以前、心臓の血管に対して「刃のついた風船」による拡張は結果を良くするというのは「偽り」であることをお伝えしました。
刃のついた風船による治療への思惑
心臓の血管を「刃のついた風船」で拡張したあとにステントを留置した場合と、そうでない場合でどちらがいいかという論文が先日発表されました。
Impact of cutting balloon angioplasty prior to bare metal stenting on restenosis. A prospective randomized multicenter trial comparing CBA with balloon angioplasty before stenting.
Circ J. 2007;71:1-8.
(インパクトファクター★☆☆☆☆、研究対象人数★★★☆☆)
この研究は多施設で行われました。各治療群は、ステントを留置する前に「刃のついた風船」で拡張した群と「刃のついていない風船」で拡張した群で、それぞれがさらに風船やステントのサイズを超音波を使った断層像を見ながら決定した群とX線造影だけで決めた群に分けられました。従って比較されたのは4群になります。
評価項目は、内腔径、細くなっていない場所と比較した細さの割合、再狭窄率、風船治療の再施行率で、それぞれ治療前、治療直後、7カ月後で測定されました。
結果ですが、
刃(+)超音波 刃(+)X線 刃(-)超音波 刃(-)X線
122人 106人 126人 99人
内腔径(直前) 1.06 1.04 1.02 1.01mm
内腔径(直後) 2.72(大) 2.56 2.58 2.46mm
内腔径(7カ月後) 1.92 1.80 1.79 1.73mm←差がありません
細さの割合(直前) 62.4 62.8 63.9 63.8%
細さの割合(直後) 13.1(小) 15.1 16.5 16.0%
細さの割合(7カ月後) 30.1(小) 35.1 35.3 35.5%
再狭窄率(7カ月後) 6.6(小) 17.9 19.8 18.2%
風船治療
再施行率(7カ月後) 9.6%(小) 15.3%←差があります
(大)(小)というのは、その結果が他と比べて統計学的に大きい、小さいという意味で用いました。ついていないのは差がないという意味です。
論文では、これらの結果から刃のついた風船の使用は、その後ステントを留置する治療後の再治療の割合を減らし有用であると結論づけられています。
しかし~
刃のついた風船を使っても使わなくても、7か月後の内腔径自体に差が認められていません。「細さの割合」は刃のついた風船を使った場合で小さくなっていますが、「細さの割合」というのは比較する血管の場所を測定者(医者)が選べるので、どうにでも操作できる数字です。
通常、このように測定者で操作できてしまう項目は信頼できる医学雑誌では尊重されません。再狭窄率や治療再施行率も同様です。
(1)どうして7か月後の内腔径に差がないのに、刃のついた風船群では再狭窄率を6.6%として、そうでない群では17%以上と判断しているのでしょうか?
(2)どうして7か月後の内腔径に差がないのに、刃のついた風船群では9.6%しか再治療せず、そうでない群では15.3%も再治療しているのでしょうか?
これでは、その患者さんがどちらの群かを知っている医者が、刃のついた風船群で意図的に再治療を少なくしているとしか思えません。
この結果から導き出せるのは、
1、超音波を使うと血管の大きさを詳細に測定することができるため、血管にヒビが入らない程度の風船の径を細かく決定でき治療直後の内腔径を大きくできるということ
2、その際、刃のついた風船を使用すれば刃が作り出す切れ目が血管のヒビができるのを防ぐため治療直後の内腔径を大きくできるという、2点です。
刃のついた風船は、治療した後の将来の結果を良くするということは導き出せません。
信頼できるのは、内腔径といった測定者では操作できない数値であるべきです。再狭窄率や治療再施行率で結論を導きだしてはいけないことは、こういう結論の出し方が多いこれまで日本の論文に対してアメリカが何度も指摘してきたことです。
それなのに、なぜこの研究をデザインする時に再狭窄率や治療再施行率といったあいまいな因子で評価するとしたのでしょうか。
ココをぽちっとね
刃のついた風船による治療への思惑
心臓の血管を「刃のついた風船」で拡張したあとにステントを留置した場合と、そうでない場合でどちらがいいかという論文が先日発表されました。
Impact of cutting balloon angioplasty prior to bare metal stenting on restenosis. A prospective randomized multicenter trial comparing CBA with balloon angioplasty before stenting.
Circ J. 2007;71:1-8.
(インパクトファクター★☆☆☆☆、研究対象人数★★★☆☆)
この研究は多施設で行われました。各治療群は、ステントを留置する前に「刃のついた風船」で拡張した群と「刃のついていない風船」で拡張した群で、それぞれがさらに風船やステントのサイズを超音波を使った断層像を見ながら決定した群とX線造影だけで決めた群に分けられました。従って比較されたのは4群になります。
評価項目は、内腔径、細くなっていない場所と比較した細さの割合、再狭窄率、風船治療の再施行率で、それぞれ治療前、治療直後、7カ月後で測定されました。
結果ですが、
刃(+)超音波 刃(+)X線 刃(-)超音波 刃(-)X線
122人 106人 126人 99人
内腔径(直前) 1.06 1.04 1.02 1.01mm
内腔径(直後) 2.72(大) 2.56 2.58 2.46mm
内腔径(7カ月後) 1.92 1.80 1.79 1.73mm←差がありません
細さの割合(直前) 62.4 62.8 63.9 63.8%
細さの割合(直後) 13.1(小) 15.1 16.5 16.0%
細さの割合(7カ月後) 30.1(小) 35.1 35.3 35.5%
再狭窄率(7カ月後) 6.6(小) 17.9 19.8 18.2%
風船治療
再施行率(7カ月後) 9.6%(小) 15.3%←差があります
(大)(小)というのは、その結果が他と比べて統計学的に大きい、小さいという意味で用いました。ついていないのは差がないという意味です。
論文では、これらの結果から刃のついた風船の使用は、その後ステントを留置する治療後の再治療の割合を減らし有用であると結論づけられています。
しかし~
刃のついた風船を使っても使わなくても、7か月後の内腔径自体に差が認められていません。「細さの割合」は刃のついた風船を使った場合で小さくなっていますが、「細さの割合」というのは比較する血管の場所を測定者(医者)が選べるので、どうにでも操作できる数字です。
通常、このように測定者で操作できてしまう項目は信頼できる医学雑誌では尊重されません。再狭窄率や治療再施行率も同様です。
(1)どうして7か月後の内腔径に差がないのに、刃のついた風船群では再狭窄率を6.6%として、そうでない群では17%以上と判断しているのでしょうか?
(2)どうして7か月後の内腔径に差がないのに、刃のついた風船群では9.6%しか再治療せず、そうでない群では15.3%も再治療しているのでしょうか?
これでは、その患者さんがどちらの群かを知っている医者が、刃のついた風船群で意図的に再治療を少なくしているとしか思えません。
この結果から導き出せるのは、
1、超音波を使うと血管の大きさを詳細に測定することができるため、血管にヒビが入らない程度の風船の径を細かく決定でき治療直後の内腔径を大きくできるということ
2、その際、刃のついた風船を使用すれば刃が作り出す切れ目が血管のヒビができるのを防ぐため治療直後の内腔径を大きくできるという、2点です。
刃のついた風船は、治療した後の将来の結果を良くするということは導き出せません。
信頼できるのは、内腔径といった測定者では操作できない数値であるべきです。再狭窄率や治療再施行率で結論を導きだしてはいけないことは、こういう結論の出し方が多いこれまで日本の論文に対してアメリカが何度も指摘してきたことです。
それなのに、なぜこの研究をデザインする時に再狭窄率や治療再施行率といったあいまいな因子で評価するとしたのでしょうか。
ココをぽちっとね