新型コロナウィルスにより、2020年はそれ以前の世界とは全てが変わってしまいました。「歴史の転換点」とは、このような時にこそ使われる言葉なのでしょう。人類は環境に適応して変化していかなければいけないのですが、従来の意識や生活様式を捨てきれず、結果として、感染者数のグラフの上昇を助けています。
このような時代には広告予算が真っ先に削られていくというのが一般常識なのですが、実は、世界では、このような時代だからこそ必要な広告が数多く作られているのです。広告は時代を反映して(時には時代を先取りして)、視聴者や社会のニーズに応えて、変わっていかなければならないと思うのですが、日本のテレビで流されている広告のほとんどは、新型コロナ以前の時代のものをそのまま流しています。ワイドショーやニュースでいくら危機感を煽っても、広告が旧態然のままだと、危機感を感じる必要性を感じなくなってしまうのではないかと思うのです。
三密を避けろと言っているのに、日本のテレビコマーシャルで描かれる世界は、みんなで美味しそうにビールを飲む世界だったり、自由に出歩ける世界だったり、オフィスでフェイストゥーフェイスで仕事ができていた世界だったりします。こういう世界はもやは過去の時代のもので、違和感を覚えます。また、仕事や生活に犠牲を強いられている環境の中で、製品を買ってほしいと一方的にアピールする姿勢は、反感を買うだけで、結果的にはブランド価値を損なっていくのではないでしょうか。このような時代にこそ、企業姿勢が問われ、ブランド広告が重要になってきます。そのような視点を持つブランドが、この逆境の時代にブランド力をさらに強化していくのだと思います。
このようなことを発言しても、広告主も広告代理店もあまり聞く耳を持たない気がするので、実は世界では、こんなコマーシャルが作られているというのを紹介し、意識を変えていくことに役立てればと思います。
最近、仕事は在宅でしているので、割と時間の余裕があり、世界の新型コロナの時代を反映した広告を色々と見ています。日本ではあまり見かけないのですが、多くの国で、実に多くの広告が次々と作られています。現在も新しい作品が次々と作られていますが、今日までの時点で、私が見た中で印象に残ったものを7点選び、ここでご紹介しようと思います。
1)ナイキの”Play for the World” (世界のためにプレイしよう)
ナイキのコマーシャルはいつの時代でも素晴らしいのが多いのですが、家の中で運動せざるを得ない人々に対してのメッセージが感動的です。モノクロのスチル写真のスライドショーと文字だけのシンプルな作品ですが、コピーがいい。そしてそれを盛り上げる音楽もよい。居間や、台所や、玄関や、地下室なんかでプレイをしていて、共に、国のためにプレイしたり、大観衆を前にプレイしたりができないけれど、私たちは今日、78億人の人のためにプレイしている、というコピー素晴らしいです。
2)YouTubeのStay Home #WithMe
世界的な”Stay Home”の時代にあって、YouTubeを利用すれば、家で孤立せずに、みんなと繋がることができるというメッセージ。YouTubeのロゴの上に屋根が付いていて”Stay Home”をアピールしているのがいいですよね。
3)イギリスのWomen’s Aid Federationの「ロックダウン」
https://vimeo.com/404965100
ロンドンのロックダウンで人がいなくなった景色が映し出されます。とそこに「家庭内暴力を振るう人たちも街から消えました」という文字。その後に、「彼らは家族と一緒に家に軟禁されています」というショッキングな事実が告げられます。「何千という女性や子供たちにとって、家は安全な場所なんかじゃないです」というメッセージ。女性を家庭内暴力から守る団体への寄付を募る広告ですが、こういう問題も大きいですね。
4)ニューヨーク市の”NY Tough”(ニューヨークは強い)
アメリカの中でも最も患者数の多いニューヨークで市民に訴える映像です。このナレーションはクオモ州知事の演説です。ニューヨークはもともと強者たちの街で、この難局もやっつけられるタフさを持っている。ニューヨークへの愛を語った後で、最後のセリフ、And at the end of the day, my friends, even if it is a long day, and this is a long day, love wins. Always. And it will win again through this virus. (最終的には、それは長い一日となろうとも、実際に長い一日だが、愛は勝つ。いつものように。再び愛はウィルスとの戦いに勝利するだろう)というのは、なんか映画「インディペンデンス・デイ」の大統領の演説みたいに聞こえるのは私だけでしょうか? (最初にアップしていた動画はリンクがうまくいかなかったので、別のものに変えました。こちらの動画もなかなか良いです)
5)NY City “Do Your Part”(自分自身の役割を)
こちらもニューヨーク市の広告ですが、第二次世界対戦のノルマンディー上陸の映像から始まります。「色々な世代でそれぞれ大きな犠牲を払ってきました。今、我々は家に留まるという犠牲を払っています」というナレーションの最後に、我々の役割は、「手洗い、殺菌、家にいること」と、単純なそのことが大切な使命であると訴えています。ここでもクオモ州知事が登場していますね。
6)Barillaの#Resilientitaly (イタリアは負けない)
