花にまつわる幾つもの話

子供時代の花にまつわる思い出や、他さまざまな興味のあることについて書いていきたいと思ってます。

第六章 鉄砲百合(てっぽうゆり)

2010年04月12日 | 花エッセイ
 古いアパートだったせいか、我が家の敷地内には無人の大きなボイラー室があった。

周囲を胸丈ほどの鉄のフェンスが囲み、その内側には夏になると真っ白な鉄砲百合が咲いた。

 子供の頃、このボイラー室は密かな遊び場だった。

特に木登りが得意だった私は、よくこのボイラー室の屋根によじ登っては遊んだものだった。

 高台に建てられたアパートはとても見晴らしが良く、

特に晴れた夏の日は周りの建物全てが睥睨できる。

ボイラー室の屋根はその最たるもので、そこからの眺めを私は非常に気に入っていた。

 そのボイラー室の周囲に咲く鉄砲百合はどことなく寂しげな風情があった。

錆びたフェンスと草に覆われているせいか、沢山の白い花は愛でる者もなく

いかにもひっそりとしている。

 山百合と違って派手さのないその清楚な姿は、

夏の暑さと共に私の記憶の中に鮮明に焼きついている。
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