医者から詳しく聞かされない医療情報:セカンドオピニオン

誤解と批判を恐れない斜め後ろから見た医療情報

ビタミンのサプリメントは動脈硬化性心臓病に効果ない

2014年08月19日 | 生活習慣病
前回、来年度から、これまであいまいにしか書けなかった健康食品の宣伝文句が、企業の責任で体にどう機能するか明確に表示できるようになる見通しであることをお伝えしました。この制度は消費者が商品を選びやすくすることで、市場を拡大させるのがねらいです。しかし新たな制度によって、問題のある商品がこれまで以上に増えるのではないかという指摘もあります。

先日もNHKのクローズアップ現代でこの問題が取り扱われていました。
↓今でもNHKのサイトに載っていますので、まず動画をご覧下さい。
健康食品が変わる 規制改革の波紋

以前から、ビタミンEに関してはいろいろと研究が進んでいますが、ビタミンEが動脈硬化による心臓病に効いたというCHAOSという大規模試験があります。しかし、大規模試験でビタミンEが効いたと結論づけているのはこの研究だけです。そこで、どうしてその大規模試験だけが「効いた」のか調べてみることにしました。

これまでにビタミンEの心臓病の予防に対する効果を調べた無作為大規模臨床試験は以下の4つありました。

European Heart Journal. 2004;25:1171.
Effect of alpha-tocopherol and carotene supplementation on coronary heart disease during the 6-year post-trial follow-uo in the ATBC study.
(インパクトファクター★★★☆☆、研究対象人数★★★★★)
この研究では喫煙者29,133人がビタミンE(50mg/dl/日)摂取群(6,820人)とベータカロチン(20mg/dl/日)摂取群(6,821人)、両者の摂取群(6,781人)、非摂取群(6,849人)に分けられて調査されました。6年間の調査で、狭心症や心筋梗塞で風船治療や手術を必要としたのはビタミンE群で520人、ベータカロチン群で548人、両者摂取群で511、非摂取群で534人と効果がない事が判明しました。死亡にまで至らない心筋梗塞や心筋梗塞による死亡に対しても同様に効果はありませんでした。
この研究の対象者は喫煙者で、一次予防といってまだ狭心症や脳梗塞や心筋梗塞に一度もかかっていない人です。

Lancet. 2000;355:253.
Effects of ramipril on cardiovascular and microvascular outcomes in people with diabetes meritus: results of the HOPE study and MICRO-HOPE substudy. Heart Outcomes Prevention Evaluation Study Investigators.
(インパクトファクター★★★★★、研究対象人数★★★★★)
この調査では3,577人の既に狭心症や脳梗塞や心筋梗塞にかかったことがある糖尿病の患者さんがramiprilというACE阻害剤(高血圧の薬、日本では未発売)投与群とビタミンE投与群と非投与群に分けられ5年間調査されました。ramiprilは全ての原因による死亡、心筋梗塞による死亡、脳梗塞の発症、心筋梗塞の発症予防に効果があったのですが、ビタミンEにはその効果は全く認められませんでした。
この研究の対象者は糖尿病の患者で、二次予防といって既に狭心症や脳梗塞や心筋梗塞にかかったことがある人です。

Lancet. 1999;354:447.
Dietary supplementation with n-3 polyunsaturated fatty acids and vitamin E after myocardial infarction: results of the GISSI-Prevenzione trial.
(インパクトファクター★★★★★、研究対象人数★★★★★)
この研究では、心筋梗塞にかかって3カ月以内の患者さんがビタミンE投与群(2,830人)と非投与群(2,828人)に分けられ3.5年間調査されました。ビタミンEには心筋梗塞による死亡、脳梗塞の発症、心筋梗塞の発症予防効果は全く認められませんでした。
この研究の対象者は心筋梗塞にかかっている患者です。もちろん二次予防になります。

さて、ビタミンEが効いたというCHAOSという大規模試験です。
Lancet. 1996;347:781.
Randomised control trial of vitamin E in patients with coronary disease: Cambrige Heart Antioxidant Study (CHAOS).
(インパクトファクター★★★★★、研究対象人数★★★★★)
この研究では、心臓カテーテル検査で心臓の血管に治療しないといけないほど狭いところがある患者がビタミンE800IU/日投与群(546人)とビタミンE400IU/日投与群(489人)と非投与群(967人)に分けられ約2年間調査されました。

死亡に至らない心筋梗塞になった人数
投与群 1,035人中14人、非投与群 967人中41人と、約1,000に27人減りました。これは統計学的にも「効果あり」です。

心筋梗塞による死亡
投与群 1,035人中23人、非投与群 967人中27人と、約1,000に4人減りました。これは効果なしです。

全ての原因による死亡
投与群 1,035人中36人、非投与群 967人中27人と、約1,000に9人増やしました。これは効果なしです。

これでわかりました。ビタミンEは心臓カテーテル検査で心臓の血管に治療しないといけないほど狭いところがあるのだけれど、風船治療や手術をしないでいる患者さんには、死亡に至らない心筋梗塞を1,000分の27の確率で予防するということです。

これらの結果を総合すると、ビタミンEはまだ狭心症や脳梗塞や心筋梗塞に一度もかかっていない人や心筋梗塞にかかってしまった人には心筋梗塞による死亡や心筋梗塞や狭心症の発症予防に全く効果がないのだけれど、心臓カテーテル検査で心臓の血管に治療しないといけないほど狭いところがあるのだけれど、風船治療や手術をしないでいるごく限られた方(たぶんこういう方は医師から風船治療や手術を勧められていると思います)に有効ということでした。

しかし、現在の医療水準において、心臓の血管に治療しないといけないほど狭いところがあるのだけれど、風船治療や手術をしないでいる患者などほとんどいません。

こういう特殊な結果を一般に当てはめて、一般の人(心臓カテーテル検査で心臓の血管に治療しないといけないほど狭いところがない人)に「ビタミンEは心臓病の予防に効果がある」とアピールするのは不適切ですから、今後は取り締まられなければいけません。

さて、ビタミンの動脈硬化による心臓病に対する予防効果について最近興味深い総括が発表されました。

Efficacy of vitamin and antioxidant supplements in prevention of cardiovascular disease: systematic review and meta-analysis of randomised controlled trials
BMJ. 2013 Jan 18;346:f10
(インパクトファクター★★★★★、研究対象人数★★★★★)

この総括では、ビタミン剤は動脈硬化による心臓病に効き目がないと結論づけています。

50の大規模臨床試験の結果をまとめたものですが、上の図にあるように、製薬会社からプロバイドされたものではない研究では、ビタミンは効果がありません(上の4つですが、真ん中の1倍という縦軸を横軸が交差している場合は効果がありません)。

しかし一方で、製薬会社からプロバイドされた下の8つの研究では効果有り(横軸が真ん中の1倍という縦軸より左に偏っている)となっています。特に今回ご紹介したCHAOSという大規模試験は他の7つより飛び抜けて左に偏っていますね。
製薬会社は、先日のノバルティス・ファーマ社の事件のように、医学研究の結果を変えてしまうほどの凄い力を持っているということです。私たち医者は、そのように講演料を一杯もらってブタが木に登らないように気をつけないといけません。

新しい制度で健康食品の宣伝文句が体にどう機能するか明確に表示できるようになるのは良いけれど、例えば今回ご紹介したように、私たち消費者は研究の信頼性をどのように知ることができるのでしょうか。

とにかく、ビタミン剤は動脈硬化による心臓病に効き目がないことは事実です。

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コメント (1)
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