パスタで有名なイタリアのバリラ社(Barilla)のコマーシャルです。この国難に様々な分野で貢献している人々への感謝をうたっていて、全てのナレーションは、一番最後の“Grazie”(ありがとう)に繋がります。イタリア語のナレーションなのですが、意味はこんな感じになります。「街を閉ざしてできた静寂に、バルコニーから叫びをあげる生活に、じっとしながらも動き続けている人々に、見返りを求めずに全てを与えている人々に、疲労困憊しても希望の強さを与えてくれる人々に、我々の何たるかを常に思い出させてくれる美しさに、勇気を目覚めさせてくれる恐怖に、全ての苦闘に意味をもたらしてくれる微笑みに、疲れていても決してくじけない人々に、遠くにいても我々に近づくことのできる人々に、絶望感を持ちながらも国との一体感を失わない人々に、そして再び立ち上がるイタリアに…」実に感動的な作品です。バリラ社は、地元の病院にも多額を寄付しています。
7)チリの航空会社Latam航空の#FurtherTogether
航空業界は新型コロナで最も打撃を受けている業界の一つです。おそらく経営的には大変な状況だと思うのですが、このチリのLatamという航空会社は、予算を投下してコマーシャルフィルムを作りました。ブランド広告です。ナレーションは飛行機の機内アナウンスの体裁をとっています。「乗客の皆さま、停止する時間が参りました」という出だしで、旅ができなくなった時代になったことを伝えます。「皆さまがご覧になれる地平線は、飛行機の窓からではなく、バルコニーや裏庭からになります。未来のために、エンジンをしばし止めることが、我々全員の使命だからです」というナレーション。そしてその後で「でも誰かが飛ばないといけないのです」と語り、このような困難な状況でも飛行機での輸送が必要な例を列挙していきます。この航空会社は、何があっても飛び続けるという決意を語るのですが、こういう会社は、応援したくなります。今は旅行はできないのですが、感染が終息したら、この航空会社の飛行機で旅行に出たいという気になるのではないでしょうか。目先の金儲けではなく、将来に備えてこの時期にブランド強化に集中しているという感じです。
以上、7つの作品をご紹介したのですが、いかがでしたでしょうか?この時期を利用して、着実にブランド強化をしているブランドもあれば、公共広告で国民(市民)の理解協力を訴えるものもあります。世界のコマーシャルを見ているだけで、実に様々な課題への気づきを与えられますし、反省させられますし、くじけていてはいけないと元気が出ます。人間の心を動かしていくのは、政治家の言葉ではなく、こういったコンテンツなのではないかとさえ思えてきます。
今回紹介しきれませんでしたが、まだまだいくつもいい作品があります。航空会社や、観光局、ビールや酒など、あえてこの時期に広告を打ってきています。それらはまた次回にご紹介することにしましょう。
このような時代には広告予算が真っ先に削られていくというのが一般常識なのですが、実は、世界では、このような時代だからこそ必要な広告が数多く作られているのです。広告は時代を反映して(時には時代を先取りして)、視聴者や社会のニーズに応えて、変わっていかなければならないと思うのですが、日本のテレビで流されている広告のほとんどは、新型コロナ以前の時代のものをそのまま流しています。ワイドショーやニュースでいくら危機感を煽っても、広告が旧態然のままだと、危機感を感じる必要性を感じなくなってしまうのではないかと思うのです。
三密を避けろと言っているのに、日本のテレビコマーシャルで描かれる世界は、みんなで美味しそうにビールを飲む世界だったり、自由に出歩ける世界だったり、オフィスでフェイストゥーフェイスで仕事ができていた世界だったりします。こういう世界はもやは過去の時代のもので、違和感を覚えます。また、仕事や生活に犠牲を強いられている環境の中で、製品を買ってほしいと一方的にアピールする姿勢は、反感を買うだけで、結果的にはブランド価値を損なっていくのではないでしょうか。このような時代にこそ、企業姿勢が問われ、ブランド広告が重要になってきます。そのような視点を持つブランドが、この逆境の時代にブランド力をさらに強化していくのだと思います。
このようなことを発言しても、広告主も広告代理店もあまり聞く耳を持たない気がするので、実は世界では、こんなコマーシャルが作られているというのを紹介し、意識を変えていくことに役立てればと思います。
最近、仕事は在宅でしているので、割と時間の余裕があり、世界の新型コロナの時代を反映した広告を色々と見ています。日本ではあまり見かけないのですが、多くの国で、実に多くの広告が次々と作られています。現在も新しい作品が次々と作られていますが、今日までの時点で、私が見た中で印象に残ったものを7点選び、ここでご紹介しようと思います。
1)ナイキの”Play for the World” (世界のためにプレイしよう)
ナイキのコマーシャルはいつの時代でも素晴らしいのが多いのですが、家の中で運動せざるを得ない人々に対してのメッセージが感動的です。モノクロのスチル写真のスライドショーと文字だけのシンプルな作品ですが、コピーがいい。そしてそれを盛り上げる音楽もよい。居間や、台所や、玄関や、地下室なんかでプレイをしていて、共に、国のためにプレイしたり、大観衆を前にプレイしたりができないけれど、私たちは今日、78億人の人のためにプレイしている、というコピー素晴らしいです。
