花にまつわる幾つもの話

子供時代の花にまつわる思い出や、他さまざまな興味のあることについて書いていきたいと思ってます。

第九章 白い夾竹桃(しろいきょうちくとう)

2010年04月16日 | 花エッセイ
 真夏に咲く花で忘れられないのがこの真っ白な夾竹桃である。

 三階建てアパートの最上階、ちょうど中ほどに位置していた我が家のベランダから

すぐ真下付近に、この真っ白い夾竹桃が立っていた。

 こんもりと大きく枝葉を広げ、木全体に白い花がまるで斑点のごとく咲く。

 暑い夜、ベランダで涼んでいると、いつも目にするのがこの夾竹桃だった。

 この花木は不思議なもので、昼の光の下ではさほど目を惹く植物ではない。

真夏の太陽に向かって真っ直ぐに雄々しくそびえ立つ姿は、むしろたくましささえ感じるほどだ。

 白い花も可憐というよりははるかに力強く、他の庭木に比べ幾分地味な印象があった。

 実はこの花を好んで植えたのは下の階の住人であった。

当時、下の階には中年のご夫婦と息子さんが暮らしていて、

そこの母親がこの夾竹桃を植えたという話だった。

 気難しい性格の下の階の住人とはあまり交流がなかったが、

一度だけそこのお宅で飼われていた九官鳥が逃げ出して庭で捕獲したことがあった。

 ほとんど芸のない九官鳥で、四六時中自分の名前だけを連呼している鳥である。

飼い主に似たのか気性も荒く、つかまえる時には後ろから不意をつかなければならなかった。

 早速、そのお宅へ九官鳥を届けに行くと、

滅多に笑顔など見せたこともなかった夫人がとても感謝してくれた。

その日から私はその一家に対して多少なりとも親近感を持つようになった。

 さてこの白い夾竹桃だが、昼の陽射しの中では味気ない花木が、夜になると別の顔に変わった。

夜半、夾竹桃はその全体像を消し、真っ白い花だけを闇夜に浮かびあがらせる。

それはどこまでも幻想的で、真夏の夜にふさわしい趣きであった。
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