範囲ならTTRという指標(time in therapeutic range)は60%とされます。中には患者の方の要因でコントロールが悪くなる場合もありますが、できるだけ多くの平均を取るとワーファリンを処方する医者の「腕前」を示す指標のようなものです。

通常の専門医であれば目標のさらさら度である確率TTRという指標(time in therapeutic range)は80%はあると思います。私の診察のTTRは約90%です。

さて、上の図は、前回と同じ
Efficacy and Safety of Apixaban Compared With Warfarin at Different Levels of Predicted International Normalized Ratio Control for Stroke Prevention in Atrial Fibrillation
Circulation 2013;127:2166.
(インパクトファクター★★★★★、研究対象人数★★★★★)


からのものです。左から治療コントロールの善し悪しを示すTTR、上は研究全体の成績(脳梗塞、脳出血、大出血、死亡など)、下は全ての原因による死亡です。そして右の方の棒グラフは、ワーファリンの方が良いか高価な新薬の方が良いかを示すものです。

真ん中の縦棒を横棒が挟んでいれば両者引き分け、左にあれば新薬の成績が優れている、右にあればワーファリンの方が優れていることを示しています。

どうでしょうか、ワーファリンの成績を悪くしているのは、TTRが59.9%以下の群です。少なくとも「研究全体の成績(脳梗塞、脳出血、大出血、死亡など)」や「全ての原因による死亡」という項目ではTTRが60%以上あれば、両者の成績は同じです。

TTR 15.1%という、とんでもないお医者様もこの研究に参加なさっています。さぞかしこれら新薬の製薬会社の社員は喜んだことでしょう。こういうお医者様がワーファリン群の成績を下げて、新薬の成績を「勝ち」にしてくれるのですから。

そもそも、こういう臨床試験は他の臨床試験とは全く次元の異なるものです。

通常の前向き臨床試験で2種類の薬の効果を比較しようとする場合、当たり前のことですが、できるだけ両者ともちゃんと内服してくれるようにサポートします。

しかし、ワーファリンの前向き臨床試験の場合、どんなにちゃんと内服していようとも問題はTTRのコントロールがどれだけ良かったかに依存します。それから後日ご説明しますが、CHADS2スコアーといってその患者の脳梗塞になりやすさを評価したスコアーにも依存します。

以前お伝えしたように、ワーファリン群の成績を悪くしようと思えば、トルコ、韓国、プエルトリコ、ウクライナ、フィリピン、ロシア、ルーマニア、中国、メキシコ、ブラジルのお医者様方を参加させればよいのです。

心房細動に対する新しい抗凝固療薬エリキュースの臨床試験のワーファリン群の脳出血が多すぎる件(その1)でお伝えしたように、プラザキサ、イグザレルト、エリキュースの3種類の臨床試験でのワーファリン投与群というのはほとんどワーファリンからの利益が十分に享受できていない群であるということなのです。

先日、イグザレルトの臨床研究ロケット・スタディーのワーファリン群のTTRが平均どれぐらいであったか、バイエルの社員に尋ねてみました。たしか世界全体で62%、日本だけで67%とか。ワーファリン投与群というのはほとんどワーファリンからの利益が十分に享受できていない群であるということなのです。

情報の続きはまだまだありますので、次回以降もどんどんお伝えします。

↓なるほどなぁ~と思われた方!ここをポチッ、応援よろしくお願いいたします。
「ブログランキング」
コメント (3)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

心房細動に対する新しい抗凝固療薬エリキュースの臨床試験のワーファリン群の脳出血が多すぎる件(その3)

2016年04月03日 | 循環器
前回心房細動に対する新しい抗凝固療薬エリキュースの臨床試験のワーファリン群の脳出血が多すぎる件(その2)

の記事で、エリキュースのこの臨床試験を計画した医者や製薬会社の人間は、トルコ、韓国、プエルトリコ、ウクライナ、フィリピン、ロシア、ルーマニア、中国、メキシコ、ブラジルなどでは上手にワーファリンでコントロールできないことを知っていて、自社の薬の成績を良く見せるために意図的に医療後進国臨床試験に組み込んだということをお伝えしました。