2)YouTubeのStay Home #WithMe
世界的な”Stay Home”の時代にあって、YouTubeを利用すれば、家で孤立せずに、みんなと繋がることができるというメッセージ。YouTubeのロゴの上に屋根が付いていて”Stay Home”をアピールしているのがいいですよね。
3)イギリスのWomen’s Aid Federationの「ロックダウン」
https://vimeo.com/404965100
ロンドンのロックダウンで人がいなくなった景色が映し出されます。とそこに「家庭内暴力を振るう人たちも街から消えました」という文字。その後に、「彼らは家族と一緒に家に軟禁されています」というショッキングな事実が告げられます。「何千という女性や子供たちにとって、家は安全な場所なんかじゃないです」というメッセージ。女性を家庭内暴力から守る団体への寄付を募る広告ですが、こういう問題も大きいですね。
4)ニューヨーク市の”NY Tough”(ニューヨークは強い)
アメリカの中でも最も患者数の多いニューヨークで市民に訴える映像です。このナレーションはクオモ州知事の演説です。ニューヨークはもともと強者たちの街で、この難局もやっつけられるタフさを持っている。ニューヨークへの愛を語った後で、最後のセリフ、And at the end of the day, my friends, even if it is a long day, and this is a long day, love wins. Always. And it will win again through this virus. (最終的には、それは長い一日となろうとも、実際に長い一日だが、愛は勝つ。いつものように。再び愛はウィルスとの戦いに勝利するだろう)というのは、なんか映画「インディペンデンス・デイ」の大統領の演説みたいに聞こえるのは私だけでしょうか? (最初にアップしていた動画はリンクがうまくいかなかったので、別のものに変えました。こちらの動画もなかなか良いです)
5)NY City “Do Your Part”(自分自身の役割を)
こちらもニューヨーク市の広告ですが、第二次世界対戦のノルマンディー上陸の映像から始まります。「色々な世代でそれぞれ大きな犠牲を払ってきました。今、我々は家に留まるという犠牲を払っています」というナレーションの最後に、我々の役割は、「手洗い、殺菌、家にいること」と、単純なそのことが大切な使命であると訴えています。ここでもクオモ州知事が登場していますね。
6)Barillaの#Resilientitaly (イタリアは負けない)
パスタで有名なイタリアのバリラ社(Barilla)のコマーシャルです。この国難に様々な分野で貢献している人々への感謝をうたっていて、全てのナレーションは、一番最後の“Grazie”(ありがとう)に繋がります。イタリア語のナレーションなのですが、意味はこんな感じになります。「街を閉ざしてできた静寂に、バルコニーから叫びをあげる生活に、じっとしながらも動き続けている人々に、見返りを求めずに全てを与えている人々に、疲労困憊しても希望の強さを与えてくれる人々に、我々の何たるかを常に思い出させてくれる美しさに、勇気を目覚めさせてくれる恐怖に、全ての苦闘に意味をもたらしてくれる微笑みに、疲れていても決してくじけない人々に、遠くにいても我々に近づくことのできる人々に、絶望感を持ちながらも国との一体感を失わない人々に、そして再び立ち上がるイタリアに…」実に感動的な作品です。バリラ社は、地元の病院にも多額を寄付しています。
7)チリの航空会社Latam航空の#FurtherTogether
航空業界は新型コロナで最も打撃を受けている業界の一つです。おそらく経営的には大変な状況だと思うのですが、このチリのLatamという航空会社は、予算を投下してコマーシャルフィルムを作りました。ブランド広告です。ナレーションは飛行機の機内アナウンスの体裁をとっています。「乗客の皆さま、停止する時間が参りました」という出だしで、旅ができなくなった時代になったことを伝えます。「皆さまがご覧になれる地平線は、飛行機の窓からではなく、バルコニーや裏庭からになります。未来のために、エンジンをしばし止めることが、我々全員の使命だからです」というナレーション。そしてその後で「でも誰かが飛ばないといけないのです」と語り、このような困難な状況でも飛行機での輸送が必要な例を列挙していきます。この航空会社は、何があっても飛び続けるという決意を語るのですが、こういう会社は、応援したくなります。今は旅行はできないのですが、感染が終息したら、この航空会社の飛行機で旅行に出たいという気になるのではないでしょうか。目先の金儲けではなく、将来に備えてこの時期にブランド強化に集中しているという感じです。
以上、7つの作品をご紹介したのですが、いかがでしたでしょうか?この時期を利用して、着実にブランド強化をしているブランドもあれば、公共広告で国民(市民)の理解協力を訴えるものもあります。世界のコマーシャルを見ているだけで、実に様々な課題への気づきを与えられますし、反省させられますし、くじけていてはいけないと元気が出ます。人間の心を動かしていくのは、政治家の言葉ではなく、こういったコンテンツなのではないかとさえ思えてきます。
今回紹介しきれませんでしたが、まだまだいくつもいい作品があります。航空会社や、観光局、ビールや酒など、あえてこの時期に広告を打ってきています。それらはまた次回にご紹介することにしましょう。