花にまつわる幾つもの話

子供時代の花にまつわる思い出や、他さまざまな興味のあることについて書いていきたいと思ってます。

第十三章 ジャーマンアイリス

2010年04月26日 | 花エッセイ
 同じアパートに住んでいた仲の良い女の子の兄という人はいわゆる花狂いだった。
 
毎日毎日、それこそ厭きることなく庭に出ては植物の手入れをしている。

 部屋の中は観葉植物で占拠され、当人はといえば、押し入れで寝る始末。

 まさに花が恋人と言っても過言ではないぐらい花に傾倒していた。

 その人物から株を譲ってもらったのがこのジャーマンアイリスだった。

 背丈は普通のあやめよりやや小振りで、すっと伸びた茎と鮮やかな紫の花がとても可愛らしい。

 その株を庭に植えてから新緑の季節になると、私は庭に下りていってこのアイリスを摘んだ。

市販の花に負けぬぐらい形の良い姿、虫がつきにくいので、

その意味からも部屋に飾るにはふさわしかった。

 そして私が花を摘んでいると必ず一階に住んでいるおばあさんが声をかけてくる。

 亡くなった夫の仏壇に飾りたいからと摘んだ花を所望するのだ。

 私は喜んで分けてあげた。何せこのアイリス、とても育ちが良くて、

庭半分を埋め尽くす勢いで成長していたので、毎年沢山の蕾をつけたからである。

 ところでわたしはつい最近になるまで、

このアイリスという言葉が虹を表すものだとは知らなかった。

 正しくはイリスというらしいのだが、虹は神の伝達を果たす女神の名前で、

この虹のかけらがこぼれてこのアイリスの花が誕生したのだという。

 だからアイリスにはこの世のありとあらゆる色彩が詰まっているのだそうだ。

 ちなみに虹の花があるように、虹の石というものも存在する。

 オパールがそれで、特にプレシャスオパールと呼ばれる七色に輝く透明な石は

虹の石として珍重されている。

 オパールは他の宝石類に比べ非常に硬度が低く、特に乾燥に弱い。

保存の際にはコップに水を入れたものを側に置いておかなければならないほどだ。

でないと割れてしまうとか。

 本来オパールは無色透明で、あの輝くような虹色は

石の内部の疵による光の遊色効果で生じるらしい。

まさに虹のように最も脆く儚い石は、その疵によって輝きを増すのである。

ただ残念なことにダイヤのように永遠に輝きつづけることはない。

やがてその輝きを失って宝石としての価値も消えてしまう運命にある。

 そのせいか、昔、オパールは結婚式など祝い事で身につけるのはよくないとされていた。

恐らく永遠性を持たないが故に、オパールはそれを身につける花嫁に移ろう心をもたらすと

信じられていたからなのだろう。



※ 現在、オパールは、10月の誕生石であり、パワーストーンにおいては、

 希望の石、変化を呼び込む石として人気があるそうです。

  また、石の遊色効果が感受性の豊かさを現わすとして、恋愛成就の意味もあります。



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