今回はその続きで、ワーファリンという薬でのコントロールの上手さ別の治療効果をお伝えしたいと思います。前回と同じ医学論文からの情報です。

Efficacy and Safety of Apixaban Compared With Warfarin at Different Levels of Predicted International Normalized Ratio Control for Stroke Prevention in Atrial Fibrillation
Circulation 2013;127:2166.
(インパクトファクター★★★★★、研究対象人数★★★★★)

上の図の、(C)がTTRが60.6%~66.3%というあまり上手に治療できていない場合の、efficacyつまりこの場合の脳梗塞の発症率です。ご覧いただくとわかるように、エリキュースという新しくて1日約500円する薬と、以前からある1日約30円のワーファリンと、治療効果は差がありません。

上の図の、(D)がTTRが60.6%~66.3%というあまり上手に治療できていない場合の、safetyつまりこの場合の脳出血と輸血を必要とする出血の発症率です。ご覧いただくとわかるように、エリキュースという新しくて1日約500円する薬と、以前からある1日約30円のワーファリンと、治療効果はエリキュースの方が良いです。

上の図の、(E)がTTRが66.4%~71.1%という少し上手に治療できている場合の、efficacyつまりこの場合の脳梗塞の発症率です。ご覧いただくとわかるように、エリキュースとワーファリンで治療効果には差がありません。

上の図の、(F)がTTRが66.4%~71.1%という少し上手に治療できている場合の、safety脳出血と輸血を必要とする出血の発症率です。ご覧いただくとわかるように、エリキュースとワーファリンで治療効果には差がありません。

つまり、製薬会社はプラザキサ、イグザレルト、エリキュース、リクシアナという高価な新薬を使用すれば脳出血の発症をワーファリンより減らすことができると主張していますが、それは医療後進国のようにワーファリンで上手にできていない場合と比較した場合のことであって、TTRが66.4%~71.1%という少し上手に治療できている以上の場合、両者に差がないのです。差がないのなら患者にとっては1日500円支払うより1日30円の方がいいに決まっていますよね。

私が患者を治療する際のTTRは約85%です。

ここでは、ワーファリンでのコントロールの上手さの層別化をしないで、プラザキサ、イグザレルト、エリキュース、リクシアナの方がいいと言ってしまっています。


情報の続きはまだまだありますので、次回お伝えします。

↓なるほどなぁ~と思われた方!ここをポチッ、応援よろしくお願いいたします。
「ブログランキング」
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

心房細動に対する新しい抗凝固療薬エリキュースの臨床試験のワーファリン群の脳出血が多すぎる件(その2)

2016年03月30日 | 循環器
前回、心房細動に対する新しい抗凝固療薬エリキュースの臨床試験のワーファリン群の脳出血が多すぎる件(その1)の記事で、プラザキサ、イグザレルト、エリキュースの3種類の臨床試験でのワーファリン投与群というのは、コントロールの仕方がとても下手で、ほとんどワーファリン非投与群に近い群であるということをお伝えしました。

今回はその続きで、それではなぜこれらの臨床試験でのTTRのコントロールはこんなに下手であったのかをお伝えしたいと思います。

Efficacy and Safety of Apixaban Compared With Warfarin at Different Levels of Predicted International Normalized Ratio Control for Stroke Prevention in Atrial Fibrillation
Circulation 2013;127:2166.

(インパクトファクター★★★★★、研究対象人数★★★★★)

上の図はエリキュースの臨床試験アリストテレス試験の内容を詳しく解析したサブ解析のものです。Circulationという信頼性の高い医学雑誌ですので、多くのかたが原版をダウンロードできると思います。

前回お伝えしたように、通常の医者であれば目標のさらさら度である確率TTRという指標(time in therapeutic range)が80%はあると思います。私の診察のTTRは約90%です。

上の図はこの臨床試験に参加した国別の平均のTTRを示したものです。一番左のインドなどはなんとTTRが46%しかありません。その他、トルコ、韓国、プエルトリコ、ウクライナ、フィリピン、ロシア、ルーマニア、中国、メキシコ、ブラジルなど、お世辞にも医療先進国とは言えない国まで参加させられています。逆にスウェーデン、デンマーク、ノルウェー、オーストラリアなどでは上手に治療をコントロールしており、TTRは平均で80%近いのです。平均で80%ということは私のように90%の医者がたくさんいるということです。図を見ていただくと、日本は残念ながら68%ぐらいです。

