九段下、牛ヶ淵沿いに建つ旧九段会館は、もともとは帝国在郷軍人会が「軍人会館」として建設したもので、昭和11年の2・26事件の際には、反乱軍鎮圧のための戒厳令司令部が置かれました。戦後は駐留軍に接収されましたが、昭和32年から日本遺族会が宿泊・結婚式場・貸しホールなどを運営してきました。平成23年、東日本大震災でホールの天井が崩落し死傷者が出たところから廃業に追い込まれ、現在建物はそのまま放置されています。
洋風の躯体に和風の瓦屋根をのせたスタイルは帝冠様式とよばれ、昭和10年前後の一時期に公共建築を中心に(神奈川県庁、愛知県庁、名古屋市役所、京都市立美術館など)全国でこのスタイルが採用されました。きわめて国粋主義的なデザインだったので、当時軍人会館に採用されたのもうなずけるところです。この帝冠様式はほんの一部で試みられたにすぎませんが、当時の時代的背景とマッチして国粋性を強く印象付ける表現方法として建築にも影響をあたえたようです。帝冠様式を代表する建築のひとつとして、これからの保存再生をぜひ望みたいところです。
■九段下交差点方面より建物を望む~渋めの茶色のスクラッチタイルに白の花崗岩が映えます
■建物北面エントランス
■建物東面
■旧九段会館エントランス
■旧日本遺族会エントランス
■旧九段会館前の公衆便所~スクラッチタイルや丸窓のデザインから同時期のものと思われます(現在は使用中止)
■旧九段会館(旧軍人会館)/千代田区九段南1-6-5
竣工:昭和9年(1934)
設計:川元良一
施工:清水組
構造:SRC造地上4階、地下1階
撮影:2017/08/11