花にまつわる幾つもの話

子供時代の花にまつわる思い出や、他さまざまな興味のあることについて書いていきたいと思ってます。

第十章 銀木犀と金木犀(ぎんもくせいときんもくせい)

2010年04月20日 | 花エッセイ
 アパートの入り口にとても大きな銀木犀の木が植わっていた。

よく金木犀を植えている家は多いが、銀木犀となるとまず見かけない。

 事実、私も小学校の高学年になるまで銀木犀なる存在を知らなかったぐらいだ。

 この木犀、中国が原産の植物で、日本には雄株しかない。

 花の季節以外はとても地味な庭木で、開花してあの独特の芳香を放つようになって

始めてその存在に気づくような植物である。

 まして銀木犀となるとますますその印象は薄くなる。

 銀木犀は金木犀よりやや先んじて花を開く。

香りも幾分控えめで、花の色も鮮やかなオレンジ色ではなく淡い緑ががかった白。

 金木犀が甘く華やかな香りだとすれば、銀木犀にはどことなく清冽な爽やかな感じがある。

 そっと遠慮がちに秋の訪れを告げる銀木犀は、我が家のアパートの入り口で、

ふと気づくと咲いていたりする。

 やがて銀木犀が満開となる頃、後を追うようにして金木犀がオレンジの花をつける。

 崖下の一戸建ての家の庭にはそれは見事な金木犀の木があった。

崖上の庭から眺めるとまるでオレンジ色の粉を一面まぶしたように見える。

 この金木犀の香りが庭中に立ち込める。果ては三階の我が家まで香ってくる。

 涼風を肌に感じながらこの香りをかぐと、改めて秋の訪れを実感する。

 金木犀の思い出といえばもう一つ、高校の通学路途中にあった金木犀の庭木を思い出す。

 やはり一戸建ての庭に植えられていたのだが、こんもりと丸く剪定されていて、

高さこそ人の背丈ほどしかないものの、秋になるとそれは見事なオレンジの花をつけるのである。

 このお宅というのが庭に対する心栄えの実に行き届いた家で、

金木犀の下を一面苔の瑞々しい緑が覆っていて、

散ったオレンジの花とこの苔のコントラストが非常に見事であった。

 高校の行き帰り、この庭を眺めるのが私はとても好きだった。
コメント
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