私は、ここで「あれ、変だなぁ?」と思いました。通常、臨床研究を上手に正しく成功裏に遂行させたいと思えば、医療後進国など臨床研究の参加国に入れないのではないでしょうか?私がこの臨床試験の遂行責任者であれば「絶対に」これらの国など臨床試験に参加させません。(逆の意味なら参加させます)

つまり、トルコ、韓国、プエルトリコ、ウクライナ、フィリピン、ロシア、ルーマニア、中国、メキシコ、ブラジルなどが参加させられたのは、意図的にワーファリン投与群の成績を低くしたかったからだと、かなりこの推測が正しい可能性を持って推理できます。(この辺は私がいつも例えている、刑事コロンボの推理、これから自殺しようとしている人が本を読み終わって明日からまた読み始めるために本に栞をはさむだろうか、というような推理です)

では、なぜこれらの国でのコントロールが悪いのか?その国の民度と国民性もあろうかと思いますし、理由の1つが、ワーファリンの錠剤が1錠2mgで使用されている(これらの国に限ったことではありません)ことです。つまり、血液のさらさら度が足りないと、例えばそれまで1日2mg内服していた患者に2mgが追加されて1日4mgにされるのです。そうすると1か月後に血液検査すれば、さらさらになりすぎていて基準の目標値になりません。目標値を超えてしまいます。

日本でのワーファリンの1錠は1mgと0.5mgです。こまかく調整することができるのです。私は日頃1錠0.5mgの錠剤を半分足して、2mgから2.25mgにするなどして調節しています。

エリキュースのこの臨床試験を計画した医者や製薬会社の人間は、おそらくトルコ、韓国、プエルトリコ、ウクライナ、フィリピン、ロシア、ルーマニア、中国、メキシコ、ブラジルなどでは上手にコントロールできないことを知っていたのでしょう(韓国は意外です。私は上手にできると思っていました)。

プラザキサ、イグザレルト、エリキュースの臨床試験のワーファリン群の脳出血が多すぎるのです。

情報の続きはまだまだありますので、次回お伝えします。

↓なるほどなぁ~と思われた方!ここをポチッ、応援よろしくお願いいたします。
「ブログランキング」
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

心房細動に対する新しい抗凝固療薬エリキュースの臨床試験のワーファリン群の脳出血が多すぎる件(その1)

2016年03月28日 | 循環器
5年前に心房細動に対する新しい抗凝固療法についてお伝えしました。5年前はまだ発売されていませんでしたので、今振り返ってみると時の流れは早いものです。

心房細動に対する新しい抗凝固療法プラザキサ

以前からのワーファリンに比べれば「新しい抗凝固療法」ですが、5年経過した今では「新しい」とは言えなくなってきました。

薬は、プラザキサ(日本ベーリンガーインゲルハイム) 、イグザレルト(バイエル)、エリキュース(ファイザー)の3種類と、最近リクシアナ(第一三共)が加わり4種類になりました。

それらの薬はワーファリンを使用するより脳出血のリスクが少ないと宣伝され、多くの医者たちもそれらの宣伝に乗せられてその情報を信じていますが、私にはどうしてもそうは思えないのです。これから数回に分けて、その根拠をお伝えしたいと思います。

Warfarin treatment in patients with atrial fibrillation: Observing outcomes associated with varying levels of INR control
Thrombosis Research 2009;124: 37–41
(インパクトファクター★★★☆☆、研究対象人数★★★★★)

ワーファリンという薬を使う場合、血液検査のPT-INRという血液のサラサラ度を示す値を見ながら錠数を調節します。70歳未満では2.0~3.0、70歳以上では1.6~2.6を目標としています。そして例えば1月に1回測定して、合計10回のうち6回がその目標範囲ならTTRという指標(time in therapeutic range)は60%とされます。

上の図はこの論文に掲載されているものです。TTRが70%以上にワーファリンの量が調節されると、心房細動の患者の脳梗塞+脳出血の発症率は約5年間で5%ぐらい(青色、一番上のライン)ですが、TTRが50%~60%だと灰色のラインのように約5年間の発症率は20%にもなります。そして、ワーファリンを内服しない場合は水色のラインで約5年間の発症率は25%です。

