医者から詳しく聞かされない医療情報:セカンドオピニオン

誤解と批判を恐れない斜め後ろから見た医療情報

バイオフィックス事件

2010年08月07日 | 循環器
以前、ゼチーアが動脈硬化の進行に対して(もちろん動脈硬化性の疾患による死亡や発症に対しても)有用性が認められなかった研究についてお伝えしました。この研究の経緯をもう少し詳しくお伝えしたいと思います。

その前に、バイオフィックス事件のことを知っておく必要があります。バイオフィックスという薬は簡単にいうと血液をさらさらにする薬で、胃潰瘍などの副作用がないため心筋梗塞や脳梗塞などの疾患に有用性が高いと期待されていました。メルクという製薬会社が欧米で販売していました。しかし実際に販売されると、バイオフィックスの内服で死亡率が4倍になってしまいました。

ここでの問題は、死亡率が4倍になったことやその危険性が発売後に判明したことではなく、メルクはそのような危険性をある臨床研究の結果から知っていたにもかかわらず隠蔽していたことと、隠蔽は意図的に行われており、その事実が発覚したのはメルク社の不注意からにすぎなかった、つまり不注意さえなければこの事実は永久に隠蔽され続けたということです。

2004年9月にメルクはバイオフィックスの発売を中止しましたが、危険性が社内で明るみになってすでに3年経過していました。バイオフィックスの被害者は15~20万人と公表されました。

さて、ゼチーアはこのメルク社とシェリング・プラウ社が販売しています。以前お伝えした研究の期間は2年間で、2006年4月には終了して結果の報告は2006年9月の予定でした。ところが2007年12月になってもなんの報告もなく、アメリカの議員たちはメルク社とシェリング・プラウ社になにか困った事態が発生しているのではないかと疑い始めました。

この時、製薬会社の善意を信じて何100万人もの人々が、動脈と心臓を守ってくれることを期待してゼチーアを内服していたのです。アメリカの連邦行政機関はゼチーアの販売を許可したのは、唯一、その悪玉コレステロール低下作用だけを根拠とするものでした。発症や死亡に対する効果はこの時まだ証明されていませんでした。

メディアやアメリカ食品医薬品局は「この研究でゼチーアの有効性は認められずなんとか隠蔽しようとしているのではないか」と疑い始めました。かつてのバイオフィックス事件を思い出したのです。

2007年12月、アメリカの下院議会委員会は、この研究結果にメルク社とシェリング・プラウ社が不利になる事態があったのではないかと疑い、結果の公示を求めましたが、両社は「技術的な問題のため研究はまだ終了していない。従って結果を得られる段階に至っていない」と主張しました。しかし、下院議会委員会はいかなる妥協にも応じず、結果発表の最終期限を2007年12月25日としました。提出されなければ強制的に研究に関する文書を調べるような事態になると通告しました。

不思議なことに両社はあれほど最終結果に至っていないと言っていたのに、2008年1月14日プレスリリースという形で結果を公表しました。つまり、結果はすでに得られていたのです。

結果は以前お伝えした通りです。


メルク社の共同研究者であるデューク大学のカリフ教授は間接的に「悪玉コレステロール値を下げるのだから動脈硬化に対する効果はなくても構わない」という馬鹿げたコメントを出しました。それらに対して一般メディアの評論家たちはメルク社のシェリング・プラウ社の虚偽や不誠実を非難しました。


以上の経過から考えられる問題点です。

(1) 臨床的有用性がまだ証明されていないのに悪玉コレステロールを下げたというだけでなぜゼチーアは販売が承認されたのか?
(2) ゼチーアがスタチンに加えて悪玉コレステロールを20%も低下させたが、その臨床的有用性が示されなかったのに、「悪玉コレステロールは低ければ低い方がいい」と主張している医者たちは、なぜその考え方を再検討しようとしないのか?


アメリカ食品医薬品局も同様の見解を変えていません


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