goo blog サービス終了のお知らせ 

「心ゆたかな暮らしを」  ~Shu’s Page

小説のレビュー、家族の出来事、趣味の事、スポーツ全般など、日々の出来事をつづりながら、一日一日を心豊かに過ごせれば・・・

今一歩踏み込めず『恋愛中毒』by山本文緒

2017年11月07日 | 小説レビュー
〜もう神様にお願いするのはやめよう。
―どうか、どうか、私。これから先の人生、他人を愛しすぎないように。他人を愛するぐらいなら、自分自身を愛するように。
哀しい祈りを貫きとおそうとする水無月。彼女の堅く閉ざされた心に、小説家創路は強引に踏み込んできた。
人を愛することがなければこれほど苦しむ事もなかったのに。
世界の一部にすぎないはずの恋が私のすべてをしばりつけるのはどうしてなんだろう。吉川英治文学新人賞を受賞した恋愛小説の最高傑作。「BOOK」データベースより


前評判も高く、ずっと読みたかった作品です。しかも僕好みの『吉川英治文学新人賞』受賞作品ですからね(^^)d

んで、読み終えた感想ですが、「うーん・・・」と言う感じです。「グイグイ引っ張り込まれる」というよりは、スラスラと読めてしまいます。実際に1日半で読めました。

『恋愛中毒』というタイトルは、かなりインパクトがあるので、勝手に想像していた内容とは少し印象が違いました。

プロローグでは、編集プロダクションに勤める若手男性社員が、同じ職場の『謎の独身女性・水無月さん』に対して、別れたはずの女性からストーカー被害に遭っているという悩みを打ち明けるところから始まります。

しかし、話の途中から、「水無月さん」の離婚に纏わる独白と変わります。

この『謎の独身女性・水無月さん』は、凄まじい人生を過ごしてきたのですが、要約すると・・・、
「一人っ子→自分の気持ちを率直に表現できない子ども→両親は幼い頃から向き合ってくれず→特に母親は冷たかった→中学三年生の時に決定的な事件が起こる→心の中で何かが爆発する→その感情を両親に対してぶつけることが出来ず→屈折した思春期を過ごしてきた水無月美雨。」という思春期までの出来事。

そして、「大学生の時に初めて男性に優しくされる→恋に落ちる→愛しすぎる→やがてストーカー行為へと発展→ストーカー行為が究極に→また別の男性の優しさに触れる→今度はその男性と恋に落ちる→その男性とは結婚までいく→夫に献身的に尽くす→この人と穏やかな人生を過ごす・・・。」となればハッピーエンドなのですが・・・(-_-;)

しかし、その尽くし方も盲目的なものでして、「やがて夫の心は離れていく→夫は別の女性へと走る→感情が爆発する→浮気相手への執拗ないやがらせ→ストーカー行為→犯罪行為へと・・・。」

となって、美雨の人生の第一幕が降り、新たな気持ちで出直して、冒頭に書いた「〜もう神様にお願いするのはやめよう。―どうか、どうか、私。これから先の人生、他人を愛しすぎないように。他人を愛するぐらいなら、自分自身を愛するように。」と願い目立たないように、ひっそりと暮らし始めます。

しかし、本編である、小説家「創路功二郎」との何気ない出会いから、また同じことを繰り返してしまいます。

ともすれば、覚せい剤や危険ドラッグのように、一度手を染めてしまえば、これを断とうと思っても、禁断症状が表れ、また再び手にしてしまう「麻薬中毒患者」。
これをただ直向きな恋愛、自分を受け入れてくれた人を盲目的に愛し、絶対的依存をしてしまうということに置き換えれば「恋愛中毒患者」と言えるのかも知れません。

「やめよう。もう人を愛することは・・・」と誓っても、「もしも、あの時に違う道を選んでいたら?」と、過去を振り返りながら、結局、同じ行為を繰り返してしまうという話です。

それにしても『恋愛小説の最高傑作』というのはどうでしょうかね(^_^;)?

いずれにしても、小説なんですから、愛情も憎しみも暴力も、もっともっとエスカレートして、突き抜けて欲しかったと思いますし、出てくる登場人物も全員好きになれませんし、もちろん共感も出来ません。

「読後感が爽やか~」とかレビューを書いている人もおられますが、僕は爽やかというよりも、「苦笑い」という感じですね(^_^;)。

しかしながら、文章は上手く、展開もおもしろく、読者を惹きつける引力はかなりのものがありました。
★★★☆3.5です。