医者でない方には、患者のTTRを70%以上に保つことがどれくらいのことなのかを実感するのは難しいのですが、私の場合、患者全体の治療では90%ぐらいです。決して60%にはなりません。患者全体でTTR60%でしかコントロールできないのであれば、そういう医者こそワーファリンの処方は止めた方がいいということになります。

さて、プラザキサ、イグザレルト、エリキュースの3種類の臨床試験で、それらの薬と比較対象になっているワーファリン群のTTRはというと、驚くべき事に60.6~71.2%なのです。

ワーファリンをTTR約60~70%と下手な調節の仕方で患者に投与すると、上の図に示されているように、まるでワーファリンを投与していないのと似た発症率で、脳卒中が起きてしまいます。

つまり、プラザキサ、イグザレルト、エリキュースの3種類の臨床試験でのワーファリン投与群というのはほとんどワーファリン非投与群に近い群であるということなのです。

そもそも、同じワーファリン内服でも、コントロールの上手下手で上の図のようにこれだけ発症率が違うのなら、ひとまとめにして「ワーファリン投与群」などとは、全く言えないのではないでしょうか。ワーファリンからの利益が十分に享受できていない群です。


なぜ、これらの臨床試験でのTTRのコントロールはこんなに下手であったのか、続きは次回お伝えしたいと思います。


↓なるほどなぁ~と思われた方!ここをポチッ、応援よろしくお願いいたします。
「ブログランキング」
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

睡眠時無呼吸症候群の治療に使用する装置は効果が認められなかった

2015年09月03日 | 循環器
学会で発表するためにロンドンに来ています。膨大な執筆の仕事でしばらくブログの更新を中断していましたが、これを機会に再会したいと思います。

さて、以前もお伝えしていますが、国際学会では世界で最初に大規模な研究の結果が発表されるレイト・ブレイキング・セッションがあります。今回も、昨日世界で初めて明らかになった結果をお伝えします。

睡眠時無呼吸症候群という、寝ている間にいびきがひどくなって喉がつまり息がしばらく止まってしまう疾患があります。睡眠時無呼吸症候群は心不全や心筋梗塞の原因になるので、睡眠時無呼吸症候群を治療するために、睡眠時にマスクを装着して呼吸が止まっている時間がなくなるようにする装置があります。それがAutomated Servo-ventilatorという装置ですが、それではそれを装着すれば心不全による死亡などを減らせるかという研究です。

心臓の駆出率という心臓の動きが正常ではなく(EF<45%)、坂道を登ったときなどの息切れなどの心不全の症状が中等度以上(NYHA IIIとIV)の患者1,325人が、その装置をしようする群と使用しない群にランダムに分けられ、その後5年間の死亡、心不全や心筋梗塞による死亡が比較されました。

結果は、両群で差はありませんでした。心臓の駆出率という心臓の動きが正常ではなく(EF<45%)、坂道を登ったときなどの息切れなどの心不全の症状が中等度以上(NYHA IIIとIV)の人でこの装置を使用している人は一度主治医と相談する必要が出てきました。

例えれば、エンジンのピストンの摩擦を軽減するエンジンオイルがあって、素晴らしいですよといって販売されていたけれど、よく調べてみたら、車の馬力も燃費も向上していなかった、という感じです。

Automated Servo-ventilatorという装置を販売している会社の株はこの発表によって下がりました(そうでなくても、今は経済環境によっても株が下がっていますが)。

この結果はこの論文で発表と同日に掲載されました。興味のある方はこちらをどうぞ。

http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/26323938

<B>↓なるほどなぁ~と思われた方!ここをポチッ、応援よろしくお願いいたします。

「ブログランキング」

コメント (3)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

エパデールの効果、二次予防に対するJELISサブ解析

2015年02月17日 | 循環器
7編同時に投稿していた論文は3編が受理、2編は修正が必要な段階、残りの2編は受理されず、医学ジャーナルのレベルを落として再投稿に挑戦、となりました。なかなか一筋縄には行かないです。そうしている間に、さらに2編の論文を執筆したので投稿する論文が減っていかない状況です。ブログの更新が滞っておりまして申し訳ありません。

