以前住んでいた自宅付近に、江戸時代の風情を残した屋根瓦と大きな青銅の門構えを持つ
武家屋敷があった。
どういった家柄なのか詳しくは知らないが、どうやらその辺一体の地主だったようで、
屋敷の隣に広い駐車場やテニスコートなども所有していた。
そこには花好きの老夫婦が住んでいて、ご主人の方は時折、
枝切り鋏を片手に木々の剪定に勤しんでいる姿をよく見かけたものである。
石灯篭が置かれた庭は、様々な品種の桜で埋め尽くされていた。
染井吉野、枝垂れ桜、八重桜、その中でもひときわ見事だったのが、
屋根瓦全体を覆い尽くすように咲き誇っていた彼岸桜である。
まだ三月初旬の肌寒い季節、濃いピンクの色鮮やかな花をつける。
その姿はまるで桃源郷の天蓋のようだ。
特に春雨がそぼ降る日などは、いっそう花の色合いが艶やかになり、
傘をさしながらゆっくりと散歩すると、雨の滴に混じって桜の房が一つ、また一つと落ちてくる。
おかげで私は長い間、花見というものに行く必要がなかった。
武家屋敷があった。
どういった家柄なのか詳しくは知らないが、どうやらその辺一体の地主だったようで、
屋敷の隣に広い駐車場やテニスコートなども所有していた。
そこには花好きの老夫婦が住んでいて、ご主人の方は時折、
枝切り鋏を片手に木々の剪定に勤しんでいる姿をよく見かけたものである。
石灯篭が置かれた庭は、様々な品種の桜で埋め尽くされていた。
染井吉野、枝垂れ桜、八重桜、その中でもひときわ見事だったのが、
屋根瓦全体を覆い尽くすように咲き誇っていた彼岸桜である。
まだ三月初旬の肌寒い季節、濃いピンクの色鮮やかな花をつける。
その姿はまるで桃源郷の天蓋のようだ。
特に春雨がそぼ降る日などは、いっそう花の色合いが艶やかになり、
傘をさしながらゆっくりと散歩すると、雨の滴に混じって桜の房が一つ、また一つと落ちてくる。
おかげで私は長い間、花見というものに行く必要がなかった。