さて、以前、
エパデールの効果 JELIS study、やはり、「狭心症による入院」というエンドポイントはダメでしょう

という記事を書いたら、
二次予防に対するJELISサブ解析で、スタチン単独群と比較してEPA追加群で(ハードエンドポイントの)心血管イベントを減少させたという報告があることはご存知と思います。
上記URLに載せておきますが、それに触れずに一方的に貶すのも大人げないかと存じます。

というコメントをいただきました。

私も当然その論文を知っています。このコメントを下さった方は誤解をしているし、要旨だけを読んで原文を読んでいないのでないかと思います。以下に、その根拠をお示しいたします。

↓この論文のことですが、
Incremental effects of eicosapentaenoic acid on cardiovascular events in statin-treated patients with coronary artery disease
Circ J 2009; 73: 1283–1290

要旨だけを読むと、エパデールがあたかも心臓死や心筋梗塞を予防したかのように感じてしまいます。

原文を上の図の右側に示してあります。それを訳すと、
エパデール内服により不安定狭心症(不安定狭心症による入院のことです)が統計学的に有意に30%減少した。心臓死、心筋梗塞は30%少なかったが、統計学的な有意差ではなかった(まるで差があったかのように読者に誤解を与える書き方です。これは差がなかったという意味です。通常、差がなかった場合このように書きません。「差はなかった」と書きます。)加えて、致死性心筋梗塞、非致死性心筋梗塞は30%少なかったが、統計学的な有意差ではなかった(これもまるで差があったかのような書き方です。)しかし、非致死性心筋梗塞、不安定狭心症による入院、ステント治療が必要となった事、バイパス手術が必要になった事を合わせると、統計学的に有意に21%減少した。

つまり、非致死性心筋梗塞、不安定狭心症による入院、ステント治療が必要となった事、バイパス手術が必要になった事の「総数」を比べると、エパデール内服で統計学的に有意に減少したが、その内訳をみると、不安定狭心症による入院の「数」だけが統計学的に有意に減少したということです。

上の図の左側以前紹介した論文の原文です。書き方が異なっているのがわかります。

以前、
エパデールの効果 JELIS study、やはり、「狭心症による入院」というエンドポイントはダメでしょう

で書いたように、オープンラベル試験(被験者がどちらの群に割り付けられたか医者や患者が知っている試験)では「不安定狭心症による入院」、「ステント治療が必要となった事」のような、人為的に操作できるエンドポイントを使用するとその研究そのものの信頼性が下がるのに、それを使用し、事実、その項目だけに差が出ているのです。

統計学的有意差とはどういうことかというと、例えば3年1組の中学生の平均身長が160cm、3年2組の平均身長が158cmだとすると、「2組の子は1組の子に比べて栄養をしっかり摂っていないのではないか」とは思いませんね。「偶然、平均が違っただけ」でしょう。この比較を統計解析すると、有意差は出ないでしょう。つまり統計学的有意差でないというのは、このように中学生のクラスの平均身長が偶然違うのと同じ事なのです。

これを論文に書くときエパデールの論文風に書けば「2組の平均身長は1組より2cm低かった。しかし、統計学的有意差ではなかった」となりますが、統計学的には「2組の平均身長は1組と差がなかった」と書くのが一般的です。なぜなら、この結果で「2組の子はもっと栄養を摂った方がよい」とならないからです。

↓先日、この本の著者に、このエパデールの臨床試験に関する意見を質問させていただいたら、前回と今回のブログの記事を含め、私と同様の意見をおっしゃっていました。
ドキドキワクワク論文☆吟味。医学統計ライブスタイル

私のこの記事には、pwdhang様から以下のコメントもいただきました。
ISIS試験のサブ解析で天秤座と双子座の患者はアスピリンの効果がないという結果になったのは有名な話で、サブ解析の結果をただちに信じるというのはどうか...
STEMIのdoor to balloon時間に対する評価はNEJMとLancetで違ったことで、上記HPではLancetはデータが信用できない施設のを削除することでLancetの結論が評価できるとしています。が、こういう恣意的な操作は気に入らないデータを排除することで危険と思うのですが、先生の評価はどうですか?

今回の記事がコメントでの質問に対する返答です。この論文はご指摘のように恣意的な書き方がされています。pwdhang様、コメントありがとうございました。

↓なるほどなぁ~と思われた方!ここをポチッ、応援よろしくお願いいたします。
「ブログランキング」
コメント (1)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする